薬指の標本 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 7870
レビュー : 1096
  • Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215211

感想・レビュー・書評

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  • 不思議な読了感。謎が残ったままでもどかしいけれど、だからこそ物語が自分の中でずっと生き続けるのではないかと思う。

  • 浮世離れした物語なので、そんなに深くこころに刺さるところも無いけど、情景描写がきれいだった。

  • たまには小説でもと思い 買ったまま放置していたのから1冊読みました。
    小川洋子さんの小説の透明感がやっぱり好きです。生々しいのに生々しくない。すごく静かですこし寂しい感じ。不思議です。
    でもなんとなく思ってたかんじと違うなとおもったら、20年近く前の作品だったんですね。最近の作品しか読んだことがなかったのでびっくり。

  • 表題作『薬指の標本』は、そのタイトルからして、何やら背徳的な匂いが漂う。そして、小説は、やはり期待(?)に違わず、その細部に至るまでが、淫靡な美意識に満ちていた。そもそも、ここでは物語の全体が、隠喩として機能しており、それはまさしく「標本」そのものを指し示しているのにほかならない。語り手である「わたし」は、しだいに標本技術師の弟子丸のフェティッシュに捉えられてゆくが、やがて2人のフェティッシュが共振した時、読者である私たちは、小さな戦慄に震えるのである。『六角形の小部屋』は、安倍公房風のシュールな味わい。

  • 暗く湿った雨の日に
    ずぶずぶと人知れず呑み込まれていく…
    そして静かに、標本として永い永い眠りにつく。

    そんな感覚に陥る一冊でした。

    奇妙で不可思議で、そして静かに蠢く底なしの欲望。
    こんなにも何かに(誰かに?)執着できるのはある意味
    幸せなことなのかもしれない。

  • 小川作品と初めて会ったのがこちらの薬指の標本で、ここからどんどん小川ワールドにはまっていきました。

    狂気と甘美な美しさが同居している作品です。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「狂気と甘美な美しさ」
      小川洋子は色々な顔を持っているけど。秘めた狂気に絡め獲られてしまいました。。。
      「狂気と甘美な美しさ」
      小川洋子は色々な顔を持っているけど。秘めた狂気に絡め獲られてしまいました。。。
      2013/08/02
  • 物語自体が標本箱の中に入ってるような閉じ込められた世界感と流れてくる張り詰めたような空気が好き。

  • 法学部だった学生の頃、刑事訴訟法のヤストミ先生がいうことには「いいか、不在証明(アリバイの立証)ってのはすごく難しいんだよ。ある時間に自分がそこにいなかったことを証明しなくちゃいけない。それはつまり、<そこにいた>可能性を<すべて>否定するか、あるいは<そこではない別のところにいた>という、他の場所における存在を証明しないといけないってことなんだ。つまり非存在を証明するためカウンターとしてとりうる手段は、可能性の100%の否定がありえない以上、別に存在していたことを証明することしかないということになる。な、面白い論理矛盾だろ?非存在は存在でしか証明できないってことなんだよ」

    長い思い出話しつれい。なにがいいたかったかというと、小川洋子の「薬指の標本」を読んで一番感じたのは「非存在の証明ないしは強調」だったから。主人公の女性は事故で薬指の一部を「失い」、弟子丸さんに送られた「靴」のせいで自我も喪失しかけているのだ。彼女の関わる訪問者たちも、それぞれ失ったものを封印する(自分の心から「失う」)ために標本室を訪れる。焼け跡から生えたきのこは家族の「不存在」を封じ込めるために標本にされ、楽譜を持ってきた女性は、失った恋人の思い出を封じ込めるために音楽を標本にする。そしてそれらの標本は、基本的には二度と省みられることはない。そこにも来訪という行為を「失う」人々が描かれ、また出会いと別れを余儀なく強いられる続ける主人公の「出会いの喪失」が描かれる。よくもまぁ、といささか食傷気味になるほどに、喪失のオンパレードだ。

    ちなみに今回、タイトルになっていない「六角形の小部屋」の方によりあたしは、小川洋子のたくらみというか女性特有の粘っこさを感じた。まず、「薬指~」で主人公が欠損しているものは薬指の一部と言う比較的分かりやすい部位であり、エンディングが、世間一般の理解とはかけ離れこそすれ、当人の満足にフォーカスされている。彼女は薬指の欠損と引き換えに「充たされる」ことが最後の最後で暗示されている。ところが六角部屋のほうは、一見穏やかに見える主人公が実は、婚約直前の男性に対して憎しみを抱き始めてしまっていうという穏やかでない告白で急転換する。彼女は逆に、「恋人」を得ることで「憎しみ」を発芽させ苦しむのである。しかもついに彼と別れた彼女にすがる男の姿は、非常に惨めに描かれる。まるで喪失を認めない方をせせら笑うかのように。

    <引用>
    わざとらしくあわてたふうに、彼はコートのポケットから何か小さな袋を取り出した。「これを返さなきゃと思ったんだ。<中略>」
    かれはとても大事な品物を扱うようにその袋を両手で包んだ。
    それは化粧ポーチだった。確かに彼の部屋に置いていたものだ。ずいぶん昔、化粧品会社の景品でもらった安物で、花柄模様は色あせ、ファスナーのところがほつれている。
    <中略>
    頬と鼻の頭が赤くなっていた。一ヶ月前と比べて美知男はどこも変わっていなかった。短く刈り上げた髪も、緊張すると繰り返しまばたきする癖も、衿の大きな時代遅れのコートもそのままだった。
    <引用終わり>

    失うことのできない男女に作者が渡す引導は、予想通りの冷徹なものだ。男には女との別離を、女には安心の小部屋との別離を。

    主人公が彼に対して幻滅を感じるのが、婚約発表予定パーティーで、うっかり男性が転んでパエリヤをぶちまけ、そこに倒れこむことをきっかけにするのがまた、底意地悪い。いったん作るとわかるがパエリアは、生米からいため、サフランを使い、シーフードを大量に使うなどなかなか手間のかかる高額なお料理なのだ。しかもサフランの黄色、えびの赤、パプリカのオレンジやグリーン、ムール貝の紫(黒)などの色とりどりの、楽しいパーティー料理でもある。そこに医者のポケベルを油まみれに突っ込む小川洋子の悪意。ポケベルは主人公が、医者である彼を奪われるシンボルとして配置されているからなおさらだ。カラフルに彩られた別離と悪意。不愉快極まりない食べ物への冒涜。


    小川洋子さんの物語にあたる際には自分がかなり健康であるときを選ぶ、あるいはかなり警戒して読み進むべしと思っている。彼女の文章はいつも淡々としていて繊細なのに、その後ろに割と底意地の悪いカタマリがあって、ときどきあたしはそれにけつまずくからだ。明らかに作者がそこに故意で置いたのが見え見えなのでちょっと怖い。悪意のカタマリにつまずいて転んで、振り返ったときに作者の冷笑に出会うとややへこむ。わかっているのにやっぱりあんたかよ、そんな感じに。

    今回ももちろん、その寒々とした冷笑は健在。(健康に在る、というこの漢字が似合わないこと!!!)ただし最後の最後にどんとなげてあるだけなので、転ぶことはあんまりないとは思うけれど。でもさー、この文庫版、作者の顔写真が掲載されているんですよ。女性の目から見ても彼女は、色白の結構かわいい線の細そうな女性に見えるのね。少し微笑んでいて。でも正直、読後にこの写真を見たら逆にこわくなっちゃった。ほれ、彼女がそこに「存在」している前後、レンズに写っていない(レンズ内に非存在しているところ、とでもいいましょうかね)ところでは、どんな性格悪いオンナなんだろかね、なんて、つい思っちゃうわけなんですよね、もう。

  • 女性心理として恋愛の形としてあるのかもと・・・。どんな形の中にも人を好きになる感情は存在している。

  • 読むと止まらないけれど、たまに先を読むのが不安になるような、背筋がぞっとする感じがする。
    綺麗な文章なのだけど、綺麗だからこそかな。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「背筋がぞっとする感じが」
      ぞっぞーーーって、ゆっくり伝わってきます。
      小川洋子が描く世界のイメージに遣られましたヨ。
      「背筋がぞっとする感じが」
      ぞっぞーーーって、ゆっくり伝わってきます。
      小川洋子が描く世界のイメージに遣られましたヨ。
      2013/02/28
  • これは、怪奇小説?

  • フランス映画の原作。
    綺麗でエレガント、シュール。
    どこか冷たさが漂う。
    フランス映画になるのも納得。
    映像にするには、とてもいい材料だと思う。

    でも、私としては、
    もうひとつの『六角形の小部屋』の方が好き。
    『薬指の標本』よりも、
    より人間的で、日常的。

  • 表題の『薬指の標本』の他に、『六角形の小部屋』が納められてる本です~。

    『薬指の標本』は、なんでも依頼人の要請で標本にしちゃうちょっとミステリアスな標本室のお話。
    標本室のある建物もミステリアスであれば、経営してる男の人もミステリアスでちょっと気味悪いし、なんだかホラー色のある話しになってます~。
    こういうのって嫌いじゃないよ~。

    『六角形の小部屋』もちょっとミステリアス。
    六角形の小部屋に入り、自分のはなしたいことを話す人たち、六角形の小部屋を経営し、旅をし続ける親子の話です~。
    こっちのほうが、ちょっと心温まる感じになってるの。

    どっちも、よくある日常に突然あらわれたミステリアスな世界。
    ある空間だけが異次元のようになってて、夢と錯覚しそうになるある小さな現実を書いてます。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「夢と錯覚しそうになる」
      日常と非日常の境が曖昧な世界を描くのが上手いですよね。そして、そうなって欲しくない終わりを想像させるのも。
      悲しい...
      「夢と錯覚しそうになる」
      日常と非日常の境が曖昧な世界を描くのが上手いですよね。そして、そうなって欲しくない終わりを想像させるのも。
      悲しいけど、美しいイメージに救われているような気がします。。。
      2013/04/04
  • 綺麗なものは美しくて怖い。

  • ふんわり幾重にも薄い絹のベールがかかったかのような不思議なお話。
    どの標本も死の匂いを漂わせていて、試験管の液体の中を上下するキノコは生と死の狭間にいるかのよう。標本室に持ち込まれるものが標本になる度に静かな喪失感を覚えるけれど、主人公の存在そのものが薬指を包み込んだサイダーの泡のように儚くて、最後は、泡になってしまった人魚姫を彷彿とさせられました。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「どの標本も死の匂いを」
      小川洋子の不思議な感覚に嵌ると抜け出せなくなりますね。。。
      「どの標本も死の匂いを」
      小川洋子の不思議な感覚に嵌ると抜け出せなくなりますね。。。
      2012/10/29
  • 『この靴をはいたまま、標本室で、彼に封じ込められていたいんです…』

    小川洋子の世界観が好きならぜひ。
    美しい静謐さを纏った恐ろしいようなものに侵されてゆく。

    表紙の写真は白い椅子の足が写っているような気がするけれど、靴を履いているのだろうか…

  • 『薬指の標本』
    小川洋子はどうしてこう、薄れていくものや、消えていくものをうまく描く作家なんだろう。
    標本をつくる男のもとではたらく、それ自体の奇妙さもさながら
    男のくれるあまりにも足に合う靴を履き続けることになるというそのストーリー設定。魅惑のかたちをこんな風に描くのが小川洋子らしい。

    その靴をいま脱がないなら、その靴に足がくわれてしまうよ。
    靴磨き士の言葉にちょっと胸を突かれる。
    「いいんです。わたしはもう脱がないことを決めたのです」
    嫉妬から、自分を彼の標本にしてもいい。そう決めることができるのは女のなせる技か?わたしはそういう女にはならない。それは愛なのか、それを愛と思う女なのか。 うん、すごく奇抜。無くした薬指の欠けた部分と足と同化した靴。もう人生そのものを預ける女、他にもう人生を捧げるものが無いという発想が女の生き方なのかなあ・・・。


    『六角形の小部屋』
    こんなにドライな小川洋子さんもいるんですね。
    プールでであったミドリさんというおばさん。彼女を気になりはじめて後をつける。そこでであう謎の六角形の小部屋。
    だれもがその小部屋に自分を語るとくせになる。
    移動式の小部屋は移動サーカスのようで、読み終わったあとなんとなく夏の終わりを感じるのは気のせい???

  • 標本博士。女性ってどうしてこんな人を好きになってしまうのか・・・

  • 話としての文章を追わず、感性で撫でるようにするのが正解の本じゃないかな?肉質な感じは全くないけど、性的な要素が多分にある。

    小説として、身体の細部を描かずに、骨格で留めている印象。
    肉付けは、各々で行うのだ。

    前回読んだ谷崎とはよい意味で真逆な感じ。

    読み手としての女性からと男性からでは大きく印象が違ってくるような作品に感じるなぁ。

    冷たい、硬質、少女趣味、フェテッシュ。

    感覚的に、女性の琴線に触れる作品なんだろうなぁ。

  • 『薬指の~』は再読のはずなのに、靴磨きのおじさんとの話や二人のご婦人の話をすっかり抜かしていた。ソーダ工場に溶け消えた主人公の薬指の先、欠けたままの薬指を彼女は標本技師の思い人へ捧げることを望む。
    二編目の六角柱の話を知り合い二人から薦められていた意味が分かった。背中の痛みの治療のためにプールに通う主人公はあまりに普通の中年女性ミドリさんと出会い妙に気になってしまうところからはじまり、彼女を付けていくうち廃墟のような社宅の管理事務所へ迷い込んでしまう。そこではミドリさんと息子のユズルさんとが生活をしながら“カタリコベヤ”の番をしている場所だった。人々は看板もないその場所へ吸い寄せられたように集まり、一人ずつその中で自分の中に溜まった言葉を吐き出していく。主人公もまた誰にも話したことのない自分をそこで語りはじめていく。
    幻想的というのか、それなのに現実的というのか。そういえば小川節全開。買った小川さんの本二冊目だった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「幻想的というのか、それなのに現実的というのか。」
      小川洋子を読むとゾクゾクっとします。淡々としているから現実味を帯びるのかなぁ、、、←えっ...
      「幻想的というのか、それなのに現実的というのか。」
      小川洋子を読むとゾクゾクっとします。淡々としているから現実味を帯びるのかなぁ、、、←えっと、私は違う感想なのですが、言葉が思いつきません。
      2013/01/04
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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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