- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101181950
作品紹介・あらすじ
北アフリカから到来するサラセンの海賊に蹂躙されるイタリアの海洋都市国家。各国は襲撃を防ぎ、奴隷とされた人々を解放すべく対策に乗り出し、次々と海軍が成立。二つの独立した国境なき救助団体も結成された。イスラム勢力下となっていたシチリアにはノルマンディ人が到来し、再征服。フランスとドイツを中心に十字軍も結成され、キリスト教勢力の反撃の狼煙があげられた――。
感想・レビュー・書評
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中世地中海世界。この本の裏ではオットーが戴冠式をし、黒死病がはやり、百年戦争が勃発。ハプスブルク家が力を蓄え、メヂチ家の財がルネッサンスを産む。激動の中世ヨーロッパの地中海も海賊の嵐が吹き荒れた。感心したのは「救出修道会」と「救出騎士団」。腐り切った中世キリスト世界にも、こんなに献身的に高い理想のもと活動した人々がいたことに感動した。
コラムとしてセルバンテスの奴隷の話しが差し込まれていたことには驚き、ドンキホーテへの影響も感じられた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2020/06/01 購入
2020/06/30 読了 -
サラセンの海賊の来襲に数百年にわたり悩まされ続けたキリスト教世界が、それに対抗する動きを取りはじめた時代が描かれている。
それは、基本的には十字軍に代表される「聖戦」の形を取り、いわばイスラムの家の拡大という「聖戦」とキリスト教世界の再復という「聖戦」が、表面的には対立をした時代である。
しかし、より解像度を上げてみると、それぞれの宗教を旗印にした戦い以外の要素が多く混ざり合った、複雑な時代であったことが分かる。
イスラム世界においては、ヨーロッパへの航海は宗教的情熱以上に経済活動としての海賊業であり、一方、キリスト教世界においても、アマルフィ、ピサ、ジェノヴァ、ヴェネツィアに代表される海洋都市国家が、イスラムの首長と協定を結び、交易を行っていた。
そして、十字軍においても、またサラセンの海賊を撃退する海軍の組成においても、実質的な母体としての役割を果たしたのローマ法王ではなく、これらの海洋都市国家の商人たちだった。
このような経過をたどる中で、イスラム世界とキリスト教世界は、徐々に「折り合い」をつける場所を見つけていったように、本書を読みながら感じた。
北イタリアでは農業のような資本蓄積型の産業は相変わらず育っていないが、内陸部で算出される金というヨーロッパへの輸出品が生み出されており、ヨーロッパ社会との間で一定の継続的な交易関係が築かれ始めている。
このような時代になることで、ヨーロッパ側ではコムーネと呼ばれる手工業や商業を中心とする都市生活者たちのコミュニティが生まれ、中世からルネサンスへの変化の下地を形作っていく。
一方、筆者がこの本の後半で「二つの、国境なき団体」として「救出修道会」と「救出騎士団」という組織を紹介しているのも印象深かった。
サラセンの海賊に捕らわれ奴隷として使役されているイタリア人たちを救出するための組織であるが、救出する方法は「身代金の支払い」である。この時代を通じて、キリスト教世界はイスラム世界に身代金を払い続け、それがイスラム世界の一つの経済活動になっていたが、これら二つの団体も、そのやり方自体は踏襲している。
しかし、これらの団体は、ローマ法王や海洋都市国家という特定の大組織の支援を受けるということではなく、自らの公益活動の成果をPRし、幅広い人々から寄付を募ることで次の救出行を実施していくというやり方を採った。
現代の公益事業の原型とも思えるような取組みである。
キリスト教の伸長以来、このようなミッションに導かれた公益事業を広く社会の寄付が支えるといった形が生まれ、その後のヨーロッパ社会において重要な社会の仕組みの一つになっていったのではないかと思う。
ローマ帝国が滅亡して500年以上が経ち、ルネサンス以降の新たなヨーロッパ世界を形作様々な社会の仕組みが、徐々に形を成して行く様子が垣間見られるようで、非常に興味深かった。 -
北アフリカから到来するサラセンの海賊に蹂躙されるイタリアの海洋都市国家。各国は襲撃を防ぎ、奴隷とされた人々を解放すべく対策に乗り出し、次々と海軍が成立。二つの独立した国境なき救助団体も結成された。イスラム勢力下となっていたシチリアにはノルマンディ人が到来し、再征服。フランスとドイツを中心に十字軍も結成され、キリスト教勢力の反撃の狼煙があげられた――。
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海賊による拉致被害が物凄かったようで、しかしながら奴隷とされた人々を救出に向かった修道士や騎士団は大したものだ。十字軍のじだいに入った。
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「人間とは、良かれ悪しかれ、現実的なことよりも現実から遠く離れたことのほうに、より胸を熱くするものである。(p92)」
9世紀から12世紀の地中海を舞台とした海賊と十字軍のお話
1巻のイスラムの寛容下のシチリアに続いて救出修道会と救出騎士団についても収めているが
引用にあるキリスト教徒の人間らしさに並び
同じ宗教ゆえでの救出行もまた人間らしさと対比の効いた一冊
国家や宗教の力では救われない名も力もなき人々を
海賊という営利組織が奪い
宗教の名の下でうしろめたさと贖罪意識という善意組織が救う
理屈で割り切れぬけれどそれよりほかにどうしようもない人の歴史の確かな一面だ -
北アフリカを拠点とするサラセンの海賊に蹂躙されるイタリアの海洋都市国家。各国は襲撃を防ぎ、拉致された人々を解放すべく対策に乗り出し、次々と海軍が成立。二つの独立した国境なき救助団体も組織された。
イスラム勢力下となっていたシチリアにはノルマンディ人が到来し、再征服。フランスとドイツを中心に十字軍も結成され、キリスト教勢力の反撃の狼煙が上がり始めた・・・。
(当書裏表紙あらすじより)
暗黒時代の地中海。
その暗黒時代からの脱却という意味もあるルネッサンス。
でも片や文明復古を謳歌しつつあるところもあれば、同時代にイスラムの海賊に拉致され、奴隷として酷使された人々もいた、というのには少々驚きました。
歴史とはそういうものなのでしょうね。
このイスラムに海賊は18世紀まで厳然として存在していた、というのだから驚きです。
十字軍とは別の国境なき救助団体。
修道会や騎士団による救出団体ですが、戦う訳ではなく寄付で身代金を集め、それを支払うことで救助していた、というのは何だか今の時代にも似たようなことが思い起こされ複雑な心境になりました。
次はいよいよトルコ侵攻とヴェネツィアの躍進、のはず(笑)
楽しみです♪ -
読了。
ローマ亡き後の地中海世界 2 海賊、そして海軍 / 塩野七生
もちろん1の続きでローマ亡き後地中海世界がどうなってたから、相変わらずイスラム海賊ですね。10世紀ころからのまとめです。
シチリアはノルマン人登場でキリスト教の手になり王国化
ピサ、ジェノヴァ、アマルフィ、ヴェネツィア等の海洋都市国家化
海賊には海軍で!みたいな感じでピサ、アマルフィ、ジェノバが合同海軍を用意しだす。ヴェネツィアは独自路線。(海の都の物語はこの時期っすね)
十字軍の時代、十字軍やってても地中海は海賊ですよと。
ヨーロッパ諸国の沿岸で海賊により拉致され奴隷になったキリスト教を救出する組織
救出修道会と救出騎士団のお話
慈悲の心はすごいですね。
黒人奴隷がどうのという前にイスラム海賊とイスラム地域によるキリスト教奴隷商売があったということですね。奴隷の歴史は長いですねぇ。もちろんイスラムの前にもあったでしょうが。それがもうビジネス化してるんだから止まらないですわね。
ルネッサンス時期もその周辺では海賊と奴隷で苦しむ人がいたってこってす。おいたわしや...。
ということで面白かったです。
次の目次見るにバラバラな国が大国化するようなのでイベリア半島からイスラム追い出されるのかねぇ。