読みづらいという声も多いらしいが、サービス精神満点の大娯楽作だった。
登場人物の多さに辟易しないためには、バード、レイン兄弟、ジョアン周りの数名だけ把握してすいすい読めばよい。
私はモブであってもネーミングが面白くて、全員メモを取りながらゆっくり読むことを楽しんだ。
Ⅰではレイン兄弟を追うバードを通じて、荒廃した世界観を味わう。
「明日に向って撃て!」でブッチとキャシディが荒野を延々追われる場面があるが、その舞台を世界荒廃後の荒野に置いた。
人肉食がまだまだ廃れていないという背景もぐっとくる。
Ⅱは打って変わって牛腹と蔑まれたマルコが、蟲の流行から逃れつつ調査する中で、いわば救世主と見做されていく過程。
人間ではないので人生観も異なり、よい意味で冷酷。
蟲の流行した村は焼く。それがⅢへ。
Ⅰでは人生観にまつわるカッコイイ台詞が頻発していたが、Ⅱではカッコイイだけでなく宗教の発生といえるような深い思索が。
またアビアーダ村の移動とともにマジックリアリズムのテイストが入ってくる。ここも面白い。
Ⅲはいってみれば戦争。
ロストテクノロジーも活用して攻め込む討伐隊と、ゲリラ的に応戦する村およびインディアン。
みながみな荒くれでどうしようもない男どもだが、こうしか生きられなかった悲哀、といったものが戦場に美しく散る。容赦なく。
ここにおいて発生する抒情こそが、読書を通じて私が欲しているものだ。