朝が来るまでそばにいる (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101200538

感想・レビュー・書評

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  • 彩瀬まるさんの小説は、タイトルや装丁(今回は単行本の方が好み)に惹かれて必ず手に取るのだけれど、構成や文体に気圧され、いつも入り込むのに少し時間がかかる。
    「君の心臓をいだくまで」「ゆびのいと」はとにかく不気味。人肉を連想させられるし、死してなお残る、愛する人への執着に背筋が凍る。「眼が開くとき」からは暗さの種類がまた少し変わって読みやすくなる。「よるのふち」「明滅」「かいぶつの名前」と続く。全6話を収録した短編集。図書館蔵書。

  • 彩瀬まるさんの、繊細ということばすら追い付かない細やかで生々しい文章が短編となって収録されている。痛みと苦しみと、ほんの少しの怖さとなって。生まれてくること、生きていること、生きていくこと。死を迎えること、死を受け入れること。生死というものには日常にはない圧倒的な感触があり、けれどそれはやさしくやって来るとは限らない。そんな生きていくことや死んでいくことを、特別なまま特別じゃないものとしてこうも描写できるのは彩瀬さんだからだとおもう。正否や好悪ではとうてい伝えきれないわたしたちの痛みが和らいだような、幻。

  • 全体的に暗いけど、どの話も最後はほのかに希望が感じられるのが好き。

  • いるはずのない、そこにいた人たちとの愛。

    じわじわと恐怖に侵食されているはずのに、どこかそれを求めてしまう、よくないとわかりつつそれに執着してしまう登場人物たちに共感したりしなかったり。

    全体としては読み応えが充分にあり、筆致も鮮やか。他の作品も読んでみたい。

  • 重くて冷たいのに、読んでいて鼓動が早くなる

  • 短編集ですが、どの話もぞわっとする感じで。
    救われる物語なのかもしれませんが、ホラーのような感覚でなかなか読み進められず。
    とりあえず、お食事時には読んではいけません。

  • ジメジメしてて闇っぽくて、強い執念みたいな感情が渦巻いている物語だったけど、でもなんか、言葉や理屈では言い表せない優しさや愛だなとも感じた、気がした。愛ゆえに、魂は。という感じ。

  • タイトルからイメージしていたのは、切なくて静かな物語。実際は、ジメジメしていて、強い感情が渦巻いていました。
    生きている者もしんだ者も、どちらも苦しいなんて救いがないです……。せめて、しんだあとすぐに解放されることを祈ります。本当のところは、とうだかわからないですけれど。


    2024/01/15 p.9-79

    p.10
    “うちの子はまだ一歳じゃないので蜂蜜は食べられません”
    それはそうですね。わりと有名な話だと思います。

    p.11
    “私は小中学生向けの個別指導の学習塾の教室を運営している。”
    わお。教室長! それは大変ですね……。お疲れさまです。

    p.11
    “たまらなくかわいい。”
    そこまでお子さんが好きなら、子を望んでいるのでしょうけれど……。パートナーさんが協力的ではないとか、身体の問題があるのでしょうか?

    p.12
    “いやなものばかり目に入る。なにか暗いものでも引き寄せているのだろうか。”
    それを無意識にキャッチしてしまうきっかけがあったのでしょうね。人は意識の変化によって、収集する情報が変わってきますから。

    p.13
    “君をさゆりに紹介したかった。”
    ……ん? お子さんがいらっしゃるのですか?
    それとも、いた、のですか?

    p.34
    “どんな悪いことを考えても、さゆりの味方だからね”
    どんな状況であっても、心からそう言えるようになりたいです。自分の醜さを捨てることはできないかもしれないですけれど、反省して、意識していくことはできます。

    p.41
    “生きていなくてもきっと、愛している。”
    子を産んで育てていくことだけが、子への愛情ではないと思います。産まなくても、亡くなっても、愛することはできます。

    p.52

    「死者が差し出すものは口にするなよ」
    「いけないのか?」
    「いけない」

    ダメです。ヨモツヘグイ。人間のせかいに戻れなくなります。

    p.61
    “「人が来るのは久しぶりだ」”
    人間が、ってことですか? 例えば妖怪とかは、よくいらっしゃるのですか?

    p.75
    “運命の糸なんて君の悪いもの”
    ロマンチックな雰囲気のある「運命の糸」ということばを、ここまでおぞましいものにしてしまうのは……凄いです。


    2024/01/16 p.79-164

    p.80
    “近くに嫌な鳥が棲(す)み着いた。”
    何か……虫? この目線の方が人間には感じられないです。

    p.84
    “考え考え、立てた膝小僧(ひざこぞう)を左右に揺らす。”
    よく考える人ですね。すてき。きっと将来、とても頭が良くなるのでしょう。

    p.88
    “見ている対象がぐぐっと近づき、目の前がそれだけになる。”(中略)“それ以外のものは見えない、聞こえない、圧倒的な無音の中でただぼんやりと、きれいだなぁと思う。”
    過集中。凄いです。

    p.89
    “ああ、生まれてしまった。生まれたら、あとは死ぬだけだ。”
    わかっているのに。死を意識しているのに。ここまで言語化したことがありませんでした。

    変わりゆく世の中で絶対に変わらないこと。生きるものの運命。

    p.90
    “あの子は私のものだ。”
    こわい……。
    一目惚れだとしても、このことばが出てくる思考はこわいです。人はものではありません。あえて言うなら、ほかの誰のものでもなく、ご本人のものです。

    p.96
    “一日で一番きれいだと思ったものを描くのが習慣になった。”
    すてきな習慣。毎日見たいです、あなたの絵。

    p.96
    “食べちゃいたい。”
    こわい……。カマキリ?

    p.132
    “「生まれ変わったらまた食って」”
    ……何それ。良いのですか?
    凄いものを見てしまった感覚。まさか、純愛だなんて。

    p.144
    “父親にぎこちない看病をしてもらった”
    (中略)
    “学校帰りに良昭を迎えに行くことと、父親の帰宅まで面倒をみることが託された。”
    全然家事育児をしてこなかった方なのでしょうね……。仕事人間なのかも。

    p.158
    “なにを食べさせて貰っているのだろう。”
    ヨモツヘグイ。死者に差し出されたものを食べてはいけません……。

    p.161

    「まっくろお?」
     振り返った父親は心底わけが分からないといった顔をしていた。

    父親には見えないのですね。


    2024/01/20 p.164-252

    p.168
    “深々と爪を突き立てた。”
    本当にお母さん……? お子さんを傷つけて平気なのですか? それとも、別のものになってしまったのですか?

    p.175-199
    「明滅」、短編集の中で、この物語が一番好きかもしれません。
    自分の顔が醜いような気がしてしまう感覚、わたしの中にもあります。そんな自分を受け入れてくれる人への愛情も。

    大きな異常がどうなるのかより、日常を重視している感じがして、好きでした。

    p.206
    “いくら考えても思い出すことが出来ない。残っているのは、私は私を嫌いだったという苦い印象ばかりだ。”
    死後、自分のことが嫌いという感情だけが残るのは厭です……。死は、解放ではないのですか?

    p.238
    “消えたいの。死んだらぜんぶ終わると思ったのに、なんで終わらないの。”(中略)“あのまま消えたかった。”
    (中略)
    p.239
    “もう生まれてこなくていい”
    すべて、自分のことばかと思ってしまうくらい、しっくりくることばです。
    しんでも終わらなかったら、わたしは酷く傷つくと思います。傷つくのは、生きている間だけで十分なのに……。

  • 弔いたい、私の心で。

  • 【生き続けていたら、いつか、あなたが許せないあなたのなかの怪物を、許してくれる人に会えるから。あなたが誰かの怪物を、許してあげられる日がくるから】

    生と死、現と夢、獣や鬼・・・・・・などが交じり合う短編がどれも魅力的で面白かったです。
    死んだはずの妻が現れたり、死んだ少女視点だったりと異形や怪異などのホラー要素がありますが、登場人物の誰しもが求める救い。
    個人的には【ゆびのいと・よるのふち】が共通点があるストーリー構成・それぞれのキャラたちが迎える結末の違いが印象的で、【眼が開くとき】では青春のほろ苦さ・倒錯的な願望・欲望がたまらなく、【かいぶつの名前】では嘘で塗り固められた少女の切なさや終わらない無限獄から救済されることを願わずにはいられない心に刺さるものでした。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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