逆光のメディチ (新潮文庫 ふ 20-8)

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  • Amazon.co.jp ・本 (473ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101236186

感想・レビュー・書評

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  •  表面的には中世のフィレンツェを舞台とした恋愛物のフリをしているが、実質的には同性愛を密やかに扱いながらも美しい愛の形をしていることに背徳の匂いを感じずにはいられない。

     物語の概要は、死期の迫ったレオナルド・ダ・ヴィンチが自伝を出版するために若い頃に犯した愛と過ちの物語を弟子に話すのだが、それは禁じられた男色の物語でもあるために、当時の自分を隠すために“アンジェラ”という少女の名と仮面を被って回想するという趣旨の物語。
     私がこの小説でまず感心したことは推理小説なら叙述トリックとして活用できそうな物語の中核をなすトリックを冒頭で明かしていることだ。
     その次に驚いたことが作中に出る情報量が多く、本の世界観を無限のように膨らませてくれていることだ。ルネサンス期の文化や風俗、人物を知るために作者が使用した参考文献の数はとても多く、生半可な気持ちで挑戦した作品でないことが察せられる。

     それほどの作品であっただけに物語中で度々“アンジェラ”に寄せられる男性からの好意に違和感を覚えてしまうことも確かにあった。キリスト教が支配していた世の中で同性愛は厳禁とされていたはずなのに、次々と皆が“アンジェラ”に魅入られていく。作中では主人公が女性であったこと、“アンジェラ”には理性的な思考と探究心が備わっていたこと、美しさの本質を知っているが故にそれと同等のものを“アンジェラ”は持っていたことなどが理由に挙げられている。
     だからと言ってここまで多くの男達を惑わしてしまうとは……。

     因みに、この作品のノリは私の趣向にぴたりとハマっているように感じたので、これからも同作者の作品は読んでいきたいと、そう思えた作品だった。

  • 僕は作者の藤本ひとみさんとは縁もゆかりもない人間ですし、こんなところでこんなことを言ったところで1銭の得にもならないのですが、それらを踏まえたうえであえて言いたい。
    みんな、藤本ひとみ先生の作品を読もうぜ?!

    という感じのテンションで、先生の著作「侯爵サド」を読んで以来すっかり先生のファンとなった僕は、この間なんてつい会社の女性にまで先生の作品を薦めてしまいました。でも、僕の目の前でその女性がAmazonで藤本先生の作品を検索したところ、トップに出てきたのは「貴腐」というちょっと官能小説っぽい(まあ先生の作品は、全て官能的な表現の中にこそ輝きがあるのですが)ものだったため、気まずかったです。。。

    まあそんな個人的なエピソードはさておき、本作は中世フィレンチェを事実上支配していたメディチ家の若き兄弟ロレンツォとジュリアーノのお話です。

    ですが、2人が主人公というわけではなく、ストーリーの紡ぎ手は、ジュリアーノに恋するうら若き乙女アンジェラ……の視点で物語を語るレオナルド・ダ・ヴィンチです。

    何を言っているのか分からないと思いますが、僕だってそうですよ。。。
    最初、病床のダ・ヴィンチが口頭で語る回顧録を、若き恋人(ただし男性)が、記録しているところからお話は始まるんですよね。

    しかし、いよいよ自らの死期が近づいてきたことを悟ったダ・ヴィンチは言います。「今こそ語ろう……あの空白の数年間を……」的なことを。

    彼がこれまで、その数年間を決して語らなかった理由。
    それは、神に背いた男色の年月だったからです。
    出来ることならば、決して表に出すことなく闇へと葬り去るべきだった禁忌の日々……を若き恋人(男性)に語っているのだから、突っ込み待ち的なことなのかなあと思いました。

    さらに、ダ・ヴィンチは言います。その罪を語るために、少女の姿を借りよう。と。
    ダ・ヴィンチは物語の中で、アンジェラという可憐な少女となり、フィレンチェを飾った貴族の男性たちと恋に落ちていくのです。。。

    まあ、そんな感じで物語は進み、舞台はフィレンチェからイタリア全体へ。地位や名誉、そして憎しみと裏切り。
    それらを巡りつつも、なんだかんだ言って男たちはアンジェラ(レオナルド・ダ・ヴィンチ)を想い、そのために愛憎劇を繰り広げます。

    メディチ家当主ロレンツォ、天使の美を持つジュリアーノ、そして野生的な魅力溢れる妾腹の子レオーネ。
    物語は、ロレンツォとの当主争いに敗れたレオーネの凄惨な復讐劇によってクライマックスを迎えますが、そんな全員がアンジェラ(ダ・ヴィンチ)にベタ惚れだと、語るのです。ダ・ヴィンチが。

    正直、別に彼の回顧録だったことにせず、普通にアンジェラという少女がいて、彼女を中心に描かれるメディチ家の物語でよかったんじゃないかなとも思いますが、そこに官能的で退廃的なワンアクセントを入れてしまう藤本ひとみ先生にこそ、僕は憧れるのかもしれません。

  • レオナルド・ダ・ヴィンチ繋がりで勧められたので、さっき読み始めたんだが、もう色々辛いw
    このスレ的には藤本ひとみってどんな感じなの?
    歴史物結構書いてるっぽいし、気になるんだけど、ずっとこのノリじゃ辛すぎる。

    ----

    パターンや主題がみんな一緒で、読んでいてウニウニになる

    本の帯に自由教育は暗殺者を生む・・この藤本ひとみの問カメに答えることができるか・・・って
    こんなの、すでに「大衆の反逆」やらなんやらで言われていることだし
    サドを描いた作品の帯で、三島、澁澤を超えた・・・あんまり恥ずかしいことを書くなよ 編集者

    で、よく読んでいるなと言われたら、その通りで、まあ、読んではいる
    図書館で借りる程度の出来かとは思うよ

    ----

    藤本ひとみは歴史ものを期待するより、フィクションとしておもしろい。

    「逆光のメディチ」は藤本ひとみの中でもあまりおもしろくない。
    「ブルボンの封印」は面白い。歴史ものというより歴史を背景にしたおもしろ物語。
    「ウィーンの密使」もまあまあ面白い。
    「ハプスブルクの宝剣」はかなり面白いんだけど、最後が腰砕け。
    「聖戦ヴァンデ」はこの時代に興味があったらそれなりに読めるけどちょっとつらい。

    • hyakutoraさん
      藤本ひとみの作品は少女マンガのノベライズくらいに思って読んだほうが個人的にはすんなり読める(笑) たしか少女マンガも描いてたような? それぞ...
      藤本ひとみの作品は少女マンガのノベライズくらいに思って読んだほうが個人的にはすんなり読める(笑) たしか少女マンガも描いてたような? それぞれの作品評価がかなり自分と被ってたのでついコメントしました^^
      2012/11/06
  • 敬愛する藤本ひとみさんが書いた、大好きな歴史モノ。大好きなレオナルド・ダ・ヴィンチ&メディチという私には垂涎ものの内容。もう何回読んだか解んない。大好き♪
    レオナルド・ダ・ヴィンチの恋愛物語なんてなかなか無いと思う。自分を女として語るなんて発想がまたおもしろい。でもおかげでかなり感情移入できる(笑)
    それにしても、この小説って「ダ・ヴィンチの愛人」なんて改題されて再リリースされてるけど、何でそんな事するのかね…原題の方が断然いいのに…

  • レオナルド・ダ・ヴィンチによる土佐日記。けど、そこに書かれたいるのはフィレンツェがフィレンツェとして輝いていたメディチ家の血と策謀の記録。彼が彼女に託して何を語ろうとしたのか。タイトルがあまりにも秀逸で、読み終わったあとの懐古感がたまりません。

  • 歴史好きには堪りません。
    ジュリアーノォォ!!(絶叫)

  • ダヴィンチが自身の自叙伝を作成する為、自分をアンジェラという一人の女性に見立て、フィレンツェで過ごした空白の16年を弟子に語るというストーリー展開が斬新で、あっという間に読了した。
    イタリア史にはこの本を読むまで詳しくもなく知識も乏しい
    私だったが、当時の1場面ずつの情景や人々の生活の様子、
    政治体制、文化背景が事細かに表現されていてとにかくイメージ
    し易く1冊でイタリアを思う存分に味わい、楽しむことができた。
    もっと詳しく自分なりにイタリア史について知識を深めたいと思った。
    作中の出来事の中で特に印象に残ったのは、やはりジュリアーノの
    死である。アンジェラとの長期間の気持ちのすれ違いを終わらせ、
    お互いを支え合い愛していこうとしていた最中である。
    生涯共に居て欲しかったという絶望感と虚しさで涙してしまった。
    歴史には必ず残忍で暗い面が付きものだが、私にとって受け入れ難く
    物語の最後まで気持ちを引き摺ってしまった。
    メディチ家と反メディチ家との抗争の中で織り成す様々な策略や
    危機を乗り切る為の知恵、それぞれの人間達の生き様、考え方には
    どちらの立場に立ってみても圧倒され、感心した。

    人の上に立ち、崇拝される側の人間にはそれなりの試練や苦悩、血の滲むような努力があってこそ光り輝き立場を維持出来るのだと改めて思った。
    まさにタイトル通り、逆光のメディチである。

  • メディチ家に興味があって読み始めたんだが、割と序盤から読者を困惑させる展開じゃないですかこれ。
    死を前にしたレオナルド・ダ・ヴィンチが回顧録のため若い弟子に過去を語るのはいいとして、そのままでは話しづらい過去だから自分を少女として語るわって。少女のテイで。いやいやこっちは混乱するって。
    アンジェラの物語として聞く分には普通なんだけども。ジュリア―ノの逢引のために自室を貸すくだりとかは男女間だとふざけんなと思うけど、男同士だとありえて辛いね。友人を抱きしめる腕と恋人を抱きしめる腕にどんな違いがあろうか。
    ジュリアーノの最期を描くアンジェラは壮絶。
    個人的にはロレンツォが格好良すぎました。もっと彼が登場する小説が読みたい。

  • 集英社の改題版を読んだけどやっぱりこれは『逆光のメディチ』。
    簿記の歴史の本読んでたら昔読んだマンガ版を読みたくなったのだけど電子書籍はなかったので原作で。

    赤い結婚式も血生臭い戦闘もなく、金と権利使って戦争するの、さすがルネサンス。と思ったらそうでもなかった。

    相変わらず乙女ゲームにできそう。やったことないけど。

    レオナルド・ダ・ヴィンチが自らを女体化させて語る青年時代の恋愛話だけど、改めて読むと女体化させなくてもいけるな。ロレンツォとアントニーナとかそのままだし。

  • 後に「ダ・ヴィンチの愛人」として改題。
    うっかり買わないようにメモメモ(笑。

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著者プロフィール

長野県生まれ。西洋史への深い造詣と綿密な取材に基づく歴史小説で脚光をあびる。フランス政府観光局親善大使。著作に、『新・三銃士』『皇妃エリザベート』『シャネル』『アンジェリク緋色の旗』『ハプスブルクの宝剣』『王妃マリー・アントワネット 華やかな悲劇のすべて』『幕末銃姫伝』『i維新銃姫伝』など多数。青い鳥文庫ではKZのほかに「妖精チームG(ジェニ)」シリーズ、『マリー・アントワネット物語』『三銃士』も手がけている。

「2019年 『探偵チームKZ事件ノート 特装版 校門の白魔女は知っている』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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