クローゼット (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101203829

作品紹介・あらすじ

十八世紀のコルセットやレース、バレンシアガのコートにディオールのドレスまで、約一万点が眠る服飾美術館。ここの洋服補修士の纏子は、幼い頃の事件で男性恐怖症を抱えている。一方、デパート店員の芳も、男だけど女性服が好きというだけで傷ついた過去があった。デパートでの展示を機に出会った纏子と芳。でも二人を繫ぐ糸は遠い記憶の中にもあって……。洋服と、心の傷みに寄り添う物語。

感想・レビュー・書評

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  • 看板も何もない、真四角の白い建物。
    それが、何百年も前のコルセットや宝石より高価なレース、ディオールのドレスまで、約一万点が収納されている、服飾美術館。

    その美術館で、補修士として働く、白峰纏子は、幼い頃に受けた傷が元で、男性が苦手であった。

    デパートのカフェでアルバイトをしている、下赤塚芳も、女性の服が好きというだけで、幼い頃に傷付いた過去があった。

    美術館所蔵の品々に魅せられ、芳は、ボランティアで、服飾美術館に通うようになり、そこで二人は、出会った。

    二人は、幼い頃に、共通の思い出を持っていた。

    纏子の章には、トルソーのイラスト。
    芳の章には、ハンガーのイラストが書かれている。
    そのイラストがとても、可愛い。

    千早茜さんの作品を読んでいると、不思議と時間がゆっくり流れるようで、とても静謐で心穏やかになる。
    もっと、他の作品も読んでみたい。

  • 服の美しさに魅せられた青年。服の修繕の仕事に出会った女性。生きづらさを抱えた主人公たち。優しさに触れるなかで少しずつ強さを取り戻していく物語。補修士という仕事。服飾美術館で働く人たちの輝く姿に、自分の好きなことに出会えるのは本当に幸せなことだと思った。
    その時代や環境により変化する価値観や固定観念。歴史を知ることで、もっと自由になっていくといいよね。著者の込められた願いを感じた。

  •  「レースを見つめていると、一面に霜柱がたった寒い冬の朝を思いだす。庭に咲きほこる花々が時を止め、世界の欠片が白く凍りついたよう。」
     「透明な夜の香り」の一香が一人称の文章を読んだときも感じたけれど、欲望という言葉が不似合いで、繊細でささやかな主人公を通して見る世界は、どうしてこんなに美しいのかと思う。
     過去のトラウマから、男性に触れられることに強い恐怖心をもつ纏子が、芳の唇や拳が震える様子をみて、「手を握りたいなと思った。人はこんな気持ちで人に触れたいと思うのだと知」る場面が涙がでるほど印象的。身体とか、男女とか、美しさとかについて、考えるきっかけになりそうな一冊。

  • 真っ白な服飾美術館を舞台に、服飾修復師の纏子の再生のおはなし。
    著者の服飾に対する愛情がひしひしと伝わってくる。

    素敵なものがたりだったなあ。自分の作品を本当に大切にしているんだろうなあ。
    読んでいるこちらも、ゆっくりと噛み締めて読みすすめる。
    晶、纏子、芳のような主要人物だけでなく、周りの大人も魅力的。
    写真家さんは石内都さんを彷彿とさせるよね。

    ウィスキーのように、また時間を重ねて読みたい一冊。

  • 服装にもこんなに歴史があって、昔ながらの流行とその理由を知っていくのはとてもおもしろい。
    そんな洋服に魅了された人たちのお話

  • まきこは服飾美術館の洋服補修士
    才能も技能もある
    幼い頃のトラウマがあり
    男性恐怖症を抱えている
    そんな彼女を支えている晶は学芸員
    一方、デパートのカフェアルバイトの芳は
    何となく日々を過ごす
    彼も傷ついた過去をもつ
    デパートの展示をきっかけにまきこと芳は出会う

    補修して歴史ある服と向き合う登場人物達は
    キラキラしていて美しい
    好きを仕事にする輝き
    消せない過去の傷み
    好きな仕事、人との出会いが少しずつ人を強くする

    一見チャラい芳がお気に入りのコートを
    大切にブラッシングする描写が印象に残った
    私も自分に寄り添う身体に馴染む服を探そうと思った

  • 強さ、脆さ、生きづらさを語りつつも静謐...。知らんことも多々あったが、そんなことはどうでもいいぐらい身に纏った鎧、価値観、こだわりに鋭いメスが突き刺さる...。今、この作品に出会えて良かった。クロージングも好みでした。読めば服を買いたくなる一冊。

  • 心に傷を抱えた二人をめぐる物語。
    時代を経て傷んだ服を補修しよみがえらせる洋服補修士の仕事と、その服を保存管理する服飾美術館についての描写がとても興味深い。
    服の歴史について初めて知ることがたくさん。

    ただ、個人的にはストーリーを楽しむというよりも、“お仕事小説”として楽しみました。

    期待値が高かったのと、作品に漂うどこか陰鬱な雰囲気がどうも私にはあわずモヤモヤしたままの読了。

  • 100年以上前の洋服たちが1万点以上保存されている服飾美術館。
    その場所に魅了された人達の、心の傷み。
    芳、纏子、晶の3人が、少しずつ寄り添いながら前に進む姿に心を打たれました。
    ファッションには疎いけど、こんな美術館があったら行ってみたいなぁ。

  • 作品のなかで扱われるような豪奢な被服が結構好きなので、コルセットやバッスル、ドレスの描写がワクワクしました。

    服に対しての考え方を始め、社会の変化や歴史まで繋がって色々と考えさせられる事もあるけれどこの小説は全く説教ぽくなく、素直に考えられました。自分や、今の社会の当たり前もやがて歴史となっていくのだと思うと、流行も楽しめた方が良いなと思ったり。

    纏子の過去についてが、無理やり程では無いけれど少し妥当に感じなかった。せめて終盤に再会したときにもう少し救いがあったら良かったような気がした。

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著者プロフィール

1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年に同作で泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』(絵・宇野亞喜良)、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

「2021年 『ひきなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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