銀の匙 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.36
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本棚登録 : 97
レビュー : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101205717

作品紹介・あらすじ

古い茶箪笥の抽斗から見つかった銀の匙。忘れられていたこの小さな匙は、病弱だった私の口に薬を入れるため、伯母さんがどこからか探してきたものだった……。その愛情に包まれた幼少期から、初めての友達・お国さんとの平和な日々、腕白坊主たちが待つ小学校への入学、隣に引っ越してきたお蕙ちゃんに対する淡い恋心、そして、少年から青年に成長するまでを繊細に語った自伝的作品。

感想・レビュー・書評

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  • やっと読みおわる。流れるような文体、まるで講釈や漢文を読み下しているよう。一文が長く読みごたえがあるが、途中止まるところがないので息がつまりそうになる。

    描写がすごい、小説というのは、展開もあるがまずはその 書きっぷり で読ませるものだというのを感じた。感じたものをそのまま書くだけで、優れた書き手であれば読ませてしまう。

    展開やプロットや起伏も、読ませるためにある。純文学は読ませるために作家の目で感じたことをそのまま書く。まずは感じなければいけない。

    詩や短歌のように、さりげないことをさもおいしくみえるように飾りたてて書く。古来からの歌のリズムや、草木や四季(としか書けない、自分の風流のなさ)が味方する。

    一行で終わる話である。

    読みおわって花鳥風月がそこにある。いいたいことはいっぱいある。伯母さんのシーンは号泣したのだが、あまりにも残酷なような気がした。思わず叫んだ、なんとかもっとしてやれなかったんだろうか。今の感覚とは違うのだろうか。それともあえて、ああやってさらっと書いてるのだろうか。にしても、蚕にあれだけ執着し、月を見ては泣き、山にのぼって半日ぼんやりできる主人公が、あれだけの情しか見せないのはわからない。問いつめたい。国中にアンケートをとりたい。まずはうちのおばあちゃんに聞いてみる。

    なんかあんまりにも、主人公が蝶よ花よというかなよなよしすぎていてその心情に行動がともなっていない。でも書き手がたいへんうまく、主人公のなかに入り込ませるのがうまい、自分のことと思えぬ客観的な、映画のような描写と考察で、それもまた面白い。これだけ頭を使える人が書いたなら、たんなる自伝ではなく、やっぱりこういう男がいたという小説なんだろうと思う。気持ちが前のめりになって自分自身に酔って入り込んだ作品ではなく、とても冷静な作家の目を持って計算されている、すぐれた小説なんだろうと思う。

  • 【版元の内容紹介】
     古い茶箪笥の抽匣(ひきだし)から見つかった銀の匙。忘れられていたこの小さな匙は、病弱だった私の口に薬を入れるため、伯母さんがどこからか探してきたものだった……。その愛情に包まれた幼少期、初めての友達・お国さんとの平和な日々、腕白坊主達が待つ小学校への入学、隣に引っ越してきたおけいちゃんに対する淡い恋心、そして、少年から青年に成長するまでを細やかに回想する自伝的作品。
    http://www.shinchosha.co.jp/book/120571/


    【目次】
    前篇 
    後篇 

    注解
    『銀の匙』を教材に  橋本武
    解説  濱田純一

  • 銀の匙は薬を飲むための物で、忘れ難いか弱き幼少期の思い出の象徴か。青年期まで、些細な事に涙する著者はいかにセンシティブな少年だったかと想像するのと逆に明るい子だったらしい。主人公に暗さより同化する感覚を受けるのは表現力の豊かさか。2020.4.4

  • ようやく読めた。
    ずっと読みたいと思っていたけれど、今まで縁がなかったけれど。

    言い尽くされた評ではあるけれど、やはりその繊細な表現に唸らされる。
    感情や気分が丁寧にすくい取られ、決して私の回想ではないのに自分の感覚のように甦ってくるものがある。

    私も子どものころ体が弱かったので、横になった布団から見た壁の模様や天井の影を今でも覚えている。
    そしておばあちゃん子だった私は、確かに祖母にくっついてあちこちでかけた記憶もある。

    絶対的に違う時代を生きているはずなのに、この既視感。

    だからこそ、思い出すままに徒然書いたように見えるこの文章の巧みに唸るのだ。
    ただ書き散らした文章だったらこんなに琴線は震えない。

    体が弱くて癇の強い少年を無償の愛で包み育てくれた伯母さんは、「次郎物語」のお浜さんを思い出させるなあとか、主人公が心に浮かぶもの目に着いたものを次々に書き連ねて行く様は大好きなニコルソン・ベイカーみたいだなあとか、この繊細な作品を内田善美の絵で見たいなあとか、自分の好きな世界が数珠つなぎになって脳内をよぎる。

    つまり、好きなんですな、こういう作品を。
    読めてよかった。

  • 何とは無しにのほほんと読んでしまった。ただ、子供時代のひ弱なたこぼうずっぷりをこんな風に客観的にさらりと書けてしまうのがすごいし、前編の後半の方では「周りがばかに見える」中二病的なものの片鱗まで見せていて、いつの時代も変わらないものがあるんだな…と生暖かい気持ちになった。小さい頃思うように実の母に甘えられなかったのが文の表面には出てこないが、女性への執着といった形で浮き彫りにされている。銀の匙は1950年から灘で教材に使われてたのを初めて知ってビックリした。

  • この一冊で、中学三年間の国語を使うことが出来るとは……橋本武先生の授業を、一度受けてみたかったなぁと思った。

    読んでいて、川端康成の『伊豆の踊子』の感覚が浮かんだ。
    小説としては凹凸がなく、叙情的で、まるで随筆のような描きの細やかさがある。
    なのに、お蕙ちゃんや伯母さんとのお別れのシーンになると、主人公の眼差しになっているのか、急にぐっと込み上げるものがある。

    上手く出来なかったことへの寂しさや悔しさが、よくよく伝わってきて、こういう話を大切に読めることは素敵に思う。

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著者プロフィール

1885年、東京に生まれる。小説家、詩人。東京大学国文学科卒業。夏目漱石に師事。漱石の推薦で『銀の匙』を『東京朝日新聞』に連載。主な著作に小説『提婆達多』『犬』、詩集に『琅玕』『飛鳥』などがある。

「2019年 『銀の匙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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