薬指の標本 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 9910
感想 : 1187
  • Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215211

作品紹介・あらすじ

楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡…。人々が思い出の品々を持ち込む「標本室」で働いているわたしは、ある日標本技術士に素敵な靴をプレゼントされた。「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりで、そしてわたしは…。奇妙な、そしてあまりにもひそやかなふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇。

感想・レビュー・書評

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  • 瞬間のインスピレーションでお答えください。
    『標本』
    この二文字の漢字を見て、今のあなたの頭に思い浮かんだものはなんでしょうか?

    生きていたまさにその姿のままピンで刺され時を止めてしまったかのような昆虫、プレパラートの上に閉じ込められたミクロの世界にも命があることを示す微生物、そして空気の届かないホルマリンの中に生きていた姿を永遠に残す動物。あなたの頭の中に浮かぶのは、そんな風にあなたの心をかつて射抜いた標本たちの姿なのではないでしょうか。記憶に香りはありません。しかし、『標本』という言葉を聞いただけで、そこにはどこかツンとした匂いが漂ってくるようにも感じられるからとても不思議です。あらゆる生命には寿命というものがあります。そしてその寿命を終えればその生物はこの世から痕跡を消します。すべての生物は長い時間の流れの中で一瞬だけ、この世に姿形を現すことを許された存在だからです。そんな一瞬の煌きが、ピンの先に、プレパラートの上に、そしてホルマリンの中に閉じ込められることで、永遠に姿形を残し続ける、本来出会えなかった瞳の前にその姿形を晒し続けることになる標本たち。そんな標本たちと、他の標本にならなかったものたちとの間にはどのような違いがあったのでしょうか。

    さて、ここにそんな標本を作製する場で事務員として働き始めた一人の女性の物語があります。標本とは無縁の人生を送ってきた女性。そんな女性は標本を身近にする日々の中でその標本に何を感じ、何を思うのでしょうか?

    『わたしがこの標本室に勤めるようになってから、もうすぐ一年になる。前にやっていた仕事とはずいぶん趣が違うので、初めの頃は戸惑ったが、今ではすっかり慣れてしまった』という主人公の『わたし』。『むしろ単純すぎるくらいだ。だが退屈はしない』というその仕事。『ここで働いているのは、わたしと、経営者であり標本技術師でもある弟子丸氏の、二人だけだ』というその職場では『わたしと弟子丸氏の役割は明確に分かれて』いました。『彼は技術師として標本の作製全般を受け持ち、わたしは来訪者の応対と記録簿の整理、その他諸々の雑用を任されている』という二人の分担。『仕事の仕組みを教えてくれたのは弟子丸氏だった』という彼は『予約表の作り方、品物を受け取る時の注意点』等こまごましたルールを『わたし』に教えてくれました。そして『ここには、命令も強制も規則もスローガンも当番も朝礼もない』というその『標本室をとても気に入っている。できることならいつまでも、ここにいたいと思っている』『わたし』。そんな『わたし』は『標本室に来る前、わたしは海に近い田舎の村で、清涼飲料水を作る工場に勤めていた』という過去を持ちます。『果樹園に囲まれていた』というその工場で『そこで採れるみかんやライムやぶどうを原料にして、ジュースを作ってい』た日々。『毎日が、サイダーの甘い香りに包まれていた』という『わたし』。そんなある夏のことでした。『サイダーを溜めたタンクとベルトコンベヤーの接続部分に、指を挟まれてしまった』という緊急事態。『安全装置が作動し、機械が静止』したその時『少しも痛くなかった』という『わたし』。しかし『ふと気がつくと、吹き出した血がタンクの中に流れ込み、サイダーを桃色に染めていた』という目の前の光景。『幸運なことにけがは大したことはなかった』ものの『左手の薬指の先の肉片が、ほんのわずか欠けた』という『わたし』。『薬指の肉片はどこへ消えてしまったのだろうという疑問』が消えない『わたし』は、『サイダーが飲めなくなり、工場もやめてしまった』というその後。そして街中で『標本室と出会った』という運命。『煉瓦の門柱』には『事務員を求む 標本作製のお手伝いをしていただける方…』という貼り紙。『呼び鈴の白いボタンを押し』て標本室を訪ねた『わたし』。『標本室』での弟子丸氏との出会い、そして標本たちと共に過ごす日々の中で次第にその世界に囚われていく『わたし』のそれからが描かれていきます。

    「薬指の標本」という一度聞いたらしばらく頭から離れなくなりそうな強烈な書名のこの作品。『標本』という言葉から受ける独特の空気感の前に『薬指』がつくことで、何かざらざらとした遠ざけたくなるような感覚が襲ってきます。主人公の『わたし』が勤めることになった『標本室』は宣伝しているわけでもないのに『本当に標本を必要としている人たちは、目をつぶっていてもここへたどり着けるのです』というどこかファンタジーを思わせるかのような怪しげな雰囲気漂う『標本室』。そんな標本室の雰囲気を感じ取れるものの一つが繰り返し表現される”靴の音”です。『彼は机の脚を靴のかかとでコツコツ叩きながら』、『ヒールのコツコツという音が、浴室中に響いた』、そして『ただその靴音だけが、コツ、コツ、コツ、って規則正しく、真っすぐに響いてた』というこの乾き切った音の表現。そして、もう一つが弟子丸氏と『わたし』が時を過ごすことになる浴室です。浴室と言えば普通には水分に満ち溢れれて湿ったイメージが思い浮かびますが、この作品に登場する浴室は、今はもう使われなくなったことから『ただ、すっかり乾燥し、白っぽく粉をふいているようにさえ見える浴槽』というように、乾ききったその世界を強く演出します。『今ではすべてが乾ききっている。一粒残らず水滴も泡も消えてしまった』というその乾いた世界。生物に水分は欠かせません。そんな水分を欠く世界は自然と死を意識させます。乾き切った死の世界。その描写が今はもう命を失った標本たちとも重なり合い、読者に喉の渇き感さえ感じさせるなんとも言えない描写が続きます。そして、読者がこのような標本室から出たい、離れたい、そんな風に感じられもする世界に、何故かどんどん近づいていってしまう、どんどん引き込まれていってしまう主人公の『わたし』。そんな『わたし』は一体何を思い標本室に囚われていくのでしょうか?

    『標本にしてもらうと、とっても楽になれる』、標本室を訪れる人たちはその楽になれる感情を求めてその場所を訪れます。一方で、標本室の事務員として働く主人公の『わたし』は、清涼飲料水の工場での事故により『左手の薬指の先』を欠いてしまいました。『日常生活には何の不便もなかった』ものの『桜貝の断面のような形に欠けていた』というその指のことを気にする『わたし』。そもそも『左手の薬指』というと”永遠の愛、愛や絆を深める”という意味合いを持つ結婚指輪や婚約指輪をはめる指というイメージがあります。そんな大切な指にダメージを受けた『わたし』。この作品では色々なものを抽象的な例えで表現している箇所が多いと思います。そんな中でも象徴的なものが弟子丸氏からプレゼントされた『黒い革靴』だと思います。『こんな高価な靴を、どうしてわたしに?』とプレゼントされたその靴。『わたし』の足にすっかり馴染んだその靴は『両足に透き間なく吸いついてくるように感じる』という位に『わたし』にフィットしています。それを『彼に足だけをきつく抱き締められているような気分だった』と表現する『わたし』。そんな思いはやがて、『自由になんてなりたくないんです。この靴をはいたまま、標本室で、彼に封じ込められていたいんです』という言葉が出るほどに募っていきます。そして、”永遠の愛”を象徴する薬指にダメージを受けた『わたし』は、『何を標本にしたいか、よく考えてみるんだ』という弟子丸氏からの問いに、『一番、痛い思いをした』薬指のことをあげます。”永遠の愛”に『標本』を捧げるような意味合いが見えてくるその展開。他の指ではなく、敢えて『薬指』としたからこそ浮かび上がる一つの答えを感じさせる物語。それは、乾き切った世界の中に、血という水分を思い起こさせる欠けた『薬指』という対比も相まって何とも言えない結末の余韻に繋がっていく、そのように感じました。

    「薬指の標本」、それは乾ききった死の世界をイメージさせる標本室の中で、静かに育まれていく歪んだ愛の世界を見る物語。そんな物語に流れる現実と非現実の曖昧模糊とした空気感、それは、独特な浮遊感のある読書の時間を私に与えてくれました。ふわっとした、はっきりしない結末に、そんな浮遊感がいつまでも私の中に残り続ける、とても印象深い作品でした。

  • 僕にとっては、この本は純文学の最高峰です。
    文章によって描かれる芸術。
    『愛』とはなにかを文章にしたらこうなるのではないでしょうか。

    もちろん、誰が読んでも『最高』かと言われれば、もちろんそれは違うでしょう。
    だって、どんな美術作品でも「素晴らしい」と思う人もいれば「全く意味が分からない」と思う人もいるのは当然です。

    僕もそれはそれで良いと思います。
    芸術家も万人受けする芸術作品を創ろうとは思っていないでしょうし、そんなことを狙って作品を創る人は、『芸術家』とは呼ばれてもいないでしょうから。
    この文章が刺さるか、刺さらないかは、読む人それぞれによって違うと思います。
    そして若いときにはまったく分からなかったものが、年を経たことによって分かるようになることもありますし、恋愛をして、辛い失恋をしたからこそ分かるというものもあるかもしれません。

    本書は『薬指の標本』『六角形の小部屋』の2篇が登載された中編小説集。いずれの物語も約100ページの物語なのですぐに読み切ってしまうことができます。
    短い物語ですが、読後の僕の心には、非常に大きなものが残りました。

    第一遍の『薬指の標本』の主人公の「私」は21歳の若い女性。
    相手の男性・弟子丸氏は標本技術士・・・・・・という職業と言ってしまってよいのかよく分かりませんが、あらゆるものを標本にすることができる人です。
    「私」と弟子丸氏はたった二人でキノコや小鳥の骨や楽譜に織り込まれた音楽そのものなど、あらゆる物を標本にする仕事をしています。
    弟子丸氏は標本を作り、「私」は事務仕事をしています。

    ある時「私」は弟子丸氏から素敵な靴をプレゼントされ、弟子丸氏から「いつも僕といるときはこの靴を履いて欲しい」とお願いされるのです。

    この小説はあくまでも「私」の視点から描かれ、弟子丸氏の心の内はまったく分かりません。弟子丸氏は「私」のことを愛してくれているのか。
    それとも弟子丸氏にとって「私」はただの『標本』にしか過ぎないのか・・・。
    古びて今はその機能をまったく有していない大浴場で行われる、勤務後に二人でひっそりと行う逢瀬は、エロティックともミステリアスとも言える、不思議な行為が行われます。
    「私」はそんな弟子丸氏に途方もなく惹かれていくのです。

    小川洋子さんが紡ぎ出す文章には、『愛』や『恋』という直接的な表現はほとんど出てきません。しかし、行間からあふれ出す「私」の心情は読者の心にこれでもかというくらい激しく打ちつけてきます。

    弟子丸氏が決して他人を中に入れなかった標本室を「私」がノックするというラストシーンは、読む人によって千差万別の解釈があると思います。

    このラストシーンには非常に感動しました。
    若い「私」にとっての『愛』とは、心も体も、そしてその精神ですら、愛した相手に物理的に取り込まれてしまうということが『愛』だったのではないでしょうか。
    そこには「良い・悪い」はありませんし、「他人からどう思われる」とか「世間体がどう」とか「将来はどうなるの」とか、そういう世俗的なものは全て超越してしまって、「私」は純粋に『愛』だけに身を捧げてしまうのです。


    そしてもう一つの物語『六角形の小部屋』
    こちらの作品も、不思議な雰囲気でした。
    大学病院で事務仕事をしている主人公の「私」が出会うのはある建物に設置された『六角形の小部屋』、その中では人は自分の言いたいことを一人で言うことができます。

    その『六角形の小部屋』には多くの人が訪れ、誰もがその中に一人で入り、短ければ数分、長い人なら30分以上、その中で独白します。
    誰もその中でどんなことを話すのかは知りませんし、誰もその内容を聞いていません。
    「私」は、その中で何を話すのでしょうか。

    今の「私」は婚約までしていた医師の男性と別れたばかりです。
    しかも、「私」が一方的に相手を振ってしまったのです。
    そのことについてわだかまりを持っている「私」はその『六角形の小部屋』の中である秘密を話すことになります・・・。



    今、僕は世俗にまみれて暮らしていますし、それなりの年齢に達したので『恋』だの『愛』だのに全身全霊をかけることができるかと言えば、ちょっと難しいかなとも思っています。
    しかし、ではそれを全て捨てて、世俗だけに集中してしまえばよいかと言えば、それはそれでまた寂しいとも感じています。

    こういった小川洋子さんの描く美しい『愛』を描いた小説を読むことで、自分の出来なかった、あるいは、自分の心の奥底では求めているであろう『愛』の形、理想の形である『愛する』ということを、こういった文章を自分の心の中に染み込ませることによって、ある意味においてはそれを実現させているということも言えるのです。

    僕にとって、このような経験を与えてくれる作家さんは多くはいません。
    そのような作家さんに出会えたことは僕には奇跡のような体験です。

    そして、この本も僕の心の一番深いところにある書棚の中にそっとしまっておきたい本の一冊になったのです。

    • kazzu008さん
      fukuさん、こんにちは。
      おすすめの本書を読ませていただきました。
      小川洋子さんの小説はまだ3冊目ですが、どれも素晴らしいですね。
      ...
      fukuさん、こんにちは。
      おすすめの本書を読ませていただきました。
      小川洋子さんの小説はまだ3冊目ですが、どれも素晴らしいですね。
      前回読んだ『博士の愛した数式』も『密やかな結晶』も良かったですが、本書にも衝撃を受けました。
      小川洋子さんの描くこの不思議な雰囲気はもうくせになりますね。もっと小川洋子さんの作品を読みたくなりました。
      素敵なコメントありがとうございました。
      2019/10/24
    • 地球っこさん
      kazzu008さん、おはようございます。
      とても心が熱くなる素敵なレビューですね!
      私も小川洋子さん、大好きです。
      「薬指の標本」も...
      kazzu008さん、おはようございます。
      とても心が熱くなる素敵なレビューですね!
      私も小川洋子さん、大好きです。
      「薬指の標本」も印象深い作品でした。
      全ての小川作品を読んだわけではないのですが、私にとって今のところ一番大好きな作品は「余白の愛」です。もしまた機会がありましたら、お手に取ってみてくださいね。
      最近、ご無沙汰だった小川洋子さんでしたが、kazzu008さんのレビューを読ませていただいて、また小川ワールドに浸りたくなってきました。ありがとうございます♪
      2019/10/26
    • kazzu008さん
      地球っこさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます。
      小川洋子さんの作品、すごく良いですよね。
      僕もまだ3作目ですので、まだまだ...
      地球っこさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます。
      小川洋子さんの作品、すごく良いですよね。
      僕もまだ3作目ですので、まだまだ初心者ですが、もうすっかりファンになってしまいました。
      『余白の愛』ですか、知りませんでした。ぜひ今度読んでみようと思います。
      ありがとうございました!
      2019/10/27
  • 官能小説とは
    安っぽいエロ小説を指すのではなく、
    本来こういった
    行間の隙間から滲み出る、
    甘美でいて静謐な
    抑制された文体で書かれた作品にこそ相応しい呼び名ではないのか?
    (小川さんがそれを望むかどうかは別として笑)

    直接的なエロ描写を描かずとも
    エロチックで官能的な表現は可能なんだということを
    自分は小川さんの小説から知りました。


    なぁ~んてことを大真面目に語りたくなるくらい
    この人の文章は読んでると
    いつまでも浸っていたくなるし、
    妙にドキドキさせてくれるんですよね~(笑)


    サイダーを桃色に染める薬指の肉片。
    背徳の香り漂う、浴場での甘い囁きと秘密の逢瀬。
    白い麻のワンピースと黒い革靴のコントラスト。
    足を侵食し始める奇妙な革靴。
    気持ちを抑えるための小さなため息。
    机の上でゆっくりと溶けていくピーナッツチョコレート。


    本作はニ編からなる短編集だけど、
    とにかく表題作『薬指の標本』
    の耽美な世界観に魅せられましたよ(。>A<。)

    どこか幻想的で淫靡な匂いを放ちながらも
    小川さんの真骨頂である
    知性や品性を損なわない美しい文体に
    わずか90ページの短編ながら
    十二分に酔いしれることができます。


    忘れたい思い出の品を標本にする仕事に就いた主人公の女性が堕ちていく
    もどかしくも官能的な日々。

    標本室に依頼人が持ち込む物は様々で、
    火事で家族を亡くした少女は
    焼け跡で見つけたというキノコを、
    ある女性は恋人が誕生日にくれた楽譜に書かれた音を、
    青年はビーカーに入った精液を。
    老人は飼っていた文鳥の骨を。


    やがて標本技士の男に淡い恋心を抱く主人公。

    縛り付け支配したい男と
    その男に縛られ絡めとられたい女。

    束縛という甘い果実に囚われ
    嫉妬心と独占欲にがんじがらめになる女性が
    あわれでもあり痛々しくもあり、
    彼女が最後に選んだ狂気の結末に背筋が凍りつきます。


    ある意味下手なホラー映画より
    コワい話だけど、
    とにかく視覚や聴覚を刺激する
    慎み深い文体が読むことを止めさせてくれないし、
    ラスト10行の美しさは圧巻の一言。
    (残酷で痛々しいハズのサイダーの中を落ちていく指の描写がまた何故だか美し過ぎて、読後しばらく頭から離れません)


    フランスでほぼ原作に忠実に
    この世界観が映画化されたとのことなので
    そちらも観てみたいなぁ~(^^)

    • 橘さん
      円さんこんにちは。

      わたし、小説で一番好きなのがこの、小川洋子さんの「薬指の標本」なのです。
      直接的な表現はなくても、とても危ういと...
      円さんこんにちは。

      わたし、小説で一番好きなのがこの、小川洋子さんの「薬指の標本」なのです。
      直接的な表現はなくても、とても危ういところが狂気的で、うっとりしてしまいます。

      映画も観ましたよ。
      DVDを買ってしまいました。
      映画ではモチーフが変えられてたり、加わった設定があったりするのですが、源作の空気は損なわれていませんでした。
      とても素敵だったので、読み友さんたちに貸しまくりましたが、皆さん良かったと言ってくださったので、円さんも機会がありましたらぜひ!
      2018/02/10
  • 小川さんの独特な世界観を読んだ。官能的、空想的、現実的な部分の境界性が滲んでいるようで、この不思議な世界は女性の心を鷲掴みにするのだろうか?一話目、ちょっとした事故で自分の薬指が欠けた。それを標本にすることで、標本を作製する男性に我が身を預けたい、愛されたいと願う私、しかも強引に。二話目、自分の婚約相手は医師で優しいが優しすぎるので全く刺激がない。女性としては、強引に、若干の危険性を持つ男性から愛されたいと願うのだろうか?女性の心情に含まれる危険でエキセントリックでエロティックな一面が見えた気がした。

    ps
    真面目、優しいだけでは物足りない。男性の魅力とは何か?についてちょっと知った気がします。男性も女性に対して刺激的なふるまいって重要なのかな?自分は失格のような。。。

  • 「薬指の標本」 小川洋子(著)

    平成10年1月1日文庫発行 (株)新潮社
    令和2年2月25日29刷

    「薬指の標本」「六角形の小部屋」の2篇からなる短編集。

    twitterで何度か目にして印象に残り手にしました。

    人の内側や世界の外側を思わせる世界観は
    村田沙耶香に繋がっている感じ。

    ビビットで刺激的な色合いの村田沙耶香

    淡く暖かい色合いの小川洋子。

    しばらく小川洋子作品を読んでみよう。

    やはり文庫本の巻末解説は面白い。


  • 喪失したからこそ永遠に忘れられないものがある。それは、繰り返し思い出し、懐かしむものではなく、心の奥底に封じ込め、分離し、完結させるもの。人はそれを「標本」にする。

    存在したものが消えてなくなること。
    それは万物の理とでもいうのかな。
    けれどこの作品で、「ある」ものと「ない」もの、その両方が不安定な均衡で一緒に存在することに気づかされた。
    消滅したはずのものが「標本」を通じて、そこにあること。とても神秘的でありながら、あまりにも当然のことのようにも思えるのだ。

    彼の手のなかで揺らめく「わたし」の一部。ひそやかに恍惚に。「わたし」はそこにある。

  • 静かな世界の中に静かさの中にある理解出来るような出来ないようなまっすぐな純粋さと熱に寒気がする話。狂気というようなことでもなく淡々と話が進んでいく。言葉では表せないのにこの小説の世界にはまってしまう。

  • 小川洋子さんの本を読むのは「博士の愛した数式」に引き続き、2冊目です。

    本作は表題にもある「薬指の標本」と「六角形の小部屋」の短編二編で構成されています。

    私は完全に「薬指の標本」という題名に吸い込まれて手に取ったタイプの人間なのですが、六角形の部屋もミステリアスでファンタジックな雰囲気が「薬指の標本」と共通していて、どちらもとても好きな物語でした。

    特に私は小川洋子さんの書く文体が堪らなく好みで、「お米や赤ピーマンや海老やムール貝が空中で花火のように弾け」るだとか、情景がぱっと色も鮮やかに浮き立つような感じが読んでいて心地いいです。

    現実世界を描いている筈なのに、どこかファンタジックな色に溢れていて、ふわっと甘いのに最後にすっと消えていく綿あめのような不思議な感覚は小川さんならでは、という感じがします。

    同著者の別作品「博士の愛した数式」は人と人のゆるやかなつながりを描いた感動物語、という感じですが、こちらはどちらかというと「人と人とを結ぶ不思議な空間」を舞台にしている感じがあります。標本室にしろ小部屋にしろ、その舞台装置があってはじめて、人がつながる物語、といえばイメージしやすいでしょうか。

    ときどき取り出して、また読みたくなるようなお話です。

  • サイダーとか浴場の蝶とか火傷とか・・・
    儚くてきれいで、痛々しいモチーフが多い。穏やかで優しい、やわらかい雰囲気。
    かなり好きだな。

    弟子丸氏のゆるやかな支配がたまらん・・・!
    (靴は「支配」を表しているのかな)
    活字を拾わせるところとか「!?!?」ってなった。


    「この標本室と出会える人間は限られているけど、本当は誰でも、標本を求めているものなんだ」

  • 静かで澄んだ空気の中に、緊迫した空気を感じる、不思議な物語。
    危なくて、なまめかしくて、美しい。

    もうひとつの「六角形の小部屋」では、人の心のとりとめのなさを感じた。
    きっと、誰の心の中にもカタリコベヤがあって、語りつくせない言葉たちが静かに封印されているのだろう。

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著者プロフィール

1943年 鹿児島県生まれ
1974年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位
取得退学

主な訳書
テオプラストス『植物誌1』(京都大学学術出版会)
フィンレイ編著『西洋古代の奴隷制』(共訳、東京大学
出版会)
クラウト編著『ロンドン歴史地図』(共訳、東京書籍)
ストライスグス『ギリシア』(国土社)

「2015年 『植物誌2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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