- Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101215235
作品紹介・あらすじ
「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた-記憶力を失った博士にとって、私は常に"新しい"家政婦。博士は"初対面"の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。
感想・レビュー・書評
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人は生きていくうちに何かを失くしたり何かが欠けてしまうことがある。そんな時に、そっと耳元でそれが人なんですよ、それでいいのですと囁く声がする。
人と違う自分を受け入れられず苦しむことになるかもしれない。けれど、この世に一人しか存在しないあなた、そのあなたが私はいいのですと肯定してくれる声が聞こえる。
それが私にとっては小川洋子さんの物語だ。この「博士の愛した数式」は特に強くそう思える作品だった。
80分の記憶しかもたない博士と、家政婦の私、私の息子ルート。3人の過ごした日々はお互いをいたわりあいながら、歓びや驚きに満ち溢れた日々だった。過去から前に進むことが出来ない、記憶力を失くした博士。けれど、失くすことの出来ない博士の数学への崇高な愛に触れた私とルートは、博士の欠くことの出来ない本質に惹かれていったのだろう。
失くすことは悲しい。それでも、それがあなたの全てじゃない。あなたがいてくれてよかった。
あなたがいるから、私がいるのですよ。
私にも伝えたい人がいる。 -
とてもとても素敵な話しだ
80分しか記憶がもたない博士
シングルマザーの私
父親を知らないその息子
皆何かが(結構)欠けている人たちばかりだ
そんな3人が欠けているものをまるで補うような、そんな素敵な関係を壊れ物をそっと直すかのように優しさで埋め合う
幸せって何か価値のあるものを持ってることじゃないんだ
こんなふうにそっとそっと作り上げていく時に感じるものだ
改めて人の幸せについて考えさせられた
幸せの尺度を勘違いしている世の中に
「大事なことはこういうことなのですよ」
と静かにそっと囁いて下さるようなそんな小説だ
皆の境遇からして重くなりがちな内容であるが、阪神タイガースネタが何ともこの小説に明るいユーモアを挿し色のように添えている
残念ながら私は巨人ファンであるが当時の選手たちの名前に懐かしさを覚え、楽しくなった(亀山はかっこよかったなぁ)
3人で初めて球場に行ったときの描写も素晴らしい!
自分も初めて球場に行ったときのことを思い出した
想像を越えた球場の広さ
まっさらで綺麗な手付かずのベース
応援席の歓声のボリューム
すべての圧倒的な臨場感
3人の興奮は私の思い出の興奮と同じだ
何か嬉しい
数字の世界も良い
知らないことがほとんどだが、数学って綺麗な世界なんだ
こんな目線で数字を見るって素敵じゃないか
数学の苦手な自分だがとても興味深くキラキラしたものとして博士に教えていただいた(笑)
そしてルート君
君はなんて良い子なんだ
決して恵まれた境遇ではないのに
なんて公正で思いやりがあるのだろう
君の行動や発言には何度も感動したよ
(息子になって欲しいと思う女性が続出に違いない)
自然で嫌味がなく居心地が良い
地味なんだけど、じんわりくる暖かさが本当に素敵である
幸せのお裾分けをしていただいたような、
そんなほっこりと優しい気持ちになれる
大切なことは身近にあるし、ただ気づいていけばいいのですよ
気づくことが大事なのです
「私」が博士の背中を優しく撫でながら
「大丈夫ですよ すぐ良くなりますよ」と言って下さっているように…そんなふうにに優しく教えていただいた
そんな小説だった
他にももっとたくさんの想いがあるが、言葉にするより、心に暖めて噛みしめていたいなぁ…
とてもとても感謝の本-
新年明けまして、おめでとうございます。
今年も宜しくお願い致しますm(_ _)m。
いつもいいね!有難う御座います。
やま
新年明けまして、おめでとうございます。
今年も宜しくお願い致しますm(_ _)m。
いつもいいね!有難う御座います。
やま
2020/01/01 -
やまさん
あけましておめでとうございます。
今年もどうぞ宜しくお願い致します。
こちらこそいつもいいねをありがとうございます!やまさん
あけましておめでとうございます。
今年もどうぞ宜しくお願い致します。
こちらこそいつもいいねをありがとうございます!2020/01/01
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この小説も西加奈子さんの「i」と同じく虚数から始まる。
年末の旅行、帰省のお供にと購入した2冊の文庫本が、期せずして共に虚数から始まる偶然に、まずニヤニヤしてしまった。
何だよ、アイはあちこちに存在するじゃないか、曽田アイ。
この本は、
80分しか記憶が維持できない博士、シングルマザーの家政婦(私)、そして、家政婦の息子ルートの3人が織りなす、何かが欠けていつつも心あたたまる交流の話。
80分の記憶ではどこにも到達し得ない。だからこそ、美しくかけがえのない、純粋な愛がそこにはある。
幸せとは何か?ということを考えてしまった。
感想書きながら気がついたんだけど…
そうか、博士と義姉(未亡人)はかつて恋仲だったのね。事故で博士の脳挫傷を負って、その禁断の愛は永遠に封じざるを得なくなったんだ。
それは、義姉の胸中を察すると、大変重くて辛いものがある。
でも、「オイラーの等式」が全てを包み込んでくれた。
数学に疎い僕は、まだその部分がぼやっとしているけど、もう少しこの数式を勉強すれば、もしかするとまた違うものが見えるのかもしれない。
あと、背番号が完全数の江夏豊が大々的にフィーチャーされていて…というか、江夏豊なしにはこの小説は成立しない。
江夏豊がこんなインテリジェンスな小説の中で、そんなに重要な存在であるということも、よくよく考えてみると笑える。
じわじわっといろいろなものが広がってゆく。
とても不思議で奥が深い小説。
すごいっす。 -
なんだろう。この心が温かくなる感じ。
小川洋子さんの紡ぎ出す文章の美しさと暖かさ。
日々の生活に追われ殺伐とした心が真っ白で太陽の香りで満たされたシーツに優しく包まれていくような心地よさ。
いくらでもこの文章を目で追っていけるような、そして文章から生み出されるこの美しき世界に取り込まれていくようなそんな感じがするのです。
小川洋子さんの小説を読むのは『密やかな結晶』に続いてまだ2作目ですが、もう完全に小川洋子さんの生み出す文章の心地よさに身をゆだねてしまっています。
『コンビニ人間』や『消滅世界』のような普通の生活をまるで異次元世界のように描くことができる村田沙耶香さんの小説にも中毒性がありますが、このごく普通の生活のなかにある美しい部分、それだけを抽出して読者の目の前に広げてくれる小川洋子さんの小説にもまた違った意味での中毒性があるのです。
例えるなら、村田沙耶香さんの小説が日頃歩いている道がいきなり崩れ落ち、気がつくと全く価値観の異なったパラレルワールドに迷い込んでしまっているような気持ちにさせられるのだとしたら、小川洋子さんの小説は日頃歩いている道に落ちている石ころが実はダイヤモンドだったり、エメラルドだったりということを気づかせてくれるような小説だと言えば分かりやすいでしょうか。それくらい、何気なく過ごしている毎日の生活には小さいけれどかけがえのない美しいものが詰まっているということを小川洋子さんの小説は教えてくれるのです。
それから、この『博士の愛した小説』を読む前に事前に(これは偶然ですけれど・・・)、サイモン・シン氏の傑作『フェルマーの最終定理』を読んでおいたことが、本書を読むときに非常に役に立ちました。
本書は、ある自動車事故から「記憶が80分しかもたない」という障害を負ってしまった数学者である博士が主人公なのですが、自分が数学者であった時の記憶ははっきりとしているので、障害を負った後でさえ、数学への愛はまったく以前と変わっていません。そんな博士のお世話をすることとなった家政婦の「私」とその10歳の息子・ルート(これは本名ではなく、博士が息子に付けたあだ名です)との数学を通じた交流が描かれるのです。
本書には、「友愛数」「完全数」などという数学の神秘がなんども出てくるのですが、これは『フェルマーの最終定理』を事前に読んでいたので「ああ、あのことね」と難解な数論の話もついていくことができました。『フェルマーの最終定理』には数々の数学者が登場するのですが、この主人公の博士も彼らのように数学の美しさに取り憑かれた一人なのだなと、本書を読みながら一人で勝手に納得していました。
それからもう一つ個人的に良かったことは、この小説の舞台が1992年のことなのですが、ルートが大の阪神タイガースのファンだったこともあって、本書には当時の阪神タイガースの試合の動向や選手の名前などが頻繁に出てきたところです。僕も、ちょうどこの頃、阪神タイガースのファンとして一番応援に力が入っていた時期で、背番号00を背負った亀山やパチョレック、久慈、和田、ノーヒットノーランを達成した湯舟、メジャーに行く前で若手とした大活躍していた新庄などの名前と出会うたびに、学生だった当時の僕の記憶が色鮮やかに浮かびあがり、この小説を読むことで僕だけの楽しみ方が出来たことでした。
そして、阪神タイガースが博士の数学と絶妙に結びつき、博士の記憶の中で燦然と輝く阪神の大投手・江夏豊の背番号の秘密とが相まって、このラストへの壮大な伏線となっているところは見事でした。
本書は、記憶が80分しかもたない博士と、家政婦の「私」と、その息子ルートとの「大人の愛の物語」と言い切ってしまっていいと思います。
そこには、ドロドロとした恋愛ではなく、あくまでも真摯で崇高な愛の姿が描かれます。
数学への愛、尊敬すべき者への愛、家族愛、庇護されるべき小さき者への愛、そして秘めたる愛。いろいろな形の愛が描かれ、そして、その一つ一つが暖かな光となって、この小説を読む者の心の中に優しく灯っていくのです。
小川洋子さんの描くこのような美しく柔らかで暖かな小説は、僕の読書人としての今後の人生に非常に大きな部分を占めていくことになるのは間違いないと思います。
本当に素晴らしい読書経験でした。ありがとうございました。 -
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まっきーさん、こんにちは(^^♪
すごい!一発クリックで読めたことに感動してます!
この本を読んだのはかなり前ですが、記憶の糸を手繰り寄...まっきーさん、こんにちは(^^♪
すごい!一発クリックで読めたことに感動してます!
この本を読んだのはかなり前ですが、記憶の糸を手繰り寄せてレビューを
読みました。
そして私もカッコ内と同じことを思いましたよ。
全作品ではないですけどね、小川さんのこの作品は素晴らしいです。
すぐに読めた喜びとともに書きこみました。2020/01/11 -
nejidonさん、コメントありがとうございます!
一発クリックで行き来できて、相互フォロー出来てよかったです(^^)便利ですね。
...nejidonさん、コメントありがとうございます!
一発クリックで行き来できて、相互フォロー出来てよかったです(^^)便利ですね。
小川洋子さんは色々な方がお薦めしてくれていたのですが、ここ数年で読み始めて
世界観に魅了されてしまいます。本当に素敵ですね。
あとカッコ内のことは私だけじゃなかったのね…と、すこしホッとしています。
これからもどうぞよろしくお願いします<(_ _)>2020/01/11
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博士と私とルートのお互いを思いやる空気感がほのぼのとして良かった。
いわゆるアルツハイマー認知症と違って、記憶が80分しかもたないと自覚のある博士は辛いだろうなぁと思う。そして私とルートがそれを理解してほんとに優しい。
誰一人、名前が分からないままなだけに登場人物がすごく身近に感じられた。 -
本を少し読み進めただけで、今まで聞いたこともなかった"友愛数"や"完全数"などという数字について、まるで理解した気になり、楽しくなっていた。物語中に登場する数字の1つ1つが、小川洋子さんの文章によってとても深い魅力をもつ特別なものとして伝わってくる。
人間が存在するずっと以前から、数字という見えない存在は在って、それを人間が発見して学問する。それが数学なのだと知った。
誰ががある時0という数字を発見したことについて博士は、「無を数字で表現した。非存在を存在させた。素晴らしいじゃないか。」と褒めたたえる。確かに。こんな風にして数字や言葉は、目に見えないものを見えるようにするんだろう。その事がどれだけ革新的に世界を前に進めるか。物語の随所に、はっとするような大切なことが散りばめられていた。
数に対する畏敬と愛が物語全体に溢れている。小川洋子さん作品らしく、どこか哀しさの漂う、けれども愛情あふれる物語。 -
小川さんらしい とても洗練された作品。
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家政婦の「私」は、数学者だった老人の家に派遣される。
14年前の交通事故で脳に損傷を受け、その後の記憶力が80分しかもたないという状態のため、会う度に挨拶をして、すべて新しく始めなければならない。
数式を美しいと感じる博士の世界は、静かに澄み渡っている…
その人柄に次第に好感を持つようになっても覚えていては貰えず、時には会っている途中に、博士が何も知らない状態になってしまう哀しさ。
未婚で一人息子を育てている主人公が子供を連れて行くと、必ず博士はとても優しい面を見せ、ルートと名付けられた息子との交流も慈しみに溢れて胸をうちます。
既に語り尽くされている感はありますが… 独特なので、読んでみる価値はあります!
著者プロフィール
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昨今、シングルマザーが多い時代ですが、博士の影響を受け、立派な大人になったのがとても感動をしたところ...
昨今、シングルマザーが多い時代ですが、博士の影響を受け、立派な大人になったのがとても感動をしたところです。
私も子供たちにどれだけいい影響を与えられるか、日々、考えております
コメントありがとうございます♪
そうですね、私もとても心が温まりました。
子どもというのは...
コメントありがとうございます♪
そうですね、私もとても心が温まりました。
子どもというのは、大人が思う以上にいろいろ考えてますよね。
ルートが「私」が博士を信じていなかったと涙を流して怒る場面がありましたが、それは自分が博士を守れなかったと自分自身に対する怒りでもあったと思います。
私はそこに博士と過ごすうちに成長したルートの姿を見ました。
きっと「私」もルートの怒りの意味を判っていた思います。
「子どもたちにどれだけいい影響を与えられるか」
mayutochibu9さんのお言葉に、身の引き締まる思いがいたしました。
ありがとうございました(*^-^*)