博士の愛した数式 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215235

感想・レビュー・書評

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  • 家政婦である「私」。
    事故により80分しか記憶が保てない元・数論専門の「博士」。
    その博士が「ルート」と名付けてくれた家政婦さんの「息子」。

    忘れてはいけない事柄を背広のそこかしこにクリップで留め、
    世の中のあらゆるものを美しい数式にあてはめ、
    瞬く星を線で結んで夜空に星座を描くように
    美しい作法で導き出した数字で人と人の間を結んでくれる博士。

    まだ空が明るい雲の切れ間から
    一番星に誰よりも早く気づくことができた博士。

    夜の準備はもう始まっている。
    一番星が出たのだから。

    博士の世界はいつも静かで敏感であったかくて優しい。

    こんなにも数式が、数字の世界が、美しいとは。
    あまりに美しくて、もうそれは下世話な意味ではなく、
    官能の領域にすら感じる。シャラシャラと音を立てて
    数字が薄い氷の上を滑るような透き通るような青く透明な世界。

    "なぜ星が美しいか、誰も証明できないのと同じように、
    数学の美を表現するのも困難だがね"

    確かにカタチがあるようでない"美"という観念を
    言葉で追うことは難しい。でもそれを1冊を通して
    いとも簡単なことであるかのように目の前に数字の美しさを
    取り出して見せてくれた博士たち。

    数字音痴で理数系の才能の欠片もない私が
    そこに広がる数式に、深まりゆく数字に、
    こんなにも静謐で美しい世界を感じられるとは。
    そんな魔法のような感覚を可能にしてくれる小川さんの
    筆力に驚嘆して、読後暫く茫然と呆けてしまった。

    3人で夕方に夕食をとり、ラジオで野球を楽しみ、
    今は見ることのできない江夏の姿に想いを馳せ、
    素数の中でも殊更に美しい素数「11」の誕生日を迎えた
    ルートの誕生日を祝い、ただただ穏やかで静かな時間を
    共有する3人の日々。

    どんな数字でも嫌がらず自分の中にかくまってやる
    寛大な記号「√ルート」。そのルートを広く自由で
    温かい数字の世界とともに育ててくれた庇護者、博士。

    連続した自然数の和で表すことができる完全数。
    数学、江夏、28。
    3人が証明してくれた美しい数式に涙が止まらなかった。

  • 今さらなんて思わずに読んでみた名作。
    映画は公開当時に観たからストーリーも大体知ってたけれど、(映画もよかったけど)小説はさらに素晴らしい。
    小川洋子さんの小説って、読みやすくて押し付けがましくなくて心に残るっていう絶妙なバランスで成り立ってると思う。そして何より文章が綺麗。

    事故の後遺症によって記憶が80分しかもたなくなった数学の教授“博士”の家に家政婦として派遣され働くことになった“私”とその息子“ルート”の物語。
    説明すると本当にシンプルにただそれだけの物語で、その日常が描かれているのだけど、温かさと愛に包まれた物語だと思う。

    記憶が80分しかもたない博士にとって、新しい朝は全てがリセットされた状態なわけで、そこに毎日訪問する主人公とルートは毎日が博士と初対面ということになる。
    人と人は事実ではなくそれを捉える人間の記憶によって結ばれていて、とても儚く弱々しいのだけど、それを繋ごうと強く思う気持ち次第で、いくらでも強くしっかりしたものに出来るのだと思った。

    キーワードは“数学”と“阪神タイガース”というのも何か良かった。
    大人になったルートが選んだ道もまた心憎い。

    私は学生時代数学は苦手で今でも好きとは言えないけれど、公式を使って問題が解けた時の爽快感やその数字の美しさというのは理解できる。
    様々な数学用語も登場するけれど、苦手な私でもまったく問題なかったし、むしろ数学の奥深さに興味を抱いた。
    追究して壁にぶつかってそれでも追究をやめなかった過去の研究者によって、様々な定理が確立されたのだと感慨深い気持ちになった。

    新庄、中込、湯舟…って姉が阪神大好きだった頃の選手名も登場して、かなり懐かしい気持ちになりました。笑
    おすすめしたい一冊。

  • ずっと積読のままだったこの本を手にとったのが昨日のこと。寸暇を惜しんで読んでしまった。主人公の目を通して描かれる博士の人となりに惹きつけられ、また主人公とその息子の優しさに安心し、現在に生きることすら難しい博士の行く末を心から心配しながら読んだ。何度も涙がこぼれた。どうしたらこんなに優しい物語が書けるのだろう。数式を「美しい」といい、数字の並ぶ様子をレース編みと描写する。小川洋子さんは数学にも造詣が深いのであろうか?なのに私のレベルにまで降りてきて解説してくれて、数字アレルギーの私でもちょっと勉強してみたいなと思ったぐらいである。80分しか記憶が持てない人の悲哀は計り知れないけれど、記憶が残らないことで救われることもある。様々なモチーフが繋ぎ合わされて魅力的な物語となっている。

  • 80分しか記憶のもたない、数字にしか興味を示さない博士と、その家で働くことになった家政婦と息子の話。

    数学は苦手だから、大丈夫か不安だったけれど、映画が面白かったので、本でも読みたくなって手にとりました。
    意外とすんなり読めました。むしろ主人公と一緒に数字の不思議さや奥深しさに触れられて新鮮に思う場面も多くて良かった。

    博士の、もどかしいくらい不器用で、でも真摯な姿(数字に対しても、息子に対しても)がとても素敵で、読んでいてハラハラしながらも優しい気持ちになりました。
    文が上手だから、家政婦さんが博士と数学に対して愛情のようなものを持つ過程も違和感なく受け入れられたし。

    ちょっと疲れた時にふと読みたくなる本です。

    • ここ花さん
      はじめまして。

      プロフィールのタグ、‘怖がり’で
      あなたにたどり着きました。

      私もこの本好きです‥

      ここ花。
      はじめまして。

      プロフィールのタグ、‘怖がり’で
      あなたにたどり着きました。

      私もこの本好きです‥

      ここ花。
      2010/03/25
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「もどかしいくらい不器用で、でも真摯な姿」
      寺尾聡がとっても好演で素晴しかった。映画を観なかったら小川洋子との出会いはなかったかも、、、
      そ...
      「もどかしいくらい不器用で、でも真摯な姿」
      寺尾聡がとっても好演で素晴しかった。映画を観なかったら小川洋子との出会いはなかったかも、、、
      そして今では、好きな作家の上位に位置してます!
      2012/04/13
  • 記憶障害をもつ初老の数学者<博士>、家政婦の<私>と息子の<ルート>、3人が過ごす静かな時間のなかで、
    <私>の博士に対する深い敬愛とその背後に見え隠れする淡い恋愛感情が、丁寧に、慎ましやかに綴られる。
    こんなに静かなのに心が動かされ、一気に読んでしまった。
    大好きな一冊。

  • 景色が美しくて、言葉も美しくて
    とても綺麗なお話だと思う。
    登場する人物にも 魅力があって、
    何度でも また読みたくなる作品。

  • とてもやさしい言葉でスルッと柔らかい文章が印象的でした。巻を措くを能わず...とはこういう作品の事を言うんでしょうね。何か引きつけられちゃって感動しました。
    博士とルートと私がお互いに欠けている部分を補完しあうようにして生きていく様を直接的な愛情表現を交えず、数字と野球をさらり織り交ぜて...とても文章が良くてホント良い本でした。

  • 薄い小説だから本屋で立ち読みきろうと思ってたんだけど
    読み出したら、立ち読みなんてほんともったいなくなって。
    しっかり読みたい。思わず買った。

    ほんとにあたたかい話。
    いつも新しいけど、続いていく愛情。
    流れていく時間は少しの悲しみ。

    とにかく
    愛と優しさがあふれてるんだ。



    「ぼくの記憶は80分しかもたない」




    みんなに読んでほしいな。

  • 病気ネタのいかにもな感動本ってあんまり好きじゃないんだけど…
    映画化された話題本って、毛嫌いしちゃうんだけど…

    こんなひねくれ者のわたしでも、まんまと泣いてしまった。それも、朝の通勤電車の中で。

    だって博士がほんとうにいとおしかったんだ!
    絶対的なルートへの愛情、毎朝1人きりで受ける
    残酷な宣告、数学への深い思い、江夏への情熱。
    全てを両手でぎゅっと抱きしめたくなる。
    博士はいつもまっすぐで、全力投球なんだ。

    博士にとても愛されたルートは、きっとすてきな教師になっただろうな。

    ストーリーを思い出すだけで、涙ぐんでしまう。

  • 人によって見えるものが違う生を持ち死して尚愛するこの世界で、一瞬でも同じ想いを持つことを私は奇跡と呼びます。
    難解な数式をひと編みひと編みと大切に作り上げた大きなレースは、何時からか、一人では決して完成する事の出来ぬかけがえのないものになっていました。時間は重要ではなくなっていました。時間の概念を突破らっても、必ず縫い合わせられるコツと絆を彼等は手に入れたのです。
    忘れても忘れても、消えはしない事実。それがどんなに素晴らしいものであるか。私達は当たり前に思い出す記憶を辿りながら、博士の愛した数式を旅するのです。柔らかな優しさと、懐かしきチョコレートの香りと共に。いつまでも。

著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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