辻 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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レビュー : 12
  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101185064

作品紹介・あらすじ

父と子。男と女。人は日々の営みのなかで、あるとき辻に差しかかる。静かに狂っていく父親の背を見て。諍いの仲裁に入って死した夫が。やがて産まれてくる子も、また――。日常に漂う性と業の果て、破綻へと至る際で、小説は神話を変奏する。生と死、自我と時空、あらゆる境を飛び越えて、古井文学がたどり着いた、ひとつの極点。濃密にして甘美な十二の連作短篇。

感想・レビュー・書評

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  • 輪郭がぼんやりとしていて、何がなんだか分からないと思っていたら、ふとこれは老境の物語ではないかと気付いた。それも、ふと途中で、古井と大江の巻末の対談を読んだからだ。この対談は、訳詩と創作の破滅的な関係を語っていて、すこぶる面白い。

    分かったのは、暖かい髭、だけだった。

  • いつかいつかと思いながら、やっと古井由吉を読むことが出来ました。
    古井は昭和12年東京生まれで、「杳子」で芥川賞を受賞。
    その他、谷崎賞、川端賞、読売文学賞、毎日芸術賞も受賞し、今や純文学界の重鎮と言えましょう。
    最近では、又吉直樹が「憧れの作家」だと公言しています。
    ただ、作風は素人にはちょっと難解で取っつきにくいのも事実(古井自身は「難解ではない」と反論していますが…)。
    気軽に寝転がって読めるような小説ではなく、端然と居住まいを正して読むことになります。
    で、本作は、日常に漂う性と業を主題とした12の連作短編集。
    一読して、ただならぬ小説であることが分かります。
    何がただならぬと言って、通常、言葉には置き換えられないような観念とか感覚とかそういったものが、巧みに言葉に置き換えられているからです。
    読んでいて、何度も陶然としました。
    たとえば、表題作「辻」にこんな描写があります。
    「悪念に支配されたのは息子のほうだった。悪念は澄んだ心に似ていると知った。いまさら恨みも憎しみも動かない。思い悩みもしない。ただ悪念に満たされている。透明に飽和して、波も立たない。反転すれば満足と重なりそうだった。」
    何と濃密な描写でしょう。
    やや脇道へそれますが、小説は地の文と会話文から成り立ちます。
    ただ、「辻」に収録された短篇には、カギカッコを使った会話文がただの1つもありません。
    ここまで徹底しているということは、故意なのでしょう。
    カギカッコが1つもないことが、作品をより重厚なものにしています。
    どの短篇にも「辻」が出て来て、登場人物にとって意味合いが異なるあたりも読みどころかと。
    私は、老境の父を巡る子と従姉の物語である「雪明かり」が特に気に入りました。

  • やって来て、通り過ぎてゆく。
    歩いているとふと差し掛かる。
    確かに見たような気がする。でもどこで見たのか思い出せない。
    どこから続く道だったのか、どこに行くための道だったのか。
    ただ浮遊し続けている、交差点であり通過点。

  • ほろ酔い気分でタクシーにのって自宅へむかう。
    じゃあここでといって、タクシーをおりると
    家の近辺と思っておりたはずが
    あれここどこ?とまるで見知らぬ場所におりたことに
    気づく夜。そのぞっとする瞬間。

    人生はそんな不可思議の連続で
    ふと立ち止まって考えると今現在
    思いもしない場所にたっていて
    思いもしない町にすんでいて
    思いもしない仕事をしている。
    ふと、ここはどこだかわからなくて
    ものすごく怖くなる。
    ここどこだろうって、孤独がおしよせてくる。
    間違いじゃないかって不安になる。

    読んでいて、
    迷子になったような気持ちで読み終えました。
    捕えたとおもったら
    すぐに逃げていく不思議な文章でした。

  • 古井由吉は初めて読むので、最初は文体に馴染むのにちょっと戸惑いました。慣れてしまえばするする読めるので、後半になるほどどんどんはまっていってしまいました。

    短編集ですが、どれも物語としての「筋書き」を説明するのは非常に難しいです。視点も時間もいつのまにか変わっているし、最初と最後で別の話みたいになっているものもある。でもそこに違和感を感じさせないというか、そういうものだ、と読ませてしまう力が文体にあるんですよね。不思議。

    どれも好きでしたが、比較的わかりやすく良かったのが「暖かい髭」、ざわざわする不穏さが気に入ったのは「役」「白い軒」あたりでした。巻末に大江健三郎との対談も入っているんですが、これは外国詩の話中心でちょっと難しかったかな。

    ※収録作品
    「辻」「風」「役」「割符」「受胎」「草原」「暖かい髭」「林の声」「雪明かり」「半日の花」「白い軒」「始まり」

  • 書かれるほとんどについて、主人公の妄想か現実か、いつのことか、分からずに混乱。分かるべきものなのかも分からない。

  • 『ご本、出しときますね?』で紹介された本。「世界の実相を掴ませてくれる本」

  • 夢と現が交錯し、視点がふわりと主体を離れて風景の中の客体としてとらえる。

  • 2016/02

  • 巻末に収められた大江健三郎との対談では、「私の作品は全然難しいことないのに」と笑いながら語っているが、やっぱり難しい。
    氏の作品は用いられている言葉自体はどれも一般的なものばかりであるにも関わらず、文章になった瞬間に、1つ1つの文章が重層的になり、単一的な読み方を許さない解釈の幅がある、そんな点にあるように感じる。

    そして物語られる世界は、極めて日常的な生活における情景であるが、たとえそれが我々が当たり前だと思っている世界だとしても、物語られる文体というフィルターをかけることによって、全く別の様相を呈してくる。日常の中に潜む幻想性ともいうべき世界を、直接的な題材ではなく、文体により描ききる技法は、見事としか言いようがない。

    誰にでもお勧めできる作品ではないけれど。

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著者プロフィール

ふるい・よしきち(1937・11・19~)小説家。東京生まれ。東京大学大学院修士課程修了。大学教員となりブロッホ、ムージル等を翻訳。文学同人誌「白描」に小説を発表。1970年、大学を退職。71年、「杳子」で芥川賞受賞。黒井千次、高井有一、坂上弘らと〈内向の世代〉と称される。77年、高井らと同人誌「文体」を創刊(80年、12号で終刊)。83年、『槿』で谷崎潤一郎賞、87年、「中山坂」で川端康成文学賞、90年、『仮往生伝試文』で読売文学賞、97年、『白髪の唄』で毎日芸術賞を受賞。その他の作品に『山躁賦』『野川』『辻』『白暗淵』『蜩の声』『雨の裾』『この道』等がある。

「2020年 『詩への小路 ドゥイノの悲歌』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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