- 本 ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101235349
作品紹介・あらすじ
少年の頃に開いた書物の森で、あるいは「学校」のようだった酒場の片隅で、沢木耕太郎が心奪われるように出会ってきた作家たち。山本周五郎、向田邦子、山口瞳、色川武大、吉村昭、吉行淳之介、小林秀雄、瀬戸内寂聴など、書くことが即ち生きることだった19人の作家に正面から相対し、その本質を描き出す。誰も知らなかった顔に辿り着き、緊張感さえ孕むスリリングな刺激あふれる作家論!
感想・レビュー・書評
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いつもながら、沢木さんはズルい。
この本を読むだけでも
人それぞれ何かしらと並行しているのに
読んだ後にはこの本にある著者の
何某かの本を探す運命に駆られる
沢木耕太郎に出会い
深夜特急を次世代に渡してなお 自身がこれほどまで沢木耕太郎に翻弄されるとは
毒な良薬
この意味が理解できたら
貴方も立派な沢木耕太郎中毒
広がる世界を遡るもよし
この後に馳せるもよし詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
憧れの作家を挙げろと言われたら、沢木耕太郎さんを挙げるだろう。彼の書くものは、小説を除いて、ほとんど読んでいるかもしれない。本書は、以前単行本として刊行された23人の作家論だが、文庫化にあたり外国人作家が割愛され19人の日本人作家論となっている。
沢木さんの作家論を読んで、その作家について学ぼうと思う人はそうはいるまい。沢木さんの作家論を読む人は、おそらく沢木耕太郎がその作家をどう語るかを知りたいのである。
沢木さんの手にかかると、作家たちの人生は何か壮大な運命に絡め取られているかのように感じられる。お堅い作家論にはない、鮮やかなドラマがそこにある。そのように書くと全てが沢木さんのイマジネーションから生まれた論評であるかのようだが、そうではないことは明らかだ。本書を読んでいると、これらの作家論ないし、作品論を書くために、沢木さんがその作家の全作品を読み込んでいるらしいことがわかる。緻密な取材に基づいて書くノンフィクションライターらしい論評となっている。
印象に残るのは、向田邦子、近藤紘一。あとは、作家論としては取り上げられていないにも関わらず、おそらく本書で最多登場の作家である司馬遼太郎か(笑)。海外作家編も文庫化予定らしいので楽しみに待ちたい。 -
沢木耕太郎が言うところの…〈作家との遭遇〉は2つあり、ひとつは酒場。もうひとつは文庫の解説を書く機会と…あとがきに記す。
ひとたびその機会を得られると、著書は〈ひとりの作家について学ぶためのチャンス〉と見なし、全作品を読み通し、自分なりの『論』を立ててみようとする。
通常の文庫解説は400字×10数枚。意気込み溢れる沢木耕太郎にはそんな紙幅には収まらず、最低でも20〜30枚、時に40枚程になることもあり、文庫解説のレベルをはるかに超えた労作となる。
その創作を振り返り、大学の卒論『アルベール・カミュの世界』執筆時と同じ昂揚感を覚えたと坦懐。
本書には19名〈井上ひさし・山本周五郎・田辺聖子・向田邦子・塩野七生・山口瞳・色川武大・吉村昭・近藤紘一・柴田錬三郎・阿部昭・金子光春・土門拳・高峰秀子・吉行淳之助・檀一雄・小林秀雄・瀬戸内寂聴・山田風太郎〉が俎上に載る。
幼き頃に貪り読んだ柴田錬三郎・山田風太郎の時代小説作家、職業作家となってから読み込んだ色川武大・吉村昭らの作品、作品のみならず私的好誼を結んだ吉行淳之助らのエピソードトークも入り混じり、クールな筆致の中に沢木耕太郎の素顔も垣間見れる濃淡溢れる作家論が楽しめる。
読み終えて嘆息と驚嘆が交錯する。プロの作家はかくも深く本を読むのか。はたして作家の性がそうさせるのか、沢木耕太郎の一貫した〈前のめり〉な読み解きがそうさせるのか。
どの稿も作品を論じつつも作家の『その人』を炙り出していく。取り上げる作家への相対ぶりは極めて真摯。ケレンを弄さず読み手の前にその姿がたゆたう。
例えば、山本周五郎。膨大な作品群の中で『青べか物語』は小説という結構に宿る生々しいリアルさに着目。そこに若き日の浦安での山本青年の赤貧ぶりを見ると解き、国民的作家の原点は青べか物語であると。異彩を放つ作品を山本周五郎の青春と絡めた深い考察を展開。
本書はブックガイドとしても十分に読める。ただそれは著者の意図するところではないのではないか。
本書の醍醐味は著者の開陳する読み解きの妙。職業作家だから当然と見なすのは大損。『いかに読むか』その視座をさらりと読み手に差し出してくれる。
『想像力と数百円』は糸井重里さんの新潮文庫キャンペーンのコピー。僕は『読解力と630円』。これを感想文の結句としよう。 -
少年の頃に開いた書物の森で、あるいは「学校」のようだった酒場の片隅で、沢木耕太郎が心奪われるように出会ってきた作家たち。山本周五郎、向田邦子、山口瞳、色川武大、吉村昭、吉行淳之介、小林秀雄、瀬戸内寂聴など、書くことが即ち生きることだった19人の作家に正面から相対し、その本質を描き出す。誰も知らなかった顔に辿り着き、緊張感さえ孕むスリリングな刺激あふれる作家論!
高峰秀子のエッセイを並行して読んでいたので、その偶然に少し驚く。 -
沢木耕太郎(1947年~)氏は、横浜国大経済学部卒のノンフィクション作家、エッセイスト、小説家。『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞(1979年)、『一瞬の夏』で新田次郎文学賞(1982年)、『バーボン・ストリート』で講談社エッセイ賞(1985年)、菊池寛賞(2003年)、『凍』で講談社ノンフィクション賞(2006年)、『キャパの十字架』で司馬遼太郎賞(2013年)等、数々の受賞歴あり。また、1986~1992年に刊行された『深夜特急』は、バッグパッカーのバイブル的な存在となった。
私は、最も好きな書き手は誰かと問われれば、迷わず沢木氏の名前を挙げるファンであり、多分の例に漏れず、『深夜特急』に始まり(私は1980年代後半に欧州をバッグパックを背負って旅した)、その後も、『敗れざる者たち』、『バーボン・ストリート』、『世界は「使われなかった人生」であふれてる』、『凍』、『キャパの十字架』、『流星ひとつ』、『旅の窓』等、色々なタイプの著作を読んできた。
何故好きなのかと言えば、私自身旅が好きなこと、本の中でもノンフィクション物やエッセイが好きなこと等があるが、それに加えて、沢木氏の生き様に惹かれるからなのである。
『敗れざる者たち』の新装版(2021年発行)の解説に、報知新聞記者・ノンフィクションライターの北野新太氏は、次のように記している。「沢木耕太郎という人は、今までの自分が知り得ていた世界、あるいは想像し得た世界にいる誰とも似ていなかった。会いたい人に会うこと。行きたい場所に行くこと。書きたい何かを書くこと。誰とも群れず、何にも属さず、しかし、あらゆる世界や人々と柔らかく繋がっている。」 そして、沢木氏の作品には、当然ながら、それが色濃く反映されているのだ。
本書は、井上ひさし、向田邦子、塩野七生、山口瞳、近藤紘一、吉行淳之介、小林秀雄ら19人の作家の作品の文庫版の解説として書かれた「作家論」をまとめ、2018年に発刊されたものを、2022年に文庫化したものである。
沢木氏は「あとがき」で、文庫の解説を引き受ける際のスタンスとして、「私はそれをひとりの作家について学ぶためのチャンスと見なした。具体的には、あらためて全作品を読み直し、自分なりの「論」を立ててみようと思ったのだ」と書いているのだが、その通り、本書の各篇は、通常の文庫の解説に留まらず、沢木氏にとっての(それぞれの)作家論となっている。
沢木氏ならではの、興味深い、作家論集といえる。
(2022年5月了) -
稀代のエッセイスト、沢木耕太郎が著名作家との遭遇、というよりも作家評を纏めたものである。とは言え、私は沢木耕太郎や列挙された作家達をほとんど触れてこなかったので、作家紹介本として読み進めた。
私は沢木耕太郎の見識の深さと広さ、そして作家に対する真摯で純粋な姿勢に夢中にさせられた。紹介された作家に心惹かれたのはもちろんだが、それよりも評者に興味が湧いてしまったのである。これは本書が読者に提供しようとしたものとは異なるかもしれない。しかし、それほど沢木耕太郎自身に惚れてしまったのである。
これは著者のエッセイをさらに読まなければと思い、私は書店に駆け込んだ。『深夜特急』を探したが見つからず、諦めて紹介されていた司馬遼太郎『果心居士』を購入した。結局、まんまと沢木耕太郎の策略にひっかかってしまったのであった。 -
数十年という長期間内に発表された著者の作家論を編んでいるので、初期の頃は一種の硬さが感じられるなど、微かな変遷も一興かもしれない。基本、好きな作家について書かれたものが読み所になるが、個人的に一番面白かったのは(殆ど未読の)瀬戸内寂聴が大杉栄と野枝を描いた作品について。作者が感じたであろう、(遠くない過去に)実在した人物達への親近感や評価や距離感が適格に捉えられているようで、本編を読む前に何となく満足感を得てしまった。書評も作品を構成する一部分なのだろう。
著者プロフィール
沢木耕太郎の作品





