海 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.63
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本棚登録 : 1892
レビュー : 225
  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215242

感想・レビュー・書評

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  • 小川洋子さんのように世界を見ることが出来たなら…。
    見慣れていると思っている、聞き飽きていると思っている世界の中にはこんな物語がきっとあるんだ。

    隣で耳を澄ませないと聞こえない音楽、声、言葉たち。
    じっくり見つめないと見つけられない光、色、模様。

    それはイヤホンを耳に突っ込んで歩いていては聞こえないかもしれない。
    本から目を上げないと見えないかもしれない。
    私は自分で目と耳を塞いでいるのかもしれない。

    目と耳を塞いだままいったい何を探しているんだろう。
    どこに向かって歩いているんだろう。
    何も分からないままフラフラと迷って、時に開き直りながら歩いている。
    そんな状態でよく歩けるものだ。
    でも立ち止まっても周りの景色は動いている。
    怖くて、焦って、急がなきゃなんて思って。
    硬いものにぶつかって痛い思いをしないように。
    汚いものを踏まないように。
    そんなことを心配している。

    この物語の中の世界は私の目に映る世界とは違うように思う。大切なものが。決定的に。
    命は決して清潔ではない。
    そして、こんなにも美しい。

    この物語に書かれている人たちは特別に美しい存在ではないはず。
    美しいことに条件なんてないのだ。きっと。

  • ああワタシ、小川洋子さん作品の読者として初心者だなぁ。
    と、あらためて思ってしまった。

    お年始参りに親戚の家へ電車で往復約3時間。
    その時にお供として持って出たのがこの本。
    薄いし短編集だし、読むのが遅くてもほぼ読みきれるだろうと。

    とんでもない。初心者ならではの誤算。
    もう、一篇目の表題作『海』から、流れる時間がとてもゆっくりになった。
    ゆっくりゆっくり、文字を追い、光景を思い浮かべ、気付けばその世界の住人になっている。

    小さな弟の奏でる架空の楽器「鳴鱗琴」・皺くちゃの50シリング札・蝶のように活字を探す手の動き・きらきら光を反射するかぎ針・カタカタと鳴るドロップ缶・様々な抜け殻とふわふわひよこ・不完全なシャツ屋に、記憶の題名屋。

    見た事のあるものも、見た事のないものも、すべてそこにある。
    小川さんの書く世界は不思議だ。

    「温かいのか冷たいのか、よく分かりません。心地よく温かいからか、あるいは逆にあまりにも冷たいからか、いずれにしても感覚が痺れてしまっているようなのです。」(80ページ)
    以前から小川作品に感じていた温度はまさにこれ。
    温かいような、ひんやりとしているような、でも振れ具合はどちらも激しくはなく、まるで人肌のよう。

    時折、無性に、この体温のような世界に浸りたくなるのです。

    • 九月猫さん
      nejidonさん、こんばんは♪

      嘘泣きまで披露してしまう小川さん愛に充ちたコメント、楽しいです(*´∀`)ノ

      小川さんのマイノ...
      nejidonさん、こんばんは♪

      嘘泣きまで披露してしまう小川さん愛に充ちたコメント、楽しいです(*´∀`)ノ

      小川さんのマイノリティを描くスタンス、本当にいいですよね。
      描かれているマイノリティにも人であれ物であれ、心惹かれます。
      読んでいると、読んでいる自分はマイノリティ側に同化しているのか、
      寄り添っている語り手に同化しているのか、わからなくなります。
      温かいと思えばひんやりとして、近くにいると思ったらするっとすり抜けられて。
      もっと浸っていたい、もう少しもう少し・・・と思った瞬間に現実に追い返されるのに、
      突き放された感じはなくて、ヘンに温かさと穏やかな静けさが残る。

      うーん、うまく言い表せませんね。とにかく不思議で仕方のない世界と空気です。
      居心地が良くて、いつまでも浸っていたくて、vilureefさんへのお返事にも書いたように
      やはりワタシも「さらり」とは読めないです(^^;)

      この本の解説に書かれていた「注文の多い注文書」がタイミングよく出たので、
      今はそちらを読んでいますが、もったいなくて毎日ちびちび読んでいます(笑)
      2014/02/05
    • cecilさん
      九月猫さんこんばんわっ!
      久しぶりに九月猫さんの本棚に遊びに来たら、素敵なレビューと本が新しく登録されていてウキウキしております。

      ...
      九月猫さんこんばんわっ!
      久しぶりに九月猫さんの本棚に遊びに来たら、素敵なレビューと本が新しく登録されていてウキウキしております。

      そして、私は海や雪などがテーマの本は素通りが出来ないのですが、この作品の存在を新たに知ることが出来て嬉しいです。
      ぜひ読んでみたいです!
      しかも、不思議な世界観のお話もあるようでとても気になります。

      ちなみに作品の評価が★4つですが、九月猫さんが★をひとつ減らした理由が気になります♪
      私も評価はその時の気分で直感的につけてしまうのですが他のレビュワーさんはどのような基準で評価されているのか気になる今日このごろです。
      2014/02/11
    • 九月猫さん
      cecilさん、こんばんは♪

      海といえば、cecilさん!
      cecilさんといえば、海! ですものね(*^ー゚)b

      他の方も...
      cecilさん、こんばんは♪

      海といえば、cecilさん!
      cecilさんといえば、海! ですものね(*^ー゚)b

      他の方も書いていらっしゃいますが、マイノリティの描き方がとても素晴らしくて、
      寄り添う視線は、優しいのにちょっとひんやりともしています。
      そういう小川洋子さんの世界がお好きそうなら、ぜひぜひ手にとってみてくださいまし♪

      ☆4つなのは、2つ目のお話がいろんな意味で「そりゃないよw」だったのと、
      ラストのお話が「いいお話」だけど余韻が残らなかったのが理由です。
      好きなお話なのですが、ラストだと物足りない感じで。
      うっすら溜まった毒を中和するのにはラストに持ってくるのがいいお話なのでしょうが、
      その毒をワタシは中和されたくなかったので(笑)

      とかいろいろ言ってみましたが、☆のつけかたはワタシも直感的です(笑)

      2014/02/13
  • 七編からなる短編集で、それぞれの違う味わいが楽しい。
    装丁は吉田篤弘さんと吉田浩美さんなのも嬉しい。
    表題作でもある「海」では、「メイリンキン」という聞きなれない楽器が登場する。
    主人公の婚約者の弟が発明した楽器で、世界で唯一の楽器であり、弟は唯一の演奏者でもあるという。
    海からの風が吹かないと鳴らないというその音色が、今にも聞こえてきそうで聞こえない。
    不思議な余韻を残す作品だ。
    「バタフライ和文タイプ事務所」という、妖しく隠微な作品もある。
    普通人の日ごろの会話にはおよそ登場することもない「子宮膣部」なんて単語が頻繁に出てくる。
    しかもその描写が実にみだらで、どうやら作者の狙いはそこにあるらしい。
    さすが、言葉を紡ぐプロだけのことはあります。見事です、小川さん。
    「ひよこトラック」と「ガイド」も、温かい「仕掛け」にしてやられるようなつくりだ。
    もう少し踏み込んだ作品をと、つい願いそうになるが、絶妙の匙加減で終わるのがこの作者らしいところ。
    さらりと読み終わります。

  • 見えない空間を、言葉で捉えていくような物語。
    ひとつのものをじっくり観察した先に見えてくる世界を描いているなあと。

  • なんとなく読みたい本が見当たらない時は小川さんに頼ってしまいます。 ひとつひとつのお話はつながっていないのですが、この収録順が素晴らしい。間で小休止のように入ってくる「缶入りドロップ」の優しさ、最後の物語「ガイド」の中での題名のプレゼントが また嬉しい。読後感も爽やかで、とても良かった。

  • 小川洋子氏の短編集。解説にもあるように多くの主人公は長い時間自分の小さな仕事の世界をひっそりと守り続けた人々。題名屋や活字管理人など不思議な職業でなかったとしても、職業というのは、その職業についていない人からはわからない謎の小世界を常に含む。たとえば、職人の手技、見たこともない道具の数々。短編小説一編ごとが小さな世界を含むように。若い頃一つの職業のワクに自分を嵌めて、その形の人間になりたいと願っていたのを思い出した。小さくとも自分の世界が欲しかったのかもしれない。どの世界も素敵だけれど、最も印象に残ったのはやはり表題作の海。小さな弟の美しい小世界。

  • 妙にリアルで、でも実際はどこにもないような風景ばかり出てくる。
    個人的に印象に残ったのは鳴鱗琴という楽器と、杖をついた題名屋が言った『思い出を持たない人間はいない』という言葉。

  • 2009年3月31日~31日。
     小川洋子って結構好きな作家なんだけど、ホームラン・バッターって感じではなく、中距離バッターって感じがする。
     感じがするって僕にとってはなんだけど。
     ドドドーンとどでかい一杯は少ないんだけど、スコーンスコーンと気持ちのいい二塁打を連発してくれるってところか。
    「ひよこトラック」と「ガイド」が特に面白かった。

  • こういう本を評価している人が居るというのが、一番勉強になった。
    熱を感じない。彼女には自分を削ってまで表現したいものがあるのかどうか。小説を書くために小説があるわけじゃない。個人的にはこれは致命的だと思う。おれは積極的に読もうと思わない。
    ただし、アイデアは面白いし、表現も、あとひよこトラックの生理的なトリハダ感は尋常じゃない。
    繰り返すが、惜しいのはそれが空っぽに感じられてしまうところだ。とはいえそれはおれの個人的な小説観。というわけで4個!

  • 2006年に刊行された小川洋子の短編集。「妊娠カレンダー」「夜明けの縁をさ迷う人々」に続いて、小川さんの短編の魅力にどんどん引き込まれていって、一気に読んだ。「夜明けの」が一編一編の長さが同じくらいで、それぞれが別個に同レベルの強烈な個性があった濃厚な印象なのに対し、本書はその表題の通り、静謐でどちらかというと透明感のあるような優しい作品が多くまた作品の長さもそれぞれであっり、この二つの本の対比が面白い。今回も登場人物達の職業が魅力的。また、この作品についての小川さんへのインタビューが最後にあったことで、より作品を味わうことができた。特に小川さんのインタビューの中で以下の答えにまた彼女とその作品たちの魅力を再確認した。
    「彼らは、自分たちのささやかな世界>を守りながら生きている。私は子供のころ、顕微鏡を覗くのが大好きだったんですが、ちいちゃな世界の中に存在する果てのない世界にすごく魅力を感じていて、多分今も、小さなものに対する好奇心が捨てきれないでいるんだと思います。小さな場所に生きている人を小説の中心にすえると、物語が動き出す感じがします(p.163-164)」←小川さんの、世界の片隅で、どんな小さな仕事でもそれを誠実に丁寧に続ける人への視線の暖かさを感じる。
    「あぁこれは小川洋子だな、って分かるような特徴や癖などはなくて、歴史的、時間的な積み重ねを経ながら、繰り返しいろんな世代にわたって読み継がれ、誰かが書いたかなんてこともだんだん分からなくなって、最後に言葉だけが残る。たとえ本というものが風化して消えていっても、耳の奥で言葉が響いている…そんな残り方が、私の理想です(p.168-169)」←謙虚さの中に記憶や失われていくものに対するこだわりを感じる。また、物語の普遍性を求めてるあたりがユング心理学的で興味深い。

著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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