月の上の観覧車 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 1732
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  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101230375

作品紹介・あらすじ

閉園後の遊園地。高原に立つ観覧車に乗り込んだ男は月に向かってゆっくりと夜空を上昇していく。いったい何のために? 去来するのは取り戻せぬ過去、甘美な記憶、見据えるべき未来――そして、仄かな、希望。ゴンドラが頂に到った時、男が目にしたものとは。長い道程の果てに訪れた「一瞬の奇跡」を描く表題作のほか、過去/現在の時間を魔術師のように操る作家が贈る、極上の八篇。

感想・レビュー・書評

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  • 時代は、昭和から平成あたり。短編八編、それぞれが、主人公達の過去から今を切なく描きだします。
    彼らは、朧げながらも、仕事に夢を持ち、幸せな家庭を築き、穏やかな日常がある人生を願っていた、ごく普通の人達。そして、そんなささやかな願望も、一生継続するのは、案外難しいのです。
    人生も半ばが過ぎて、彼らは、過去を振り返る。
    そこには、幸せなひとときも、取り返せない不調和もある。
    月の上の観覧車は、既視感がある作品かなと思いますが、最期の夢として素敵です。
    少し時空のずれた自分のパラレルとも思える作品もありました。主人公は、男性が多いのですが、残りの半生の生き方に女性の強が多いかなと思いました。そして、たぶん、現実もそうかな。

  • 「喪失」「後悔」を軸にした8作の短編集。
    薄暗く見える思い出に、そっと月光が差すような読了感です。

    「もしあの時こうしていれば」「もしこの時代にもあれがあれば良かったのに」、よくある「たられば話」。
    そんな話を集めた短編集です。
    とんでもない事件は起きないけれど、哀愁漂う1冊。

  • 久々の荻原さん

    感動系でした

    どことなく切なくて、でも見方を変えれば結構充実した人生歩んでるね?な人達の短編集

    お気に入りは以下
    ・上海租界の魔術師
    ・胡瓜の馬
    ・月の上の観覧車

    70年代の洋楽の話がちょいちょいあり嬉しかった。
    一番好きな年代の音楽だし。
    今日観たタランティーノのレザボア・ドッグスも70年代のロック
    日中仕事しながら聴いてたレコードも70年代の音楽

    いい日になったなぁ

  • 子どもの頃、世界には希望が溢れていて、年を重ねていくうちに抱えていくものが増えていく。いつのまにか「先」の人生が短くなった時にふと、後ろを振り返りたくなる。
    この物語の主人公達はそれぞれ歩いてきた人生があって、その中で忘れられずずっと頭の中にこびりついている思い出がある。あの時こうしていれば。そういった後悔を抱えていたものもいる。
    しかしそれでも人生に2週目はない。死者は帰ってこないし、失ったもの、過ぎた時間は戻ってこない。
    だから与えられている今をただ生きていくしかない。当たり前のことだけど、この本を読んで再認識させられた。
    登場人物の関係性をあらわす繊細な描写がとてもすごいと思った。読んだ後、じんわり心が揺らぐような、そんな物語だった。
    『上海租界の魔術師』と『胡瓜の馬』が個人的に好きだった。表題作である『月の上の観覧車』は後半にいくにつれどんどん惹き込まれた。しっとりとした終わり方が良かった。

  • 全8篇の短篇集。そのどれにも別れや死などの「喪失」があります。そしてそのすべてに中高年以上の人物が主人公だったり重要人物だったりして、彼らが過去を振り返りながら(あるいは、彼らの過去を振り返りながら)喪失と彼らの関係を自身や関係者が確かめたり受けとめたりしていきます。現実と過去との交錯の仕方が特徴的な短篇集でした。

    過去の社会状況。それも田舎町や地方都市、都会、それぞれによって違いがあります。さらに、人それぞれにその状況下での個人的な体験や経験がありますし、関わってきた大勢の人たちからの影響を受けたり、逆に彼らに善い影響や悪い影響を与えたりして生きている(そんな個人の集まりが社会をつくり、その社会がまた個人をつくります)。

    ひとりの人間を形作っているのは、そういった個別の経験や運命です。たいがい人は、他者の個別性の、ほんの外側のうっすらとした膜だけしか見えていなかったりします。その他者が家族や恋人や友人であったら、もうちょっと深く視線が届くかもしれません。でもそんな近しい彼らが対象であっても、個人まるごとを理解するくらい深く見通すことはできないのだと思います。

    だから世間には、他人への誤解、見誤っている判断が生まれがちです。でも、たとえばモノを盗んだ人、恋人をむげ扱う人、家族を大事にしない人などなど、傍から見れば関わりたくないし、よくない人だと決めてかかられてしまう人たちがいますが、そういう人たちだって、そうなってしまうまでの個別の過程・経緯があり、彼らにとってそれはほんとうの人生の、ほんとうの選択の積み重ねでできあがっていったがゆえの個別性なのです。そして、その個別性はむやみに否定されるべきものではありません。

    本書は、そういったところに関心を寄せるような経験を、読者に体験させる作品群だと思いました。善か悪かではない、と二元論を否定する意見は世間にしっかりありますし、それは肯定されるべき意見だと僕なんかでも思うのですが、その否定の論説はどれも抽象的だったりします。ですが、そこに具体性を感じることはとても大切なことです。そのためには本書のようなフィクションの手を借りるとよいのでしょう。

    本書は年齢を重ねたひとが読むとより胸に沁み込む読書になるような、ちょっと玄人好みっぽい作品かもしれません。でも、先述の個別性の話のように、他者への想像の仕方のとっかかりを教えてくれるような作品たちとして読むことだってできるエンタメです。

    しっかりした語り口で作られていますし、安心して小説世界にひたれます。派手ではないですが、それが却って「いいねえ」と思う読書でした。短篇をひとつひとつ読了して新しいのを読むたびに、なんだか気持ちが豊かになっていくような気持ちにもなれました。

  • 短編5編。

    どの話も、実際に経験したことはないけれど一度はこういう感情抱いたことあるなっていう気持ちを文字に起こしてくれてそれでいて想い出さしてくれてありがとうという気持ちになる話

  • 2018.08.06

  • 「いま私はどのあたりだろう。もうあと少しで終わる観覧車の中で私は思う。人生に二周目があればいいのに、と。」(月の上の観覧車)

    人生の終わりを考えた時に、「早くその時を迎えたい」と思うのか、「二周目があればいい」と思うのか。
    私は後者でありたい。

  • 折り返しを過ぎた寂しさを感じとれた。
    だからこそ自身も人生の2週目に挑戦しようと思った。

  • もう一度生まれ変わったら。とか、もう一度人生をやり直せたら。とか、思ったことはなくはないけど、でも、たとえやり直せたとしても、多分きっと、私は同じ道を歩んでしまうんだろうな。ということを思いながら読み終えた一冊。

    表題作はもちろん「上海租界の魔術師」「胡瓜の馬」も良かった。

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著者プロフィール

1956年、埼玉県生まれ。成城大学経済学部卒業後、広告制作会社勤務を経て、フリーのコピーライターに。97年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞。14年『二千七百の夏と冬』で山田風太郎賞。16年『海の見える理髪店』で直木賞。著作は多数。近著に『楽園の真下』『それでも空は青い』『海馬の尻尾』『ストロベリーライフ』『ギブ・ミー・ア・チャンス』『金魚姫』など。18年『人生がそんなにも美しいのなら』で漫画家デビュー。

「2022年 『ワンダーランド急行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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