ライオンハート (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101234151

作品紹介・あらすじ

いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ…。17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ、フロリダ。時を越え、空間を越え、男と女は何度も出会う。結ばれることはない関係だけど、深く愛し合って-。神のおぼしめしなのか、気紛れなのか。切なくも心暖まる、異色のラブストーリー。

感想・レビュー・書評

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  • 恩田さんの作品を読むのも3冊目。初めて映画とは関係のない作品を読んでみました。冒頭推理小説かのような出だしに若干困惑しましたが、最初の章である エアハート嬢の到着 で一気に作品の世界に引き込まれました。他の作品もそうですが、恩田さんの作品は自身がその世界に連れ込まれるような感覚が強いですが、このお話はあまりの緊迫感にこちらも冷や汗が出る思いでした。ところが、次の章である 春 は全く違う世界観。ただし、最初の章のような緊迫感もなくすっかり油断をしていたところにミレーの風景画、春?まさか?という展開にビックリ。全く意識に止めていなかった章の最初の挿し絵を思い出して、ページを戻した瞬間、とても興奮してしまいました。
    ただ、その後は私的には興奮が少しおさまった感がありました。若干ストーリーの難易度が上がって、作品の中から出て現実世界に戻ってしっかり読んだという感じでしょうか。また、最後の章は途中で結末が見えてしまったということもありました。
    でも総じて独特のファンタジックな雰囲気をただよわせながら、それでいて心地良い余韻を残すような結末はとても良かったです。作品のジャンルは違ってもこの心地良い余韻はいかにも恩田さんという気がしました。
    この作品も出会えてとても良かったです。

  • タイムラインが行ったり来たりするので、整理するのが難しかったが、エリザベスとエドワードの愛する想いを時空を超え、人を超えて結ばれた。1603年のロンドンから始まり、オックスフォード、シェルブール、パナマ、そしてロンドン。恩田さんの恋愛小説は初めて読んだが、途中で挿入されている西洋画が何とも言えない高級感が漂い、その効果によりエリザベスとエドワードの想いが重厚感をました。しかし、エリザベスとエドワードが会えるのがほぼ一瞬であり、その切なさを噛みしめる。もう少し2人の逢瀬の輪郭を明確にして欲しかったな。

  • エリザベスとエドワードの二人が時空を超えて、何度も出会う不思議な、少しせつない物語。

    やっと出会えても、一瞬でまた離れてしまうのに、なぜそんなに互いにひかれるのか。。
    シチュエーションが様々で、途中で少し混乱ぎみになったが、最後の"記憶"の章は、そうとは知らず、長年夫婦として過ごしてきたエレンとエドワードが、晩年になり、互いに相手が夢の中で会いたいと求めていた相手だと気づく。

    生涯に1度、一瞬でも会いたいと思う相手がいるなんて、切ないけれどステキだ。
    輪廻転生とか、運命の出会いなどというものをちょっぴり信じてみたくなる。

  • 物語に描かれる奇跡はお膳立てされたものなので、その奇跡が起こる必要性を感じませんでした。そのせいもあってか、奇跡にたどり着くまでの登場人物の想いや葛藤にそれほど感情移入できませんでした。ただ、絵画に関連付けたストーリー展開は印象深くて心に残りました。

  • 時を超えても場所が変わっても、必ず巡り会うエドワードとエリザベスのお話。生まれ変わって巡り会えても、会うのは一瞬。結ばれることはない。切なくて美しい時空を超えたロマンス。

    前半2章のエピソードの方がすき。後半では、物語がまとまってくはるけど、少し物足りないような。最後の「記憶」の章もきれいな終わり方なんだけど…。そして、最後(最新?)のエリザベスに記憶がないのはなんでなのかしら。これからなのかな?

    とりあえず、「春」の章がとてもよかった。もうここだけ短編でもいいくらい。

  • すごく好きなお話。ドキドキワクワクじゃないけど、美しく切ない恋物語やけど、すごく好き。高校生の頃、大学生の塾の先生が勧めてくれた。その思い出も込みで大切な小説。いま思い返せば繊細な小説を勧めてくれたよなあ。

  • もどかしくて切なくて…
    でも最後はちゃんと二人の時間を過ごせそうでよかった。何もかもを超越した運命の人も大事だけれどもすぐそばにいてくれる人も大事ですよね。

  • 初めは設定を飲み込むのに時間がかかり、暗闇の世界を導かれるままに読んでいたが、読み進めていくとだんだんと世界が開けていくのを感じた。
    「出会い」の瞬間、何ものにも代えがたい喜びを感じられる2人がとてもまぶしく思えた。

  • 何度も生まれ変わっては、ほんの一瞬交わる男女の愛を描いたSF。
    17世紀初頭から20世紀後半まで、エリザベス・ボウエンとエドワード・ネイサンの魂は何度も何度も不思議な邂逅を果たす。
    しかしその逢瀬とも呼べないほどの出会いはほんの一瞬のうちに終わってしまい、二人が長い時を一緒に過ごすことはない。
    二人はその邂逅の瞬間について、過去から未来にわたって記憶を保持している。

    彼らの記憶には不思議な紋章が見え隠れする。
    そのモットーは、「魂は全てを凌駕する。時は内側にある」

    以下、各章について。
    章の始まりには実在の名画が添えられていて、読書時間を彩ってくれる。

    0.プロムナード
    各章のはじめと最終章の最後に挿入される、比較的最近の時代の二人が描かれる。
    現代にもっとも近いエドワードは、その生涯のうちに二度エリザベスと出会うことになる。

    1.エアハート嬢の到着
    物語の始まりにふさわしい、謎と驚きに満ちたドラマチックな物語。
    悲劇的な結末を迎えており、エドワードは何度もこの光景を思い出すこととなる。
    しかし、だからこそ今生のエドワードは、二度目のエリザベスとの邂逅を果たすことができたとも考えられる――そう思うと、希望の萌芽の見える物語であるともいえるだろう。

    2.春
    完璧に美しい物語。エドワード(エドゥアール)とエリザベス(エリザベト)の愛の完璧さが余すことなく描かれている。なお、エドゥアールが母から見せてもらった祖父の日記は、後の章「記憶」への布石となっている。

    3.イヴァンチッツェの思い出
    これまでと打って変わったミステリータッチの物語。本作のエドワードは偽名を用いているため、誰がエドワードなのか、あるいはエリザベスなのか、思索をめぐらすのが本章の楽しみ。

    4.天球のハーモニー
    誰もが知る女王の話。観念的な話が多く、抽象的な物語運びとなっているが、本章にどこまで入り込めるかが、エリザベスとエドワードの関係の原点を理解できるか、非常に重要なポイントだったように思う。

    「そう、私は、彼等の全てを解放したかった――彼等の魂の無垢なる部分を」
    「ええ、そして、それは彼等の魂であると同時に、あなたの魂の一部でもあった。そして、それらの象徴があなたのエドワードになった」
    「私の」
    「ええ。だから、私たちはいつも離れている。無垢なる魂の純粋な結合はあなたの望みだった。けれど、純粋なる結合というのは常に矛盾にさらされている。あなたの魂は何者にも所有されることを望まない。誰かと結びついたとたん、たちまち濁り始め、輝きを失う。離れているからこそ純粋でいられる。ほんの一瞬の逢瀬のみがその魂を輝かせることができる」

    5.記憶
    予定調和の物語ではあるが、添い遂げた相手が運命の相手であると気付いたときには、エドワードはあまりにも年をとり過ぎていた。胸に病を得ていた彼が、エリザベスとともにいられた時間は、ごく僅かだっただろう。しかし最後の最後に邂逅を叶えた彼の一生は、その瞬間に輝いたに違いない。

    0.プロムナード
    最新の――現代の(とはいっても1978年ではあるが)エドワードとエリザベスの物語。今生のエリザベスはエドワードに関する記憶がない。だからこそ彼女は未来に向かって歩いて行くことができるのだろう。

  • 物語の作りだけでなく、残す印象まで、とても不思議な物語。
    “時代を超え、深く愛し合った男女が出会い、すぐに引き裂かれる”というアイデアと1枚の絵画にインスパイアされて書かれた物語が、膨らまされて、時空を超えて織りなされる。
    1932年のロンドン、1871年のシェルブールのお話は、設定を引き受けた真っ当なラブストーリー。
    その2つの話でネタが明かされ、そこからどうやって展開していくかと思ったが、1905年のパナマでは設定を隠し味にミステリー仕立てで興を惹く。
    1603年のエリザベス女王の話はややくどい感じだけど、読み終えてみれば結構重要なパートだったと分かる。
    そして1855年のオックスフォード、この作者ならでは世界を感じる中で、予定調和的な話ながら、収まるべきところに収まった話にちょっと感動。
    その前に置かれた1969年のフロリダの話も良い感じ。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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