生きるとは、自分の物語をつくること (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (151ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215266

感想・レビュー・書評

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  • 『心音を聴きながら』

    少し前に私は小川洋子を病室で昔話を聞かせてくれるとおばあさんのようだと言い表したことがあった。言葉少なくでも芯のある声で、見たこともない世界の話をたくさんしてくれる、死を間近にしたおばあさん。私はその時いつも5、6歳の幼い少女で、長い長い坂を登ってそのおばあさんに会いに行っていた。

    その小川さんが私のように5、6歳の少女になって会いに行っていたのが河合隼雄さんなのだと思った。河合さんの前にいる小川さんは幼くてなにも知らない、無垢な少女だった。今日あったことを一生懸命話して、興味のあることを突然話して、おじいさんを困らせたり。そんな風に感じた。

    決して、わかった気にはなっていない。だけど、小川洋子という人について少しだけ深めることができた。ああやっぱり、この人は宗教に近しい人だった。人のたくさんの人の死に関心がある人だった。そして、他人の背中に悲しみを分かち合える人だった。私の中で、染み込んでいくようにたくさんのああという理解が綺麗に落ちていった。

  • 作家、小川洋子と河合隼雄の対談集。

    対談は終わっても終わりではなく、また次に会うときに二人の会話はまた始まるんじゃないかと思う。

    次は会えないこともあることを人は知っていながら、忘れてしまう。この本を読んで、河合隼雄さんはもうこの世にいないことを想った。人が死ぬということは、その人からもう言葉や物語が生まれないということなのだと思った。

    その人の言葉、物語が自分の手の中に重さを持って存在している本もその人の物語と一緒に生きていくもの。

    ネットの中にあれば、ものとしての本はいらないのではないか、そして場はいらないのではないか・・そうした問いへの合理的な答えは分からないし、説明したいとも思わない。

    自分の手の中にある本が存在していることの意味を自分が感じるだけ、ただそれだけでよいのではないかと思う。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    印象に残った言葉

    ・『臨床心理のお仕事は、自分なりの物語をつくれない人を作れるように手助けすること。小説家が書けなくなった時に、どうしたら書けるのかともだえ苦しむのと、人が「どうやって生きていったらいいのかわからない」と言って苦しむのとはどこかで通じあうものがある。』(小川洋子)
    ・やさしさの根本は死ぬ自覚(河合隼雄)

    私も死ぬし、目の前の人も死ぬ。
    明日がその終わりかもしれない。そうした当たり前のことを自覚しているだけで、かかわり方は変わるんだと思う。

  • 河合さんの、カウンセラーとしての人への接し方にはだいぶ学ぶことがある気がした。助ける者が強すぎてはいけない、結論をだすのを急がずに寄り添うという在り方。

    また、物語とは、人が矛盾との折り合いをつけるときに人の支えとなるもの、という話が興味深かった。

    20180913再読

    物語とは、こうだったらいいなとか、こういうつらいことにもこんな意味があるかもしれないとか、こういう考え方や対処もあるとか、こんなことを信じたいとか、色々な思いを重ねうるものかなあ、と思った。

  • 2014年52冊目。

    『博士の愛した数式』著者の小川洋子さんと、ユング派心理学や箱庭療法の日本での第一人者・故河合隼雄さんの対談。
    人間の深層に降りていくことの意味を分かっている人同士で、絡み合いが絶妙。

    「人は生きていくうえで難しい現実をどうやって受け入れていくかということに直面した時に、それをありのままの形では到底受け入れがたいので、自分の心の形に合うように、その人なりに現実を物語化して記憶にしていくという作業を、必ずやっていると思うんです。」

    物語は過去に対してだけ効果のあるものではないと思う。
    人間誰しもにある暴力性を、物語を書く・読む中で実現させることで、現実世界をやり過ごすことができる、そういう未来性もあるのだと。

    「物語」、この言葉をまだまだ追求していきたい。

  • 河合隼雄先生との対談をまとめた本書。河合先生が亡くなられたことで未完に終わっているのが唯一残念だが、タイトル通り「物語」が持つ意味や力、日本とキリスト教世界での生きることの意味など深く広い知識と、臨床心理の現場の経験から生み出される言葉は、学ぶことがとても多かった。
    また、小川洋子氏の小説を河合先生が読み解くところでは、小川氏の知らないところで様々な偶然が小説の中で起こり、彼女の意図を超えたところで物語が勝手に動いていることも面白い。作家の意図を超える解釈の自由は許されるのだ!これがユングの集合的無意識というものなのか。無意識から汲み取られる物語。

  • 臨床心理学の河合氏と作家の小川氏の対談2篇(初出は2006年、2008年に雑誌に掲載)を収録。長い「あとがき」を含めても、160ページに満たない。だから、買って手元に置くというよりも、待合室などに置いてあるのを手にとって、ぱらぱらとめくって目にとまったところから読み始めるような、そんな手軽な造りの本です。(文庫本ではなく、単行本で読みました)
    でも、生き方や哲学に通じる内容が込められていて、じんわりと心にしみてくる場面もあります。
    臨床心理の専門家は、人が「物語」をつくりながら生きていることに気づき、その「物語」を大切にして治療していきます。
    小説家は、「誰もが生きながら物語を作っているのだとしたら、私は人間であるがゆえに小説を書いている」ことに気づきます。
    寄り添うことの難しさ、大切さに気づかされる、一冊です。

  • 書店でパラパラめくって、小川洋子氏の対談相手の河合隼雄氏って文化庁長官だったんだ~にしては、ユーモラスでやわらかい受け答えで興味深い!と購入。

    河合「僕のいい方だと、それが個性です。『その矛盾を私はこうして生きました』というところに、個性が光るんじゃないかと思っているんです」
    小川「矛盾との折り合いのつけ方にこそ、その人の個性が発揮される」

    両者の視点が独特でさらさら読める。う!と読み返す、気付きも与えてくれた。
    河合氏の言葉はえらぶっているところが一切、ない。経験と心根が、豊富な語嚢の中からひとつ言葉として相手に届くように、送りだされるんだ。読んでて透かして見えたのは、河合氏が対面した患者さんたち。そう感じる箇所がいくつもあって、亡くなられていることがとてもとても残念で惜しすぎる。
    昨年の震災から1年過ぎての今、言葉が欲しかった。

    よしもとばななさんや村上春樹さんとの対談集もあるそうなので、是非読みたい。
    小川氏の「少し長すぎるあとがき」は、言葉を相手にする人ならではの河合氏への愛情に溢れている文章で、ついつい涙。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「昨年の震災から1年過ぎての今、言葉が欲しかった。」
      そうですよね、鼓舞しない、頑張り過ぎない、人に寄っては不謹慎に思われるかも知れないけれ...
      「昨年の震災から1年過ぎての今、言葉が欲しかった。」
      そうですよね、鼓舞しない、頑張り過ぎない、人に寄っては不謹慎に思われるかも知れないけれど、多くの人が「それで良いんですよね」と、ホっとしただろうと想像しています。
      2012/08/03
  • 「のぞみがないときはどうするんですか。」
    「のぞみがないときはひかりです。」
    「あっ。のぞみの次はひかりだ。」
    「こだまが帰ってきた。」

    深いなぁ。

  • そう。「個」というものは、実は無限な広がりを持ってるのに、人間は自分の知ってる範囲内で個に執着するからね。私はこういう人間やからこうだとか、あれが欲しいとか。「個」というのは、本当はそんな単純なものじゃないのに、そんなところを基にして、限定された中で合理的に考えるからろくなことがないんです。前提が間違ってるんですから笑


    日常の中で、何気なく人を励ましてるつもりでも全然励ましたことにはなってなくて、むしろ中途半端に放り出してるってことがあるんでしょうね。
    それはつまり切ってるということです。切る時は、励ましの言葉で切ると一番カッコええわけね。「頑張れよ」っていうのは、つまり「さよなら」ということです笑

  • 私がその域に達していないのか、
    なんだかあんまりしっくりこず。

    宗教や日本のルーツがお二人の経験談と絡み合う。

    様々な信仰対象や歴史的背景があって
    今の我々が形成されているんだから
    しっくりこなければいけない気がするんだけど、
    言語化できぬ。。

    河合先生の「望みを失わず傍におれたら、もう完璧」がよかった。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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