セント・メリーのリボン (新潮文庫 い 40-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101218120

感想・レビュー・書評

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  • 確か、何年か前、病気でお亡くなりになった作家の作品。つまり、この人の作品は増えることがないということ。なかなかファンも多かった作家だけに、残念です。わたしも、今回読んでファンになりました。

    さてこれは「焚火」「花見川の要塞」「麦畑のミッション」「終着駅」「セント・メリーのリボン」の5作が入った短編集です。
    あとがきに「男の贈り物を共通とする主題とした」とある作品集だけに、それぞれの作品で確かに様々な贈り物が出てくる。


    「焚火」ではやくざに追われる主人公の男に、焚火をしていた老人から焼きたての芋とハムが。
    「花見川の要塞」ではフリーカメラマンの男が、ある日花見川付近で見かけた老婆と少年から、第二次世界大戦中のある作戦に参加できるというプレゼントが。
    「麦畑のミッション」では同じく第二次世界大戦中、今度はイギリスで暮らす少年の元に、その父が自分の乗る爆撃機を着陸させるクリスマスプレゼンとを。
    「終着駅」では東京駅で赤帽をしている弟から、やくざから奪った億単位の金が詰まったボストンバックが。
    「セント・メリーのリボン」では、全盲の少女に盲導犬が。

    全てどこか懐かしい、少年の日の田舎の空気が漂う、最後はほんのりとした気持ちになる作品ばかりです。
    この作者が狩猟をする人らしいので、その影響ででしょう。狩猟を行う登場人物が多いこと、そして犬が主人公に匹敵する重要さで出てくる場合が多いことが特徴的。
    わたしは短編は食い足りなくてあまり好きではないのですが、この中で「花見川の要塞」「セント・メリーのリボン」がお気に入りです(それ以外はいかにも短編といったかんじで、少し最後が物足りない感じがしたのです)。

    どちらかというと都会育ちの若者によりは、田舎に育った年輩の人とかの方が、この作品に漂う雰囲気は懐かしく感じ、切ない気持ちになれて、いいのではないかと思います。もちろん若い人でも、ハードボイルドな主人公の男気を感じるにはいい作品です

  • 2012年7月9日読了。「このミステリーがすごい!」1994年度の第3位の作品。猟犬専門の探偵・竜門が盲目の少女のために盲導犬を探すハードボイルドな表題作に加え、「男の贈り物」をテーマにした(この台詞を恥ずかしがらずにズバッと言うあたりが著者のダンディズム)短編を収録。冒頭の短編から「焚火」ときた、男には夜の森奥と焚火とバーボンと燻製と忠実な犬がよく似合う。大きな謎や痛快なアクションがあるわけではないが、穏やかにじんわりとしみわたるような語り口が心地よい、まさに大人の男のファンタジー小説だ・・・。「狩猟」ってそんなに楽しいものなのかねえ。

  • 表題作が素晴らしいです。
    昔,大好きな人にこの本をプレゼントしたことを懐かしく思い出します。

  • 表題作が素晴らしかった。あと『花見川の要塞』が幻想的で好み。

  • 【4/29】近所の公共図書館で見つけたので借りてきた。「誇り高き男の、含羞をこめた有形、無形の贈り物(著者あとがき)」が綴られた短編5編。三十路半ばの今だからこそ、そんな男たちの含羞が愛おしく映る。ブログの紹介記事を見なければ、きっと手に取らなかっただろうから、出会いに感謝。

  • 一番最初に巡りあって、一番好きな稲見作品かもしれない。
    再読した時には『花見川の要塞』に感動を覚えた。そのせいで、当時カメラマンの友人にプレゼントしたっけ。
    最近再販されて、『この文庫がすごい』の1位になったという解説を読んで、涙が出そうになった。

  • ハードボイルドの短編集は初めて読むな…と少々構えたけれど、いつのまにか飲み込まれていました。とってもクール!!かっこいいとか渋いという表現よりもこっちの方があってる。他の本にある緊迫した事態や動きの激しいシーンは殆どなくて、静けさの中にある主人公の物語、みたいな文章に思えました。でも凄く魅力的。先が気になる所で終わっていたりするから、「ああ畜生、これからどうなるんだよ!!」ってな悶絶をすること数回。そんな物語も素敵です。

  • 感動した。今まで読まなくてごめんなさい。ミステリじゃないからといって読まなくてごめんなさい。何でこの本知ったんだっけ?男の世界を誇り高く描いているから、女性には分からないかもしれないけれど、男である俺には突き刺さった。こんな風に生きてみたい。誇り高く、幻想的で、洒落てて、すかっとして、そして泣かせる。そんなすばらしい短編集だった。

  • 動物物。このあとどうなるのだろう,と考えさせる話ばかり。

  • 惜しくも亡くなられた稲見一良氏の'93年の作品。
    よくこの人の作品は“男のメルヘン”と云われるが本作もまさにそう。大学の頃に読んだ『ダック・コール』の煌きが蘇る。

    今回収められた作品は5編。

    駆け落ちした女との逃亡途中の男と束の間の休息と食事と癒しをもたらす老人との出逢いの一時を描いた「焚き火」。

    雑誌のカメラマンが作家のエッセイを飾る写真を撮りに訪れた花見川で遭遇する軍用鉄道の幻を描く「花見川の要塞」。

    ミッションで空撃を受け、車輪が出なくなった爆撃機ジーン・ハロー。胴体着陸をすれば機体下部の銃座にいる仲間が死んでしまう中での奇抜な着陸の顛末を語る「麦畑のミッション」。

    「終着駅」は37年間、東京駅の赤帽を勤めてきた男が、ふとしたことから大金と遭遇する事で、ある決断をする話。

    そして表題作「セント・メリーのリボン」は猟犬の探索を生業とする猟犬探偵竜門卓の話で、狩猟中に消えた愛犬の奪還の話と盲導犬の奪還の話が語られる。

    今回目立ったのは物語が途中から始まる作品が多かった事。というよりもウールリッチの短編に特徴的に見られた、1つの大きな物語の断片を切り取って語っている手法で物語自体に決着がついているというものではないこと。
    特に「終着駅」はやくざの金を盗んだその後が非常に気になるが、稲見氏は赤帽の杉田雷三という男がある決断をする1点のみを語るに過ぎない。そこから先は読者に任せるとでも云っているかのようだった。

    冒頭の1編「焚火」も駆け落ちした男の物語としてはエピソードのうちの1つに過ぎない話なのだが、これもそこ1点に集約してそこから拡がる物語を語っているかのようだ。

    表題作は主人公竜門卓が明らかにフィリップ・マーロウをモデルにした不屈の騎士(卑しき街を行くではなく一人孤独に山野を駆ける)として描いている。粗にして野だが卑ではないという言葉を具現化した人物像になっており、非常に魅力がある。特に狩猟と犬に関しては作者の確たる知識・経験が色濃く反映されており、自然体であるがゆえに本物が書く本物の物語といった感じがした。
    その反面、盲導犬の件は作者自身も詳しくはなかったのだろう、明らかに作者が取材し、対面した人物をそのまま頂いたという感じで素人じみた書き方になっている。
    しかしここでもリチャードという老人の造形が際立っており、稲見氏の技量が遺憾なく発揮されている。特に盲導犬窃盗の犯人側の事情も心に傷みを伴うものであるのが上手いと感じた。最後の竜門の不器用さも含め、心に残る作品だ。

    「麦畑のミッション」はもろ映画『メンフィス・ベル』だ。結末は容易に予想つくものの、ここでは戦争物も飛行機の装備や操縦技術などの専門知識の精緻さも含め、この人の底知れない懐の深さに唸らされる。物語も麦畑同様、豊穣この上ない。

    一番好きなのは実は「花見川の要塞」。花見川にそれと気付かないほど朽ち果てた軍用鉄道の線路とトーチカがあるという設定で子供の頃に作った秘密基地を思い出させてくれたし、なんせ戦争中の軍用鉄道が目の前で蘇り、しかも年代物のライカと古いフィルムで撮影が出来たというおまけも含め、これぞ男のメルヘンだ。時間を忘れた読書だった。

    稲見作品の特徴として野外の食事の描写が挙げられる。素朴で粗野な食事をなんとも上手そうに描写する筆致はこちらの涎を誘う。
    そして野鳥がモチーフとして出てくる事。この野鳥に対する愛情が行間から滲み出てきている。いや、野鳥だけでなく食事の件も含め、自然への愛情と敬意がそこはかとなく心に染みゆく。

    とにかく全てが色彩鮮やかだ。風景も物語も。

    私は今回、稲見氏の作品を読んで日本のマーク・トウェインだと思った。作品数は非常に限られているので一度に読まず、また数年後、出逢う事にしよう。

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