- Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101215235
感想・レビュー・書評
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この本は、小川洋子さんの緻密な取材からできた本で、内容にもしっかりとその緻密さが現れていた。
「愛以外は全て数学でできている。」
この言葉はなんて合理的で美しいのだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
博士が√に対して並々ならぬ愛情を注いでいたこと。√と私も博士を優しく包み込んでいたこと。
博士の記憶が1分も持たなくなっても定期的に√と私が面会に行ったこと。
277ページ 未亡人の台詞。「あなたのことは1分も覚えられないけれど、私のことは一生忘れません。」
√が数学の教員になったこと。江夏の背番号28。 -
“私”の語り口調が優しくて、読み手の私もゆったりした心で、のんびり読み進めた。
ずっと優しい音楽が頭の中に流れているような、透明感のあるような、美しい物語だと思った。
普段は読み終わった後の余韻と達成感に浸りたく、解説を読むことは少ないのだけれど、今回は数学が苦手な私には理解が難しいところもあったので、引き続き読んでみた。
数学者 藤原さんの解説には「数学者といえば、なぜか『純粋』とか『奇人』が通り相場だ。」とあったが、この本に出てくる“博士”は、「純粋」の方だと思う。
友愛数、完全数、極めて稀な数字たちは、“私”と“博士”と“ルート”の特別な関係そのもの。
“博士”と“私”の微妙かつ特別な距離感は、“私”が家政婦であるがゆえなのか、どのような結末になるのか、もどかしくもあり、美しくも感じた。
苦手な数学用語が頻出で、最後まで読みきれるか心配だったけれど、数学でありつつ文学。心配は杞憂だった。
数字たちに対する“美しい”という表現は、これまでの私の概念にはなかったので、ハッとさせられた。
数字苦手な私にも、“博士”の説明は面白く、“私”のように“博士”をはじめとし、数々の数式を算出した数学者自信に思いを馳せることで、難解な数式も、こうも身近になるものかと感動した。
ちなみに、物語には私の好きなプロ野球球団が出てくる。残念ながら、“ルート”と“博士”が応援している球団の引き立て役だったけれど。でも、不思議となんだか誇らしく感じるのは、この作品の美しさ故か??
映画化されているので、そちらもぜひ観てみたい。 -
先輩が私の誕生日(6月28日)を聞いてすぐに「日付の数字がどっちも完全数ってすごいね」って返してきたのがきっかけで、ずっと積読になっていたこの本を読みました。自分では6と28が完全数(perfect number)であることも、それにちなんで6月28日がパフェの日だということも知っていたのですが、自分以外の人が完全数に気付いたのは初めてだったので理由を聞くと、「『博士の愛した数式』に出てきたから知っていた」とのことでした。
交通事故の後遺症で、記憶が80分しか持たない博士と、彼の身の回りの世話をするために雇われた家政婦とその息子のとても温かいお話でした。家政婦が博士に対して抱く尊敬と友愛の描かれ方が素敵でした。ただ温かいだけでなく、博士の苦痛や家政婦のミスによって生じたイザコザなど、悲しいことやあまりよくない思い出も描かれていて、それらが小説全体の効果的なスパイスになっている気がします。徐々に進んでいく博士の老化がこの温かい関係の終わりが近づいていることを仄めかす辺りは切ない気持ちでいっぱいになるのですが、最後には家政婦と博士の義姉との関係も良好なものになって、博士がとても幸せな人生を送ったことがわかる作品でした。 -
切ないけれど、とてもあたたかい物語でした。
読んでみてよかったです。 -
博士のルートへの愛情が深く、すごく温かい気持になった。数学は私には難しいけど、博士の周りを取り巻く家政婦やルート、義姉もみんな愛に溢れていてなんともいえない余韻が残る。随分前に映画化されたことは知っていたので、頭の中で勝手に深津さんと寺尾さんで映像化された。映画も見てみようー。
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失われていく時間、記憶
一見して、人が避けて通りたいネガティブなモチーフを扱いながら、その暗さで浮き彫りにしたいものは何だったんだろうか?
小川さんが書きたかったものは、
それでも変わらないもの、真理。
そして、そこから生まれた新しい1ではなかったか、と思います。
80分ごとに記憶が無くなってしまえば、周りの人間は悲しい、動揺する、忘れられることに不快感を覚えるかもしれません。
ですが、主人公の家政婦、そしてその息子(ルートと呼ばれる少年)は違う態度を取ります。
彼の記憶を取り戻すことに期待なんてしない。その彼と向きあいます。二人で約束を立てて、彼を傷つけないように白い嘘をつくこともある。
作中に「0を発明したインドの数学者」の話題が出てきます。
私は、この0という数字が、この物語を象徴するとても良い数値だと感じました。
彼の記憶はいつでも0に戻ってしまう。しかし、その周りの人たちは、0を「あるもの」として受け入れ、認めていく。
先日覚えた、仮託(かたく)という言葉が合うでしょうか。
作中で言いたいメッセージを、そのまま伝えるではなく、別の形で読者に投げかける。
この作品における仮託は、数字、数式でした。
一見数学とは無縁な文学作品にあって、こんなにメタファーとして使われるとは。数学の問題を国語脳で解く気分です。
読後感も清々しい。今度映画も観てみます。 -
80分しか記憶が持たない博士と家政婦親子の3人の物語
何度も読んでも心が温かくなる
数学の世界がいかに美しいか、人と人が心を通わすことがいかに素敵なことかが伝わってくる
博士という立場の人は自身が学問を極めることはもちろんなのだけど、その学問の発展には後継者が必要不可欠なわけで、そのためにその学問の魅力をどれだけ人に伝えられるかもすごく大切だと思う
この博士は記憶は失われてしまっても、数学の魅力をルート君に伝えられた
それはすごく価値のあることだと思う
どのシーンもなくてはならないと思える、良い意味で綺麗に完成された小説だなと思った
✏目に見えない世界が、目に見える世界を支えているという実感が必要だった。
✏君はルートだよ。どんな数字でも嫌がらず自分の中にかくまってやる、実に寛大な記号、ルートだ。 -
だいすきな本が増えた
宝物にしたい -
かなり文学的に感じました。
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数学なんて大大大嫌いで数式を見るだけでアレルギー!って思って生きてきたけど、なんて優しくて温かい物語。
わからない数式はサラッとながして読んでも十分物語の世界に入り込めた。ルートのように博士に数学を教えてもらえたら数学アレルギーの私でも数字を好きになれたかも…。 -
私は小学校から一貫して数学が苦手だったので、博士や主人公が触れているような数学の美しさには一切気づけない人間だったはずなのに、この本を読んでいるとその高尚さや圧倒的な正しさに、少しだけ手を触れられたような気がした
記憶が80分しかもたない博士と主人公、その息子の関係性は常にゼロからのスタートで、今以外の瞬間を共有することはできないのですが、それでもお互いに傾ける愛情は変わらず、いつも温かい関係性がそこにあることがとても幸せな感じがして良かった
出来事の描写だけがしてあって、主人公やルートの気持ちには言及されていない部分が度々出てきたけれど、そういう場面の方がより一層寂しさというか切なさ、やるせなさみたいなものを感じた
明言しないからこその奥行きと複雑さがあった、し、日々感じるリアルな気持ちに近いのは、出来事から自分の中で思い起こされた感情だからだろうなと
『密やかな結晶』と同じように、淡々と、描写されすぎずに進んでいく感じが、複雑さを生んでいるのかも!冬っぽいのに暗くない
というか、数学が持つ完全さって冬の空気っぽいのかな -
昔読んだけど、改めてもう一度読みました。とても優しくて美しいお話です。数の美しさに気づかせてもらえます。
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最後にポロッと涙が出ました。
博士のあたたかさ、ルートの無邪気な心、成長、いろんなものが詰め込まれ心がホッとする素敵な一冊です。 -
家政婦と、その子ども(10歳)と、事故によって記憶が80分しか持たない数学博士の物語。
設定としてはファンタジーですが、主人公のドキドキしたり、ちょっぴり悲しかったりする気持ちは私たちが普段感じる日常的な気持ち。物語の世界に入り込んでしまいました。
博士が語る数の世界は美しく純粋です。
敬愛すること。静かな情熱。
とても心が洗われました。
野球の話も織り込まれいます。選手時代の新庄ビッグボスの名前が出てくるので、まさにタイムリーでした。江夏、亀山、中込など関西人は特に時代を感じられます。 -
未亡人である義姉は家政婦の彼女をどう思っていたんだろう。かつて記憶のある時通じ合った2人。壊れてしまった義弟の脳は80分しか記憶できない。そこからの長い年月。新たに親密度を増してきた家政婦とその子供ルート。「あなたのことを一生覚えることはできなくても、私のことは一生忘れませんから」切ないな。
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いくら仕事とはいえ、記憶が80分しか持たない博士に対してここまで愛を持って接することができるところは見習いたい。
どんな時でも優しさや愛を持つのは難しいことだと思います。 -
会社の人が貸してくれた本。
事故により記憶が80分しか持たない博士。
家政婦の「私」。その息子ルート。
80分しか記憶がもたない博士にとって「私」はいつも初めましての家政婦さん。それでも数字と野球を通じて徐々に博士・私・ルート3人の絆が深まっていく様子に心がじんわり温かくなるような作品でした。
確かに、野球ほど数字と密接に関係しているスポーツもないんじゃないかな。〇割〇分〇厘とか、野球の打率でしか聞いたことない。数学苦手なので博士が書き残した公式の意味はわかりませんでしたが、数字が公式にピタッとはまった時の美しさや快感はわかる気がします。
小川洋子さんの文章は独特な静けさがあり、読んでいて心地よいなぁ。
映画も見てみたい。 -
この世界は数で溢れている。
嬉しいことや悲しいことを電話で誰かに伝える時には電話番号がないと伝えられないし、営業や販売などを職業にされている方には数字は命であるだろうし、パソコンやスマートフォンを持たれている方は大切な人の生年月日が大概パスワードだったりする。
本書は記憶が80分しかもたない博士と、家政婦の私、そしてその息子ルート(博士が名付けたあだ名)の愛と数字と時々タイガースの話。
博士の「君はルートだよ。どんな数字でも嫌がらず自分の中にかくまってやる、実に寛大な記号、ルートだ」のセリフから、優しさが溢れて止まらない。
そして√をこの様に表現した小川洋子さんには脱帽です(語彙力)
また、博士と私の関係について考えてみる。
きっと、親と子どもくらいの歳の差なんだろうけど、「君が料理をしている姿が好きなんだ」と言われたり、何事にもルートを第1優先に考えてくれるところには思わずキュンとしてしまう。
それに博士の顔がハンサムときたら、ドキッとすることもあるだろう。
でも、恋愛ではないと思いました。
私の誕生日(2/20)と博士の手首に刻まれた数字(284)が見事に友愛数であるように、家族でも友達でもないけれど、慕っている。
例えるなら近所の仲良しの崇高なおじいちゃんみたいな存在でしょうか