薬屋のタバサ (新潮文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101209814

作品紹介・あらすじ

平穏な時間。それ以外に欲しいものなんて何もない――。山崎由実はすべてを捨てて家を飛び出し、知らない町の古びた薬屋に辿り着いた。店主の平山タバサは、由実を薬局の手伝いと家事全般の担い手として住み込みで雇ってくれた。見ず知らずのわたしを、なぜ……。謎めいたタバサの本心はわからぬままだが、由実は次第に新しい生活に慣れてゆく。誰しもがもつ孤独をたおやかに包み込む長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 行ってはいけないと自分のどこかが止めている。
    ただ、心を少し離れるともっと深いところにあるふと顔を出すどろどろとした澱が体から出して欲しいと叫んで、行ってしまう。
    どうにもならないことがこの世にはあるのだと言われた気がする。
    幻想的でいて不穏で引きずられそうなのに、逆らいたくない。
    怪しい小説に出会いたい方は是非。

  • タバサと聞いて即座に「奥様は魔女」と気づく年代であるがゆえに、タバサ=女の子、と思い込みで読み始めてしまって失敗。おっさんか。作者にその意図があったかどうかはわからないけど(数ページ性別は明かされない)(でも全裸シーン序盤であるのに性別わかる描写をしないのはやはり意図的なのか)脳内修正にとても苦労しました。

    客観的に見てタバサというキャラクターはそれなりに魅力的なはずだし(薬局だから白衣、誰にでも敬語、無機質で生臭さがない、常に温厚で声を荒げたりしない、家族を失い天涯孤独、わけありっぽい)、なにやらワケアリでやはりけして若くもないらしい主人公女性がそんなタバサに拾われ、薬局で働くうちに彼に惹かれていく・・・というベタな展開も想定内ながら自然な流れのはずなのに、なぜかしら、全然タバサを好きになれない。主人公にも共感できない。感情をあらわにしないタバサが突然バスルームに主人公を引っ張り込むところも違和感しかなかったし、大変露骨で恐縮ですが、後半二人がセックスする場面もとても不愉快で、気持ち悪い、という感情のほうが自分の中で勝ってしまった。無味無臭の無機質な世界にいたのに、急に生臭い他人の体臭を嗅がされたような気分とでもいうか。

    主人公が迷い込んだ、タバサの住む町はおそらく生者と死者の境界のような場所で、死んでからあの世へ行くまでの溜まり場のような場所なのか、あるいは死者が生まれ変わりを待つ場所なのか、それでいてそこに居つく人も出産する人もいるからよくわからないけど、まあそういう世界観自体はとても好きなのだけど。

    東直子の作品は最初の「水銀灯が消えるまで」と「とりつくしま」までは好きだったけど、どうもそれ以降は主人公の幼稚さに苛立って好きになれないことが多く、今回も、実は子供を二人捨ててきた母親である主人公が、中途半端な好奇心を発揮したり、少女じみた言動をすることに常に潜在的にイライラしながら読んでいたのだと思う。自己憐憫の強いタイプには気持ちが寄り添えない。結果、世界観や設定は好きだけどキャラクターを好きになれない小説は、作品としても好きになれない、とわかりました。

  • 表紙が可愛かったので完全なるジャケ買い。
    そして失敗。
    不思議な話は好きなのに全く引き込まれなかった。
    残念。

  • こんなに薄い1冊なのに読み終わるまでに長い時を要した。それだけ読みたくない気持ちが勝っていた。

    摩訶不思議系というか、よく分からない空気感の小説はたまにあるが、それにしてもよく分からなさすぎ。
    あまりに常識の範囲を逸脱していて、共感できる箇所が一つもなかった。

    私は、読んだ時にどれだけその世界に入れるか、人に共感できるか、というのを求めて小説を読むのだが、はたしてこの物語に人を受け入れる余地はあったのだろうか…。
    高評価を下す人もいるようなので、選択したことが間違いだったのだと思う。

    最近の江國香織さんの描く物語に雰囲気が似てるようにも感じた。
    この人の本は昔は好きだったが今は読んでも面白くないことを踏まえると、単に歳をとったということかもしれない。

  • 途方に暮れ、ただ呆然と佇む。
    なんとも言えぬ不快感が拭っても拭っても落ちない。

  • どこに落ち着くのか全く見通しができなくて、読了するまで不安でしようがなかった。そしてタバサが何を考えているのかも不安で仕方ない。ただ人は結局は一人で越し行かなければならないということなのだろうか?リカーシブルの必要性も薄かったかなぁ。

  • 最初から最後まで、状況がよくわからなかった。
    現実なのか夢なのか。
    彼女が接する人たちは存在するのか幻なのか。
    タバサは医療従事者として正しいのか悪なのか。
    何とも言えない読後感。

  • この本の中には確かに街があり、その世を隔てた小さな街の秩序に代々従いながら生き続ける人たちがいます。薬屋のタバサはその街で、街の人達や店を訪れる人達の生から死までを預かりますー
    そして代々引き継がれてゆく薬屋の仕事ー
    短命な薬屋の嫁達ー
    タバサの子を産み終えた「わたし」もまた、、、
    心地よい読後感ではないものの、不思議な世界への読書体験でした。

  •  一種の幻想小説とも言える、御伽噺めいたファンタジー小説。
     見知らぬ平穏な町に、いつのまにか暮らしている主人公。
     古びた小さな薬屋の、風変わりな店主に拾われ、住み込みで働くことに。
     主軸の二人の素性や来歴について、情報は小出しにされるも、詳しい経緯は明かされず。
     人物像も淡白にぼかしたまま、個性も出さないように書かれている。
     薬局の客たちとのやりとりを通じて、町の情景もぼんやりと描かれるものの、人々の言動はどこまでも謎めいており、それらは明確に収束されることなく、静かに世界が閉じていく。
     終始、現実との接点が曖昧で、若干のホラー風味も混じった、儚げな雰囲気に幻惑される。

  • 子どもを二人生んだ山崎由美という女性の視点から描かれる物語。

    由美は二人子どもを産み、一人は亡くし、もう一人を捨てて、この町にやってきた。
    何かに耐えられなくなったからだが、それが何かは読者にはわからない。

    店と家事の仕事をする代わりに、彼女は平山タバサを店主とする薬局に身を寄せる。
    薬屋として代々町の人々の生と死の現場尾立ち会ってきたという平山家。
    いったい彼は何者なのか。
    彼の処方する薬はどういうものなのか。
    そして、この町は、異界なのか。

    異界、とすれば、これは「高野聖」の男女反転ヴァージョンか?
    あるいは「砂の女」の?
    ただ、母性の問題が底に感じられるところは、そういった先行作品とは違っている。

    平山家に嫁いだ女性たちは、みないつの間にか、どこかからやってきた人ばかり。
    おまけに短命だ。
    由美もまたタバサの息子を産み、こういう平山家の女に列するのだが…。
    少年になった息子が彼女につきつける「約束」とは何か。

    ずっと平山家にいたという老女のマサヤさんも謎の存在のままだ。
    物語の序盤に、由美にかけた「ころんでしまうよ」という言葉は、果たして助言か、呪いか。

    何の構えもなく読んで、横っ面をひっぱたかれた。
    ホラーといってくれれば、そう思って読んだのに。

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著者プロフィール

歌人、作家。第7回歌壇賞、第31回坪田譲治文学賞(『いとの森の家』)を受賞。歌集に『春原さんのリコーダー』『青卵』、小説に『とりつくしま』『ひとっこひとり』、エッセイ集に『一緒に生きる』『レモン石鹼泡立てる』、歌書に『短歌の時間』『現代短歌版百人一首』、絵本に『わたしのマントはぼうしつき』(絵・町田尚子)などがある。「東京新聞」などの選歌欄担当。近刊にくどうれいんとの共著『水歌通信』がある。鳥好き。

「2023年 『朝、空が見えます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

東直子の作品

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