- 本 ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101181325
感想・レビュー・書評
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「ローマ人の物語」に比べて、導入時はあまりページを繰る手が進まなかった。アッチラやロンゴバルトに追いやられながら沼沢地帯に住まざるおえなかった彼ら。だが、そこからがすごかった。基本戦略を経済第一に置き、海を縦横無尽に飛び回る逞しい姿が描かれていて、話しに没入する。飛躍の戦略を作ったピエトロ・オルセオロ、そしてラテン帝国の産みの親、エンリコ・ダンドロ。この二人の元首がベネチア共和国を強国に押し上げたということを学ばせてもらった。興奮冷めやらぬうちに2巻へと進みたい。
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ヴェネツィアには学生時代に1度、社会人になってから2度訪れたが、毎回異なる顔を見せてくれる。とても魅力的な街だ。この本で描かれている街の成り立ちを知るとなるほどと思えた。
潮の満ち引きで生活環境が変わる、汽水域に生きていた人々。かつ資源のない国でもある。この汽水域は心理面にも影響し、国民がキリスト教のようなひとつの教義だけに頼ることなく、自国の利益優先に動く融通無碍さにもつながるのだろうと理解した。
第4次十字軍は歴史の授業ではけしからん的な描かれ方をしていたと記憶しているが、塩野七生さんの手にかかればさにあらず。エンリコ・ダンドロのリーダーシップとヴェネツィアの利益のために団結する姿は見ていて痛快。狙われたビザンツ帝国とヴェネツィアにいいように利用されたフランスの騎士たちが滑稽にも見える。
塩野七生さんの本はこれまで1人にフォーカスした本を読んできたが、このアプローチはおもしろい。元首がいくら有能でも息子に譲ることなくあっさり死ぬ。ヒーローが様々な形で現れて、読んでいてまったく飽きがこない。 -
約10年前にヴェネツィアを訪れたときの光景を思い出しながら読んだ。塩野七生シリーズは今回初めて読んだが、小説というより歴史書。というと一気にとっつきにくく思えるが、スッと入ってくる文章で非常に読みやすい。過去の旅の記憶も重なってあっという間に読了。
旅行した当時はバックパッカーで安宿に泊まりながら街中を歩き回った。勿体無いことに文化的な価値にはあまり興味がなく、サン・マルコ寺院やパラッツォドゥカーレには入らなかったけれど、路地という路地を歩き回って「カンポ」を横切って、迷ったと思ったらいきなり視界が開けて運河に出たこともあった。あの光景がこの世から隔絶されたファンタジーの世界のように感じられたが、背景に意外にもヴェネツィア人の辿った歴史や現実主義的考えがあると思うと、また見え方が違ってくるのが不思議だ。
本に出てくる様々な建物の名前や美術品などを画像検索しながら読むとこれまた面白い。特に当時の大商人の居住を今に残すホテル・ダニエリ(今はマリオットグループとのこと)のHPはくまなく見てしまった。 -
『コンスタンティノープルの陥落』、『ロードス島攻防記』、『レパントの海戦』の三部作を読んで、地中海世界におけるヴェネツィアの独特の地位について、だいたいの雰囲気は分かった気になっていたが、この長篇で全体像を見直してみようと思って手に取った。
潟の上に杭を打ち込んで石を乗せて街を作る、という最初の発想からしてすごい。近くにゲルマン人が迫ってたとしても、信じがたい。
第四次十字軍がラテン帝国をつくるくだりは、東ローマ帝国の跡目争いと絡んで随分ドラマティックだ。
残る五冊も楽しみだ。
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「海の都の物語」の第1巻です。
ローマは亡く、逃げ込んだ不毛な地域で少数の民がヴェネツィアを創立する伝説的な時代から始まります。
その境遇から作られた共和国の元首と国民の目標は一緒であり、現実的な商業民族となります。
海運力を増強し、宗教や人種に左右されない交易によって成長していきます。
東西のキリスト教対立に巻き込まれますが、商い第一の彼らの問題ではありませんでした。
しかし利益があるとわかれば、ヴェネツィアは動きます。
第四次十字軍の運び屋としてヴェネツィアは従軍し、神の気紛れかヴェネツィアにとって邪魔なキリスト教国を制圧していきます。
これによって喜ぶ国は一つですが、十字軍にはそこまで考えが及んでいないように思えます。
ビザンチン帝国がラテン帝国となるまでが綴られています。 -
ほとんど知らなかったヴェネツィアの歴史。
何故、何もなかった葦で覆われているだけの潟に、街ができたのか?
それはどのように造られたのか?
葦だけの湿地に、というのは、江戸を思い出すところですね。そういえば江戸は、どのようにして造られたのでしょう?
ともかく、ヴェネツィアの方が、江戸よりもより湿地であったようにみえます。
杭を打って海の水と陸地の境を作る、そんなところから、描かれています。
ヴェネツィアが、国として成り立っていくために、元首ピエトロ・オルセオロ二世は、何をしたのか。
まだ若く三十歳でドージェになった彼は、ヴェネツィアを、海へ向かって乗り出す国へと舵をきりました。
ローマ帝国滅亡後の当時のイタリア周辺の状況は複雑。
周りの何処からも侵略の可能性がある中、人口も限られ、土地も限られた量だけの国が、どうやって自由と独立を保ち続けたのか。
まずは、ヴェネツィアが東地中海を自由に行き来できるようになるまでの、一冊目です。
ヴェネツィアには、自分だけの利益を追求した人はいなかったのか?
権力を我が手に収めたいと願う者同士の争いは、ヴェネツィアの中には無かったのだろうか?
そんな疑問が残るのですが、国としての存在を優先せざるを得ない事情も、納得できないわけではありません。
二巻目以降のヴェネツィアの発展を期待させる一冊目でした。 -
長い!でも面白い!現代では観光地でしかない、キリスト教圏ではありえないエコノミックアニマルなヴェネツィアの栄枯盛衰を描いた歴史小説。
しかし、政治・外交・文化を描きつつ、魚介類と塩しかない一都市国家が、地中海貿易で栄華を誇ったのは何故か?という疑問に答えてくれる。
ヴェネツィアと変わらない日本にとって必読の一冊。
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生活の中で海とは直接かかわらないで生きてきたので、新幹線の中で読み始め厳島神社を見たときは感慨深いものがありました。
ヴェネツィアが生まれてから第四次十字軍まで。
元首ピエトロオルセオロ二世が土台を築いた政策三点
1.海上の高速道路の建設
2.東方の強国にも西方の強国にも従属しないで独立を保持
3.東方の強国ビザンチン帝国の防衛の肩代わりをすることによってアドリア海の警察の役目をすること
これが第四次十字軍で3の方針を全面転換するまで約200年間の政治外交の基本方針となりました。
この基本方針を守り抜くか、転換するかはすべて経済の発展という根本原則にプラスになるかマイナスになるかによって決められました。
そしてこの第四次十字軍。大変面白い。
ローマ法王の提案からフランスの騎士道の花たちの心に火がつき、エルサレムをイスラム教徒から奪回するためにカイロに遠征だったはずなのに……
ヴェネツィアの元首エンリコダンドロ
沈着で大胆、兵士の尊敬を一身に集めていました。
ローマ皇帝のような派手さはないけど、西欧の人たちの心の中に残っていたようで、デュマの三銃士の中でアトスの血筋を示すのにダンドロの血を引く物としたほど。 -
理解力、教養不足でわからないところも多かったが、取り敢えず読了。ヴェネツィアの土木建築や戦法の細かいところまで親切に解説してくれている。
塩野さんはひたすら平和主義の教育ばかり受けてきた私に、新しい視点をくれる。戦争反対の理由にもっぱら文明の破壊や残虐さが挙げられる。もっと広い、歴史的な観点からみれば戦争にも利点がある。平和主義者だからこそ、戦争のリアル、長所短所を理解しなければならないと思った。 -
イタリア本国からも称えられる博識の女が、簿記と保険を生んだヴェネツィアを描く。
塩野七生の作品





