小説8050 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101191256

作品紹介・あらすじ

このままでは、我が子を手にかけ、自分も死ぬしかない。歯科医の大澤正樹とその妻、節子は悩んでいた。長男の翔太は中学で不登校に、以後七年間引きこもり続けている。一方、一流企業に勤める姉の由依は、弟のせいで結婚できないと両親に訴える。ついに息子と向き合う決心をした正樹が知った恐ろしい真実とは――。引きこもり、家庭内暴力、不登校、いじめ……現代日本を抉【えぐ】る社会派エンタメ長編

感想・レビュー・書評

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  • 没入して読める、終始感情を揺さぶられる小説でした。
    語り手が父親の正樹なので、つい正樹の立場で見てしまい妻の節子の言動を煩わしく思ってしまうけど、節子の抱えてきた苦悩もわかるし、正樹の自分本位な物言いもひどい。そして何より翔太のように成人して暴れて会話にもならない状態は恐怖だしあんまりでした。とにかく読みながらずっとイライラしました。
    厳しい状況が続く展開だったけど、最後の法廷シーンはグッときて泣きました。
    引きこもりの原因は、傷ついている翔太を親が責めて心の壁ができてしまったことだと思うけど、8年間も経ってしまったことを逆に「見放さなかった」ととらえて壁を壊すことにつながったなら、その8年も多少救われるかも。
    とてもいい話だったし、林真理子さんの小説の中でもずいぶん違う印象を受けました。


  • 林真理子の本を久しぶりに読んだが、新潮社内で「チーム8050」を作って執筆しただけあって、取材もしっかりしてあり、一気読み。林真理子の本の中でもよく書けている本ではないだろうか。
    序盤は読むのが苦しかったが、希望の持てる最後でよかった。
    裁判は私刑(リンチ)ではないとの弁護士の言葉はなるほどと思うのだが、私的には父親同様、被告の困る様子が見たかった。が、これもリアリティーがあるということかもしれない。

  • 物語の主人公、父 正樹は『正欲』の寺井啓喜に似たものを感じた。職業柄、自分の正義や主観を世間一般の常識や通俗として正論という形で発出する。正しそうなことを言っているように言うのが上手い。いや、時代の価値観の違いや読み手である自分の穿った見方もあるのかもしれない。少なくとも、未婚である自分は、父という立場からこの小説を受け取ることは出来ない。三浦友和ではないから。結婚して子供も生まれてからなら、内容の捉え方も変わってくるのだろう。強権的な父、断定的な父の面影を追いかけ、感情移入とは違った意味合いで刺さった。何故こんなに自分が正しいと信じて疑わないのか。身内になら何をしても何を言ってもいいのか。妻なら怒鳴ってもいいし怒りをぶつけてもいいのか。一体息子の為にやってんのか体裁のためか父としての尊厳を保つためなのか。どこか終盤、この父に対しての「意趣返し」を期待している自分がいた。

    いじめの被害者に対しての浄化装置としての小説ともいえるのかもしれない。自分にはそう思えなかった。確かに、いじめられていたという事象を「いじられているだけ」と認識してプライドを保つ。わかる。だが果たして自分自身は「いじられ」の範疇で認識していた「いじめ」に気づけていたのか?

    ところで、「8050」って小学校で馴染み深かった「8020運動」のことかと最初思ってたけど、正樹の職業が歯医者なのはそれと掛けてる?

  • 面白かった。
    他人事じゃない。ここまでじゃないけど自分もいじめられてたし、引きこもり気味だったから。あと、家族に他害する人がいる辛さと、解決できない絶望感分かる。昔、警察署に相談に行った時、消極的な警察署の人が結婚指輪を付けているのを見て何とも言えない気持ちになった。

    林真理子、初めて読んだけど他の本も読んでみたい。この本は違うけど、タワマン文学とか上流階級ものとかそういうの好きだから興味ある。

  • 中学でのいじめをきっかけに7年間引きこもりとなった青年とその家族の話。
    途中までよくある再生していく話かと思っていたら全く違った。
    いじめの描写は読むのが辛かったけど、裁判を起こすと父子で立ち上がったあたりから夢中になって一気に読み進めた。関係が再生してよかった。最終的に家族はバラバラになってしまったけれど、これが大橋家の形なのかなぁ。
    私自身、子どもが急に学校に行かない!と言い出したらどうするかな‥と考えさせられた。でも真正面から向き合っていくしかないんだろうな。

  • いじめが原因で中学生の息子がひきこもりになった。
    やがては暴力を振るうようになり、ここにきて父親の意識が変わる。

    働くこともなく、ひきこもりのまま成人して親の年金で生きていく。
    そのまま親が80代、子供は50代になる。
    8050の問題を恐れる気持ちはあるが、この話の核はいじめであって8050問題とは違う。

  • どうにもならない状況を打開していくのに、裁判という手段を使うのか、と一気に惹き込まれて読み進めました。
    当事者の繊細な思いや気持ちを追っていけるのは、ノンフィクションには難しい、小説ならではの良さだと思います。この小説を書いてくださった林真理子さんの作品、他にも読んでいきたいです。

  • 8050問題というよりはその可能性と向き合い方。読者としては、第三者目線なのでもっとこうすればいいのに、そういうところだろうなと問題を可視化してしまうが、果たしてそこに自分がいた場合どうだろうか。父親、母親、息子、姉、加害者、どの立場にいたとしても回避出来ず、同じような思考で行動したのではと、少しぞっとした。面白いという感想は違うかもしれないが、小説として展開が良く、読んで良かった一冊になった。

  • 読む手が止まらなかった。あっという間の500ページ。とはいっても二日間だが。分かりやすい文章で畳みかけてくれる。考えさせられる。いじめ、引きこもり、結婚、就職、様々な問題がこの小説には含まれている。いわば社会の縮図であり、決して他人事ではない。

  • 前々から読みたいと思っていた本。
    先日、図書館に行った際に目に入ったので借りてみました。

    本書は、いわゆる「8050問題」(引きこもったまま50歳前後になった我が子を、80歳前後の親が支える構造をもつ家族問題)をテーマにした小説ですが、読んでいてひとごととは思えず、物語に引き込まれ、一気に読んでしまいました。

    我が家には引きこもりはいませんし、この本のような問題がすぐにでも起こるような状況にあるわけではありません。
    が、これから先、ちょっとした出来事をきっかけに、本書のようなことが起こる可能性はあるわけで、その対策のためにも、日々を丁寧に、そしてコミュニケーションをこまめに取りながら生きていくことの大切さを考えさせられました。

    林真理子の小説を読んだのは、実はこれが初めてですが、他にも面白そうなものがあれば、少しずつ読んでみようかな、と思っています。

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著者プロフィール

1954年山梨県生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、コピーライターとして活躍する。1982年、エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』を刊行し、ベストセラーとなる。86年『最終便に間に合えば』『京都まで』で「直木賞」を受賞。95年『白蓮れんれん』で「柴田錬三郎賞」、98年『みんなの秘密』で「吉川英治文学賞」、13年『アスクレピオスの愛人』で「島清恋愛文学賞」を受賞する。18年『西郷どん!』がNHK大河ドラマ原作となり、同年「紫綬褒章」を受章する。その他著書に、『葡萄が目にしみる』『不機嫌な果実』『美女入門』『下流の宴』『野心のすすめ』『愉楽にて』『小説8050』『李王家の縁談』『奇跡』等がある。

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