ローマ人の物語〈32〉迷走する帝国〈上〉 (新潮文庫 し 12-82)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181820

感想・レビュー・書評

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  • セヴェルス朝の皇帝達。テルマエで有名なカラカラ。軍人マクリヌスをはさんでヘラガパルス、アレクサンデルまでの約20年ほどの話。
    パルティアそしてササン朝ペルシャとの対峙に役不足な皇帝達だった。仲間をまとめられず、戦機を掴めない、言ってみれば自分本位な井の中の蛙。
    さらに混乱をきたす軍人皇帝時代に突入する。

  • カラカラ帝そして短命な皇帝たち。
    どんどん良くない方へ進んでいく。
    残念。。

  • ローマが、だんだんだめになってきて、寂しい。

  • 73年間に22人もの皇帝。
    これはさすがにひどすぎる。
    そして、もちろんそのほとんどが謀殺。
    ローマ帝国、世も末です。

    長い間賃上げの無かった兵たちの処遇改善は、皇帝セプティミウス・セヴェルスの善意であったはず。
    しかしそれが、兵たちが、自分たちの気に入る皇帝を担ぎ出すための、自分たちが気に入らない皇帝を排除するためのきっかけになるなんて、当の皇帝も思わなかっただろう。

    セプティミウス・セヴェルスの息子カラカラはそのうえ、ローマの属州民をすべてローマ市民へと繰り入れた。
    一見差がなくなってよかったように思えるが、既得権であった市民権を既得権にしてしまったことは、同じローマ市民の中に新しい分断を生んだ。
    誰でもが持っているということは、誰も持っていないと同じ価値しかないから。

    ”ギリシア人にとっての市民権は、生まれたときから持っている「既得権」であった。反対にローマ人の考えていた市民権は、意志とその成果に与えられる「既得権」であったのだ。後者の方が、他者に対して門戸が開かれていたのも当然だろう。”

    目の前の人々に対するよい政策が、遠い将来にも良い結果を生むとは限らない。
    というか、長い間に目的が見失われるのは往々にして起こり得ることだ。

    ”政策とは、将来にわたっていかなる影響をもたらすかも洞察したうえで、考えられ実施されるべきものと思う。そして、深い洞察とは反対の極にあるのが浅慮である。”

    ああ、耳が痛いねえ、未だに。

    この時代の残念なところは、皇帝の資質がないものが帝位についた例が多かったこと。
    そして、たまに資質のあるものが帝位についても、時代が許さないというか、兵士に殺されてしまって長くは統治できなかったこと。
    それは、元老院の力が形骸化していたせいでもあると思う。

    ”権力者は、たとえ憎まれようとも軽蔑されることだけは絶対に避けねばならない。”

    これもまた、耳が痛いねえ。
    しかし、既に皇帝の権威も元老院の権威も地に落ちて、あるのは直接武器にものを言わせる兵士たちだけってことか。

  • 徳川ではないけれども、長きに渡ればどうしたってこうなるものなのかも。
    カエサルびいきのこのお方には納得しがたいかもしれないけれども、時の運も少しはあったんだろうなぁと思います。

  • 73年間で22人の皇帝が、しかもそのほとんどが謀殺により代替わりする三世紀の始まり。

    皇帝が健全に交代できる仕組みが存在しない以上、僅かな失敗であっても、隙を見せれば殺されるしかない。
    しかし、即席の皇帝が広大な版図を長期間収められるはずもなく。
    今巻では、カラカラとマクリヌスはパルティア戦役で、アレクサンデル・セヴェルスはゲルマン戦役にて、弱気な姿勢を見せたために配下の兵に殺される。
    かつての共和制ローマにおいては、敗将であっても職を辞すことなく再戦を許されたものであったのだが、
    帝政ローマにおいては、"皇帝"とは最高軍事指揮官として全ての将兵の代表者でなければいけなかったのであろう。

    その将兵たちに選ばれる次の皇帝とは、すなわち全ての将兵の擁護者でなければらならず。
    必然的に誕生した軍事政権に、混迷の時代を生き延びることができるのだろうか。

    長らく適度な敵役として存在したパルティアは既になく、本気で領土拡大を狙うササン朝ペルシアと、苛烈さを増して国境を脅かすゲルマン民族がせまる。

  • 迷走の始まり。良かれと思ったことなのに、ローマの良さを殺してしまったカラカラの「アントニヌス勅令」、悪人でも賢明な女ユリア・メサなど、興味深かった。カエサルとアレクサンデルの言葉の選択の違いについての考察も面白い。「人間の心理への深く鋭い洞察と、自分の体験していないことでも理解するのに欠かせない想像力と感受性、このうちの1つでも欠ければ、かつては成功した例も、失敗例になり得るということを、このエピソードは教示してくれていると思う。」

  • セヴェルスの死後、後を継ぐのはその息子のカラカラ。皇帝就任直後、カラカラは共同皇帝であった弟のゲタを殺害。元老院やローマ市民を怯えさせる。
    カラカラが手をつけたのは、属州民にも全てローマ市民権を与える、という政策の転換。平等を期する意味では非常に有効ではあるものの、属州税の減少等、経済的に負担が大きく、帝国の財政は痛めつけられた。
    カラカラはパルティアに戦いを挑み、勝利を収めるものの、なにがしかの理由で兵士と対立し、謀殺される。
    その兵士に担がれたのがマクリヌス。パルティア戦役を講和により終わらせようとするが、その態度がまた兵士の不興を買う。
    セヴェルスの妻により、マクリヌスは信用を失い、殺害されるが、代わって皇帝位を継ぐのがヘラガバルス。しかし、異国の宗教の神官としての立場を強く押し出したため、ローマ人からは支持が得られず最後には、一度皇帝位を譲った弟の暗殺計画をたてるも露見し、逆に殺される。
    その次の皇帝がアレクサンデル・セヴェルス。即位初期は優秀な側近に支えられ、善政を敷く。
    しかし、その後、側近が殺され、体制がぐらつき始める。その間、パルティア王国は、ササン朝ペルシャにとって変わられ、帝国東方でササン朝ペルシャと対決をすることとなる。辛くも勝利を収めるも、凱旋直後にアレクサンデルは、ライン川にてゲルマン人の対処を行うこととなる。
    アレクサンデルは、ゲルマン対策を講和にて乗り切ろうとするが、対決ムードの兵士に殺害される。
    この後、軍人皇帝時代を迎えることとなる。

  • 後世に「危機の三世紀」と評価されている時代、著者は冒頭でこの時代の危機を性質の違いとして解説しています。すなわち、克服することのできた危機と、対応に追われるだけで終始せざるをえなかった危機のちがい、と言っています。73年間に皇帝が22人も代わることによる政局不安定な国状が影響しています。
    弟を殺した皇帝カラカラでしたが、元老院から追認され最高権力者として、ある法律を発布します。「ローマ市民」と「属州民」の差別を撤廃し、誰でもローマ市民になれることにしたのです。税制上の変更も伴うこの法律は悪評で、短期間で税率は元に戻ったのですが、差別撤廃はそのまま続き、財政の悪化や「ローマ市民」という存在の意味も変化させてしまいます。この後カラカラはパルティアとの戦役で、膠着状態を打開する策でパルティアの王の娘との結婚を申し出て拒否された上、元老院の反感を買い、近衛軍団の長官の画策で殺されてしまいます。この時の長官マクリヌスも在位僅か1年で謀殺され、次のシリア人の皇帝ヘラガバルスは18歳で殺されてしまいます。
    ヘラガバルスの祖母で裏で糸を引いていたユリア・メサはヘラガバルスのいとこのアレクサンドルを皇帝に推挙、二の舞いを踏まないように皇帝の相談役に高名な法学者を当てます。しかし、その人物もユリア・メサが世を去ると結局は殺害され、20歳になったばかりの皇帝には誰も後ろ盾になる人になるがいない有り様でした。その状態で、新興国のササン朝ペルシャと闘うはめになりました。この戦役は負けはしなかったもののさっさと撤退し、勝利との評価故にゲルマン民族制圧に完全勝利を期待されることになります。
    軍団を率いた経験の少ない若き皇帝は、1世紀前のやり方を真似たのか蛮族との交渉を始め、兵士たちにはその弱腰が不満となり彼らに殺されてしまいます。27歳になる手前という年齢、それでも13年の在位期間だったというのですから、いかに大祖母の力が大きかったかがわかります。この様に長く統治する人物不在の時代が始まっていました。

  • カラカラ帝の税制改革は結果を見れば大失敗。

    「税制が複雑になればなるほど徴税にたずさわる人間の数も多くなり、それによって人件費が増える~公正な税制を実施したければ、税制そのものを、税理士の必要もないくらいに単純で明快なものにするしかないのである」p32

    善政とは正直者がバカを見ない社会の実現
    →善政のためには公正な税制
    →公正な税制のためには単純な税制
    よって歴代のローマ皇帝は税金に対して神経質なまでに慎重だったのであるが・・・。

    との著者の見方であるが、公平な税制を実現するために複雑化しているのが日本の税制でもある。
    所得税を例にとれば、所得を十種類に分け、さらに総合課税と分離課税に、さらに租税特別措置法と、これだけを見ても複雑な税制になっている。
    これも公平を理念に掲げているが故の結果なのだが悩ましい。

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