まぶた (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.39
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感想 : 298
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215228

感想・レビュー・書評

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  • 目次
    ・飛行機で眠るのは難しい
    ・中国野菜の育て方
    ・まぶた
    ・お料理教室
    ・匂いの収集
    ・バックストローク
    ・詩人の卵巣
    ・リンデンバウム通りの双子

    小川洋子の小説の体温は低い。
    それはひんやりと湿ったものだったり、かさかさに乾いたものだったりするが、決して温かくはない。
    たとえひとの命を救ったとしても。

    そこに「ない」ものを書くのも上手い。
    「ありえない」と言うほど強い「無」ではなく、気づくとそこには「ない」」ものの持つ気配。

    この絶妙な塩梅が、心地よかったり不気味だったりと、作品に彩りを与える。

    ストーリーを味わう作品集ではないと思うので、具体的なことを書いても意味わからんことになるだろう。
    ただ、これらの作品は、現実だとか事実だとかのしがらみとは無縁なところで味わえばよいのだ。

    私にとって小川洋子は、エンタメ小説から純文学への橋渡しをしてくれた作家の一人。
    未だ純文学はちょっと苦手意識があるけれど、小川洋子を読んだら、また次の純文学を手に取ろうと思えてくる。

  • 奇妙な味わいの短編集
    1・4・5・6編が特に好き
    バックストロークが一番印象深いかも

  • 小川洋子 著

    久しぶりに、小川洋子さんの本を読んだ。
    (ブクログさんの本棚に見つけ、久々に読む
     きっかけをもらって感謝してます!)
    この小説は8編の短編集として仕上がっている。
    1編目の「飛行機で眠るのは難しい」まるでエッセイのようなタイトルで始まる、この物語…、、
    ふぅ〜(´∀`*)最初から小川洋子さんの世界に引き込まれて、心持っていかれてしまいましたよ。
    もう、やっぱり好きだなぁって思う⁎ˇ◡ˇ⁎
    抗うことの出来ない、小川洋子さんならではのこの空気感、ずっと、浸っていたいような気分になる。

    最初、隣り合わせた飛行機の中で、見知らぬ男の人に話かけられ、わたしは嫌な予感がした…読み始めたこちらの方も胡散臭い感覚を覚えながら…、
    なんと作品の中の彼女と同じような感覚で男のお喋りに対し、さほど不愉快に感じてないことに戸惑い、それどころか、だんだん興味が湧いて、思わず耳をそばだてて聞いてしまう。(主人公は飛行機の中で、私は本の中で。)
    なんと、一編目の物語の終わりから、すでに名残り惜しくて、もっとこの話しの中に留まり続けて読みたいのに…って気分になった。(短編集であるが故に短く、集中して物語の世界にいて、気づくとあっという間だった)

    2編目 「中国野菜の育て方」
    3編目 「まぶた」
    4編目 「お料理教室」
    5編目 「匂いの収集」
    6編目 「バックストローク」
    7編目 「詩人の卵巣」
    8編目 「リンデンバウム通りの双子」

    上記、この8編の短編作で構成される。
    どの物語も、空気感というか喩える色合いは同じように伝わってくるのだけど、どれも違うお話で、何処かの外国を背景にしているよう…ドイツの国であったり、ウィーンだったりもする(何にせよ、私にとっては行ったこともない国や土地で頭の中の映像で、それを捉えてるわけだけど(^_^;)
    それでも、そこは見知らぬ土地で彷徨う感覚。
    少し暗くて、時々陽が射す。
    ホラーのような怖い感覚でもある、
    不思議な場所に迷い込んだような不安な気持ちと何だか落ち着くような違和感。
    一つ一つの物語のレビューをするのは難しいので、省きますが、どの物語も面白いです。
    すべての物語がどこか共通点を持って現れる
    そして、物語の主人公は独りで何かと対峙しようとしている。
    小川洋子さんの作品は、登場人物の顔ははっきりと見えないのだが、体躯と骨に至る繊細な部分まで、その表情を描くのが、とても上手だと思う。
    こちらにその人物像というか一つ一つの表情が伝わってくるような気がする。 
    少し触れた瞬間にふと、体温を感じて、ビクッと驚いてしまうような感覚がある。
    どの編の物語りも味わいがあり、どれも好きな作品集です。

    この物語について表すなら、
    解説の堀江敏幸さんの言葉が、ぴったり当てはまり、刺さったので記しておきます。

    “まぶた。小川洋子は、この薄い膜の開閉ひとつですべてが決まり、すべてが終わってしまうはかない劇を見つづけてきた書き手だが、まぶた、という言葉を作品集全体に冠したことによって、一遍一遍の切なさのかたちがより明確になったと思われる。”

    ー小川洋子さんが語っておられたある記事を 
     思い出したのでそれも引用しますー
    「“強固な殻の中で、自分とは何かを問いかけ、それを 表現し、自己を高めていったのです。一旦閉じこもるこ とによって、外の世界と適度な距離を取り、自分と一対 一で向き合うことによって、孤独を手に入れる。その孤 独が人を成長させるのだと思います”」

    正反対で矛盾する概念を共存させるための、役割を持つ登場人物たちが、色んな場所に現れ、それぞれの事情を抱えているにも拘らず全ての人がある一点を通して紡がれているように感じてしまいます。
    そして、この作品の中にも、何故か小川さんの創作活動に強い影響を与えているホロコーストと「アン ネの日記」を彷彿してしまう。
    人間に極限の体験を強いたものから生まれでたもの、その行為とその結果…を感じるとることが僅かながら出来るような気がした。
    特に「バックストローク」には…その強い思い入れを感じ心に響いた。

    久しぶり開いた小川洋子さんの世界観溢れる作品に堪能しながら、短編集でもひとつひとつの話しはそこで終結しているのだけれど、
    もっとながく浸っていたいので、次はまた、長編作品を読みたいなぁと思ってしまった。

  • 日陰にひっそりと咲く花のような短い物語が八編。
    暗く嫌な感じはなくて、静かで柔らかな視線を感じた。

  • 様々な視点からのまぶたの連想は、時として切なく影を感じながらも光に近づくような何処かそんな感覚を思わせるものがありました。

    外国でのストーリーも幾つかあり、海外に夢を置く自身にとって一期一会の旅の中での出来事に、日常離れしたまた違ったワクワクもありました。

  • 3.5
    博士の愛した数式の小川さんってこんな感じの作風なのか。。
    少し世間ずれした不思議な人たちのお話たち。
    でもどの人たちもありありと想像できる
    なぞの野菜売りのおばさんの話印象的だなぁ

  • 小川洋子ワールドがなんとも言葉にできないけれど、心地よい。リンデンバウム通りの双子が個人的に大好きだった。

  • 2021年 4冊目

    まぶたを巡る短編集

    1 飛行機で眠るのは難しい
    「飛行機は時間の迷路」
    飛行機で居合わせた老婆の死。嘘にまみれた手紙であっても彼女は幸福であった。手紙のなかに、二人だけの真実があったから。
    30ページ程度の付き合いだったが、私も彼女の最期に思いを馳せた。

    2 中国野菜の育て方
    光る野菜なんてあったら、すぐ手放すでしょう。夫婦はもうそれが食べられるかどうかなんてどうでもよく、捨てることができなくなった。
    はぐくむ、という字に違和感をもった。夫婦が中国野菜に「飼育」されているような感じ。

    3まぶた
    いつからか、少女はNの家から出なかったのだろうか。歪んだ関係がいいですね。

    4お料理教室
    軽快な感じと、若干の後ろめたさがあって結構好き。

    5匂いの収集
    「薬指の標本」と似た感じだけど一番気に入った。枇杷は人肉の味だと昔母から教わった気がする。小川洋子の分かりやすいメタファーが好き。センター試験に出てきそうだなぁなんて度々邪推する。
    自分を「保管」したあとは、昔の恋人の欠片は捨ててほしいな。

    6バックストローク
    肩を手放したことで、弟は解放されたのだろう。家族の絆とは引き換えに。


    7詩人の卵巣

    8リンデンバウム通りの双子
    二人の老人の、静寂とぬくもりを感じた作品。

  • 「えっ ここで終わるの?」と思ってしまった話がいくつかあった。雑踏の中である人物の後を頑張って追っていたら途中で見失ってしまって、追いかけるのに必死だったもんだからふと周りを見たら自分が今どこにいるのか分からなくなっていて、急に孤独を感じて戸惑う、みたいな。勝手についていって勝手に置いてけぼりになったくせに、「こんなところにひとりで置いていくなよ」と思ってる、みたいな。
    『博士の愛した数式』のイメージでこの本を読むとちょっと難しいかもしれない。
    「あれ?これ前の話にもあったような?」と思う箇所がいくつかあった。(野菜売り、身を小さくしていれば、ナチス、などなど)坂木司の『短劇』みたいだなと思った。
    全部よかったけど、「飛行機で~」「まぶた」「匂いの収集」が特によかった。

  • ページを捲っていると、わたしから切り離された魂魄が仄暗い湖の底に沈んでいくのが分かる。ああ、この感じ。最初は水の冷たさにぞわぞわするけれど、水中の色が濃くなっていくほど、とろりとした温かい何かに包み込まれたように心持ちになっていく。

    この短編集では、突然この世から切り離されたものが、まるで宝物のような秘密と煌めきを持って描かれる。たとえば「突然訪れる死」「ハムスターの切り取られたまぶた」「もげた背泳ぎの強化選手だった弟の萎えた左腕」「髪の毛が生えた卵巣」失ったものは、もう戻ってこない。それらは死の塊となって、そっと生きる人間の心に寄り添っている。きっと、わたしたちはすぐそばの「死」の気配に時折耳を傾けながら、生きていくのだろう。

著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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