薬屋のタバサ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
2.91
  • (4)
  • (15)
  • (32)
  • (24)
  • (3)
本棚登録 : 294
感想 : 33
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101209814

作品紹介・あらすじ

平穏な時間。それ以外に欲しいものなんて何もない――。山崎由実はすべてを捨てて家を飛び出し、知らない町の古びた薬屋に辿り着いた。店主の平山タバサは、由実を薬局の手伝いと家事全般の担い手として住み込みで雇ってくれた。見ず知らずのわたしを、なぜ……。謎めいたタバサの本心はわからぬままだが、由実は次第に新しい生活に慣れてゆく。誰しもがもつ孤独をたおやかに包み込む長編小説。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 行ってはいけないと自分のどこかが止めている。
    ただ、心を少し離れるともっと深いところにあるふと顔を出すどろどろとした澱が体から出して欲しいと叫んで、行ってしまう。
    どうにもならないことがこの世にはあるのだと言われた気がする。
    幻想的でいて不穏で引きずられそうなのに、逆らいたくない。
    怪しい小説に出会いたい方は是非。

  • タバサと聞いて即座に「奥様は魔女」と気づく年代であるがゆえに、タバサ=女の子、と思い込みで読み始めてしまって失敗。おっさんか。作者にその意図があったかどうかはわからないけど(数ページ性別は明かされない)(でも全裸シーン序盤であるのに性別わかる描写をしないのはやはり意図的なのか)脳内修正にとても苦労しました。

    客観的に見てタバサというキャラクターはそれなりに魅力的なはずだし(薬局だから白衣、誰にでも敬語、無機質で生臭さがない、常に温厚で声を荒げたりしない、家族を失い天涯孤独、わけありっぽい)、なにやらワケアリでやはりけして若くもないらしい主人公女性がそんなタバサに拾われ、薬局で働くうちに彼に惹かれていく・・・というベタな展開も想定内ながら自然な流れのはずなのに、なぜかしら、全然タバサを好きになれない。主人公にも共感できない。感情をあらわにしないタバサが突然バスルームに主人公を引っ張り込むところも違和感しかなかったし、大変露骨で恐縮ですが、後半二人がセックスする場面もとても不愉快で、気持ち悪い、という感情のほうが自分の中で勝ってしまった。無味無臭の無機質な世界にいたのに、急に生臭い他人の体臭を嗅がされたような気分とでもいうか。

    主人公が迷い込んだ、タバサの住む町はおそらく生者と死者の境界のような場所で、死んでからあの世へ行くまでの溜まり場のような場所なのか、あるいは死者が生まれ変わりを待つ場所なのか、それでいてそこに居つく人も出産する人もいるからよくわからないけど、まあそういう世界観自体はとても好きなのだけど。

    東直子の作品は最初の「水銀灯が消えるまで」と「とりつくしま」までは好きだったけど、どうもそれ以降は主人公の幼稚さに苛立って好きになれないことが多く、今回も、実は子供を二人捨ててきた母親である主人公が、中途半端な好奇心を発揮したり、少女じみた言動をすることに常に潜在的にイライラしながら読んでいたのだと思う。自己憐憫の強いタイプには気持ちが寄り添えない。結果、世界観や設定は好きだけどキャラクターを好きになれない小説は、作品としても好きになれない、とわかりました。

  • 表紙が可愛かったので完全なるジャケ買い。
    そして失敗。
    不思議な話は好きなのに全く引き込まれなかった。
    残念。

  • こんなに薄い1冊なのに読み終わるまでに長い時を要した。それだけ読みたくない気持ちが勝っていた。

    摩訶不思議系というか、よく分からない空気感の小説はたまにあるが、それにしてもよく分からなさすぎ。
    あまりに常識の範囲を逸脱していて、共感できる箇所が一つもなかった。

    私は、読んだ時にどれだけその世界に入れるか、人に共感できるか、というのを求めて小説を読むのだが、はたしてこの物語に人を受け入れる余地はあったのだろうか…。
    高評価を下す人もいるようなので、選択したことが間違いだったのだと思う。

    最近の江國香織さんの描く物語に雰囲気が似てるようにも感じた。
    この人の本は昔は好きだったが今は読んでも面白くないことを踏まえると、単に歳をとったということかもしれない。

  • 途方に暮れ、ただ呆然と佇む。
    なんとも言えぬ不快感が拭っても拭っても落ちない。

  • どこに落ち着くのか全く見通しができなくて、読了するまで不安でしようがなかった。そしてタバサが何を考えているのかも不安で仕方ない。ただ人は結局は一人で越し行かなければならないということなのだろうか?リカーシブルの必要性も薄かったかなぁ。

  • 最初から最後まで、状況がよくわからなかった。
    現実なのか夢なのか。
    彼女が接する人たちは存在するのか幻なのか。
    タバサは医療従事者として正しいのか悪なのか。
    何とも言えない読後感。

  • この本の中には確かに街があり、その世を隔てた小さな街の秩序に代々従いながら生き続ける人たちがいます。薬屋のタバサはその街で、街の人達や店を訪れる人達の生から死までを預かりますー
    そして代々引き継がれてゆく薬屋の仕事ー
    短命な薬屋の嫁達ー
    タバサの子を産み終えた「わたし」もまた、、、
    心地よい読後感ではないものの、不思議な世界への読書体験でした。

  •  一種の幻想小説とも言える、御伽噺めいたファンタジー小説。
     見知らぬ平穏な町に、いつのまにか暮らしている主人公。
     古びた小さな薬屋の、風変わりな店主に拾われ、住み込みで働くことに。
     主軸の二人の素性や来歴について、情報は小出しにされるも、詳しい経緯は明かされず。
     人物像も淡白にぼかしたまま、個性も出さないように書かれている。
     薬局の客たちとのやりとりを通じて、町の情景もぼんやりと描かれるものの、人々の言動はどこまでも謎めいており、それらは明確に収束されることなく、静かに世界が閉じていく。
     終始、現実との接点が曖昧で、若干のホラー風味も混じった、儚げな雰囲気に幻惑される。

  • 子どもを二人生んだ山崎由美という女性の視点から描かれる物語。

    由美は二人子どもを産み、一人は亡くし、もう一人を捨てて、この町にやってきた。
    何かに耐えられなくなったからだが、それが何かは読者にはわからない。

    店と家事の仕事をする代わりに、彼女は平山タバサを店主とする薬局に身を寄せる。
    薬屋として代々町の人々の生と死の現場尾立ち会ってきたという平山家。
    いったい彼は何者なのか。
    彼の処方する薬はどういうものなのか。
    そして、この町は、異界なのか。

    異界、とすれば、これは「高野聖」の男女反転ヴァージョンか?
    あるいは「砂の女」の?
    ただ、母性の問題が底に感じられるところは、そういった先行作品とは違っている。

    平山家に嫁いだ女性たちは、みないつの間にか、どこかからやってきた人ばかり。
    おまけに短命だ。
    由美もまたタバサの息子を産み、こういう平山家の女に列するのだが…。
    少年になった息子が彼女につきつける「約束」とは何か。

    ずっと平山家にいたという老女のマサヤさんも謎の存在のままだ。
    物語の序盤に、由美にかけた「ころんでしまうよ」という言葉は、果たして助言か、呪いか。

    何の構えもなく読んで、横っ面をひっぱたかれた。
    ホラーといってくれれば、そう思って読んだのに。

  • お願いだから男女の仲にならないでくれと願っていたが予感が的中してしまった。物語の雰囲気は好きな部類だが恋愛が絡むと心に不快なものが残る。

  • 夢と現実の間を行き来するような、不思議なトーンの小説。非現実的である一方、ファンタジーというには生々しく、それで結局何なの、というフラストレーションもないではないけど、独特の読後感が味わいどころか。

  • 始終、夢のなかにいるような、
    夢か現か定かでないような。

  • 生きている現実と0.5mmずれた世界をみているような空気感。
    産まれでるいのちと、死にゆく魂がふわふわと漂っていく。

    登場人物の一人一人が、幻なのか、実体があるのかわからなくなる。
    さらさらとした不穏な描写が文学の力を感じさせてくれた。

  • 表紙が綺麗なのでずっと気にかかっていた。
    思いのほかどんよりと、物語のなかに出てくる池のようなお話だった。
    解説のひとが書いていたけど、うん、たしかに不気味。
    でもなんというか夢中夢のような、、、
    湿気があるというのとなにか違う、独特の不気味さだな。
    読後のスッキリ感がなくてずっと心に残って、あれって、、、ってなるやつ。
    そういうのだいすき。
    でもたぶん、今の自分の心持ちがあまりそういうの欲してなくて、むしろ受け止めたくなくて、だからちょっと深いところまで沈まないで読んでしまったかも。

  • 2017年11月読了。

    この本をはじめに手にとったのは春と初夏のあいだで、小雨続きながら空が明るかったのを憶えている。たおやかでするするとしているのに、うっすらと澱のようなものが残る物語..。
    「過去のとうめいな鱗は、どこかで、何かに触れる」----その時は冒頭のあたりのみを読み、予感めいた言葉をしばらく胸に留めるままにしていたのだけど、
    あることをきっかけにはっとして、再び新しいこの文庫版をぐっと手にしました。

    薬屋の主人タバサ、亡くなった母ルリさん、町のみんなの不安を吸い込む老女マサヤ、そして主人公の山崎由実。
    みなどこか正体不明なところがあり、お話も、誰かが見てる輪郭の溶けた夢の中みたいな心地と、現実ぽさが混じりあう。人がもっている重さ、軽さを受けとめていきながら、連綿と何かが続いていくのを感じられ、そして時々こわいくらいに艷やかで生々しい。歌人である東さんのこの幽幻な筆致..自分の日常にまで忍びよってくるような、「書くこと」の凄みを感じます。

    ところで私、未だに自分の新姓がニックネームのようというか、姓のない名前だけの世界にいるような感じがしていて。そういう、自分の中のどこか「割り切れなさ」みたいなことのいくつかが、この物語と奇妙に交流しあっているようなところもあるのかも。性と姓、生における、様々なことを思いました。

  • 何も難しいことはない。描かれる人も、建物も、食べ物も、なにもかも、これまでに見てきたものの中からイメージできる。言葉だっていたって普通だし、わかる。なのに何故だろう。始終、「不思議」で「わからない」。淡々と進み、捉えどころがなく、続きが気になって、あっという間に読み進む。東直子さんの作品は初めて読んだけれど、これまでに読んだことがない、予想できない世界だった。小説はもし実写映画化するなら…と考えながら読み進める。タバサは長谷川博己さん、由実さんは伊藤歩さん、かな。

  • 何か『かもめ食堂』のような自分探し人情ほっこり話となぜか思って、すぐぼんやりとさぼる由実にいらつき、タバサと寝たところからえ?結局恋愛系なの?と評価が★2の勢いになったが、だんだんオカルトじみてきてラストで結構良い意味で置いて行かれました。

    ネット検索してみたけれどラストの解釈をされているものが見当たらなかったので、シミズ的解釈↓
    -----------------------------------
    【前提】
    ・由実は過去2人子供を産んでおり、1人は死亡、もう1人を残して逃げた
    ・逃げた先は行方不明者がよる町と呼ばれるところの薬屋
    ・この町は外に出なくても生活できる
    ・マサヤという老女だけど年齢不詳な幻のような女性はかつて薬屋に勤めていた
    ・薬屋の主人は代々身元不詳の女性と結婚して生まれた長男が薬屋を継ぐ
    ・タバサの薬を飲むと予定が立てられる(飲んだ当人も周囲の人も不安がなくなる)

    【以上を踏まえてラストを解釈】
    ・この町は運命共同体で『タバサ』他各々の立ち位置担当のものは常にいる
    →担当者自体は代替わりする
    →あくまで担当が同じなだけで同じ人ではない
    ・また代々やってくる身元不詳の女に類するものも常にいる
    →役目が終わると代替わりする(由実がマサヤの立ち位置になる)
    →そう考えるとマサヤがタバサの母とも言えるがそれはルリなので
     マサヤは先代タバサの後妻(ルリ死亡により代替わり)
    (※現タバサの先妻かもですが幼タバサと遊んだことを踏まえて)
    →池を埋めたのは由実が子を産む前にルリのように死ぬと
     また代替わり要員をまたないといけないため
    ・タバサの薬でスムーズに代替わりする
    ・日吉サイクル担当は息子がいるのでOK
    ・3人の老女(脇田・原田・山田)担当は、
     マサヤを追い出そうとした母親の娘2人(母親本人は町の外に引っ越す)と
     助産院で生まれた子供(母親は出産後逃亡)に代替わりすると推測
    →町の住民はそれを知っている(ので葬式をしない)
    -----------------------------------
    てな感じでどうかしら。

    作者の方はそこまで考えてないと思いますが、自分的にまあまあ納得できる解釈となります。

  • 夢の中を漂うような、さ迷うような気分にさせられるお話でした。
    まず、物語の舞台となる町がどこなのかわかりません。この世なのか、あの世なのか、はたまたこの世ではないどこか別の場所なのか。そこで暮らす人々も、現世とは異なるゆっくりと流れる時間の中で、半分眠っているように生きています。主人公の女性にしても、どこからどのようにしてこの町にたどり着いたのか、まったく有耶無耶で、本人自身にもわからない有様です。何かつらい過去があったようなのですが、それが何だったのかさえわかりません。
    なんだか恐ろしく、淀んだ雰囲気のお話なのですが、読み進むうちにどんどん惹きこまれ、まるで生と死、この世と異世界、時間と空間の狭間を揺蕩うような気分になってしまいます。だからといって不快ではなく、できればずっとこの物語の世界に浸っていたいと思うのは、歌人でもある作者の言葉の選び方が秀逸だからでしょうネッ。
    これは人間の生に関する、根深い部分を描いた物語だと思います。



    べそかきアルルカンの詩的日常
    http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
    べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
    http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
    べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
    http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2

  • 捉えどころのない感じでふわふわと読み進めていたが、最後一気に、え?えっ! ってなる。
    あれは一体なんだったんだろうと、ある意味後味が残る作品。

  • 何だか、病んでいる人の心の世界に入り込んだ気分。
    ずっと平らな印象で、何というか、全ての登場人物に感情がない感じ?
    タバサと山崎さんには愛を全く感じないし、妊娠した喜びや困惑も、淡々としすぎている。
    とても現実味のない話でした。
    パラレルワールドなのかも。

  • 読み終わりたくなかったのに。
    読み終わったら、迷子になってた。

  • 全てを捨てて知らない町の古びた薬屋に辿り着いた山崎由実。謎めいた店主の平山タバサと町の住人。孤独の本質を問う長編小説。
    例えれば小川洋子作品のような、不思議な世界観のお話。モヤモヤ感とふわふわ感が同居しながらも、チクッとした痛みを所々で与えてくる。

  • 全体的に靄のかかっているようなぼんやりした不気味さをまとっていて、よく分からない小説だった。

  • まぼろしのような、ずーっと夢のような、中身は最低限の具体物であとは全部抽象で描かれていて、だけど飲み込める。
    わたしはこういうお話が好きなほうなので、今後も胸に抱えて行きたいくらいですが、苦手な人は苦手かな。まあ、本はだいたいそういうものだけど。

    とにかく、気温の低い日とか、雨の日とか、そういう日に読みたい本です。静かで、低温で、横たわっているような。

  • 池、もしくは沼のような小説。ジャンルもミステリなのかファンタジなのか、はたまたホラーなのか判別不能。終始、謎めいた作品でした。
    あらすじ(背表紙より)
    平穏な時間。それ以外に欲しいものなんて何もない―。山崎由実はすべてを捨てて家を飛び出し、知らない町の古びた薬屋に辿り着いた。店主の平山タバサは、由実を薬局の手伝いと家事全般の担い手として住み込みで雇ってくれた。見ず知らずのわたしを、なぜ…。謎めいたタバサの本心はわからぬままだが、由実は次第に新しい生活に慣れてゆく。誰しもがもつ孤独をたおやかに包み込む長編小説。

  • 完全にタイトルと装丁買い。

    最初は私が誰で、タバサの性別もいまいちわからず…。
    なんだろう。少しずつ主人公の氏名がわかり、なんだかとらえどころのない、夢のような日々が描かれている。幻なのか現実なのか…境界線を行ったり来たりしているような感じ。

    そして、ラスト。
    これまでぼんやりゆっくり物語の時が流れていたのに、展開(?)が一気に早まったような気がして、ついていけずに終わってしまった。

    私とタバサの過ごした時間は夢だったのか、現実だったのか…。

  • タバサという名は、「奥様は魔女」というドラマに出てくる娘の役名(男なのに)を母がつけ、薬屋の看板までも変えてしまった、とエピソードを語るくだりが、冒頭ある。
    それを暗示するかのように、主人公の周辺で不穏で不気味な出来事が起こる。いつの間にか何処かへ連れて行かれてしまう不思議な読後感。

  • 特に最後、迷子になる

全33件中 1 - 30件を表示

著者プロフィール

歌人、作家。第7回歌壇賞、第31回坪田譲治文学賞(『いとの森の家』)を受賞。歌集に『春原さんのリコーダー』『青卵』、小説に『とりつくしま』『ひとっこひとり』、エッセイ集に『一緒に生きる』『レモン石鹼泡立てる』、歌書に『短歌の時間』『現代短歌版百人一首』、絵本に『わたしのマントはぼうしつき』(絵・町田尚子)などがある。「東京新聞」などの選歌欄担当。近刊にくどうれいんとの共著『水歌通信』がある。鳥好き。

「2023年 『朝、空が見えます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

東直子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×