檀 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101235134

作品紹介・あらすじ

愛人との暮しを綴って逝った檀一雄。その17回忌も過ぎた頃、妻である私のもとを訪ねる人があった。その方に私は、私の見てきた檀のことをぽつぽつと語り始めた。けれど、それを切掛けに初めて遺作『火宅の人』を通読した私は、作中で描かれた自分の姿に、思わず胸の中で声を上げた。「それは違います、そんなことを思っていたのですか」と-。「作家の妻」30年の愛の痛みと真実。

感想・レビュー・書評

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  • 檀一雄の人格的な特異さが奥さんの視点からより克明に描かれて興味深い。
    『火宅の人』は一人称小説なので、若い女を抱いて妻に暴露して愛人との同居生活に入る壇の言動が、「俺は破滅への情熱についてだけは真面目でありたいんだ」的な自己弁護によってなんとなく納得させられてしまう。
    他方で常識人でしかない奥さんの立場から見ると壇の言動の異常さがよく認識できる。思うに壇は、重度の発達障害を持っていたのではないだろうか。自身の身体の頑強さとか愛人と暮らすホテルでも軍隊式の行進をしていたとか、こだわりが異常と思える。ふつうホテルで行進しねえわ。その一方で、放浪癖的だったり衝動的な言動も目立つ。
    バカな不倫をしてしまう夫をズルズルと許容してしまうようなことは世の中によくあることで、そのような妻の平凡さが、壇の異様さを中和する救いになっている。

  • 対象とする人物に深く長く寄り添い、そこで得たもの、感じたものを端正な言葉にするという仕事をさせたら、沢木耕太郎の右に出るものはいない。

  • 火宅の人を読んでみようと思った。

  • 『火宅の人』の作者壇一雄氏の妻であるヨソ子氏の視点で描かれる30年の愛憎物語。不倫相手との詳述な蜜月の日々を小説で知るとはどのような気持ちであろう。嫉妬に身を焦がしながらそれでも夫を愁うとはどのような想いであろう。壇氏の持つ人間的魅力(人としては相当屑だと思うが・・・)とヨソ子氏の底知れぬ強さが相見えた結果、この不思議な夫婦関係が生まれた。

    本作品は夫妻の関係は然ることながら、ノンフィクション作家沢木耕太郎の本領発揮といったところだろう。文庫本解説でも語られるように「四人称」というほかに類をみない手法で本作品は描かれる。作品内容は個人的にあまり好きではなかったが、解説を見て「四人称」という表現にはなるほどなと感心させられた。

  • 『火宅の人』で、愛人との暮らしを綴って死んだ檀一雄。
    その妻の語り。どう育ち、どうやって檀と出会い、結婚したのか。愛人ができてからの暮らし、晩年。
    中島らも夫人の『らも』を彷彿させる。
    『火宅の人』を読んで面白かった方は、ぜひ。

  • 作家檀一雄の妻よそ子が語る火宅の人,檀一雄.

    「火宅の人」は昔,本も読んだし,(それほど好きなわけでもないのに)映画も見た.
    そしてNHKスペシャルで,病室で肺がんに苦しみながら,火宅の人の最後の章の口述筆記を記録したテープをもとにした番組もみた.

    この本は,その「火宅の人」の舞台裏をのぞくような感じ.
    小説を苦しみ出しながら書く作家と,その小説に苦しめられるその家族との葛藤がなまなましい.
    しかし,この奥様,最後には自分が夫のことを好きだと気付いて許すんだな.檀一雄にそれだけ魅力があったということか.

  • そう言えばこれは違う人が書き起こした本だった。
    そう思うほど、ヨソ子さんと一体化していた。
    完全にヨソ子さんのイメージしかない、沢木耕太郎さんと言う作者の姿が出てこない、それはそれでなんかすごい。

    これまた「火宅の人」を読んで触発された一冊。
    その中では、正直これが一番おもしろかった。
    愛人の本よりも、娘さんの本よりも(娘さんの本は別な意味ですごくおもしろかった)。

    なんだかんだありながらも、一生檀一雄が信頼し、寄り添い、苦労をともにしながら生きてきた人の言葉の重みを一つ一つに感じて...

    そして、この本を読むことで、生きている人をモデルにした「私小説」を書くことの難しさも、ひしひしと伝わった。

    書かれた本人である奥様、愛人はもとより、書いている本人の心を切り裂く、とても危険なものであることも...

    檀一雄は愛人との生活を「火宅の人」で昇華しようとした。
    しかしそれは、忘れかけていた奥様の心、愛人の心、そして二人の現在に重く影を残す。

    書いていた本人も、その二人に新しく出来てしまった傷を思い、自分にも新しく傷を作り、苦しんで苦しんで書けなくなる姿、それでも時折訪れる穏やかな日々、ポルトガルでの寄り添い温かく過ごした毎日、などが読みやすく綴られています。

    奥様は、「火宅の人」に綴られていたような、冷血な人ではなかったようです。
    それも、ご本人が言うように「ご都合主義」な部分もあるのかもしれませんが、一緒に沖まで泳いだり、サイドカーに檀一雄を乗せてスクーターに乗ったり、意外とアクティブな方でした。

    そう言えば「火宅の人」にもスクーターエピソードはあるけど、その時はなんとなく「ヨリ子さん」のイメージと合わなくて唐突な感じしたなぁ。

    私小説は難しい。
    でも逆から考えるとだからこそ、「火宅の人」を巡ってそこに書かれた人たちの新たな作品が生まれるんだな、とも思いました。

    「火宅の人」一つを取っても、
    この作品、愛人の作品、檀一雄の母親、編集者、作者の娘、さまざまな人が「火宅の人」と「檀一雄」について語っている。

    みんな自分をきれいに見せたい。
    誤解だと思われる部分は解きたい。
    だからこそ新たな作品が生まれて、それによっていろんな視点が出来て、作品の一群が出来て、もしかしたらそれが本来の作品により重みを与えてくれるのかもしれない。
    「火宅の人」は、ある意味では幸せな作品なのかも!

    ...ところでタグに「断捨離」があるのはなぜに?(笑

  • 『火宅の人』→『壇』
    の順番で読むと、視点としてはおもしろい。
    破滅と分かっていてもその道を進んでしまう人間の一面を
    よくあらわしている『火宅の人』と、
    その世界に触れていたのに穏やかな回想としての『壇』、
    あわせて読んでほしい。

  • 久しぶりに再読。深夜特急は青春のバイブルだとして、沢木作品で一番好きなのはこれ。いつもながら、絶妙な視点に引き込まれ、小説のようでいてノンフィクションの体裁を崩さないスタイルは、沢木作品の真骨頂。女性の本質が、リアルに、客観的に、そして凛と書かれていて、とても共感できる。筆者が男性なことにハッとさせられます。これは小説家には書けない小説。ノンフィクションライターだから書ける小説。リアルな人生が濃縮された作品。

    • mktfryさん
      読みたくなりました。レビューの文章、良いですね。短いけれども中身が詰まっていると思いました。すっと読めたのは、体言止めを多く使っていてリズム...
      読みたくなりました。レビューの文章、良いですね。短いけれども中身が詰まっていると思いました。すっと読めたのは、体言止めを多く使っていてリズムがあるからかもと後付けで思ったり。
      2012/02/10
  • 不思議な視点の画期的な作品。
    それはそうと、奥さんはやはり鈍感なのだと思う

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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