黄色い目の魚 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101237343

作品紹介・あらすじ

海辺の高校で、同級生として二人は出会う。周囲と溶け合わずイラストレーターの叔父だけに心を許している村田みのり。絵を描くのが好きな木島悟は、美術の授業でデッサンして以来、気がつくとみのりの表情を追っている。友情でもなく恋愛でもない、名づけようのない強く真直ぐな想いが、二人の間に生まれて-。16歳というもどかしく切ない季節を、波音が浚ってゆく。青春小説の傑作。

感想・レビュー・書評

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  •  もう結構前の話になりますが、Macomi55さんのブックリストに本書を見つけたとき、「あっ!!」と思って、これ私も好きなやつだと。ストーリーは殆ど覚えてないけど、感覚として、私の中で特別な位置にあったということは、今でも覚えている。

     私が20代の頃、初めて小説らしい小説を読んだ作家の一人に、「佐藤多佳子」さんがいて、彼女の描く作品には、どこか行き場を見失ったような人達でも、やがてはそれぞれの居場所を不器用ながらも見つけていく、そんな誰もが生きていていいんだといった、優しく温かい眼差しが好きだったのだが、その中でも本書は、私の中でダントツに好きであり、また別格な存在であることを、今回の再読で改めて実感した。

     本書は長編ながら、一つ一つに章題が付いた連作小説の形になっており、長編としては勿論、短編としても、それぞれのタイトルに意味やメッセージがあり、家族や学校問題、自分自身との向き合い方など様々な事を教えてくれて、それらが一つに纏まっていきながら、恋愛ものとしても素晴らしい形に結実していく、今読んでも全く色褪せることのない素晴らしさだと思う。

     また、少年少女の屈託のない素直さで書かれた、佐藤さんの文体は、時に子どもならではの拙さを顕わにしてみせる一面もあるが、それが却って、彼等のリアルで純粋で真剣な思いを痛いほど感じさせられて、青春小説とはいっても、そのどこまでもストイックに突き詰めてゆくような彼等の人生への姿勢には、子ども特有の視点の狭さもありながら、思わずハッとさせられるような大人が忘れかけていたものもありそうで、決して軽くはない、その子どもと大人が交錯する見えざる重しは、それこそ思春期さながらの痛みなのかもしれない。

     ということで、恋愛ものとはいっても、物語はとても真摯な内容であり、最初は二人の家庭環境から描かれていく。

     まずは「木島悟」であるが、彼に絶えずまとわりついていたのは、幼い頃に離婚して、一度だけ会ったことのある元父親「テッセイ」の存在であり、それまで遊びで絵を描くことが好きだった悟にとって、失敗ばかりのフニャフニャしたクラゲ男であっても、そこで見た父親が唯一真剣に取り組んでいた絵をきっかけに、自分の中の限界のようなものを決めつけてしまい、以後、それが彼にとって大きな悩みとなる。

     そんな彼を見て、母親はテッセイみたいになるなとキツいことを言うものの、実は、この家族は妹の「玲美」も含めて、全員似たもの同士であり、それはテッセイのイーゼルを撫でながら泣いていた、母の姿からも察せられることから、口ではそう言いながら、お互いに分かり合っている部分もきっとあると思う。

     一方、「村田みのり」は、無茶で短気で迷惑な性格として、家族から浮いた存在であるが、それは学校生活も含めた、彼女の自分を偽らない真っ直ぐな生き方と、そのように生きようとしない周囲が相反していることを理解されない辛さもあり、漫画家兼イラストレーターの叔父を心の拠り所にしていたが、時に彼女自身も矛盾した考えを抱いていることに気付き、一人誰にも言えず、心に抱え続ける。

     そんな状況の中、彼等が初めて出会ったのは、美術の授業でのお互いを描くことになったときであり、そこで初めて木島が描く村田の絵を見たとき、彼女の中に特別なものが湧き起こり、それは木島にとっても、普段イタズラ書きしかしない彼が真剣にデッサンしだしたことからも分かり、以降、彼は村田のことを『屈折しているのに、真っ直ぐ』とか、『静かなのに、激しい』といった相反する見方で捉えるようになり、そのひと言で捉えることの出来ない村田の奥深さに、他の人にはない魅力を感じ始める一方で、村田は家族での居場所の無さと、未来があるかもしれない望みの間で揺れ動く中、彼がどうやって自分を知る恐怖に立ち向かったのか、ということに関心が向き、それはもしかしたら、絵を描くことによってかもしれないと推測する中、彼の絵にある冷たい感じにも惹かれ、木島を意識し始める。

     そして、それ以降の二人は、木島の村田に対する印象、『どうでもいいような時にやたら一途な感じの姿がいい』から、彼の、人と本気で関われない悩みと向き合うことへと繋がり、村田は、ずっと自分と向き合うことが嫌だったけれど、それは相手のことだけを考えていることから湧き起こった不安感であることから、肝心なのは自分の気持ちだということに気付く一方で、実は他人の良いところを見ることに長けている彼女は、木島のことを『ぶきっちょで神経の細さが好き』と、その独特の見方には、彼女が唯一好きな絵を見ることと共通した、彼女らしさを感じられて、私にはとてもいいなと思えたし、お互いの良いところを必要とし合いながら成長していく二人の姿も、見ていてとても清々しい爽やかさがある。

     それから、何と言っても素敵なのが表紙の絵であり、この僅かな距離感がありながらも、如何に二人がお互いを信頼し、心を寄せ合いリラックスしているのかが、その絵を通して良く分かり、それはまさに物語に於ける、木島の描いた絵や村田の好きな絵のように、見えない言葉や複雑な思いがたくさん詰まった、物語の象徴とも感じられるのであった。


     以下、ほぼラスト間際までのネタバレありますので、ご注意下さい。






     さて、ここからは、この作品の好きなフレーズをひたすら書いていくだけになりまして、通常の感想は上記で終わってますので、あしからず。

     今回、再読して私が意外だなと感じたのは、書き留めたい台詞やフレーズが多かったことであり、それは、私がいくら言葉で伝えても伝えきれない、心に残しておきたい大切なものが、それらに詰まっているからだと思い、そうしたものを書き綴っていくことで、改めて私が特別に惹かれる彼等への思いを噛み締めていきたい。


    『ほんの少しだけ謎めいていて、きらきらした友愛があふれていて、痛い感じがする。胸にしみこんで泣きたいような気持ちになる』

    『木島ひとりしかいない世界だった。木島と白い紙と鉛筆と、そして、動くことのできない彫像のような私がそこにある』

    『なんか、よそゆきの感じがする。らしくない。いつもの似顔絵のやーらしさがない。あの強烈な個性がない。ドキッとするような大胆でシャープな線がない』

    『私は絵ができていくのを見るのが好きだ。いい絵ができていくのを見るのが、何より何より一番好きだ』

    『怒るくらい……パワーがある』

    『村田さんの似顔は描けねえかもな』
    『なんで?』
    『すげえ、むずかしいんだよ。顔じゃなくてさ。なんか人間の感じがさ』

    『村田は、いつもの顔をしていた。だいたい表情のバリエーションの乏しいヤツだった。物に動じない感じの仏頂面に、どこか喧嘩腰な厳しい顔に、喜怒哀楽がかすかに差し引きする。それが、すごく繊細な印象を与える』

    『あの時からずっと木島とつながっている奇妙な強い糸を私は今ゆっくり手にとって巻いているような気持ちになった。確かめながら。巻いて。短くして。近づいて』

    『彼の描く線が、彼の手の動きが、彼のえぐるように鋭い目の輝きが、今この瞬間がすべてだった。言葉はいらない。今はいらない。ほんとにいらない。この気持ちは感動なのかな? ショックなのかな?』

    『木島が私の顔を見てる。今は、見るなっと思った。この気持ちは私の一番深いところ、一番弱くて危険なところ、触れられたくないところ。見るなっ。でも、私は彼のモチーフだから、どんな時でも見られてやる──と思い直した』

    『木島の目をまっすぐに見つめた。挑戦的に。私の心が見える? 見てもいいよ。何でも見ていい。木島なら。木島だけだ』

    『木島の──不幸な絵は、個性なんだぞっ。あれでいいんだよ。私は好きだよ。いっぱい描けよっ』

    『俺、たぶん、タイムマシンで十年前に行っても、村田のことは絶対にわかるな』

    『絵ができるのをずっとずっと待っていた。何より楽しみにしてた。嬉しくて楽しみで、でもなぜだろう、今は少し悲しい気持ちもする』

    『絵ができてしまったら、彼はもう私をあんなふうに見ることはないんだ』

    『人は変わっていくけど、それでも、まったく別の人間になるわけじゃなくて、忘れてしまった気持ち、なくしてしまった笑顔がふいに甦ることがあるのかもしれない』

    『比べたりしないよ』
    『一つひとつ向き合うだけだから。絵って』

    『声に感電したみたい。村田だよ!』

    『全力で走る。ほんとうに、村田だ!
    「むらたァ!」
    叫ぶと、マジで呼吸が苦しくなった。
    「むらたァ!」
    それでも、もっと大きな声を出した』

    『私じゃないみたいだ』

    『でも、私だね』

    • Macomi55さん
      たださん
      こんにちは。
      私も一回読んだだけで、「感動した」という記憶以外殆ど記憶がないのにブックリストに載せていました(^_-)。
      たださん...
      たださん
      こんにちは。
      私も一回読んだだけで、「感動した」という記憶以外殆ど記憶がないのにブックリストに載せていました(^_-)。
      たださんのレビューを読んで、ああそんな話だったなあと思い出しました。
      「いい絵が出来ていくのを見るのが何より好きだ」というのが印象的だったのを思い出しました。他にもなんか人の些細な所に惹かれる柔らかい気持ちを描ける佐藤多佳子さん、天才だと思います。
      2023/08/20
    • たださん
      まこみさん
      こんばんは。
      コメントありがとうございます(^^)
      台風、大丈夫でしたか?

      そのブックリストを見たのは、もう半年近く前だと思う...
      まこみさん
      こんばんは。
      コメントありがとうございます(^^)
      台風、大丈夫でしたか?

      そのブックリストを見たのは、もう半年近く前だと思うんですけど、まこみさんも以前に読まれて物語を覚えていないのに、好きな作品として登録されていたことに、私の記憶も掘り起こされたようで、「そうそう! 何か良かったんだよな」と感じたのが、ずっと印象に残っていて、いつか再読したいなと思ってました。

      そして、改めて読んでみて実感したのは、一目惚れというよりは、それぞれの人生とも密接に深く絡み合った上での、他の人にはない特別な感情ということで、傍から見たら恋愛感情なのかもしれないけれど、それだけではない奥の深さに、人間の素晴らしさや愛おしさを感じさせられまして、特に村田の境遇は立場こそ違えど、独りになりたくないのになってしまう気持ちが分かるというか、何度も目頭が熱くなって、やっぱり私には特別な作品だと思いました。
      再読出来たのは、まこみさんのおかげです。
      ありがとうございます(*'▽'*)
      2023/08/20
  • 何かおすすめの本教えて。と言われたらとにかくすすめる1冊。初めて読んだ時の興奮は忘れられない。
    度々読み返し、その度に違う景色を見せてくれる。
    けれど是非若いうちにこの本に出会って欲しい。

  • 絵を描くことは好きだが
    真剣になることができない
    サッカー部の木島悟と、

    イラストレーターの叔父だけに心を許している、
    絵を見ることが好きな村田みのり。


    鎌倉を舞台に
    2人の16歳の淡い恋心を描いた
    青春小説の傑作。



    チャットモンチーのオススメで
    この小説を知って、佐藤多佳子さんにハマりました。
    (女優の多部未華子さんもお気に入りの小説らしいです)


    胸キュン恋愛小説と言えば、
    まず思い浮かぶのは有川浩さんやけど、

    10代の恋愛を描いた瑞々しさで言えば、
    自分は文句ナシに
    この作品を推します(^_^)
    (ジブリの「耳をすませば」が好きな方なら
    間違いなくハマります!)



    二人の16歳の
    みずみずしい会話や、
    葛藤や心情を描いた悶々とした
    「揺れる」描写が
    とにかくリアルで、

    これほど甘酸っぱさを真空パックした小説も珍しいんじゃないかな(笑)
    (思春期の少年少女を描かせたら
    佐藤さんの右に出るものはいないと思う)


    酒に溺れ
    離婚後も絵を描き続け
    体を壊して死んでいった実の父親
    『テッセイ』のようにだけはなるなという、
    母の言葉に頷きつつも、
    絵を描くことをやめられない木島。


    あまりにも真っ直ぐな性格が過ぎて、
    家族や級友とも
    すぐにぶつかりあってしまうみのり。
    (エキセントリックな女の子像が素晴らしい!)


    不器用な二人の描き方が本当に丁寧で
    会話の全てが心に染み渡るし、

    読み終わってしまうのが
    悲しくなってしまうほど
    浸っていたくなる心地よさ。



    みのりが唯一心を許す
    叔父のイラストレーター木幡通や
    木島の所属する
    サッカー部行き着けのカフェの
    ウェイトレス、似鳥さんなど、

    主人公二人の脇を固める
    大人たちの生き方までもが
    みな切なくて切なくて
    胸を焦がします(≧∇≦)


    周囲に馴染めず
    自分の生き方を模索する思春期の二人が、
    お互いの共通点である「絵」を通じて
    少しずつ
    少しずつ
    心通わす様は、
    もう名人芸と言っていいほど
    胸がきゅい〜んとなる感覚を
    読む者に味あわせてくれる。

    またラストを締める
    二人の会話が
    本当に本当に
    秀逸なのです(T_T)
    (下手な映画見るならコレ読んで!)



    今の学生諸君!
    ありきたりで
    イージーな携帯小説読むくらいなら、
    コレにしなさい(笑)

    出会えた喜びを
    誰かに伝えたくなりますよ(^_^)v

    • まろんさん
      かなり前に読んだ本ですが、
      みのりと木島くんの不器用なはみだしぶりが
      かわいくて、ほろっとしたのを覚えてます。
      独特の存在感を漂わしている
      ...
      かなり前に読んだ本ですが、
      みのりと木島くんの不器用なはみだしぶりが
      かわいくて、ほろっとしたのを覚えてます。
      独特の存在感を漂わしている
      みのりのおじさんが素敵でした♪

      佐藤多佳子さんの作品には、この他にも
      『しゃべれどもしゃべれども』とか、『神様がくれた指』とか
      人と人との繋がりを丁寧に描いた名作がいっぱいあって、好きな作家さんです(*^_^*)
      2012/07/07
    • 円軌道の外さん

      わぁ〜まろんさん、
      ここにもコメント
      ありがとうございます!


      コレ自分もかなり前に読んだんやけど
      何回も買い直してるし...

      わぁ〜まろんさん、
      ここにもコメント
      ありがとうございます!


      コレ自分もかなり前に読んだんやけど
      何回も買い直してるし、
      もうずっと手放せない本のひとつで、

      ジブリの
      『耳をすませば』と同じく、

      苦悩しながらも
      自分の殻を破って
      少しずつ少しずつ
      成長していく二人を見ていると
      なんかドキドキするし、
      スゴくまぶしいんですよね〜(>_<)


      自分がそれだけ
      おじさんになったからかもしれんけど(汗)
      ホンマできるなら
      学生時代に読みたかったなぁ〜って
      何度悔しく思ったことか…(T_T)


      思春期の少年少女たちを描いた話の中では
      ダントツに好きな話だし、

      ノートにメモしたほど(笑)
      生きたセリフが
      とにかく
      いいんですよ!


      あっ、自分も
      『しゃべれどもしゃべれども』大好きです♪

      国分太一と
      まだブレイク前の香里奈が共演していた
      映画版も
      なかなかの良作でした(^_^)v
      (強面俳優の松重豊さんが、俳優人生で初の助演男優賞を受賞したのも泣けました!)

      2012/07/10
  • 20150527
    以前、友達に「高校時代に読むべき小説を挙げるとしたら何?」と尋ねた時、この「黄色い目の魚」を教えてもらいました。自分が感銘を受けたとっておきの本だと、友達は言っていました。
    第一章。読み始めて、どうしてこれが高校時代に読むべき小説になるのかよく分かりませんでした。文章も語り口で、始めはどうにも馴染めなかった。それでもなぜだか本を閉じられなくて、解説で角田光代さんが述べているように、私も佐藤多佳子さんの魔法にかかっていたのですね。
    読み終えて、なんて心地の良い、すがすがしい小説なんだろうと思いました。木島やみのりがずっと心に住みついてるような感覚。心地よくて少し切なくて、友達が、高校時代に読むべき小説として挙げた理由に納得しました。言葉では上手く言えないけれど、この心に残る温かい気持ちだけで十分です。

  • これもマイミクの方に紹介してもらった本です。。
    高校生が主人公。
    読み始めるとすぐに本の中に吸い込まれてしまいました。
    「青春」、「愛」ですね。
    主人公の二人も とってもいい関係なのですが、私は「似鳥ちゃん」が好きです。
    佐藤氏の作品は3冊目ですが、文章や作風がわかったような気がします。
    まだまだ買ってある本があるので、順番に読んでいかなきゃ。

  • あっという間に読了。
    歳をとるにつれて、感動シーンは少なくなっていくかもしれないけど、思い出す瞬間、重なる瞬間は訪れる
    ということを、実感した。

    最初は短編集か?と思ったけど、最後まで一つの話が2人の目線から描かれていて、大変厚みのあるストーリーだった。

  • この間、サマータイムを読んでキラキラしてた佐藤多佳子さん、2冊目です。

    初めの章で「悟」の独白からはじまる。悟の視点で、悟の感覚、感触がずっと綴られていて、冒頭から悟に引き込まれていきます。

    と思ったら、次の章。全く違う話になって、今度は「みのり」の視点で話しが展開される。あれ?短編集だったっけ?と混乱するけど、3番目の章できちんと絡み合ってきて安心する。

    「みのり」も「みのり」の視点で、どんな思いを胸に秘めて生きてきたかが、自分のセリフで紹介されていくので、「みのり」の心にもすぐに引き込まれていきます。

    2人とも絵を描く父と叔父に強い影響を受けて育ちます。そして、2人とも絵に対する感性がとても強い。

    絵を通して気持ちが通じ合う2人だけど、恋人にはならないんじゃないか…と思いきや、やっぱりそこは。惹かれない訳がないですよね。そこに悟の憧れの大人の女性、似鳥ちゃんが。大人の女性ってズルいですね。

    真剣で真っ直ぐな2人の気持ちにこそばゆいような、応援したいような、そんな気持ちになりました。やっぱり、キラキラしてますね。

  • 必ずしも良い家庭環境にはいないこの二人の高校生は、自分の事、友人との事、世の中の事を分析しながら歩いている。多感と言われる高校生がさらに繊細な目を持って自分と自分の周りを見ながら細かく感じながら歩いている。
    自分がこの年齢の頃、多感な頃と言われながらそれでもかなりのほほんと生きてきたような気がする。
    彼らの青春は俺の青春とは違うのだろうか。
    けれどこれは作者が彼ら高校生を窓口にして読者に語っているのだと思えば彼らの感性は青春時代に特別に与えられた物ではなく、それを感じる事が出来る者達すべてに与えられる物なのだろう。
    であれば誰でも今、その感性を取り戻して自分の周りを繊細に感じる事が出来るはずなのだから、ちょっとやってみる?もいちど青春。
    青春とはいいながら、いくつになっても自分の心に鋭い視線を浴びせれば自分の周りが今よりずっとくっきりと見えてくるかもしれない。
    くっきりと見える事が今より良い事なのか、そうではないのかはわからないけれどそれを知るのが怖くて視線を外してぼんやりと暮らすのはもったいないかな。

  • 絵を描く事が好きな少年、悟。
    絵を見る事が好きな少女、みのり。


    子供でもなければ大人でもない
    16歳というもどかしくて切ない季節。


    湘南を舞台に二人を取り巻く大人と
    二人の成長を描いた物語。



    16歳、、
    私は何を感じ、何に向かって歩いていただろう。
    将来について、人間関係について
    色々な想いはあっても、
    ただただ毎日を何となくやり過ごしていた気がする。


    みのりみたいに
    誰とも群れようとせず、
    嫌いなものを嫌いと言い切れる強さを
    私は持っていなかった。

    だからこそ潔癖で誠実なみのりが
    私にはキラキラと眩しく映る。


    みんなと同じ事で安心し、
    みんなと違う事に恐怖心を抱いていたあの頃。

    同じクラスにみのりがいたら
    きっと浮いていたと思う。
    そして、
    私はみのりに近づきもしなかったかもしれない


    「本気ってやじやない?」
    「こわくねぇ?自分の限界とか見ちまうの?」
    悟と同じ事を私も思っていた気がする。


    大人に抱く憧れと険悪感。
    自由奔放な大人に
    魅せられて縛られていた悟とみのり。


    足りないものを補うかの様に
    二人は絵を通して徐々に惹かれあい
    互いを成長させていく、、。


    あの頃、何にそんなにイライラし
    何をそんなに焦っていたのだろう。
    まだ、子供でいたい様な
    早く大人になりたい様な
    相反する気持ち。


    あの頃の自分に会って教えてやりたい。
    そんな風に悩んでいる今が
    過ぎ去ってしまえば、
    とても貴重で尊い思い出に
    あっという間になってしまうんだよと、、


    大人になった今
    悟とみのりが見ていた世界を
    二人のフィルターを通して
    もう一度見てみたくなった。


    私にとって
    忘れてしまった何か、
    置いてきてしまった何かを
    少しだけ呼び覚ましてくれる
    そんな一冊。


    子供から大人まで
    幅広い世代の人に読んで欲しいです。

  • 「本当に大事なことを口に出したりする時は、いつだって苦しい。」

    不器用だけど、まっすぐな二人の高校生のお話。
    群れるのが嫌いで家族ともうまくいかず、唯一叔父にだけ心を許しているみのりと、
    絵描きだった父の面影を感じながらも絵をなんとなく描き続ける木島。
    絵の被写体と描き手として、言葉にならないもので繋がっていく二人がだんだんと惹かれあい、やがて「好き」に変わっていく。その過程が見ていて、もどかしいのだけれどいい。
    みのりのかたくなさが、木島を想うことで少しずつ柔らかく変化していくのがよかった。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。1989年、「サマータイムで」月刊MOE童話大賞を受賞しデビュー。『イグアナくんのおじゃまな毎日』で98年、産経児童出版文化賞、日本児童文学者協会賞、99年に路傍の石文学賞を受賞。ほかの著書に『しゃべれども しゃべれども』『神様がくれた指』『黄色い目の魚』日本代表リレーチームを描くノンフィクション『夏から夏へ』などがある。http://www009.upp.sonet.ne.jp/umigarasuto/

「2009年 『一瞬の風になれ 第三部 -ドン-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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