「黒鳥亭殺人事件」
画家の天農仁と娘ちゃん登場。お噂は以前に、の火村とアリスの同級生で共通の友達という人物。叔母?から譲りうけた家に住んでいたところ、庭の井戸から変死体が発見されて、一体どういうことなのか、その謎を解いてほしい、と言われ、件の家に赴く二人。
お客さんがいて眠くないと粘る娘の真樹ちゃんの相手をするアリスとか!かわいいかよ!っていう。その間に火村にことの起こりを話す天農。耳の聴こえない九官鳥、二十の質問、童話の読み聞かせ、などいろんなヒントが散りばめられていて、最後に綺麗に回収していくんですけど、結末がなんとも後味が悪くて、思わずこれ、そういうことであってる?と答え探しをしてしまいました。
真樹はどうなったんだろうな…。これは事実を知っていても、知らなくても、どうにもならないモヤモヤが残るんだろうな、と思ったのでした。
「壺中庵殺人事件」
資産家が地下に作った自分だけの空間の中で殺される密室殺人。当初は自殺かとも見られたけど、死体の具合もおかしいし、もしや関係者の中に犯人が、という展開。容疑者はお手伝いさん、資産家の囲碁?仲間、隣に住む実の息子の三人で、さあだれだ、というとても王道中な王道のお話。異様なのは死体が地下室への扉にぶら下げられた上で、頭の上からツボをかぶっていたというその姿で、火村先生が犯人に詰め寄る最後のところが割とこう…なんというか軽蔑している感じが満載でしたね。あれ?変な感想。
「月宮殿殺人事件」
アリスがたまたま通りがかった川原で見かけた、端材やガラクタで作られた立派な小屋(家?)に、火村と再び通りかかったら、どうも火事にあって宮殿は焼失してしまい、建設者兼住人が火事に巻き込まれてなくなってしまう。その住人のホームレス仲間がそこにはいて、以前もアリスは話をしたことがあったことから、何があったのか聞いてみると、その人は近所の悪ガキがいたずらで火をつけたところ、その火事に巻き込まれたというんだけど、警察の聞き込みとどうも話が食い違うようで…。
月宮殿というネーミングからのミスリードで謎が作られているのでした。
最後に火村センセが大量のファックスをアリスあてに送るところが、なかなか茶目っ気があっていいと思います。
それにしても二人はどこへ行った帰りだったんだろう…(多分フィールドワークですけど)。
「雪華楼殺人事件」
建設が中断された、六角形の雪の結晶を模したと思われる旅館で起こった事件の調査に向かう二人。柵も何もない屋上に残された一組だけの足跡と、転落してうつ伏せに倒れている男の後頭部の裂傷の謎を解く話。自殺なのか、事件なのか、事故なのかを検証していくんですけど、事件だとしたら容疑者は電気もガスも通っていないこの旅館で、男と同棲していた女の子と、たまたま先に住み着いていた無職のおじさんの二人。だけど事件にしては状況がおかしい、というところから検討を重ねた結果、すごい偶然の結果、おかしな状況になってしまった、という結論になるんですよね。
死んだ男と同棲していた女の子が、たまたま腹いせまぎれに投げたボトルが、自殺をしようと屋上から飛び降りた男の頭に当たって、後頭部に裂傷のある、死体が出来上がってしまった、と。
淡々とした火村せんせに対して、やけにセンチメンタル全開なアリスでしたね。いやもともとアリスは割とロマンチストでセンチメンタルなやつだとは思っていますけれども。
あとがきで、このトリックととても似通った偶然が現実に起きてたらしいことにも触れられてましたね。映画『マグノリア』の冒頭で紹介されてるらしんですけど、それも気になる。ご本人はその偶然は知らなかったようで、参考にしたんじゃないかと思われるかもしれないと、ちょっと悔しかったとありましたね。
「紅雨荘殺人事件」
これはまた美しい情景をテーマにした作品かなと。
映画にも使われた、紅葉をモチーフにしたお屋敷で、その女主人の死体が見つかって、容疑者として上がったのは、女主人の三人の子供と従妹の計四人。自殺かとも疑われたんだけれども、どうも状況がおかしくて…という話なんですけど、トリックが、ある意味大胆だなという。
女主人を殺したのは従妹だったんだけれども、家の資産価値を守ろうとした子供達が、見つけた自分の母親の死体を別の場所に移してしまったために、話が難しくなった、というのがオチで。子供達の自己中心的な考え方がなかなか狂気だな…などと思ったのでした。この死体移動のトリックを実現するために、死体発見場所のリビングの絨毯を全部取り替えるっていうところに大胆さがありますよね。
従妹はビスクドール作りの先生で、犯行動機は自分の糧となっている綺麗な思い出を穢されてついカッとなってしまった、というもの。その部分の話を見ると、女主人もなかなかの人物で、誰にも慕われなくても仕方ないよなあ、などと思ってしまうのでした。
「絶叫城殺人事件」
これはドラマでやってたのを見ましたね!ので、割と覚えてました。
人気のホラーゲームを模したかのような連続殺人事件が起こり、ただ、最後の犠牲者だけが他とちょっと様子が違うところから、犯人に行き着く話。
これはなんとも切ない結末なんですよね…。犯人は事故にあったことで、ゲームの模写としての事件は完成させられなかった。しかも事故自体は結構大きな事故だったから、これから先、体は思うように動かなくなるんじゃなかったかな。最後の事件の日、犯人はアリバイがないわけだけども、その犯人の実の姉が、この犯人に行き着いていて、弟の犯行を隠すために、猟奇殺人犯に殺されたかのように装って、一世一代の大芝居を打つんですよね。しかも命がけで。まあ、結果的にはその違和感から、火村せんせは犯人にたどり着くわけですけども。
アリスが最後に犯人に、なんでこんなことをしたんだ、と尋ねた時の犯人の答えが、「現実とヴァーチャルの境界が分からなくなるというのがどういう感じが知りたかった」という答えで、これはなかなか風刺がきいている…。と思ったのでした。
あとがきはこのシリーズが初めての「○○殺人事件」というタイトルをまとめたものであり、せっかくだからもう一捻りと「館」シリーズにしたそうで。言われてみると、作家アリスシリーズは国名シリーズの印象が強くて、それはどれも国名+○○の謎、タイトルになってるんですよね。そういうことも考えて創作できるのすごいな…と思うなど。
あと、火村とアリスの音楽の好みの話が出てくるんですけど、クラシックの『ゴールドベルク変奏曲』のグレン・グールドじゃなくて、スコット・ロスの方が私の好みで、などということをさらっと入れてくるあたりがとてもおしゃれであり、知識の幅の広さに感服させられます。。ちなみに、グレン・グールドはステージを拒絶して、スタジオ録音が残っているのに対して、スコット・ロスはライブ演奏を収録した盤があるそうで。それがそれぞれの好みに合っているというところに、人柄の違いを出してくるとかそういうのにくい演出ですよね。機会があったら聞いてみよう。