神様がくれた指 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (647ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101237336

感想・レビュー・書評

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  • 話が盛り上がることなく、終盤まで続く。

    ページ数も多く、読むのになかなか骨が折れる。

  • スリと占い師。
    普段あまりお目にかからない職業ですが…


    『神様がくれた指』 佐藤多佳子 (新潮文庫)


    いやーよかったです。
    主人公たちの心の通い合いが暖かい、そして妙に後を引く物語。


    辻牧夫は電車専門のスリである。(“箱師”というらしい)
    一年二か月の刑期を終えて出所した彼は、迎えに来た育ての親の早田のおかあちゃんと帰る途中の電車の中で、なんとスリにあってしまう。
    (正確にはおかあちゃんの財布がスリとられるのをむざむざ見過ごしてしまったのだ)
    犯人は少年少女のスリグループで、辻は追いかける途中、その中の一人に怪我をさせられてしまう。

    倒れていた辻を助けたのは昼間薫という人物だった。


    登場人物がすごくいいんです。主役も脇役も。
    一人一人のキャラが魅力的で、人物像がとても鮮やかに浮かぶ。
    早々軒でバイトするか、マルチェラのお客になりたいわー。

    辻牧夫は、背が高く目つきは鋭く、刑務所製の坊主頭で、見るからに只者ではない雰囲気を醸し出している。
    が、中身は意外に好青年で、昼間に「犯罪者だが首尾一貫している」と言われる通り、仕事(スリなんですけどね)に自分なりの美学を持つ職人気質。
    料理はうまいしどこか人好きのする憎めない若者である。

    昼間薫は別名をマルチェラという。
    “赤坂の姫”とも呼ばれている占い師である。
    性別は男性だが、身長160センチ、色素の薄い端正な顔立ち、中世的な声。
    マルチェラになる時はロングドレスにチャドルを被り女装をしているが、普通に男の格好をしていても女に間違われる。
    ギャンブル好きのため常に金欠。
    エアコンのない賃貸の西洋風のボロ屋敷に住んでいる。


    子供のスリにやられたことが、“抜き取りのマッキー”と呼ばれた箱師・辻のプライドを傷つけ、闘争本能に火をつけた。
    “ガキども”を捜すため辻は家には帰らず、昼間の屋敷の居候となるのだが……


    奇妙な同居生活といえばコメディータッチの話だろうと思っていたら、途中からストーリーがどんどんハードになっていく。

    スリ団の正体が明らかになるにつれて、辻の身に危険が降りかかる。
    さらにマルチェラの占いの客の一人がスリ団のメンバーであったことから、昼間も事件に巻き込まれていく。

    いつの間にこんなアクション満載の犯罪小説に!

    拳銃で撃たれる人はいるわ、包丁で刺される人はいるわ、辻はボコボコにされてるし、昼間くんはマルチェラの姿のまま裸足で駆けずり回ってるし、西方のおやっさんはホームに突き落とされて……

    意外とバイオレンスやないのー!

    犯人グループが“子供”っていうのがね、ちょっと後味悪い感じがする。
    辻と一緒に“仕事”をした竹内春輝、マルチェラに悩みを打ち明けていた少女永井。
    この子たちは、この二人の大人に関わることで心を動かされることはなかったのだろうか。
    世を拗ねたまま日常へと戻って行ったのだろうか。

    そのことが、昼間の心に傷を残す。
    努力は嫌だなんて悪ぶっているわりに、そして自らの仕事をイカサマだと揶揄しながらも、この占い師はいつも「顧客が“大丈夫”であるかどうか」を心配して心を砕いている。


    「辻くんはいつもおいしいコーヒーをいれてくれる」

    と昼間が言う。

    辻と昼間の関係がとてもいい感じで、二人の場面は読んでいてすごく楽しい。
    男同士の友情でもあり、家族的な愛情でもあり、新婚夫婦(!)のようでもあり。


    そしてエピローグ。

    法学部出身の昼間は、かつて立ち消えになっていた司法試験をもう一度受ける決心をする。
    この事件をきっかけに、昼間の中で何かが変わったのだ。

    でも……

    「マルチェラがいないと困る人がいっぱいいるんじゃないの」

    辻!いいこと言うた!

    やっぱり昼間にはマルチェラでいて欲しいじゃないの。


    お別れに昼間から辻に手渡された「魔術師」のカード。
    解釈は、「放浪と特殊な技」「社会の枠組みからはみだしたところで、ふらりふらりと流れながら断固として一人で立っている男」。

    根底に同じものを持ってはいるが、分かれ道を迷いながら進む昼間と、迷わず一本道を行く辻。

    夏は暑い冬は寒いあの三沢屋敷で、またいつかゆっくり二人が(辻の淹れた)コーヒーを飲める日が来るといいなぁと願いつつ、彼らとの別れを惜しみながら読み終えたのでした。

  • マッキーの、他人の優しさや思慕に素直に反応せず、人に気を遣われること全般が嫌で、おれのことなんかほっといてくれ感を醸し出す性格が、逆に人を寄せ付ける魅力であるということに本人が一番気付いていない。本人がそっけなくすればするほど、周りに興味を持たれ、好意を持たれる人柄である。
    また、うまいコーヒーを淹れたり、料理が得意であるという、スリ職人特有の手先の器用さからくる意外な一面も、これまた好感を持たれてしまう。
    占い師・マルチェラの方は、容姿が女性で夜行性、でも性は男で、姓が昼間っていうアンバランスさが良い。
    もし、昼間が咲に嫉妬して、禁断の三角関係になっていれば、全然違う展開になっていたかも…と気持ち悪い想像はしたくない。

    昼間とマッキーと少女永井の追いかけっこが徐々にデッドヒートしていく場面や、カズがBMWで爆走する場面は、どきどきしながら読めてよろしい。こちらが静と動の「動」ならば、マッキーと竹内春輝が組んでスリを働いているときの「静」のどきどき感も、これまたよろしい。

    相変わらず一気読みする時間と読む気力がマッチせず、少しずつの読書やったけど、今どこまで読んでいて、前の話の続きはどんなんやっけ?とならないストーリー展開が優しかった。

    登場人物の誰も彼もが寂しいんやな。いつもそばに誰かが居てほしい奴らばっかり。
    どこで何してるんか分からん竹内春輝にも、友達できたかな?

    2017年06月04日 

  • めちゃくちゃ面白かったー!!
    まず設定がおもろい。
    出所したばかりのプロのスリがスられる。そこを通りかかった占い師の男と同居を始める。

    スリと占い師という2人の組み合わせも面白いし、
    仁義のために犯人を捕まえようとしていたはずが、
    ラストで犯人とのスリを楽しんでしまうところ、
    とても人間らしい。

    辻も昼間も魅力的な人間。

  • スリと占い師の奇妙な友情。
    それぞれの生い立ちなどが描かれ、欠陥はあるが、憎めない主人公。
    主人公の周辺の人物たちも生き生きと描かれていました。
    また、少し特殊な仕事ですが、プロとしてのこだわりも本作の魅力に感じました。
    後半は、スリリングで一気に読んでしまいました。

  • スリと占い師が主役の物語。

    出所してきたばかりの主人公スリのマッキーは、いきなり電車で少年スリ団に身内が被害にあう。
    そのスリ団の一人を追いかけ問い詰めようとするところから物語は進んでいく。

    そのスリにマッキーはのされ、そこをもう一人の主人公の占い師 昼間に助けられ おかしな同居生活が始まる。

    被害にあったスリ仲間の為に必要に少年スリ団を探していき、ついに対決となるが最後まで不利に不利に。

    最後は警察に助けられるような感じで、なんかしっくり来ないのでこの評価。

    新刊として出た当時にこのミスでランクインし 読みたいと思っていて少し前にこの文庫を手に入れたんだが、この題名と女性作家さんということもありなんか文学ぽく勝手に思っていて、なかなか読む気にならずにいた。
    読んでみるとサクサク読みやすく、文学とは反対のコミカルな語り口でスイスイ読んでしまった。

  • 助けたスリ師と占い師の奇妙な居候生活、いったいこの二人はどこで物語として重なるのかというほど離れた暮らしをしているのだけど、重なり合ってからは怒涛の展開です。竹内春樹はどこ行ったか知りたかったな。そしてスリ師の辻が真人間になるとも思えない、爽やかなんだけどどこか不穏なものが残る、スリという犯罪がテーマの物語。

  • ギャンブル好きの金なし占い師、才能のあるスリ、この出会いから物語は始まる/ 想像していた内容とだいぶん違った/ 逆転を賭けてコンビを組んで仕事をするような話かと思った/ 後半のいざこざが少し荒唐無稽でもったいない/ 話も落ちたんだか落ちていないんだか微妙/ 前半は読ませる/ 咲との関係性ももっと盛り込んだ方がバランスがよい/ ちょっと設定がもったいないかな/ 

  • 【あなたが私にくれたもの―】
    主人公の辻がやっていることは犯罪なのに、何か文体から雰囲気はふわふわしているようで、かと思ったらスリリングなことになっていき―。
    とにかく、目が離せない。
    マルチェラの海外編なんかも読んでみたいけど、でもあえて秘密にしておいて欲しい気もする。
    年齢は違うけれど、辻は高良健吾をイメージして読んだ。坊主も、ニヒルな笑みも、コーヒーを淹れる様子も似合ってそう。
    ほんわかして、ハラハラして、悲しい気持ちになって、気づいたら暖まる。そんな本。

  • 2019.5.30
    終盤からの盛り上がりがよかった!
    主人公の人柄が周りの人からの印象で徐々に分かってきて、すごく好きになってしまった。
    不思議でした。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。1989年、「サマータイムで」月刊MOE童話大賞を受賞しデビュー。『イグアナくんのおじゃまな毎日』で98年、産経児童出版文化賞、日本児童文学者協会賞、99年に路傍の石文学賞を受賞。ほかの著書に『しゃべれども しゃべれども』『神様がくれた指』『黄色い目の魚』日本代表リレーチームを描くノンフィクション『夏から夏へ』などがある。http://www009.upp.sonet.ne.jp/umigarasuto/

「2009年 『一瞬の風になれ 第三部 -ドン-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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