死後の恋: 夢野久作傑作選 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101206417

作品紹介・あらすじ

ロシア革命直後のウラジオストックで、怪しい男がロマノフ王家の宝石にまつわる奇妙な体験を語る(「死後の恋」)。海難事故で無人島に漂着した兄妹が体験した悪夢(「瓶詰地獄」)。鼓作りの男が想いを寄せる女性に贈った鼓が、尋常ならざる音色で不吉な事件を引き起こす(「あやかしの鼓」)。──夢と現の狭間へと誘う奇才夢野ワールドから、究極の甘美と狂気を厳選した全10編。

感想・レビュー・書評

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  • 「死後の恋」のみ青空文庫で読了。
    時代が経っていた感はあったが、読みづらくはなかった。
    ただ内容はあまり心に響かなかった。

  • 久作の短編集は何冊か読んでいるので(角川の少女地獄、教養文庫の死後の恋、ちくま文庫の日本文学シリーズなど)収録作品の被り程度を前もって確認、どうやら半分くらいが既読だけど、残り半分は未読の作品のようなので読むことに。

    さて表題作は安定の狂いっぷり。怖さ不気味さおぞましさどれをとっても最高の完成度。それでいて一抹の憐憫。初読のものでは、脱獄した凶悪犯が人形だらけの家に迷い込む「白菊」は道具立てが好み。「怪夢」は夢日記のような印象。「悪魔祈祷書」はむしろ実在してほしい。「木魂」はなぜかずっと脳内で、つげ義春の絵で浮かんでました。

    夢野久作名義でのデビュー作にあたる「あやかしの鼓」も読み応えがあって面白かったです。呪われた鼓の言い伝え、その製作者の末裔と呪われた側の末裔のドロドロした伝奇的な設定に加えて、美しい未亡人が鞭を持って迫ってきたり、狂人を装ったある人物が「実は私は○○なのだ!」と正体を明かすどんでんがえしがなんと二段構えだったりと盛り沢山。ただ主人公の行動原理が不明でいささか幼稚なのでイラっとしていたところ、巻末に収録されている当時の書評で乱歩が色々鋭く指摘していて目から鱗でした。

    ※収録作品
    「死後の恋」「瓶詰地獄」「悪魔祈祷書」「人の顔」「支那米の袋」「白菊」「いなか、の、じけん」「怪夢」「木魂」「あやかしの鼓」

  • デビュー作「あやかしの鼓」含む10編からなる短編集。
    短編ではあるが、しっかりと夢野久作ワールドを楽しめる。
    夢野久作を読んでみたい!と思ったけど、長編はちょっと…という人にぴったり。
    あと、ドグラ・マグラとか少女地獄とかで挫折した人にもよいと思う。

    いなか、の、じけんはちゃんとオチが付いているし(まぁ結構アレだけど)、個人的にはちょっと笑える。
    表題作の死後の恋は、短いけど"これぞ夢野久作ワールド"みたいな感じだし、あやかしの鼓は言うことなしだし…
    再読だが、ページを捲る手が止まらなかった。

    この短編集のいいところは、ちょっと夢野久作読みたいって時にさっくり読めるところだと思う。

  • 以前、夢野久作の専門講義を取っていたことを思い出したので買ってみました。まだ読んでる途中だけどすでに狂気。

  • あとがきに書かれているように、私も以前「ドグラ・マグラ」から夢野久作に入ろうとして門前で弾き飛ばされた一人なのですが、この本は短編集で読みやすく、夢野久作入門には最適でした。幻想怪奇趣味が詰まっていて、好み。近藤聡乃さんの表紙絵はイメージぴったりだと思いました。「いなか、の、じけん」だけは青空文庫で既読。「瓶詰地獄」が特に面白かった。いまだに本棚の奥で眠っているドグラ・マグラに再挑戦してみようかな。

  • 挫折した。
    「死後の恋」「瓶詰地獄」「支那米の袋」は世界観を味わえたけど、他は“もういいか”でした。
    次は学生時代から読もうと思って未だ読めてない「ドグラ・マグラ」。跳ね返されるかな。

  • ★4.0 「瓶詰地獄」
    ★3.5 「死後の恋」「悪魔祈祷書」
    「ドグラ・マグラ」ほどのおどろおどろしさはないかな。

  • 好奇心から「ドグラ・マグラ」を少し読んで挫折したので心配でしたが、そんなに面白いなら私も続いてみようと思って。惚れたのねと#棚の一覧を眺めたのです。

    不思議な文体にあふれている、初めての久作ワード、カタカナも混じっていて、読み慣れるのに少し時間がかかった。

    「死後の恋」「瓶詰地獄」は名作ということで、ストーリーだけ取ると、家系を守るために男になり、死んだ後に持っていた宝石だけが残されるというのは、特に戦争や革命で社会制度の変わり目に揉まれて死んでいくということは珍しくないと思ったが、死の悲惨な姿や残された宝石との対比が見てきたような凄さをもっていた。それに、ロマノフ王朝の令嬢が男装していたという意外さもあって、ちょっと悲しい片想いも絡むという作りは、ミステリにはこういう話も作れるのかと着想が面白かった。

    「瓶詰地獄」も兄妹が二人きりで島に取り残されて成長する間には、愛も恋もあるに違いない、血のつながりが成長とともに背徳地獄に落とされるというのは、別に驚くことではないと思いながら、健康的だった二人が成長するにつれて地獄の思いにとらわれていく様子が残酷だった、成長過程の心理は読者には手紙でしか知らされない。瓶の手紙が書かれた順に届くのではないというテクニックがやはり巧みさなのかと思う。

    「悪魔祈禱書」は、くだけた一人称の語りが面白い。ふたを開けてみると、という最後になって思わず拍手。好きな作品だった。

    「いなか、の、じけん」
    事実なのか創作なのか、実際にあった話だと作者が言っているのも面白く怪しいけれど、びっくりの田舎の出来事が書かれている。
    世界には「奇想天外」な話はおおくて、興味があるのでTVを見てはへぇ~と驚いている。田舎には、こんな怪奇な出来事が起きる、かもしれない。まだ今よりもっと夜が暗く山が深かった頃、妖怪や、狐狸や、貧しさや、男と女のもつれや、心の乱れが死の狂気を招く。
    最後の一行で恐ろしい話の種明かしをされてはっと我に返る。かつての田舎経験者なので雰囲気がよくわかって面白かった。

    「怪夢」「木魂」は自分が作り出した怪異に憑かれる。現実と幻の中で恐怖に震え命を落とすなど、今でもないとは言えないかもしれない。こういう手慣れた恐怖話は、真骨頂かなと思わず震えた。

    「あやかしの鼓」は技巧的な文章で、ストーリーも鼓にまつわる因縁噺が世代を超えて伝わる。芸事に憑かれた人達の怨念や執念がこもる道具立ての話は多いが、鼓の音色に現れるというのは興味深かった。お囃子の調子、不気味な音が聞こえるようだったが、鼓に籠った執念ということが実は、精神的に倒錯した人たちの狂気が作り出した因縁噺かもしれず、雑誌の入選作だというのは、知られた話かもしれないが、後にある批評を読むと興味が倍増される。
    鼓が作られた当時悲劇が続いて、作者の怨念がこもったということで、封印されるが、やはりそういったいわれのあるものは、打ってみたいというのが人情で、それが災いを招く。鼓にまつわる薄気味悪い出来事が続いている。もっと怖がらしてほしいと、不吉を呼ぶ「あやかし」の増量を期待しつつ。人間関係の不思議さ気味悪さなど充分怪しかった。
    狂気の伝承を扱ったようなストーリーと独特の夢野ワードにうまく引きずり込まれた。変態女性は少し書き方が荒っぽく苦手なのかなと思ったが。やはり変態は美人でないと似合わないかも。

    選者は、知らない方々もいたが江戸川乱歩の率直さが愉快で納得する部分も多く、あぁこの方は実在した人でこういうことを書くこともあるのかと当然のことだけれどひどく身近に感じた。
    なんだか時々は、今の様々な賞についている評が生臭く感じることがあるだけに、こういう時代があったことにちょっと感動した。
    受賞した夢野さんの謙虚ながら裏話めいた「所感」は、微笑ましかったし、解説を読むと10年足らずで書き溜めた作品で全集が刊行されたという、書く威力を感じた。そのうち『ドグラ・マグラ』が読めるようになるだろうか。名作というものを読むと、好奇心だけでは足りない気がしてきた。

  • 手軽な狂気。そのまま読むぶんには良いが頭を捻って考察をしようなどと考え始めると途端に自分の肌の裏に蠢くものが血と肉であるのか分からなくなってくる。

  • ドグラ・マグラでチャカポコしている時にはどうしてその後夢野久作作品続けて読むようになるなどと予想できただろうか。不気味でグロテスクで背筋が冷たくなったりもするんですが、狂言じみた言い回しがどこか美しくて。表題作のほか『支那米の袋』が好きでした。ほかにもロシア絡みのネタがちょいちょい挟まれてたのですがそれがまたいい味でした。『いなか、の、じけん』はちょっと柳田国男っぽい感じで面白かったー。

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著者プロフィール

1889年福岡県に生まれ。1926年、雑誌『新青年』の懸賞小説に入選。九州を根拠に作品を発表する。「押絵の奇跡」が江戸川乱歩に激賞される。代表作「ドグラ・マグラ」「溢死体」「少女地獄」

「2018年 『あの極限の文学作品を美麗漫画で読む。―谷崎潤一郎『刺青』、夢野久作『溢死体』、太宰治『人間失格』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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