朝日のようにさわやかに (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.27
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本棚登録 : 2748
レビュー : 241
  • Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101234205

作品紹介・あらすじ

葬式帰りの中年男女四人が、居酒屋で何やら話し込んでいる。彼らは高校時代、文芸部のメンバーだった。同じ文芸部員が亡くなり、四人宛てに彼の小説原稿が遺されたからだ。しかしなぜ…(「楽園を追われて」)。ある共通イメージが連鎖して、意識の底に眠る謎めいた記憶を呼び覚ます奇妙な味わいの表題作など全14編。ジャンルを超越した色とりどりの物語世界を堪能できる秀逸な短編集。

感想・レビュー・書評

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  • “世界で一番美しいのはだあれ?”という問いかけに、”それは王妃様です”と答えるのは魔法の鏡。

    子供が7歳の誕生日を迎えた日に同じ問いかけをした王妃。今度は”それは白雪姫です”と答えた魔法の鏡。怒り狂った王妃は白雪姫の殺害を命じます。命じられた猟師が不憫に思ったことで死を免れた白雪姫は七人の小人の家に辿り着きます。お腹が空いていた白雪姫はスープを飲み、パンを食べ、ぶどう酒にも口をつけた後、その家で眠ってしまいました…というのは童話の名作「白雪姫」。そんな名作に、

    『それっていけないことなんじゃないの?』
    『見ず知らずの人のうちに入って、飲み食いして、勝手に寝ちゃったんだものね。今だったら、そのうちの人に、おまわりさんを呼ばれても不思議じゃないよね』

    といきなり天下の名作に突っ込みを入れる冒頭。う〜ん、物語の本編に入っていく前にそんな風に突っ込まれたらグリム兄弟も立つ瀬がありません。『正式に児童文学としての依頼を受けて書いた、初めての短編』とそんな突っ込みから始まる物語を書いてしまう恩田さん。実に恩田さんらしい内容に思わずニンマリしてしまう、そんな短編が14も詰まったとても贅沢なこの作品。「朝日のようにさわやかに」と恩田さんが名付ける作品が、その書名通りの内容じゃないのは、恩田さんを読んできた読者なら嫌でもピン!と来るところです。そうです。ホラーあり、ホラーあり、ほら、ホラーがたっぷりのこの作品。でも安心してくださいね。ホラーと言っても恩田さんの描くホラーは一味も二味も違います。ホラー映画は絶対見たくない、見たことないという私が全然平気というのがその証拠です。そう、これはそんな恩田さんとっておきの短編集です。

    14もの短編がたっぷり詰まったこの作品。恩田さんらしい雰囲気、展開を存分に楽しめる、そんな作品ばかりです。では、ここでは三つほどご紹介します。

    まずは、〈冷凍みかん〉。『あれはもう何十年も前のことになる。早春の頃だった』と過去を振り返るのは主人公の『私』。大学の助教授・Kと大手電機メーカーを退職したばかりのNと共に『東北の内陸部』に旅に出ました。『ローカル線の長い乗車時間を果てしのないお喋りに』費やしていた三人。『通過電車を待つので二十分停車』した電車。『白いペンキのはげた木造のこぢんまりした駅舎の中の小さな売店』が目に入りました。『お、売店があるぞ』、『酒、酒』、『男どうしの旅行で何がいいかって昼間から飲めるところだな』と売店に向かう三人。『褪せたカーキ色の布の帽子をかぶった老人』店主に『じいさん、酒とするめをくれ』、『饅頭も』と話しかけます。そんな時『私は店の隅に置いてある小さなアイスボックスに目を留め』ます。『ずいぶんと年季の入ったアイスボックス』が気になり『中をのぞくと、底の方にだいだい色のものがチラリと目に入った』という瞬間、『冷凍みかんだ』と気づいた『私』。『じいさん、この冷凍みかんも貰うよ』と言うと『老人はハッとしたようにこちらを見た』、そして『あ、そ、それは』と慌てる老人。『皺だらけの顔の中の小さな目が大きく見開かれたと思ったら、突然、ウッと胸を押さえてかがみこむ』という急展開。『あっ』、と『一番近くにいたKが慌てて老人の腕をつかんで支え』ます。『大丈夫か、じいさん』。連絡を受けた車掌が電話で助けを呼びます。『老人はもごもごと口を動かした。震える手を必死に持ち上げ』、『店の、奥、に。箱が。れい、とう、みかん。ここに入れて。あん、ぜん、な、場所に』そう言うと『老人は意識を失』います。『私は老人の耳元で叫んだが、もはや返事はない』という突然の事態。『箱の蓋を開けると、折り畳んだ手紙が入って』いました。『万ガ一の時のためニ、これヲかきます。…あのみかんガ…』。その驚愕の内容に戸惑う三人。でもこの時の主人公はまさかこの冷凍みかんが世界を震撼させる未来に繋がっていくとは思いもよりませんでした…というこの作品。短い中に起承転結がはっきりしていて、かつ、スケール感が絶妙な作品だと思いました。

    二つ目は〈水晶の夜、翡翠の朝〉。『湿原に再び初夏が巡ってくる頃、ヨハンは退屈していた』という冒頭のたったこれだけの文章で読者は二つのグループに分けられます。その二つとは恩田さんの名作「麦の海に沈む果実」を既読か未読かの違いです。この作品を既読の方は、もうたったこれだけの文章で目がうっとりしてしまうこの世界の描写。そう、これは「麦の」のスピンオフ作品です。『彼の重要なパートナーである少女はこの早春、一足先に学校を去ってしまった』等々、あれからあの湿原の中に浮かぶ学園がどうなったかを思い起こさせる記述も多々登場し、この短編だけで元が取れたと感じる方も多数いると思います。「麦の」に含まれるひとつの章だったとしても全く違和感のないとてもよくできた短編でした。未読の方はまず「麦の」を先に読みましょう。読中・読後が全く別物になります。

    そして三つ目、〈一千一秒殺人事件〉。この作品は、恩田さんの恩田さんたる所以というくらいに恩田さんの魅力が最高に詰まった作品だと思いました。はい、これ、ホラーです。『これからお話しするのは、星に殺された男の話である』という意味ありげな冒頭。『ある夕暮れ、T君はA君と連れ立って出かけた』という二人は『バケモノ屋敷に向かうところ』でした。その屋敷は『次々と起きる異変に皆真っ青になって逃げ出してしまい、一度この家で夜を過ごした者は二度とやってこない』という恐怖の館。そして、そして、そして〜『空に子供が浮かんでいた。よく見ると、それは古びた大きな市松人形である』、『襖がドンドンドンと叩かれ始めた』、『目の前に巨大な三日月が二つ、すうっと昇ってきた。三日月は瞬きをし、「にゃああ」としゃがれた声で鳴く。生温かい、巨大な舌が伸びてきて、二人の身体をぺたんと覆ってしまう』。思わず出てしまう『うわあ』という叫び!ホラーーーーーーー!怖いよ〜、私はホラーなんてまっぴらごめんだー!という方もいらっしゃると思いますが、これは恩田さんの描くホラーというのが味噌です。上手いな〜という感想で終わる恩田さんのホラー。短編集「私の家では何も起こらない」も絶品でしたが、これも悪くないです。

    その他にも『かつて人間の身体に付いていたものって、身体を離れると、どうしてああもおぞましいのかしら』という身近な不思議。『髪の毛だって、恋人の頭についていればとても愛おしいのに、離れてしまうとあんなに嫌なものってないわよね』という、そうだ、そうだね、と納得してしまう〈深夜の食卓〉。『二十枚以内で』という条件の元『スプラッタ・ホラーをやってみた』という〈卒業〉。『どこからが作り話かは、ご想像にお任せする』というエッセイのような〈朝日のようにさわやかに〉などなど14編からなる恩田さんの短編の世界。恩田陸さんという作家さんの魅力をこれでもか!と満喫できる、そんな短編集の傑作でした。

  • まず、巻末を読むことをお薦めします。
    短編集は2冊目ですが、他の長編とのつながりはない作品のようです。

    不思議な感覚を感じた作品もありました

    • やまさん
      おはようございます。
      きょうは、快晴です。
      体に気を付けていい日にしたいと思います。
      やま
      おはようございます。
      きょうは、快晴です。
      体に気を付けていい日にしたいと思います。
      やま
      2019/11/16
    • mayutochibu9さん
      「高輪ゲートウェイ駅」工事のため、田町に
      出かけるのを控えました。読書が進みそうです。
      「高輪ゲートウェイ駅」工事のため、田町に
      出かけるのを控えました。読書が進みそうです。
      2019/11/16
  • 恩田陸さんの短編集を読むのは初かも。
    麦の海に沈む果実のスピンオフストーリーも収録。
    タイトルからは想像してなかったが、少しダーク調の物語ばかりで、多くはファンタジー要素のあるもの。でも私はその中でも一番普通っぽい「楽園を追われて」が好きかな。「少し不思議」な話が好み。他の話は、ハマれなかった。

    恩田陸さんの長編は、「上と外」「麦の海に沈む果実」「蜜蜂と遠雷」の実はまだ3冊しか読んでいない。
    ピアノ好きなこともあり、私は蜜蜂と遠雷が大好きなのだが、恩田さんは本当はどんな作品が得意なんだろう。個人的には恩田さんの作品はミステリー要素、ファンタジー要素のないものの
    方が好きな予感がしているが、これから他の作品も読んでみようと思う。

  • 理瀬シリーズが好きで買いました。
    タイトルの朝日のようにさわやかに、全然内容はさわやかっぽくない、だけどそこがいい!
    この短編集は買って当たりだと思います。

  • スプラッタホラーから児童文学まで、様々なジャンルの物語を詰め込んだ短編集。‬

    ‪著者の自由な発想のいいとこ取りをしたような贅沢さを感じる。パチパチと頭を切り替えて楽しめた。‬
    ‪特に、奇妙な連想で進んでいく表題作にとても惹かれる。‬ 無意識に連想するときのきっかけは何なのか、想起させるポイントは記憶とどう結び付けているのか、自分と他人の解釈の違いなど、考えてみたくなった。

  • 恩田陸らしさが詰まった短編集。特に5ページしかないショート・ショートもあって、飽きなかった。恩田陸を読むと夢の中のような幻想的で曖昧な描写にいつも驚かされる。曖昧というか、抽象的というか、、、ドキドキするホラーからドラマチックな物語まで幅が広い!一番は「楽園を追われて」が好きだった。恩田陸はやっぱりすごいなあ

  • タイトルから、爽やかさを連想してはいけない。
    絶対に爽やかではない。ホラー要素が強いです。
    強いて言うなら、理瀬シリーズが好きな人にとっては
    番外編の「水晶の夜、翡翠の朝」の天使のようなヨハンの
    邪悪な部分が、結果的には天晴れ爽やか!って感じかしら?
    短編からショートショートまで色々なホラーのような
    ミステリのような話が詰まってます。
    14編中、6作品が既読だったこともあり
    物足りなさの残る1冊でした。

  •  題名とは裏腹なダークな話が多いですね。理瀬シリーズを読みたくて手に取りましたが、読んで正解。続編書いてほしいです。

  • ヨハンくんのスピンオフずっと読みたかったし結局最高の凶悪なヨハンくんが見られて大満足だった

    他だと「卒業」と「深夜の食欲」が好き

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著者プロフィール

恩田陸(おんだ りく)
1964年、青森市生まれ。水戸第一高校を卒業し、早稲田大学進学・卒業。1991年、第3回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作となった「六番目の小夜子」でデビュー。2004年刊行『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞及び第2回本屋大賞、2007年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞をそれぞれ受賞。2017年『蜜蜂と遠雷』で第156回直木三十五賞、第14回本屋大賞、第5回ブクログ大賞などを受賞した。同作品による直木賞・本屋大賞のW受賞、そして同作家2度目の本屋大賞受賞は史上初。大変大きな話題となり、代表作の一つに挙げられるようになった。同作は2019年4月に文庫化され、同年秋に石川慶監督、松岡茉優・松坂桃李らのキャストで映画化される。

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