この世にたやすい仕事はない (新潮文庫)

  • 新潮社 (2018年11月28日発売)
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  • 本 ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101201429

作品紹介・あらすじ

「一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね?」ストレスに耐えかね前職を去った私のふざけた質問に、職安の相談員は、ありますとメガネをキラリと光らせる。隠しカメラを使った小説家の監視、巡回バスのニッチなアナウンス原稿づくり、そして ……。社会という宇宙で心震わすマニアックな仕事を巡りつつ自分の居場所を探す、共感と感動のお仕事小説。芸術選奨新人賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 前職で10年以上まじめに仕事を続けた結果、燃え尽き辞めてしまった30代半ばの女性が主人公。当面のつなぎとして異なる5つの仕事を経て、自分と仕事との距離感と価値観を取り戻していく物語。

    書店で見つけ、表題名に同調し、衝動買いに至った。

    「みはりのしごと」「バスのアナウンスのしごと」「おかきの袋のしごと」「路地を訪ねるしごと」「大きな森の小屋での簡単なしごと」など、しごとの着眼点がユーモラス。

    初著者作品だったが、言葉選びのセンス、放つタイミング、時に刺さる散りばめられたパワーワードがグイグイと私のツボを貫いてくる。兎角シュールなのである。

    私は通読時に登場人物の台詞によって心を揺さぶられることが多いのだが、本作品は【地の文】にこそ共感できるポイントが綴られている。

    よって、読み飛ばせない読み飛ばしたくないという感情が働いて、隅々まで隈なく読み耽る読書に至ったのは、初体験だったのかもしれない。

    楽しい仕事を選んだつもりでも結果しんどい。
    なぜならば…の先に、読者それぞれの答えがあろう作品であった。

    そして私は、私なりの答えを見つけ受け取った。

    きっと私は、ずっとしんどいであろう。
    私は生涯、きっとそちらを選び続けるのであろう。

    それで良かろう。それが良かろうもん。

  • 「1日コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね?」
    この一文に心掴まれました。
    めっちゃわかる!
    人との関わりが最小限で、黙々と仕事をして、バッチリ定時で終わる。そんな仕事を私はやりたい、、、。などとぼんやり考えることが多々あるので。

    そして、職員の正門さんが紹介してくれる仕事はどれもマニアックで興味をそそられる。ちょっとやってみたいかも〜と思わせるものばかり。
    しかし、そこは「この世にたやすい仕事はない」まさしくタイトル通り。
    ちょっと不思議だったり、ちょっと理不尽だったり、仕事自体がなくなったり。そして、自分で仕事の引き際を感じ取ったり。

    結局、仕事ってこの本の最後につきるのかなぁと、好意を込めての軽い苦笑い。

    ただ祈り、全力を尽くすだけだ。どうかうまくいきますように。

  • 著者初読み。コラムなどで筋が通った面白いこと言う人だなぁと思ってたら本書もそうだった。「マニアックな仕事を巡りつつ自分の居場所を探すお仕事小説」とあるが、本当にありそうな不思議な仕事やいろんな人、謎解きもどきも出てきてずっと楽しく読んだ。

  • もっとブラックな感じのお話かと思ったら。
    出てくる仕事が特殊?なのと、作者さんの文章の表現が何だか面白くて、笑えて楽しかった。

    仕事って人間がやってるから、どんな単純作業でも自分の気持ち、他人の気持ちが絡んできてしまう。それがいい方向に向かう時もあるし、無意識に悪い方向へ押されてしまう時もある。

    最後に出てくる菅井さんのいう「感情労働」
    私も昔、覚えあるなー。いつも口角を上げ、笑顔を絶やさず、絶対怒ってはならぬ。最後の方には謎のストレスが溜まって...ああ、なんか忘れてたけど懐かしい...(ん?)

    色々な仕事につく主人公ですが、この最後の菅井さんの登場によって、読者共々「仕事とは?」と考える時が来るのです。どういう結論が出るかはそれぞれの人次第かな。

    マテ茶、ごぼう茶、パンノキチップス...などなど結構通好みの食材が出てきます。出てくるネーミングも面白い。斜め方向からのこれらの存在が、面白さを倍増してくれてましたよ。

  • ぬるゆると主人公の仕事の日常が進んでゆくので、わたしもゆるゆると読んでいたら、すっかり時間がかかってしまいました。でも、真ん中あたりからは一気読み!最終章で、この作品の素晴らしさが一気にあふれ出します。

    主人公は、とても真面目で、だからどんな仕事を任されても、一生懸命になりすぎてのめり込んでしまうんだ。わたしにも同様の素質があるなーなんて思いながら読み進めました。
    仕事をする上で感じる細かな感情が表現されていて、それにとても救われました。そして、これまで自分がしてきた仕事や、置かれた環境の中で、とても頑張ってきたんだなーと、自分を労ってあげることができました。
    自分自身が今転職を考えているからこそ手にとった本。読みながらずーっと、主人公がどんな仕事に燃え尽きてしまったのかと考えていたのですが、まさかの同じ資格を有する人でした。わたしも少し前に休職して、異動して、今はそこも退職しようとしている身。こんなに転々としていて大丈夫だろうかと主人公同様に思うけれども、まずは自分の心身を大切にしないと、また同じことが起こる、だから今の自分の選択を信じてあげようと思います。最後の、箱田さんの言葉「本筋の仕事でなんかあって公園に来た人みたいやったけど、この仕事で、まあ働けんねやな、と思って、そんでまた自分の仕事に戻ってったらええやん」には、救われました。ずっと逃げていたいわけじゃない、ずっと目を逸らしていたいわけじゃない、ただ、今は疲れていて、でもいつかは本筋へ戻りたい、という今のわたしの心境に、背中を押してもらえた感じがして。

    帯で、伊坂先生が絶賛していて、例えば:何気ない会話、特に新しい職場に行った時の業務の説明が伏線となっていて、物語が動く時にその伏線が活かされ、ラストでキレイに回収される様は伊坂作品に通づるものがあるなと、そんな風に思いました。『とにかくうちに帰ります』も、読んでみようと思います◎

    • ちいこさん
      私も伊坂幸太郎さんに似たものを感じました!「とにかく家に…」も読もうと思ったので、共感ばかりです。
      私も伊坂幸太郎さんに似たものを感じました!「とにかく家に…」も読もうと思ったので、共感ばかりです。
      2023/04/26
    • naonaonao16gさん
      ちいこさん

      おはようございます!
      コメントありがとうございます^^

      ここに同じことを感じられた方がいらっしゃって嬉しいです!
      津村さんは...
      ちいこさん

      おはようございます!
      コメントありがとうございます^^

      ここに同じことを感じられた方がいらっしゃって嬉しいです!
      津村さんは、エッセイを読んで以降、なかなか触れられていないのと、伊坂さんの作品も最近は読んでないんです…
      ちいこさんにコメントいただいて、久々に触れたくなってきました~
      ありがとうございました!
      また是非、遊びにいらしてくださいね!
      2023/04/27
  • 何となく仕事で行き詰まってた時に目にした本だったので手に取ってみました。

    ストレスに耐えかねた主人公が、職安で紹介された、ちょっとマニアックな仕事を転々とする物語です。

    どんな人でも信じた仕事から逃げ出したくなって、そこからずり落ちてしまうことがあるのかもしれない。

    自分の居場所を見つけられることができる仕事。なかなか見つけられないと感じる。

    ただ祈り全力を尽くすだけだ。どうかうまくいきますように。

  • とても面白かった。

    もしかしたら、雇い主はそこまで期待していなかったのではないだろうか。
    でも、どうせやるなら面白いほうがいい。
    とことん楽しんでいるような気がする。

    「おかきの袋のしごと」:
    そうかもしれない。食べながら読込んでしまうことはないでしょうか。
    あるある。
    でも、ただ書けばいいわけではなくて、万人に安心して読んでもらって、それでいて、うんうん、って言ってもらえるような、そして、つぎはなにかな~、というような期待感。そんなものを持ってもらえる、自分にしかできない作品を仕上げていく。
    フジッコさんでしたっけ?吹き出し付きのイラストが作られてしまったところは笑った。退路を塞がれてしまったというか。でもちゃんと仕事をこなすところ。いいですね。

    「大きな森の小屋での簡単なしごと」:
    うちの近くの大きな森と対比させながら読みました。
    大きさも似ているかもしれない。とても1日では回り切れない森なのだけれど、そこで発見していく。
    はんのき、調べてみました。
    でもよくわからない。あれを食べるの?
    うーん、きっとうちの森にもあるのだけれど、白樺にも似ていますね。もう少し調べてみます。

  • 「一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね?」
    あらすじの1行目がこれです。
    あらすじが今の自分の心境にドンピシャ。
    めちゃくちゃ共感したので読んでみました。

    全部で5つの仕事を経験する”私”。
    どんな仕事を請け負ってきたのか興味のある方は本を読んでみてください!
    一見簡単そうに思えますが、実際仕事としてやるとなったら誰でも出来る仕事ではないと思うんですよね~。
    特に「バスのアナウンス」と「おかきの袋」の仕事は、それなりにスキルがいると思うのです。
    他3つも素人が現場に入ってすぐできるかというと微妙です。
    全然コラーゲンの抽出を見守るような仕事じゃない!笑
    どの仕事も一人で黙々とやる仕事かと思いきや、コミュニケーション能力、めっちゃ使いますし。
    一つの場所に人が集まると人間関係は避けて通れないって事なんでしょうね。主人公は意外と器用に人間関係を築いていけるところが羨ましかったです。
    お仕事小説としては斬新な切り口でしたので、新鮮で楽しませていただきました。

    今回の気になるフレーズはこちらです。

    ”自分が大学卒業以来十数年続けた、最初の職種に戻る時が来たような感じがした。そうはいっても、こちらの都合だから、簡単に仕事が見つかるとは思わなかったが、とにかく、その周辺にでも帰っていくべきなのではないか。”

    新卒で働いて以来、フラフラした人生を送ってきたのですが、必ず戻る職種があるんですよね。それが新卒で就いた職種なのです。
    これ、ホント不思議です。
    どういうわけかこのお仕事にはご縁があるのです。
    人間の本能なのか、キャリアがその職種を引き寄せるのか。人間、戻る場所というものが職種にもあるのかもしれません。

    一風変わったお仕事小説。
    脱力系っていうんでしょうか?
    バリバリ仕事をするだけが仕事ではない。
    新たな価値観を生んでくれた小説だと思います。

  • 津村さん初読 文庫の表紙裏の写真がちょっと尖ってって良いね。

    長く勤めた前職をバーンアウトした後、安定所で働けそうな仕事を紹介してもらい、お試し転職を繰り返している、36歳、独身女性。
    自身にとってストレスが少ない仕事を探して、試行錯誤。仕事に対して真面目なんですね。契約した仕事には、きちんと向き合ってしまう。続けていけそうなんだけど、妥協できそうにない所には、妥協しないで次にいく。
    世の中こんな仕事が!といのも、多々ありますから良いんじゃないですか。たやすい仕事は無いけれど、納得できるものはあるかもしれない。

    ラストを主人公が受け入れる長い職業体験のようでしたね。職種からのバーンアウトか、職場からのバーンアウトかの把握は重要かも。

  • 働いてお金を稼ぐって甘くない。
    自分の代わりはいくらでもいるけど自分にしか出来ないこともあるんじゃないか。
    ん〜、おもしろ、、、かったけどー。ちょっと中だるみ。次の展開が気になってページを捲る手が止まらないって事はなく、時間かかった。

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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