ロードス島攻防記 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181042

感想・レビュー・書評

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  • 一四五三年のコンスタンティノープル攻防戦は、戦争が歴史を変える好例である。大砲活用によって以後の築城技術、つまり戦法全般に改革を強いたことと、大軍投入によって、大君主国時代への移向を強いるという、歴史的変革をともなった戦争であった。一五二二年のロードス島攻防戦は、この二面とも、七十年前に起ったことから生じた影響を、全面的に受けるかたちで行われる。

    歴史の忠実性がどの程度かは分からない。だから小説として捉えて良いのか、いや、区分はいらないのだろう。例えば、司馬遼太郎のように、創作が混じったとしても仕方ない。既存の資料だけで物語を紡ぐのは難しいから、空想がそれを埋めるのだろうから。

    本作は、時代背景の説明と物語、7対3位の比率だろうか。だから淡々と進む感じもあるのだが、しかし、面白い!この淡々としたストーリーテラーの中に、騎士道精神を彷彿させる人間ドラマがたっぷりと滲み出てくる。時代、世界観が伝わってくる内容で教養的にも、エンタメ的にも充実した読書だった。

  • 割と短い物語だけれど、壮大で臨場感溢れる筆致で繰り広げられる歴史物語が面白かったです。
    1522年、聖ヨハネ騎士団が根拠地とするロードス島に対し、オスマン・トルコのスルタン・スレイマンが大軍により親征を行ったという史実を記録文学風に描いているのですが、背景と経緯が本書の大半を占めるため、最初は数本の論文の書き写しで創作ノートレベルなのかなと思いましたが(笑)、主人公たちの生々しい活躍が絶妙に織り交ぜられ、次第に引き込まれていきました。特に後半は淡々と描かれているようで、ド迫力の場面をイメージできるような書きっぷりが物語を面白くさせていました。
    当時のキリスト圏とイスラム圏の世界情勢をコンパクトに切りとったかのような背景説明も勉強になりました。
    ミーハーな感慨ですが、現代にも残る聖ヨハネ騎士団に体験入団できないものかな。(笑)

  • 歴史に興味があるわけではなく、聞いたこともない島での戦いを綴ったこの小説は、家に読むものがなくて渋々読み始めた。
    やっぱり読み始めは、外国の慣れない単語、宗教、歴史、地理などと興味が湧かず頭に入っていかないのだが、途中からだんだんとパズルが繋がっていき、面白くなってどんどん読み進めた。
    1500〜1530年のどこの国というわけではない、ロードス島という特殊な背景にある島で起こったひとコマの物語。あらすじを読んだだけでは絶対に読みたいと思えない小説が、ドラマチックに描かれ、エンターテイメントであるのと同時に観光、地理、歴史書の類いでもあると言っていい。
    何より、著者の状況説明や背景の描写が素晴らしく、読者だけ置いてけぼりにならない。歴史をよく理解していないとできない所業だろう。

    とにかくお勧めしたい本。ロードス島へ行ってみたくなるだけではなく、ヨーロッパの歴史や宗教を面白く理解するのに適した一冊。

  • 地中海におけるキリスト教世界とイスラム世界の覇権争いを描く第二作。聖ヨハネ騎士団の孤軍奮闘と、ヴェネチアの二重外交(当時、生き残りに必死) の様子が淡々と。スレイマンが大国の余裕を見せるところが、コンスタンティノープル戦時とは違う。マルタ島に移ってから今日に至るまで、創設当時の精神を失わないのは見事。イスラム世界の知識が乏しいせいか、(著者がイタリア贔屓なせいか) キリスト教世界に寄って読んでしまう。トルコ側から見た顛末も読んでみたい。地中海という狭い中での覇権争い。かなり激烈だったろう。

  • 塩野氏の本はこれまでもいくつか読んでますが、ごく簡単に言ってしまうと「詳しい割に読みやすくて面白い」という評に尽きると思います。
    史実やディテールを詳しく描写することで、ともすると難しい話になって拒否反応を起こす可能性もある中、塩野氏はちょうどいいバランスで「説明のための」記述を終え、次の舞台へと進めてくれます。各所に散りばめられた知識を拾い集めて読み進めていくうちに、いつの間にか全体的な知識と世界観が読み手の頭の中に作られている文章の運び方はまさに職人芸、といったところ。

    作品の舞台は16世紀初頭、地中海に浮かぶロードス島。イスラム教勢力がキリスト教勢力を脅かし、西欧世界に侵略の手を伸ばそうとしていた時代、イスラム勢力にとっては「キリストの蛇」、キリスト勢力にとっては「最前線の砦」としてロードス島に立ちはだかっていた「聖ヨハネ病院騎士団」を主軸に置いた物語です。とは言っても、対立軸であるイスラム側のオスマン・トルコ帝国を単純に「悪」とすることはなく、冷静かつ中立的な視点から、むしろ帝国の専制君主であるスルタン・スレイマン一世を威風堂々とした尊敬すべき人物として描いていることに好感が持てます。

    具体的なストーリーについて語れるほどの筆力がないので粗筋については触れませんが、恐らく世界史の教科書にさえ黙殺されかねない「騎士団」とはどんな構成員から成る集団であり、どのように生計を立て、どのような存在意義のもとで生きていったのかについて、小説を楽しみながらも知ることができます。
    娯楽と教養を無理なく両立できる良書です。

  • 歴史を題材とした物語というよりは、8割方が歴史書のような感じで、物語性を求めると少々物足りなく感じる人もいるだろう。個人的にはもう少し登場人物の性格を表現したり人間関係を詳細に記してくれた方がのめり込みやすいし、特に途中でオルシーニがアニトニオに滔々と説く場面はあまりにも劇画らしくわざとらしさを感じたものである。
    しかし、物語調になればなるほど、史実に作者の恣意は反映されて事実と乖離する可能性も高くなる。そう言う点から考えると非常に良書である。

    と、まあここまで書いておいてなんだが、私の推しはオルシーニである。
    そこまで人間性を書き込んだ表現を詳細にしているわけでもないのに、何故この人はここまで格好いいんですか。いや本当、格好良すぎやしませんか?
    トータルなかなか良い人ではないかと思ったのだが、極め付きは
    「人間には誰にも、自らの死を犬死と思わないで死ぬ権利がある。そして、そう思わせるのは、上にある者の義務でもある。」
    である。いやもう本当これぞ帝王学ですよ、一端に過ぎないだろうけど。
    モチベーション保つのは個人の仕事ですとか言いながら、部下のモチベーションどんどん削ってくる上司に言い聞かせたい台詞ナンバーワンである。
    「人間には誰でも、自らの業務を無駄と思わず仕事する権利がある。そして、そう思わせるのは、上にある者の義務でもある。」
    この汎用性の高さよ。ぜひ積極的に使っていきたい。

    そして最後に、ネタバレに設定しているので許されるだろうと、該当場面を読んだ私の心の叫びを記しておく。




    推しが死んだーーーーーーーーーーーっっ!!(号泣)

  • 「滅びゆく階級は、常に、新たに台頭してくる階級と闘って、破れ去るものなのだ」

    2021/5/5読了
    小学校の高学年から中学生の頃、水野良『ロードス島戦記』が流行っていた。この『ロードス島攻防記』でファンタジー世界とは別に実在のロードス島があることを知ったのだが、30年の時を経て読むことになろうとは。16世紀、戦争は様変わりし、求められるのは誇り高き騎士よりも、大砲と大勢の兵隊という時代となっていた。オスマン・トルコの大軍の前に、聖ヨハネ騎士団は敗れるべくして敗れたということか。

  • 2010.12.4、調布図書館から借りて読んだ。
    初めてのクルーズ旅行でロードス島に行くため。歴史的背景などを知りたかった。
    聖ヨハネ騎士団対オスマン・トルコの攻防が面白かった。特にイスラム圏であるオスマン・トルコのことは何も知らないため勉強になった。

  • 「16世紀地中海世界をたゆたう船―歴史的記述と小説の幸福な融合体 」

     コンスタンティノープルの陥落から一世紀を経た1552年夏。東地中海のトルコ領内でキリスト教徒の最後の砦、ロードス島を守るべく聖ヨハネ騎士団は、若きスルタン、スレイマン率いるトルコの大軍と激しい戦闘の刃を交える。砲弾の響く城壁内には、青春の日々をここに騎士として送った高貴な血を持つ若者たちがいた。

     「キリストの蛇たちの巣」と呼ばれオスマントルコにとって喉元にひっかかった骨のような存在であったロードス島の「聖ヨハネ騎士団」は、9世紀中頃の十字軍時代アマルフィの商人によって設立された宗教団体がその始まりでした。その目的は、イスラム教徒をはじめとする異教徒排除と異教徒に繋がれたキリスト教徒の解放と救援が主なものであったそうです。今でいうなら、キリスト教徒のための警察隊と救急隊の合体組織のようなものですね。

     メンバーにはイタリアやフランス、イギリスといった西欧のいわゆる「青い血」を持つとされた貴族の子弟が選ばれ、その運営には彼らの出身である家の豊富な財力からの寄付や不動産の寄進などが当てられていました。彼らには「キリストへの帰依」という大義のもとに「清貧・服従・貞潔」であることが強いられ、騎士団長を頂点とする一大組織としてロードス島に存在していたのです。

     古代から様々な歴史の波に洗われながらも、温暖で緑豊かな島には色とりどりの花が地中海の微風に揺らめく…。バカンスで出かけたならさぞや素晴らしい時間が約束されるかに思えるこの小さなロードス島を舞台に、苛酷で熾烈なオスマントルコを擁するイスラム教世界VS聖ヨハネ騎士団の背景たるキリスト教世界の激突が、著者独特の凛々しい文体で繰り広げられていきます。

     塩野さんの作品は例えば、男性作家で言うなら司馬遼太郎の描くような、歴史的記述と小説の幸福な融合体とでも言ったらよいでしょうか。両軍の陣容や城塞、城壁のつくりなど、あたかもこの攻防戦に参加してきたかと思わせるリアルに再現される世界と、そこに宝石のようにはめ込まれた聖ヨハネ騎士団の若き騎士たちの淡くも甘い物語が光を放っています。

     「ロードス島攻防記」はいうなれば16世紀地中海世界をたゆたう船です。読者をのせて歴史の一大スペクタクルに立ち合わせ、現実のバカンスに劣らぬ、その世界に浸る幸せを間違いなく約束してくれます。

  • 登場人物みんなかっこいい
    アントニオとオルシーニの間に微かなブロマンスを感じ取りながら読み進め、最後は本を閉じて天を仰いだ。防衛側も熱いが侵略側のスレイマンがまた魅力的。勝者が敗者に敬意を示す瞬間はフィクションでもリアルでも、感慨深い気持ちになります。

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