自省録―歴史法廷の被告として― (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.81
  • (4)
  • (14)
  • (9)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 99
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101207810

作品紹介・あらすじ

首相在職日数1806日。「戦後政治の総決算」を掲げて、国鉄の分割民営化など行政改革を成し遂げ、外交においては存在感を発揮し、長期政権を築いた中曽根康弘。海軍での従軍体験、若き国会議員の頃、見聞を広めた雌伏時代、そして総理大臣へ。自らの来し方を振り返り、深い思索と人生経験に培われた政治哲学を語る。首相たるもの、権力の魔性を自戒せよ。戦後の日本政治史を体現する老政治家の遺言。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 生きているうちに、中曽根康弘の政治を、歴史として、振り返ることができてよかったと感じました。
    中曽根時代に新聞を読んでもわからなかったことが、本書で府に落ちたこともありました

    気になったものは、次の通りです。

    ・自省録を残したのは、これまでよりいっそう平易な言葉で政治を語りたかったから
    ・中曽根の政治生活とは「戦後政治の総決算で、敗戦の結果失われたよきものを取り返し、日本の本来の扉を開くこと」
    ・勝海舟の言に「天の勢に従う」というのがある
    ・政治家は後世の人の目を恐れなければなりません。
    ・安保改定の目的に、日本の内乱に在日米軍が出動するという、内乱条項を削除するものがありました。
    ・雌伏時代を英語では kill the time という
    ・佐藤栄作が沖縄にいって語ったこと「沖縄の本土復帰が実現しないかぎり、戦後は終わらない」
    ・中曽根が田中内閣に協力したのは、「日中国交回復をできるのは田中だけだったから」
    ・田中がメジャー以外から石油を買おうとしていたことが、アメリカの反感をかってロッキード事件につながった
    ・政治家が事を上手く成就させようと願うなら、事前の準備の綿密さはもちろん、迅速な速度感をもって行うことが絶対に大切である
    ・二つの道があるとき、厳しい道を選びなさい
    ・中曽根が靖国参拝をやめた理由、それは盟友胡耀邦の失脚を救おうとしたから
    ・ロシアには、スラブ系と、ヨーロッパ系の2つの流れがある
    ・日本の首相は、イギリスよりアメリカの大統領に近い。それは、行政各部の指揮監督権、大臣の任免権、自衛隊の最高司令官、最高裁長官の任命権をもった、強大な権限者であるから。
    ・行革というのは、首相三代、十年の仕事である
    ・よい大臣の条件とは、行政に長けていること。緻密で、先手先手と手を打つこと知っており、国会での答弁にもそつがなく、追い風に乗って、一気に法案を成立させること
    ・政治の要諦とは人事である
    ・国民に人気のある政治家は総裁にはなれず、プラグマティスト(実用主義者)でないと政治家としては成り立たない
    ・行革の最大の成果は、大蔵省から予算編成権を、臨調(官邸)に移せたことである
    ・税制改革とは、シャウプ勧告以来の直接税制から、直間比率を見直すために、間接税を導入すること
    ・教育改革を成し遂げるためには、財界人を持ってこなくてはならない
    ・国には、大陸国家と、海洋国家がある。海洋国家は視野がひろい。日米英は海洋国家であり、仏独露が大陸国家である
    ・東アジアの最大の政治問題は北朝鮮であり、次の問題が、中国台湾問題である。
    ・日本の核武装は、アジア各国に不要な緊張感を増すことになるからとるべきではないが、米の核の庇護がなくなった場合はその限りではない。
    ・北東アジアの国際関係が緊迫しているのは、いまだ中国、韓国、日本の間に正常な関係が成立していないため。
    ・明治の元老がいるうちは顕在化しなかったが、明治憲法の矛盾である統帥権独立を改正しなかったために、大東亜戦争がおきた。日本国憲法も矛盾が生じる前に改正すべきである。
     
    目次は以下の通りです。

    文庫版刊行によせて

    序章 総理大臣の資質
    第1章 政治家が書き遺すことの意味
    第2章 人物月旦 戦後日本の政治家たち
    第3章 人物月旦(続) 海外の偉大な指導者たち
    第4章 わが政権を回想する
    第5章 これからの世界を読む
    第6章 漂流国家、日本のゆくえ

    あとがき

    特別収録 ナショナリズムと政治の役割

  • 読んではみるもので、単なる内勤の主計将校と思いきや、輸送船での上陸作戦では仲間を殺され船は連合軍にボコボコに、との従軍記から始まる。

    対アジアは侵略戦争、核保有/核拡散はNO、改憲するにはもう戦争はこりごりだ、という想いへの理解が必要と説く。

    トピックは以下でひとつの昭和史になっている。
    -N響事件渦中の小澤征爾を救い出す
    -諸説ある浮沈空母発言の背景
    -レーガン、ミッテラン、周恩来など各国首脳の詳細な人物模様
    -国鉄解体、消費税導入の理由
    政策案は30年かけ将来やりたいこととして数十冊のノートに記録済。戦後政治の欠点は政治家が理念、政策、ディシプリンを明確にして国民にに訴えないこと、曖昧な合意の上での政治だと。
    仏語ができたり、カントを引き合いに教養人の一面も。

    <その他の書籍紹介>
    https://jtaniguchi.com/tag/%e6%9b%b8%e7%b1%8d%e7%b4%

  • 20220120

  • メディア報道など、表舞台には出てこない政治の駆け引き、交渉の内実を知ることができた。

  • 戦前戦後の、政治家の月旦評や海外の指導者たちとの回想等興味深い。不沈空母発言の真相、風見鶏の真意。日本の首相として初めてサミットで中央に立って写真撮影となったウィリアムズパークサミットでの数々のエピソード。ロッキード事件、リクルート事件、米国の圧力策略などれも興味深く、予想以上に楽しめる。
    著者の個性がよくまとまっていて自伝としておもしろい。この歳に至ったからこその自由な筆致が爽快で、共感した。ついでに自民党派閥政治の仕組みの一端も知れる。
    苦い従軍経験を持ちながら、戦後の外交関係では対米関係に重きを置く。その一方で、憲法改正にも一貫して積極的。政治家より、元軍人としての重要な哲学が「わが宗教観」の箇所に色濃く出ていると思う。
    本著は、一つの理想を実現した記録というより、その時々の難題を乗り越え成果を出した「成功者」の記録である。

  • P251
    一強多元社会
    ターニングポイントは1989ベルリンの壁崩壊、1991のソ連崩壊、次のターニングポイントは2001の9.11テロ、2003のイラク戦争。

    P270
    対北朝鮮政策5原則
    →今も変わらず有効

    上記2点も含め、第5章が非常に良い。

    P280
    ユング心理学と仏教

    P282
    結縁、尊縁、随縁

  • 田中角栄と同格分にして100歳を目前にした政治家の回顧録。風見鶏とされている人物だが制作ノートを30冊も用意していたりアメリカとの関係回復に努めたり、国鉄民営化したりと成果も大きい。
    徳富蘇峰の人物論と国の先行きが正鵠を得ていて興味深かった。

  • テレビを見ていたら、安倍と並んで座っていて、自身の発言として、「憲法改正」は、国民の総意を大事にしてやらなければならないと発言していた(これは現政権のやりかたと真逆だと思う)。私とは政治に対する考え方はずいぶんちがうのだけど、改憲論者であっても安倍とはレベルが違うなと思った。そんな人間が何を考え、どう行動してきたのか知りたくなって読んでみた。繰り返すが、政治的な立場は違うが、かなりまっとうな政治家であるというのが読後の正直な感想である。

  • 漂流するこの国・日本への戦後政治を体現する元総理大臣からの「遺言」。がここに!

全10件中 1 - 10件を表示

中曽根康弘の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×