- Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101198026
感想・レビュー・書評
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ふはふはとしやぼん玉のよにはかなげな魂のとぶ春のくれがた
松本はつ子
太平洋戦争下の1942年刊、詩人三好達治による「諷詠【ふうえい】十二月」復刻版を古書店で見つけた。詩歌鑑賞の名著と言われており、なるほど、近現代詩はもとより、漢詩から和歌、近代短歌、俳句までも言葉を尽くして関連づけ、ある種の詩歌物語のように構築している。教養の深さ、関心の幅広さに、感じ入ってしまった。
「一月」から「十二月」まで月ごとに分けられ、掲出歌は「三月」の引用歌。
作者松本はつ子(初子)は、1896年(明治29年)、奈良県生まれ。佐佐木信綱に短歌を学び、これは1914年(大正3年)刊の歌集「藤むすめ」の一連という。年齢を数えると、18歳。まさに「むすめ」盛りでの上梓【じょうし】と言える。
たんぽぽの乳でそだつた人のよに夕べがくればただはかなくて
一読、少女趣味と言えなくもないが、三好もその点には言及している。「純粋」で「率直簡明な作風」であり、「無邪気」ではある。けれども、そのうえに健やかな「匠気【しょうき】」が感じられる点をむしろ認めたい、と。匠気とは、好評を得ようとする心のことで、今日の短歌批評でも、とくに若手の作者間で「作為が見える」など冷ややかな語感で用いられることが多い。
けれども三好は、生身の作者を離れ、独立した一個の作品として屹立させるための積極的な「企図の証左」、努力として、匠気の「風体」も現代詩歌の表現者には大切である、とまとめている。
三好のこの寛容な読みを、現代の若手歌人とも共有したいと感じている。
(2015年3月1日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示