脊梁山脈 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101192277

作品紹介・あらすじ

上海留学中に応召し、日本へ復員する列車の中で、矢田部は偶然出会った小椋に窮地を救われる。復員後、その恩人を探す途次、男が木地師であることを知った矢田部は、信州や東北の深山に分け入る。彼らは俗世間から離れ、独自の文化を築いていた。山間を旅するうち、矢田部は二人の女性に心を惹かれ、戦争で失われた生の実感を取り戻していく……。絶賛を浴びた著者初の現代長編。

感想・レビュー・書評

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  • 大作だった。上海からの引き揚げの列車で一緒になった人物を探す旅路の途中で、木地師の足跡を巡る目標を見つけ、二人の女を愛する主人公。
    木地師から派生して独自の日本古代観が披露される。
    これがビックリな推論で一冊で2度美味しい楽しみをくれた。
    男は生活を忘れ目標を追うが、達成すると虚無感に襲われる。対して女は生活に追われても強く自分を見失うことがない。
    そして最後に尋ね人に会う主人公。流行りを追うのも良いが自然に根ざした日本人らしい姿に憧れる。
    解説に三浦しをんが登場するが、彼女の祖父母が住む山奥が木地師が開いた村らしく、彼女が「神去なあなあ日常」を何故描きえたかを知ることができたオマケまであった。

  • 乙川さんのはじめての現代小説。それにしても、本当にその場にいるかのような臨場感。戦争の話もかつてないくらいに、その悲惨さが伝わってくる。そしてそこから15年、主人公が25歳で復員し、38になるまでに、大化の改新頃の日本の歴史にも触れて、そして二人の好い女性と佳い女性との間で織り成される叙情。
    この著者の本をはじめて読んだ時に目にした「ひともしごろ」、この言葉、別にこの著者のオリジナルではないのだが、そのときは衝撃的な経験だったけど、この本にも数回出てきて、そっか、この言葉は時代小説書いてる時に使っていたんだろうなと、腑に落ちた。多岐子とやっと所帯をもって行こうとしてる矢先に死にそうになってしまい、果たして、信幸は思いを完うできるのか。そして弟の信は本当にフィリピンで生きていたのだろうか、佳江果たしてこのままフランスからヨーロッパで人生を終えてしまうのか。そういうことは全部未解決?いやある意味解決をしながら、ページをもうめくれないところまで、読み終えた
    途中、読み終われないかもと思う箇所もあったが、結局、読み通した。
    全体的には、至福の時間だった。

  • 主人公は上海から復員してきた矢田部信幸。
    故郷に向かう、ごった返す車中で体調を崩す。
    偶然乗り合わせた同じ復員兵 小椋康造に
    窮地を救われるも何のお礼もできないまま
    東京で別れることに。
    帰郷後、その恩人を訪ねる旅を出かける事を
    思い立ち、信州へと向かう。
    その旅では小椋との再会を果たせぬものの、
    彼が木地師(ろくろを使って、お椀などの
    木地を作った職人)として第二の人生を送って
    いることを知る。
    この関心が信州・東北の深山幽谷へと誘い、
    「木地師」の歴史の深奥に触れる。
    知的好奇心を大いに揺さぶられ、
    研究に没入していく矢田部。
    そして、ひとつの仮説が立ち昇る。
    「千数百年前から存在する木地師の歴史は、
    日本人のルーツ・古代律令国家の成立にも
    深く関わっているのではないか」。
    木地師の誕生は朝鮮半島からの渡来人
    なくしては語れず、その足跡は海上ルート
    ではなく、列島を貫く「山脈ルート」を通じ
    良木を求めて自由に交流し、文化の面においても
    大いに付与していたに違いないと。
    その研究は机上を超え、私財を投じ無名の
    芸術家「木地師」たち匠の作品を収めた図録
    制作へと向かわせる…。

    読み手によっては、この小説があまりにも
    多面的であるため、持て余すかもしれない。
    古代史好きとしては、否が応にも「木地師を
    巡る冒険探偵小説」的な展開に身を乗り出し、
    夢中でページを繰った。
    ひとつの木椀が結ぶ古代と現代をスリリングで
    壮大な着想に牽引されながら読み終えた。

  • 終戦後に復員した主人公が、その列車の中で出会った小椋に助けられ、その後その恩人を探す旅に出ます。その旅の中で木地師という存在を知り、またその魅力にとりつかれ、彼らの道のりを知ることを目的に生きることになります。木地師が日本の歴史を裏からどのように関わってきたのか、その重要さが、縁の下の力持ちという形で好感を持てました。またそれに付随して、日本書紀などの文献から本当の日本の歴史を想像するスケールに、知的好奇心を刺激されます。
    木地師と日本の歴史に深く埋没していく物語に、良い意味でそこから引き戻してくれる女性達の存在があり、その都度都度の物語を一歩引き戻して見つめなおせる仕掛けもあり、楽しんで読ませていただきました。

  • 上海から復員してきた主人公が復員専用列車の中で同じ復員兵と語り合う冒頭では、疲弊した日本と日本人の諦めと夢が混じり合って伝わってくる。
    物語は主人公がこの復員専用列車で語り合った男を訪ねる旅に端を発し, 歴史の中に埋没していく木地師に巡り合い、消え行くかもしれないその姿を探るうちに日本の古代史に対する謎解きにまで発展する。
    その謎解きは万世一系とされる天皇家まで及んでしまう。

    そういった、まるで梅原猛さんの日本学を読んでいるような重厚な内容と、新しい日本で力強く生きていく二人の女性の儚くも艶やかな人生が絡み合っていく。

    人は自分と自分の行動を正当化する時に自分に都合の良い解釈をして、時として嘘もつく。
    それが時の権力者であった場合、一国の歴史も歪めてしまう。
    権力の座にある者が保身と権力の為に歪めた歴史の為に埋没してしまう文化は、あたかも戦争の犠牲になる人々のように見えてしまう。
    ただ、戦争の犠牲となった人々も未来に向けて力強く生き延びていったように、埋没してしまうかのような文化も脈々と受け継がれいきのびてゆく。
    著者が自分と同じ62歳ということを知ってなんとも驚きだった。

  • 乙川さんといえば、山本周五郎、藤沢周平を継ぐと見なされていた時代小説作家です。ただ、最近は周平さんのような清冽な軽みでは無く、暗く行き場のない情念を女性を中心に描くことが多く、それはそれで良いのでしょうが私の好みからは外れてきて残念に思っていました。
    この作品はそんな乙川さん初の現代小説です(と言っても終戦直後が舞台ですが)

    読み始めは良い雰囲気でした。
    主人公が木地師を訪ねる物語ですが、木地師の世界やその娘達の姿は清々しく、以前の乙川さんが戻ってきた感じでした。しかし後半はやはりドロドロとした強い情念の世界に入り込んでしまいました。
    また、木地師の世界から古代(大化の改新あたり)を推測する話がやたらと長く。木地師と天皇家のつながりは北方さんの南北朝三部作にも出てきて、それはそれで興味深いのですが、古事記や日本書紀あたりの知識がないと読み解けないような記述がずっと続きます。せめて図表でもあれば理解しようという気にもなるのですが。。。

    一言で言えば、悪くはないのだが、私の好みではないという感想です。

    ちなみにAmazonの書評を見ると五つ星評価も多く、そうした人たちがやたらと長い評論を書いているのも、ある意味乙川さん好きらしいのかもしれません。

  • 終戦を運良く五体満足で迎え、帰国した矢田部は故郷へ帰る汽車の中で、見ず知らずの男より親切を受け、そのわずか1日の交際を忘れられない。運良く食うに困らない遺産を相続した矢田部はその男が「木地師」という特殊な職業であり、その系譜の研究に没頭する。

    孤独に歴史を追う矢田部の前に現れるのはタイプが違う2人の女性。三角関係でもつれる展開になりそうだが、ストーリーは日本古代史の天皇制を論じる意外な方向へ。実は、本作品は作者の歴史研究が披露される社会派小説だったのか。と、思わせたが、主人公は一人の人間として、孤独な研究より家族や恋愛を選ぶ。

    戦争にはじまり、山脈のような山あり谷ありの男の人生。立ち位置がフラフラしているが、なぜか誠実さを感じて憎めない。

  • 戦後の日本の面影を知りたいと思って購入。
    敗戦後の帰途で体調不良の矢田部を看病した小椋という男を探しながら木地師の歴史を調べて行く。
    調査内容に面白さを感じたけど女性に対する態度に何を考えているんだと思ってしまう。
    この男性みたいに悠々自適な生活ができたらいいなぁと思う反面、多希子や佳江みたいに自分の力で生活していくのが人間らしさなのだろうな。
    この小説は女の強さを出しているのかもしれない。

  • なるほどなあと思った。こけしへの思いがよかった。

  • 2018.4.1(日)¥280(-2割引き)+税。
    2018.4.21(土)。

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著者プロフィール

1953年 東京都生れ。96年「藪燕」でオール讀物新人賞を受賞。97年「霧の橋」で時代小説大賞、2001年「五年の梅」で山本周五郎賞、02年「生きる」で直木三十五賞、04年「武家用心集」で中山義秀文学賞、13年「脊梁山脈」で大佛次郎賞、16年「太陽は気を失う」で芸術選奨文部科学大臣賞、17年「ロゴスの市」で島清恋愛文学賞を受賞。

「2022年 『地先』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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