いつも彼らはどこかに (新潮文庫)

著者 : 小川洋子
  • 新潮社 (2015年12月23日発売)
3.45
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  • 本棚登録 :361
  • レビュー :37
  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215273

作品紹介・あらすじ

たっぷりとたてがみをたたえ、じっとディープインパクトに寄り添う帯同馬のように。深い森の中、小さな歯で大木と格闘するビーバーのように。絶滅させられた今も、村のシンボルである兎のように。滑らかな背中を、いつまでも撫でさせてくれるブロンズ製の犬のように。――動物も、そして人も、自分の役割を全うし生きている。気がつけば傍に在る彼らの温もりに満ちた、8つの物語。

いつも彼らはどこかに (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 時間を忘れて一気に読破したくなるサスペンスフルな小説もいいけど、
    不思議でシュールでユーモラスな1つの短編の世界に
    1日の終わりにじっくりと浸るのも読書の醍醐味だ。

    本書はまさに寝る前に1話ずつ
    ゆっくりと読んで欲しい短編集。


    たちまち非日常にさらってゆく魔力と甘美な陶酔。
    残り香のように漂う異国情緒。
    小川作品に顕著な、
    物語の中、息を潜めた死の匂いとうっすらとした狂気。

    どの話も様々な動物たちをモチーフに、
    そこにしか居場所のない
    小さな場所に生きている人を描いている。


    スーパーマーケットで試食品のデモンストレーションガールをする女性は
    狭いモノレール沿線から抜け出せない自分の心情を、
    フランスの凱旋門賞に向かうディープインパクトの帯同馬ピカレスクコートに重ねて彼の無事を祈る
    『帯同馬』、

    交流のあった異国に住む翻訳家の死を機に
    彼の息子とその恋人に会いに行く小説家の「私」。
    ビーバーの小枝を登場人物に見立てて翻訳作業にかかるシーンが詩情に溢れ心に残った
    『ビーバーの小枝』、

    ドールハウスを作ることに没頭する引きこもりの妹と
    それを支え手助けする兄と祖父。
    まるでラッセ・ハルストレム監督の「ギルバート・グレイプ」や
    クレイグ・ギレスピー監督の「ラースと、その彼女」、
    若きジョニー・デップとメアリー・スチュアート・マスターソンの「妹の恋人」などを彷彿とさせる
    微笑ましく暖かな世界観がかなりツボだった
    『愛犬ベネディクト』、

    何かしらの理由で旅ができない人のため、身代わりとなる品をガラス瓶に入れ、依頼主に成り代わって指定のルートを巡る仕事をしている女性。
    幼くして亡くなった弟への美しい思い出を胸に旅をする彼女がどこか哀しい
    『竜の子幼稚園』

    などが特に印象的だった。


    それにしても小川洋子の物語る腕力、恐るべし!

    試食品を食べに毎日スーパーマーケットに現れる嘘つきな小母さんや
    仕事の帰り道にアイスクリームを買って食べることを唯一の楽しみにしている売店のおばさんの孤独に胸を打たれ、

    「ハモニカ兎」で野球というスポーツを初めて見た人たちの反応に笑い、

    落丁本だけを扱う「落丁図書室」に心ときめき、

    自分の誕生日と同じ日付の賞味期限が記された食品を宝箱にコレクションする男の子にシンパシーを感じ、

    寄生虫に侵された蝸牛が床中を這い回るシーンのホラー的展開に戦慄を覚え、

    旅ができない依頼人の身代わりをガラス壜に詰め、各地を旅する仕事には
    果てしない浪漫を感じて、
    しばし僕自身、この物語の奇妙な登場人物たちと
    一緒に旅をした気分に浸ってしまった。


    そして、なんと巧みな想像力なのだろう!
    ページをめくるたびに
    異国の御伽噺を読んでいるかのような錯覚に陥ること必至の極上の心地良さ。


    メールや電話なんか無視してベッドに潜り込み、
    1日の終わりに本書を慈しむようにめくる幸せは
    何ものにも代え難い至福の時を約束してくれる。

    • 円軌道の外さん
      kwosaさん、あったかいコメント(ラブレター笑)ありがとうございます!
      一か八かで、
      ちょっとキツい言い方かな~っと思いながらも、
      コメントに強いメッセージを込めたんですが、
      ちゃんと胸に届いたなら
      ホンマに良かったです。

      僕も取り敢えず声が聞けたことに、ホッとしています。
      (僕は僕で、僕からのコメントを読んだことによって、逆にkwosaさんから返事をくれなくなるんじゃないかって、内心ドキドキでした汗)


      ん~、やはり、そうですか…。
      僕と同じくkwosaさんもある日突然、書けなくなってたんですね。
      まろんさんの離脱は僕も正直ショックでしたね…。
      いなくなってからも何度もコメント書いたし、
      マメにポチしに行ったり、
      僕なりに努力はしてみたんですが、
      今のところ、成果は出ていません。

      まろんさんがここを去っていった気持ちは、なんとなくですが分かってるんです。
      それだけになんだかな~って、ツラい気持ちになります。

      以前kwosaさんに
      レビューを書くに際して
      気をつけてることをお互い話したことを覚えてますか?

      ネットで繋がるって、
      顔や姿が見えないから、
      普通の出会いよりも簡単に
      知らない人とお近づきになれるんです。

      そして話をして、言葉を何度も交わすことによって、
      信頼が生れる。

      そこは現実のリアルな世界と同じ流れなんだけど、
      難しいところは、
      ネットだから、
      『繋がることをいつ止めてもいいという点』。

      それは、ネット社会の利点であり欠点でもあって、
      簡単に繋がれる分、
      やはり簡単に切れちゃうんですよね。

      だからまず、ネットの中で誰かと繋がることを望むなら、
      ここを理解した上で、
      (離れていくのは仕方がないということ)

      ロボットや2次元の世界のキャラとではなく、
      今繋がっている相手は、
      自分と同じように血が通った生身の人間だということを常に意識して、頭に置いて、
      コミュニケーションをとることが大事だと思うんです。

      まぁ、当たり前のことを言ってるんだけど(笑)、
      じつはみな、分かってないんです。

      人と繋がることや信頼を築くことは
      本来大変で困難なことなんやけど、
      そこだって忘れてるんです。
      ネットではすべてが簡単に済んじゃうから。

      誰もがどこかで、ネットだから気楽にやればいいとか、
      ネットだから人に気を使わなくても許されるとか(笑)、
      相手が生身の人間だということをやっぱ
      忘れがちになるんです。

      人間関係を築くのに、
      ネットもリアルもないし、
      ちゃんと心と心のやりとりを僕はしていきたい。

      心で返してくれた人には
      礼を尽くして、真摯な対応したいですもん(笑)

      去っていく人たちがいるのは仕方がないことだけど、
      繋がる以上は相手が生身の人間だということを
      常に頭に置いて、
      不義理なことはしたくないし、
      ちゃんと心通わせていきたいですよね。


      つか、めっちゃ長くなってしまったッス!(^_^;)

      2018/01/22
    • 円軌道の外さん
      ということで、2つに返事分けて書きますね(笑)
      (つか、相も変わらず、言いたいことを簡潔に書けなくてすいません!)

      あと、基本的な本が読めない問題とか、
      精神的なストレスや仕事や環境の問題とか
      ブクログを離れる要因はいろいろあるだろうけど、

      僕が自分のことは棚に上げて(笑)、
      師匠であり、ライバルだと勝手に思ってる(笑)kwosaさんに言いたいことは、
      簡潔に要約すると、



      それだけいい文章が書ける人が
      何を言ってんですか!



      です(笑)。もうそれに尽きます。

      望むにせよ、望んでないにせよ、
      kwosaさんは人を惹き付ける言葉や文章を書ける人なんです。
      それって誰もができることじゃないんです。

      それは、生まれもった才能かもしれないし、育ってきた環境によって自然に身に付いたモノかもしれない。
      僕がkwosaさんのレビューからいつも感じるのは、
      小川洋子や川上弘美や皆川博子なんかと同じく、
      人間としての品の良さです。

      それがあるから、淫らなことや汚い言葉や(笑)、厳しいことをたとえ書いたとしても
      品性を失わない育ちの良さ、人間としての懐の深さを感じるんです。
      だから読んだ人を嫌な気持ちにさせない。
      それってある意味、特殊な才能ですよ!(笑)


      それってkwosaさんの生きてきた人生が投影された
      kwosaさんだけの文体なわけです。
      真似したくても、どうあがいても、
      僕にはできないし、そんな風には書けない。

      kwosaさんに憧れてきた僕からしたら、
      本当に悔しいことですけどね(笑)

      だから、書くことや、
      誰かに何かを伝えることを
      簡単に放棄することだけはしないでください。

      書くことを止めるということは
      誰かに何かを伝えることを諦めることと同じだし、
      声を出すことを止めるに等しいんです。

      僕らはプロの物書きじゃないし(笑)、
      たかが趣味の場で、
      熱くなり過ぎって思われるかもしれないけど、
      人間って弱いから
      声を出すことを止めると
      その先、ずっと諦めて、
      いざ、声をあげたくても出し方が分からなくなる。

      書くことを止めると
      今度は書きたくても二度と書けなくなっちゃう。

      要は生き方の問題です。
      誰かと繋りたけりゃ、声を出し続けなきゃいけないし、
      諦めの人生を歩みたくなけりゃ、
      今諦めたら、そこでおしまいなんだと思うんです。


      はからずも、なんかどっかの漫画で聞いたことのある台詞になっちゃったけど(笑)、

      kwosaと僕がライバルだと勝手に仮定するなら(笑)、


      僕がハックルベリー・フィンなら、
      kwosaさんはトム・ソーヤだし、

      僕が和也なら、kwosaさんは達也だし、

      僕が行天なら、kwosaさんは多田だし、

      僕が力石なら、kwosaさんは矢吹ジョーだし、

      僕が助六なら、kwosaさんは八雲師匠だし、

      僕が小次郎なら、kwosaさんは武蔵だし、

      僕がドクター・キリコなら、
      kwosaさんはブラック・ジャックだし、

      僕があたるなら、kwosaさんはラムちゃんなわけですよ(笑)


      最後はちょっと違うか(笑)


      つまり、ヒーローは何度だって、
      立ち上がるんです。
      立ち上がらなきゃならないんです。


      kwosaさんには、望むにせよ、望まないにせよ、
      待っててくれる人がいて、
      kwosaさんのレビューを読んで
      本に興味を持って、
      そこから読書に目覚めていくきっかけになった人もいるわけですよ。

      だからヒーローでいてください。
      僕の師匠であり、ライバルでいてください。


      今は雌伏の時です。
      バネは最も縮められたときに最大の反発力を発揮します。
      だからこれからが逆襲のときです。

      kwosaさんの生きてきた人生を見たいし、
      見せてください。
      (音楽レビューももっと書いて欲しいな)


      やっぱりバカ長い文章になったけど、
      (そしてやはりラブレターですね、これは笑)


      届いてるかな。

      届いて欲しいです。



      2018/01/22
    • 円軌道の外さん
      hotaruさん、遅くなりましたが、
      たくさんのいいねポチとコメントありがとうございました!

      あっ、お気遣いも恐縮です!
      今週は東京は久びさに大雪が降ってうちの町でも
      25センチほど積りました。
      僕は昼間は便利屋の仕事をやっているのですが、今週は雪かきの依頼や夜逃げの引っ越し仕事や遺体の出た部屋の掃除など、かなりバタバタと忙しくしてました。

      そうですね。小川さんの作品に纏う、独特の雰囲気や空気感が僕は好きなので、
      実はストーリーは二の次なんです(笑)
      よしもとばななさんや吉田篤弘さんもそうなんですが、
      文体や世界観に惚れている作家は、
      もう読んでいる間は幸福感に包まれているので(笑)、
      それだけで充分満足しちゃうんですよね。

      あと、小川さんは映像喚起力に優れた作品を書くので、
      イメージの世界に浸りやすいってのもあるのかな。
      妄想しやすいから現実逃避にはもってこいの作家だと思います(笑)

      いやいや、ふだんから誉められ慣れてないので
      ホンマ恐縮です!(汗)

      まぁ、そんなこんなでボチボチやっていくので
      今年もよろしくお願いします!

      2018/01/28
  • 今まで読んだ中で1番静かな作品だった。いつもより重く深く静か。ページをめくる音すらたてたくない。深夜ひとりでただただ読んでいた。風の音や鳥の羽ばたく音、そしていつもどこかにいるであろう彼らを感じながら。

    3話目まで正直きつかった。面白くないわけではなくきつかった。なかなか浮上出来なくてもがいている感じ。特にハモニカ兎は…。4話目から話に入り込めて楽しめるようになった。
    「目隠しされた小鷺」と「愛犬ベネディクト」がとても好き。

    「帯同馬」
    帯同馬と言うのがあるという事を初めて知った。その立場、その役割、重要だけど切ない。そして帯同馬としてなら遠くに行けるかもしれないと考える彼女の事も切なく思う。
    「ビーバーの小枝」
    ビーバーの頭蓋骨が送られてきたらびっくりするだろうな…小説家のように大切に使っていけたらいいなぁ。
    「ハモニカ兎」
    寂しそうなハモニカ兎。うさぎの話は楽しい話がいいと思う私はわがまま。この村にくるオリンピック競技については笑えた。盗み…確かに。
    「目隠しされた小鷺」
    美術館の受付女性と移動修理屋アルルの老人、画家Sと魚屋の女主人、移動修理屋アルルの老人と『裸婦習作』の関係が好き。
    どの関係にもはっきりとした決着はなく色んな事を想像してはため息をつく。
    「愛犬ベネディクト」
    『ええ、いいのです。いつまででもいいのです。私の背中はそのためにあるのですから』ベネディクトの背中を私もいつまででもなでたい。
    ベネディクトは生きていてこの話は全部本当の話、そう思わせる力が小川洋子さんにはある。
    「チーター準備中」
    hを亡くした女性がhを求め探している姿が切ない。いないものを誰よりも大切に思える人。
    「断食蝸牛」
    この話は苦手。想像したら鳥肌が立ちそうだから。ひゃー。
    「竜の子幼稚園」
    身代わり旅人、何らかの理由で旅ができない人の代わりに旅をする仕事。素敵な職業だ。身代わりガラスの中に依頼人から預かった物を入れて旅をする。
    代わりに旅をしているのではなく、その人に付き添って旅をしているのだと思う優しい彼女の今回の旅は何処へ…妄想に耽ったまま読了。

  • 身近にある動物たちを、ひっそりとモチーフにした短編集。

    メインを人の想いや人生に置き、そこに寄り添うように様々な価値で動物たちを忍ばせ、悲しい寂しい話も充実した読後感を演出しているように思う。

    不在なるものを想うことによる、人生が紡いだ物語、ここに極まれり、という感じかな。

    この作品の中に潜む静謐な世界観も含めて、言葉はいらない、ぜひ読むべし。

    小川洋子さんの持つ、世界観の演出、いろいろんな世界があって、読むたび楽しませてくれる。

    さて、次は。

  •  8編からなる短編集。
     動物に関連する内容の短編が収録されている。
     ジーンとくるものもあれば、後味のよくないもの、現実から少し離れたもの、と様々。
     僕の一番のお気に入りは「竜の子幼稚園」と「断食蝸牛」で、これらはジーンとくるものと後味のよくないものになる。
     小川洋子さんの作品としては、本作は僕との相性はよくなかったようで、いまひとつ面白みに欠けた内容だった。

  • 17/11/16 (80)
    どよーんとした空気感でやるせなくてさびしい感覚。ひとが見ていないところを小川さんは見ているんだなあと『帯同馬』を読んで思った。
    後ろにいくほど話がわけわからなくなってきて、私のあたまでは理解できなかった。

  • ランチタイムに、自分の席で、近くの小さな公園で、
    一人で食べにきたお店で、少しずつ読み続けた本
    短編集なので、ちょうど良い感じで短い時間に読めた

  • 久し振りに小川洋子さんの短編集を読む。

    動物が何らあの形で係る連作集なのだが、例えば看板の兎に拘る登場人物にウソっぽさを感じてしまった。日本ではなく、かといって特定の外国でもない不思議な場所は「ブラフマンの埋葬」でもそうだったが、この作品集ではなぜか醒めてしまった。

    (引用)
    …世の中には目隠しの似合う人と似合わない人がいるのかどうか分からないが、間違いなく老人の顔にそれは上手く馴染んでいた。小鼻の出っ張りと縁のカーブがずれることなく重なり合い、前方に突き出した大きな耳が紐をがっちりと支え、禿げあがった青白い額が、黒い色を特別に引き立てていた。

    ディティールを重ねていく小川洋子節を堪能するところもあった。こういう細部の描写が却って、何かの欠落を際立てているような気もする。

    「断食蝸牛」は、小川さんってやっぱり変な人だなと思った一編。
    「ビーバーの小枝」が一番しっくりきた。

    やっぱり、小川洋子さんはちゃんとした小説を読もうかな。

  • しっとり不思議な感覚になる短編集。美術館にくる修理屋はちょっぴり苦手。なのにクセになる。何だかいけない気持ち。帯同馬に思いを馳せた。

  • 短編集。小川洋子は小説を読むという行為について深く考えさせられる作家である。内容に意味は無いし、不条理だし、所謂面白さとも無縁。
    無意味だからこそ手に取りたくなる。

  • 動物に抱く無垢さや純粋さなんてものは人間が勝手に思っていることで実際のところ動物がそうであるかどうかは永遠に知ることがない しかし私たちから見る動物はやっばり永遠に無垢で純粋であるのだと思う ブロンズの犬や看板をかける兎の命の宿っていないものでも小野洋子さんにかかればまるで生きていて意志を持っているよう どんなものでも体温を持たせてしまう このあちこちに与えられた温かさが読んでいる間の安心感の正体だと思う 温かいもの命を宿しているもの宿さたものはどれも美しいということ 道端の石ころも誰かにとっては体温があり美しいものなんだろう

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