ひみつの王国: 評伝 石井桃子 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 62
レビュー : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (718ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101210568

作品紹介・あらすじ

ノンちゃん雲に乗る、クマのプーさん、ピーター・ラビットなど作家・翻訳者・編集者として幾多の名作を世に送り出し、溢れる才能のすべてを「子ども時代の幸福」に捧げた101年の生涯。200時間に及ぶインタビューや書簡、綿密な取材をもとに、戦前戦中の活動や私生活にも迫る。子どもの本で人々を勇気づけ、児童文学の星座で強い光をはなつ石井桃子の稀有な人生を描いた、初の本格評伝。

感想・レビュー・書評

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  • 2020.8
    石井桃子さんの人生。激動。石井さんの歴史がこれでもかというほど書かれていた。石井さんが生前語らなかったことも深く掘って書かれており、なんだか石井さんに怒られそうだなと思いながらひたすら読む。この方がいなかったらどうなっていたのかと思うほど日本の児童文学の根っこを作ってきた人だか、それも一面。児童文学以外でも様々な人に出会い、縁に導かれ、道を切り開いてきている。印象的なのが「手紙をかく」ということで人と繋がり続けていること。何をしていても「物語」と「書く」っていうことはずっとあった。そこに信念があったのかもしれないと思う。死ぬまで。年齢は言い訳にならない。いくつになっても死ぬまで自分の物語は紡ぐことができるんだな。








  • 長大な作品だが、最後まで引き込まれた。
    石井桃子の、純粋にして苛烈な生き方が
    最大の魅力だが、
    菊池寛、犬養毅、吉野源三郎らの
    垣間見える横顔も厚みを添えている。

    「忠実なだけの聞き手」ではない、
    筆者の姿勢も好感が持てる。

  • この夏読んだ「働くわたし」の中にブックガイドがあって、そこで紹介されていた石井桃子、いや幼い日の記憶にある、いしいももこの評伝です。かなり厚めの文庫でしたが圧倒的な面白さ。ご本人の山荘のある軽井沢でのロングインタビューをベースに新聞記者ならでは取材力と推論の組み立て、要点を明確にする簡潔な文章で、「くまのプーさん」「小さなおうち」「ピーター・ラビット」などの翻訳、あるいは「ノンちゃん雲に乗る」などの著作で児童文学の巨大な最高峰である石井桃子の101年の人生を大きく描き出しています。「しゃべりすぎた」「聞きすぎた」「生きている間は書かないように」というように本人の中だけの箱をあける作業も含めて、頂きだけ仰ぎ見ると眩しすぎる桃子山の山麓の小道を調べ尽くしているし、本書にも描かれない場所もまだまだあるのだと思われます。その調査取材が秘密を明らかにする、というものではなく、そもそも石井桃子の著作により本が好きになるという原体験を得て、さらには読売新聞の女性記者のフロントランナーとして念願の文芸欄の担当になった著者の石井桃子への憧憬と共感があるからこその仕事になっています。本書の巻頭にも「大人になってからのあなたを支えるのは、子ども時代のあなたです」という石井桃子の言葉を掲げています。YouTubeに著者が本書によって2016年の日本記者クラブ賞を受賞した時の記念講演がアップされていて、尾崎真理子記者がいかに本書に向き合ってきたかが、本人の声で語られていてグッと来ます。本書で描かれる石井桃子山を登る道は、まずひとつ、大正から昭和へかけての出版文化の流れ、文藝春秋や岩波書店での編集者としての仕事によって石井桃子が石井桃子になる下地としての道です。ふたつめは、同時代の働く女子との絆、これは作家として一生のエンジンになるものだったのかもしれません。これはウィラ・ギャザー、エリナー・ファージョン、ビアトリクス・ポターなどの海外の女性の仕事からのインスパイアも含まれるかもしれません。みっつめは、生涯独身だった彼女の恋です。ここに「ノンちゃん雲に乗る」誕生の秘密が隠されています。よっつめは、戦前の仕事と戦後の仕事の境目の「ノンちゃん牧場」のこと。石井桃子がもっとも触れられたくなかった時代です。しかし出版界や作家の世界が戦争責任をあいまいにしたのに比しての真面目さ、と生活することの大変さ、を正面から受け止めた証です。いつつめが、「幻の朱い実」(知らなかった!)という児童文学を超えた仕事について、です。本当は作家になりたかった、という憶測を超えて、自分の中にある「私というファンタジー」に向けて書かれた、というこの作家の本質を見出します。本書は文庫版でしたが単行本版も含めて表紙に使われているのはヘンリー・ダーガー。現在、東京芸術大学美術館で展覧会が行われているアール・ブリュット、アウトサイダー・アートが有名になるきっかけの人ですが、石井桃子も、子どもに向けているだけでなく、自分の内側への語り掛けが、作品なのだ、というこれも尾崎記者ならではのすごいボールだと思いました。とにかく満喫、すごい本ありがとうございました!

  • 子どものために児童書を購入したり、最近では出版不況でも児童書が伸びているとのことで、自分が子どもの頃に読んだ数々の本の訳者の自伝として読んだ。
    分厚く、少し読むと難しい、昔の話でイメージできそうかなと思ったが、案外サクサク読めた。自分にない価値観を得られた。

  • 長大で、濃く、
    実直であられる新聞記者である著者の
    引用、インタビューの書きおこし、手紙、説明、想像がわけられた記載ゆえ、ひと筋縄ではいかない。

    お名前を見るだけでうれしくなってしまう、安心の石井桃子さんが生きた大正から平成の乱世。
    戦争をはさんだあの時代に女性ながら働き、翻訳をなさり、百歳まで生きたその道筋。
    あのやさしいことばづかいを、守り抜いた精神。強さ。

    くまのプーさんの最初の読者だった、犬養道子さんの「石井さんという人は、もっともっと面白い人だったのよ」ということばが残っている。

  • 石井桃子といえば、私にとっては『くまのプーさん』の本に載っている名前という印象。そういえば『ちいさいおうち』にもその名前が載っていたかなあという印象。「ももこ」という響きから何の根拠もなくおっとりとした人物を想像していたけど、実像はむしろ頑なな人だったよう。
    戦前から児童文学の世界では名を上げつつあり、それだけに戦時中は国策に協力するようなこともあったようだが、そのときの反省がその後のひとつの原動力になったのだろうと思う。その一方で、戦後は東北に移り仲間と開墾に励むなど、児童文学にとどまらず新しいことに臆せず飛び込むような感じもある。それはある意味、独立した人間ならではの勝手さのようなところも感じられ、詰まるところ石井桃子ってそういう人物なのかなという感じでシンパシーを感じた。どこか恋愛とか家庭とか家族とかは二の次の浮世ばなれした人物ということ。
    子どもたちを思っていろいろ取り組んだのも真実だろうけど、究極のところではこの書題が指すように、自分のなかの子ども対して素敵なお話を提供するために生きたのだろうなという感じが後半生を読むごとに強くなった。

  • 面白かった。とても読み応えのある一冊。
    石井桃子の評伝としてはもちろん、戦前〜戦後の女性史、出版史、児童文学史にとっても貴重な本だと思う。

  • 石井桃子の百一年は「日本・児童・文学」の百年だった。
    捧げつづける人生だった。
    ---
    「大人になってからのあなたを支えるのは、子ども時代のあなたです」

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著者プロフィール

1959年宮崎県生まれ。1990年初頭から読売新聞記者として、大江健三郎氏へのインタビューや評論執筆を続ける。『大江健三郎 作家自身を語る』(2007年)の聞き手、構成を務めた。著書に『現代日本の小説』、『ひみつの王国 評伝石井桃子』(芸術選奨文部科学大臣賞、新田次郎文学賞)、『詩人なんて呼ばれて』(谷川俊太郎氏との共著)など。2016年度日本記者クラブ賞受賞。

「2020年 『大江健三郎全小説全解説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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