化粧 (下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (569ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101176338

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  • 蔦乃屋の家を出てたった一人でマンション暮らしをはじめた里子は、やがて椎名の子を産み、真幸と名づけます。母親のつねは厳しい態度を崩さず、里子は勘当状態となりますが、初孫の真幸を見るとたちまちつねは相好を崩して、世間の目をはばかりながらも、ふたたび里子が家に帰ることを許すようになります。

    一方頼子は、彼女の画策が功を奏し、商売に行きづまった熊倉を自殺へと追い込みます。しかしその結末は、冷たく閉ざされた彼女の心を解きほどくことにはなりません。その後彼女は、日下という若い男に惹かれていき、しだいに男性不信から解放されますが、その後あまりにも数奇な運命に見舞われることになります。

    大学卒業を控えた槇子は、小泉士郎というエリート会社員との結婚をきめたものの、奔放な大学生活を終えて家庭に入ることに躊躇し、新しい生活への希望を早くもうしなってしまいます。

    男に愛をささげることの歓びを知らない頼子と槇子の運命を、家庭を顧みることなく愛を貫いた里子と対照的にえがいているところは、著者の女性観がはっきり示されているといえそうです。むろん、こうしたあまりにも固定化された女性像に反発を感じる読者も少なくないと思いますが、いまさら渡辺淳一の作品をつかまえてそんな不満をぶつけてもなにもはじまらないと個人的には思っています。それよりもむしろ、トルストイの『アンナ・カレーニナ』のように、はっきりと異なる役割を割り振られたヒロインたちの対照的な運命の交錯をドラマティックにえがいているところに、本作のエンターテインメントとしてのおもしろさを見るべきなのではないかと思うのですが、どんなものでしょうか。

著者プロフィール

1933年北海道生まれ。札幌医科大学卒。1970年『光と影』で直木賞。80年『遠き落日』『長崎ロシア遊女館』で吉川英治文学賞受賞。2003年には菊池寛賞を受賞。著書は『失楽園』『鈍感力』など多数。2014年没。

「2021年 『いのちを守る 医療時代小説傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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