薬指の標本 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 7844
レビュー : 1094
  • Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215211

感想・レビュー・書評

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  • 官能小説とは
    安っぽいエロ小説を指すのではなく、
    本来こういった
    行間の隙間から滲み出る、
    甘美でいて静謐な
    抑制された文体で書かれた作品にこそ相応しい呼び名ではないのか?
    (小川さんがそれを望むかどうかは別として笑)

    直接的なエロ描写を描かずとも
    エロチックで官能的な表現は可能なんだということを
    自分は小川さんの小説から知りました。


    なぁ~んてことを大真面目に語りたくなるくらい
    この人の文章は読んでると
    いつまでも浸っていたくなるし、
    妙にドキドキさせてくれるんですよね~(笑)


    サイダーを桃色に染める薬指の肉片。
    背徳の香り漂う、浴場での甘い囁きと秘密の逢瀬。
    白い麻のワンピースと黒い革靴のコントラスト。
    足を侵食し始める奇妙な革靴。
    気持ちを抑えるための小さなため息。
    机の上でゆっくりと溶けていくピーナッツチョコレート。


    本作はニ編からなる短編集だけど、
    とにかく表題作『薬指の標本』
    の耽美な世界観に魅せられましたよ(。>A<。)

    どこか幻想的で淫靡な匂いを放ちながらも
    小川さんの真骨頂である
    知性や品性を損なわない美しい文体に
    わずか90ページの短編ながら
    十二分に酔いしれることができます。


    忘れたい思い出の品を標本にする仕事に就いた主人公の女性が堕ちていく
    もどかしくも官能的な日々。

    標本室に依頼人が持ち込む物は様々で、
    火事で家族を亡くした少女は
    焼け跡で見つけたというキノコを、
    ある女性は恋人が誕生日にくれた楽譜に書かれた音を、
    青年はビーカーに入った精液を。
    老人は飼っていた文鳥の骨を。


    やがて標本技士の男に淡い恋心を抱く主人公。

    縛り付け支配したい男と
    その男に縛られ絡めとられたい女。

    束縛という甘い果実に囚われ
    嫉妬心と独占欲にがんじがらめになる女性が
    あわれでもあり痛々しくもあり、
    彼女が最後に選んだ狂気の結末に背筋が凍りつきます。


    ある意味下手なホラー映画より
    コワい話だけど、
    とにかく視覚や聴覚を刺激する
    慎み深い文体が読むことを止めさせてくれないし、
    ラスト10行の美しさは圧巻の一言。
    (残酷で痛々しいハズのサイダーの中を落ちていく指の描写がまた何故だか美し過ぎて、読後しばらく頭から離れません)


    フランスでほぼ原作に忠実に
    この世界観が映画化されたとのことなので
    そちらも観てみたいなぁ~(^^)

    • 橘さん
      円さんこんにちは。

      わたし、小説で一番好きなのがこの、小川洋子さんの「薬指の標本」なのです。
      直接的な表現はなくても、とても危ういと...
      円さんこんにちは。

      わたし、小説で一番好きなのがこの、小川洋子さんの「薬指の標本」なのです。
      直接的な表現はなくても、とても危ういところが狂気的で、うっとりしてしまいます。

      映画も観ましたよ。
      DVDを買ってしまいました。
      映画ではモチーフが変えられてたり、加わった設定があったりするのですが、源作の空気は損なわれていませんでした。
      とても素敵だったので、読み友さんたちに貸しまくりましたが、皆さん良かったと言ってくださったので、円さんも機会がありましたらぜひ!
      2018/02/10
  • 静かで澄んだ空気の中に、緊迫した空気を感じる、不思議な物語。
    危なくて、なまめかしくて、美しい。

    もうひとつの「六角形の小部屋」では、人の心のとりとめのなさを感じた。
    きっと、誰の心の中にもカタリコベヤがあって、語りつくせない言葉たちが静かに封印されているのだろう。

  • とても好きな作品です。
    女子なら誰しもがうっとりするような比喩がちりばめられていました。
    二人の関係がとても密やかでミステリアスでエロティック。

  • 表題作の「薬指の標本」がとても好き。すごく好き。
    靴を贈られる場面がいい。黒い靴の描写も素敵。
    映画ではストラップのついた華奢な靴になっているけれど、私のイメージはタッセルの代わりにリボンのついたヒールのあるローファー。足の甲を覆うデザインの靴。
    アンデルセンの赤い靴の話しもそうだけど、靴は悪魔的な魅力のあるものなのかも知れない。だからとめど無く欲しくなる。
    小説のように、足が侵されてしまうくらいピッタリな靴だったら、何足も欲しくなくなるかも?怖いけれどね。

  • 小川洋子さんの唯一無二の世界が心地よくて癖になりそうな2編の幻想中編小説集。今回も現実にはあり得ない2つの職業が描かれていますが、何となく実は本当にあるのではと思わせる雰囲気を感じるのですね。『薬指の標本』標本室は人々の願いを叶える善意の施設ではあるのですが、ヒロインは生きながらにして弟子丸氏の標本にされてしまうのでしょうか?さり気ないサイコホラーとも読めますね。『六角形の小部屋』私の町にも何時か「語り小部屋」が来るのでしょうか?でもある日突然に消えてしまったら語り小部屋ロスで相当に悩み苦しむでしょうね。

  • 一番好きなお話です。何度読んでも、「薬指の標本」の世界がとても好きです。不穏で甘くて、息苦しくて綺麗。「六角形の小部屋」もそうなのですが、求めていたらいつか辿り着けるのではないだろうかと、電車の車窓から外を眺めながら思います。うっすらと狂気と痛みを感じながら、この世界の余韻にいつまでも浸っていたいです。映画もまた観たいです。

  • 薬指の標本:男に憎しみを抱かせ、女の受容欲求に絶望させる筆力に脱帽。
    六角家の小部屋:自分と向き合う厳しさ。胸に秘める困難さ。

  • 好きな人に、標本にして欲しい気持ちは、良くわかる。

  • いや、わたし小川洋子すきなんだなって思いました。独特の世界観に惹きこまれる感じ。薄暗いような、朝焼けの眩しさのような。ニジュウマル。なんと伝えたらいいかわからないけど、一般的なしあわせのイメージとは少し違うしあわせのカタチを読んだ感じ。

  • 再読,短編集2編
    足を侵食してくるようなぴったりとした靴に包まれる幸せとは何だろう?自分と他者との境界のあやふやさが,恐ろしくもあり夢見るような心地よさを伴っている不思議な感覚がある.最後,地下室の先に何があったのか,今も分からない.

著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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