半席 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101200934

作品紹介・あらすじ

御家人から旗本に出世すべく、仕事に励む若き徒目付の片岡直人。だが上役から振られたのは、不可解な事件にひそむ「真の動機」を探り当てる御用だった。職務に精勤してきた老侍が、なぜ刃傷沙汰を起こしたのか。歴とした家筋の侍が堪えきれなかった思いとは。人生を支えていた名前とは。意外な真相が浮上するとき、人知れずもがきながら生きる男たちの姿が照らし出される。珠玉の武家小説。

感想・レビュー・書評

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  • 父は、御目見以上の役に就いて旗本になったが、その後役を解かれて御家人に戻った。一代御目見以上だった。片岡直人は、今の半席の状態からもう一度御目見以上になり、子も生まれた時から旗本である永々御目見以上になるのをを目指している。今の徒目付は、そのための腰掛のつもりであったのだが、次第に徒目付の表の仕事はもとより、徒目付組頭の内藤正之から押し付けられる幾つもの裏の仕事に魅力を感じていく。この裏の仕事とは、決着がついて刑が決まったしまった科人が、なぜそんな罪を犯したか明らかにするというものだ。謎を解くための着想を得る過程が、なかなかに面白い。その中で、片岡は成長していくのだ。片岡の心の動きを読んでいくのは、魅力的であった。終わり方も、さわやかでいい。

  •  10代の頃、大人になるということは、思い悩むことが減っていくことだと信じていて、いわゆる「中年」と呼ばれる年齢に差し掛かってきたここ数年、よくそのことを思い出し、考えてしまうことがあります。
     いくつになっても、あるいはどれほどキャリアや大きな功を成しているとされるような第一線の人たちであっても、こんなにも一度刻まれた心の傷や呪縛から逃れることは困難で、人と人とはこんなにも容易く修復できない関係になり得てしまうものなのか、などとぐるぐると思考してしまうこともしばしばです。

     そして、そんなふうに途方に暮れる気持ちになる時にふと、いつも脳裏に浮かぶ小説があって、それがこの『半席(はんせき)』です(ちなみに、今年になってその続編『泳ぐ者』も刊行されていることを、最近遅ればせながら知りました……)。
     御家人の片岡直人は、役職のない小普請(こぶしん)から、幕府の監察役である徒目付(かちめつけ)に就いて二年が経ち、一刻も早く御目見(おめみえ)以上の御役目に就かなければならないと考えていた。直人の父親はかつて旗本に昇進したものの、代替わりの前に小普請に戻されたため、当人のみならず子にも身分を相続させられる永々御目見(えいえいおめみえ)以上になるには、旗本職の二つ以上の御役目を、親子二代のうちに歴任する必要がある。いまはまだ片岡の家は、一代御目見(いちだいおめみえ)――すなわち、「半席」の家格に留まっているのだ。しかし、直人のそんな気持ちを知ってか知らずか、上役である徒目付組頭の内藤雅之は、直人に声をかけては頼まれ御用――不可解な人死や刃傷沙汰の、その裏側にひそむ「真の動機」を探ってほしいという、外から持ち込まれる調査依頼を振ってくるのだった。

     ――「年寄りってのは、青くて、硬くて、不器用な若ぇのが大好きなんだよ。おめえのことさ」

     評定所や御番所、つまり裁判や奉行が行われる吟味の場では、罪を認める自白だけが求められ、「なぜ」という動機は問われないこの時代。その「なぜ」を探り当てる頼まれ御用を請けるということは、いきおい事件に関わった者たちの内面に分け入り洞察する、言わば“人臭さ”を伴う事案。であるがゆえに、目付の他の仕事よりも心惹かれるやりがいを感じるも、「半席、半席」と呟き唱えては、自身の目的を思い出して揺れ動く。そんな直人の成長物語を縦糸として、6つの奇妙な事件の「なぜ」を解き明かしていく、いわゆる「ホワイダニット」を中心に据えた連作時代ミステリにもなっています。
     持ち込まれる事件の中心にいるのは、いずれも長年御用を務めてきた熟年、あるいは老年の武士たち。ある者は釣りの最中に突然、筏から堀に飛び込み水死してしまい、またある者は酒肴を共にしていた長年の友人にいきなり、刀を振ろ下ろした……。
     罪は認めても「なぜ」には口を閉ざす科人(とがにん)の心に迫るため、その「なぜ」を射止める足がかりを、直人はつぶさに探り、仮説に結びつけていきます。そうして浮かび上がるのは、身分や組織のしがらみや凝りに縛られてきた老侍たちの、あまりに深い執念と葛藤、あるいは焦燥――そのやりきれない因果と真相が明らかになるごとに、これは全く今を生きるわれわれと他人事ではないという思いと、いつの時代も変わらない生きることの困難への強い共感を抱くとともに、少しずつ自らのあり方をも見つめ直していく直人の歩みと決断に、胸を打たれること間違いなしの、深く響き染みわたる一冊です。

  • 江戸の御家人、片岡直人が様々な事件の裏にある真の動機を探り当てる6つのミステリー。青山文平の時代小説は丁寧な書き方ながら、江戸のセリフや舞台の回し方などが小気味良い。上司の組頭、内藤雅之の江戸の旨いもの紹介の語り口も優れたグルメ噺の程を出していて味わい深くて良い。少し古い小説だが正月に酒でも飲みながら炬燵で読むのは最高か、うちには炬燵ないけど。
    元は雑誌の連載だったのか、半席の意味合いや直人の出自の説明が毎回同じように各編に出てくるところにやや鬱陶しさがあって星は減らすが、なんかいい気分にさせてくれる時代小説であることは間違いない。

  • 時代小説ですが、事件の「なぜ」を解き明かす一種の推理小説(ホワイトダニット)でもあります。
    上司からの命を受けて奔走する片岡直人。謎を解き、本当は真相を話したい科人の心をほぐす才が鮮やかでした。
    各章ごとに「半席」をはじめ、武家社会の仕組みやこの時代の風習、町の様子についてなど詳しい説明があり、それが少し読みづらくもあったけれど、どの話も良かったです。
    どの科人もそこそこ年齢を重ねていてずっと堪えてきた人ばかりなのに、ほんの少しのきっかけでその抑えが壊れてしまう。なんだかとても悲しいですね。

  • 初めましての作家さん。
    主人公の片岡直人は、徒目付(かちめつけ)という、
    職員の監察係をしている。
    旗本、永々(えいえい)御目見への出世を目指し
    仕事に励んでいたが上司である内藤雅之に、外から
    持ち込まれる頼まれ御用を言いつかり
    これがまた、犯罪を犯して計が決まっている犯罪者から
    「なぜ」そのような事をしたのか?という理由を
    調べる事になる。
    「半席」「真桑瓜」「六代目中村圧蔵」「蓼を喰う」
    「見抜く者」「役替え」の6作の連作短編集
    人情モノに加えて直人の成長物語でもあり、
    楽しめました。

  • どこかの文庫紹介で、歴史ミステリとして紹介されていた本。とても良かったです。
    ミステリのジャンルとしては、ホワイダニット系になるかと思うのですが、その動機はどれもこれも「そうせざるを得なかった」やるせなさや、諦め、悟り、いろいろなものを感じられ、感情豊かで素晴らしい。
    時代背景や歴史もの特有の用語など、歴史小説を読みなれていないと多少難しく感じられる部分も多いですが、お勧めできます。

  • まあまあ、

  • おもしれえ。江戸時代の探偵物ってのが斬新だし、ちゃんとミステリとして成立してるのが凄い。連作短編集なんだけど、どの話も味わい深くて良い。このシリーズ続いてくれてもいいと思うな(調べたら続編あるらしい)。

  • 主人公の青年、徒目付の片岡直人、上役の内藤雅之をはじめとする登場人物設定、描写が素晴らしい。
    科人すら「真の動機」が明らかにあると、「仕方なかったのか? 気の毒な、、」と思わせる。ある意味、潔さまで伝わるかと感じました。

    一話完結の謎解きと思い、途中で読み止めてはいけません(^^) 6話で一冊、徒目付の片岡直人デビューの一冊になっているのかもしれません。続編出たら読みたいです。

    テレビドラマにしたら、主人公青年より人気が出そうな渋い上役の内藤雅之で江戸のグルメ紹介を差し込み、街で家系図売りをしていた沢田源内のニヒル役が気になるでしょう。科人役もあじのある俳優が喜んで引き受けそう。青山文平さん、アッパレ!であります。

    星が4つに留まったのは、他の方々が難しいと感想しているように、各話で繰り返し説明してくれている御家人の階級、組織、周辺の江戸言葉、欲張って投げ込み過ぎたかな? 私も歴史好きながら、何度か行を遡って確認する事があったので、辛い点にしました。

  • 人生の黄昏時になってから、身近な誰かに刀を振るうなどした者たちの心のひだを描き出す物語。罪を犯しながらも、覚悟を決め、すっと背筋を伸ばした老武士の姿が浮かびます。

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著者プロフィール

作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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