生きるとは、自分の物語をつくること (新潮文庫)

  • 新潮社
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レビュー : 120
  • Amazon.co.jp ・本 (151ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215266

作品紹介・あらすじ

人々の悩みに寄り添い、個人の物語に耳を澄まし続けた臨床心理学者と静謐でひそやかな小説世界を紡ぎ続ける作家。二人が出会った時、『博士の愛した数式』の主人公たちのように、「魂のルート」が開かれた。子供の力、ホラ話の効能、箱庭のこと、偶然について、原罪と原悲、個人の物語の発見…。それぞれの「物語の魂」が温かく響き合う、奇跡のような河合隼雄の最後の対話。

感想・レビュー・書評

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  • 裏表紙にある通り河合隼雄さんの最後の対談なのだと認識して読み始めたはずなのに、終わりに差し掛かる頃にはすっかり頭の隅っこの方に追いやってしまっていたようです。「また今度」と手を振った直後に死を思い出した(?)とでも言えばいいのか、強烈な余韻の中に取り残された気分です。ハリーポッターのシリウスかダンブルドア先生かが死ぬ場面か、最終巻で夢か現か分からない状態でプラットホームで先生と話していたはずがホワイトアウトする場面か、辺りと似たような感覚かもしれません。要するに「もっと話を聞きたいのに!」「教えて下さい、どうしたらいいのか!」という気持ちの問題です。心を落ち着かせてくれる、ときにはクスッとさせてくれる、絶妙な話を展開してくれただけに。

    二人の対談の中で今の自分の心にビビッと来たのが、昔の人は死ぬことを考えていたけれど、今では生きている時間が長くなって生きることを考えるようになった、というようなくだりです。学生の間はテキトウな間隔で社会的な区切り目があったのが、大人になったら還暦辺りまではしばらくノンストップな感じがあって、イマドキお年寄りと呼ばれるようになっても大病をしない限り寿命が分からない具合になっていて、そういうことを考えてたまに広場恐怖症のような感覚に苛まれることがあります。それと同じ位、人間どれだけスケジュールが未定でも、最後の一日に死ぬことだけは決まっているという事実を唐突に考えて背筋が凍るような気分になることもあります。ただし極端に気持ちが沈んでいるというわけでもなく。でも、どちらも割と人として普通なことで、そこに伴う恐怖心が物語を生んでいるということ、そして死んでからの方が長いという表現。別に新しい言葉だったわけではないような気もするけれど、悶々としていたこのタイミングで欲しい言葉に会えた感じがして嬉しかったのです。

    後は西欧一神教の世界観の話。日本人もキッパリしている人はキッパリしているけれど、ケースごとに細かったり、自覚無く軸が曖昧だったりして、一神教の世界の人からみたときに全く一貫していないと思われてもおかしくないのでしょう。私はキリスト教に触れざるを得ない生活をしてきたからか、一時その点で馬鹿みたいに葛藤したことがありました。細々としたところにおける自己矛盾に対する罪悪感みたいなものです。変なベクトルの真面目さはもう捨てよう、とどこかで思ったもので、今では若干思考を放棄していますが。でも、とにかく言わんとすることがよく分かった分、印象に残る話でした。尻つぼみ気味に終わっておきます。いくらでも対談に混ざり込んで傍で勝手に適当に雑談する感じで、ペラペラ話せそうですが。

  • 硬くなった心や頭をゆっくりとほぐして深く考える時間をもたらしてくれた1冊。
    何気なく手に取ったので、河合隼雄さんの最期の対談であったことも読み始めてから知りました。
    河合さんと小川さん、お二人の温かさと穏やかさがほくほくと感じられ、まるでお風呂に入っているような気分になりました。

    ですが、内容は穏やかなものばかりではありません。
    箱庭療法、御巣鷹山の飛行機墜落事故やアウシュビッツ、信仰、秘密を守ること…。
    そういった話題についての会話がやさしい言葉ですぅっと読み手の中に入ってきて、ゆっくりととどまる。
    それらはきっと、長い間とどまって、じわじわとにじみだすように後から効いてくるような気がします。

    村上春樹さんと河合さんの対談は私にはなかなか難しかったのですが、本書は私にちょうどよい感じでした。
    またいつか読み返そうと思います。

  • 河合隼雄さんと小川洋子さんの対談集+小川さんによる長いあとがき。
    というのも、本来はもう少し対談の章が続くはずだったのが、それが実現しないうちに河合先生が亡くなってしまい、最後が追悼文的あとがきになったのだとか。

    河合隼雄さんはユング分析心理学の第一人者で、臨床心理学者。著書や色んなジャンルの人との対談集も数多く出していて、私は20代半ばくらいまでのとても深く悩んで病んでいた時期に、河合先生の本にものすごく救われた。
    元気になるにつれて本を開くことは減っていって、この対談集は本当に久しぶりに読んだ河合先生の言葉だったけれど、心がそれなりに元気なときに読んでも自分の中に深く残るものはたくさんあった。
    小川洋子さんの著書「博士の愛した数式」にまつわる対話も多く、この小説を読んだ人なら楽しく読めると思う。

    人間は、辛いこと悲しいことも経験しながら生きていく。そこにはなかなか乗り越えられない出来事もあるし、思いを引きずったまま生きていくこともある。
    そうだからこそ、人は自分の人生を物語化して、整合性をつけようとする。
    「ああいうことがあったから、今の自分がある」と思ったりする。人生のひとつひとつが分離したものと考える人は少なく、多くの人はすべて繋がっているものと捉える。
    「どうして小説を書くのか」と問われたときしっくりくる答えを出せなかった小川さんが、物語を紡ぐ意味に気づいた瞬間の話がとても興味深かった。

    素人でただ趣味で物を書いているような私でさえ、とりわけ長い文章を書いてそれを人に読んでもらって、その人に言われたことで物語の中で起きている偶然の奇跡に気づかされることがある。
    意識ではなく、何かに導かれたような偶然。
    だからこそプロの物書きである小川さんがそういう偶然に触れることはたくさんあるはずで、理屈では説明できないところに物語の面白さがあるのだと思った。

    ユング心理療法の「箱庭」、実は私も中学時代の不登校だったときにやったことがある。その時は、こんなもので何が分かるんだろう、と思っていたけど、きちんと意味があって見方があることを、つくづく知る。
    昔読んだ河合先生の著書を、今一度読んでみようかと思った。

  • 小説家・小川洋子さんと心理療法家・河合隼雄氏との対談。

    河合先生は本当に様々な人と対談されている。先日読んだ、松岡和子さんとのシェークピア対談のときは、登場人物を心理分析するといった対談だったけれども、今回の小川洋子さんとの対談は、どちらかというと「小説家」と「心理療法家」の共通点を発見する対談だったように思う。

    二部構成の最初は、小川さんの代表作「博士の愛した数式」をめぐっての語り合いだ。河合先生がもともと数学科の出身で、数学の教師もされてたというから、河合先生は、博士の立場やその教え子ルート君の立場になって、この小説を語っている部分も多い。

    第二部は、まさにこの本のタイトルどおり「生きるとは、自分の物語をつくること」ということについて両者は意見が一致している。

    生きることに意味を見出すことができなくなったクライアントが河合先生の箱庭療法で、自分の生を表現したり、クライアントが箱庭をつくっていく過程で、人生をを蘇生していく様子が語られている。箱庭づくりは、自分の物語をつくることと言える。

    一方、小川さんは「自分は小説家だから小説を書いているのではない」とあとがきで独白している。「誰もが生きながら物語を作っているのだとしたら、私は人間であるがゆえに小説を書いている。」と語り、「世界中にあふれている物語を書き写すのが自分の役割」とも語っている。

    二人の対談者の共通点は、「生きる」ことを支える人であるということだろうか。

    この二部の対談の直後に、河合先生がお亡くなりになられたようで、小川さんのあとがきは、河合先生を忍びやや長めの内容となっている。共通点のあるお二人の対談をもっと深めてほしかったような気がする。

  • 博士の愛した数式を、読んでから読みましょう。

    • naosampoさん
      期待外れだったのかな。(^^)
      期待外れだったのかな。(^^)
      2017/05/03
  • ブクログ談話室でオススメしていただいて読了。
    恥ずかしながら河合隼雄さんの存在を初めて知ったのですが、こんなにも真の意味で人は暖かくなれるのかと、その功績に触れてみたいと思う。ご存命でないのが非常に残念。
    ありのままに、死をも受け入れて生きていけば人はもっと優しくなれる。あなたも死ぬし、わたしも死ぬ。当たり前のことなのに、改めてその事実を受け入れて生きていきたいと願う。
    何かにつまづいている時にゆっくり読みたい本。

  • 『心音を聴きながら』

    少し前に私は小川洋子を病室で昔話を聞かせてくれるとおばあさんのようだと言い表したことがあった。言葉少なくでも芯のある声で、見たこともない世界の話をたくさんしてくれる、死を間近にしたおばあさん。私はその時いつも5、6歳の幼い少女で、長い長い坂を登ってそのおばあさんに会いに行っていた。

    その小川さんが私のように5、6歳の少女になって会いに行っていたのが河合隼雄さんなのだと思った。河合さんの前にいる小川さんは幼くてなにも知らない、無垢な少女だった。今日あったことを一生懸命話して、興味のあることを突然話して、おじいさんを困らせたり。そんな風に感じた。

    決して、わかった気にはなっていない。だけど、小川洋子という人について少しだけ深めることができた。ああやっぱり、この人は宗教に近しい人だった。人のたくさんの人の死に関心がある人だった。そして、他人の背中に悲しみを分かち合える人だった。私の中で、染み込んでいくようにたくさんのああという理解が綺麗に落ちていった。

  • 作家、小川洋子と河合隼雄の対談集。

    対談は終わっても終わりではなく、また次に会うときに二人の会話はまた始まるんじゃないかと思う。

    次は会えないこともあることを人は知っていながら、忘れてしまう。この本を読んで、河合隼雄さんはもうこの世にいないことを想った。人が死ぬということは、その人からもう言葉や物語が生まれないということなのだと思った。

    その人の言葉、物語が自分の手の中に重さを持って存在している本もその人の物語と一緒に生きていくもの。

    ネットの中にあれば、ものとしての本はいらないのではないか、そして場はいらないのではないか・・そうした問いへの合理的な答えは分からないし、説明したいとも思わない。

    自分の手の中にある本が存在していることの意味を自分が感じるだけ、ただそれだけでよいのではないかと思う。

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    印象に残った言葉

    ・『臨床心理のお仕事は、自分なりの物語をつくれない人を作れるように手助けすること。小説家が書けなくなった時に、どうしたら書けるのかともだえ苦しむのと、人が「どうやって生きていったらいいのかわからない」と言って苦しむのとはどこかで通じあうものがある。』(小川洋子)
    ・やさしさの根本は死ぬ自覚(河合隼雄)

    私も死ぬし、目の前の人も死ぬ。
    明日がその終わりかもしれない。そうした当たり前のことを自覚しているだけで、かかわり方は変わるんだと思う。

  • 河合さんの、カウンセラーとしての人への接し方にはだいぶ学ぶことがある気がした。助ける者が強すぎてはいけない、結論をだすのを急がずに寄り添うという在り方。

    また、物語とは、人が矛盾との折り合いをつけるときに人の支えとなるもの、という話が興味深かった。

    20180913再読

    物語とは、こうだったらいいなとか、こういうつらいことにもこんな意味があるかもしれないとか、こういう考え方や対処もあるとか、こんなことを信じたいとか、色々な思いを重ねうるものかなあ、と思った。

  • 2014年52冊目。

    『博士の愛した数式』著者の小川洋子さんと、ユング派心理学や箱庭療法の日本での第一人者・故河合隼雄さんの対談。
    人間の深層に降りていくことの意味を分かっている人同士で、絡み合いが絶妙。

    「人は生きていくうえで難しい現実をどうやって受け入れていくかということに直面した時に、それをありのままの形では到底受け入れがたいので、自分の心の形に合うように、その人なりに現実を物語化して記憶にしていくという作業を、必ずやっていると思うんです。」

    物語は過去に対してだけ効果のあるものではないと思う。
    人間誰しもにある暴力性を、物語を書く・読む中で実現させることで、現実世界をやり過ごすことができる、そういう未来性もあるのだと。

    「物語」、この言葉をまだまだ追求していきたい。

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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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