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Amazon.co.jp ・本 (448ページ) / ISBN・EAN: 9784101240220
感想・レビュー・書評
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東京ではなく、東亰(とうけい)である。決して東京の古語ではない。と気がついたのは、最早読み始め既に終わりに近づいてから。(←もはやネタバレのひとつ。すみません。でも、多くのレビューがパラレルワールドって書いている)ずっと気になっていた作品をやっと読めた。
明治29年。基本的に当時の明治東京と変わらない。中江兆民という民権運動家も固有名詞で出てくる。ところが、昨今東亰界隈には火炎魔人や闇御前という無差別殺人者が跋扈する。謎の人魂売りや般若蕎麦、不審な読売り、黒い獣、辻斬り、黒衣の者‥‥夜中にだけ登場するそれらは、確かに現代の歴史書には出てこない。
妖怪変化、魑魅魍魎の物語かと思いきや、話の中心はサイコキラーの正体を探っている帝都日報の記者・平河新太郎と香具師の万造の探偵物語だった。最終章までは。
「電灯だとか瓦斯灯だとか。夜の端々に灯火を点して闇を追い払った気でいるようだが、灯火は畢竟、紛いものでしかない。夜はただ暗いだけじゃないのだからね」そう言って、黒鉄甲の手が娘の顎を軽く撫でる。「川面に板を浮かべて蓋をするようなものだ。板の上に土を盛って石を敷いて、それで川を無くしたことになるのだろうか」(15p)
生きたような娘人形を抱えた黒衣の者は、例えばそう嘯(うそぶ)く。そう言えば‥‥リアル東京も、かつて川や運河は縦横に流れていただろう。それが総て「暗渠」になっているのだとしたら?今もその闇の流れの中で、魑魅魍魎が蠢いているとしたら?案外不思議はないのかもしれない。
ほとんど、コレは「もうひとつの十二国世界」だ。それもそのはず、発表は1994年。91年「魔性の子」から始まった、神仙と妖魔とその世界の人間たちが住む十二国が縦横に語られ始めた頃と、一致するのだ。十二国は我々の世界と、僅かな道で結ばれている。本書の不思議な出来事が、「あの世界」の影響ではないと誰が言えよう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
はじめは、妖怪変化の仕業と思われた人殺し。
しかし、やはり、家督争いの中で起こった事件。
文明開化と共に、帝都も魑魅魍魎の恐怖から開放された?
って感じで、段々とトリック殺人のミステリーかと思ってたら…
亡くなった初子の血に呪われて、兄弟で揉めていたってのも別にどうでも良くなって…
もっと、初子さんには、深い想いがあったとは…
はじめ少しダレるけど…
途中でトリック殺人かと思うけど…
最後は…
何か、呪術廻戦の
「呪術全盛 平安の世が始まるよ」的な感じの終わり方。
呪術全盛というより、魑魅魍魎全盛なんやけど。
今から、呪術全盛頑張るやな。文明開化が壊していったものを。 -
小野さんの伝奇ミステリ。
時は明治。夜の闇の中で魑魅魍魎が跋扈する帝都・〈東亰〉。
とりわけ、人を突き落とし全身火だるまで姿を消す“火炎魔人”と、夜道で人を切り裂く“闇御前”による連続殺人が民を戦慄させている状況です。
新聞記者の平河は、知人の万造と共に事件の真相を追うことにしますが・・・。
この物語の舞台は東京ならぬ「東亰」。
そう、「京」の字に横線が一本入った異世界の都市でございます。
レトロ且つモダンな雰囲気の中に、粘度のある薄暗さが漂って全体的に不思議な質感を醸し出している本書。
うん、好きですね~、この風情。
で、このねっとりした空気感に一役かっているのが、狂言回しのように合間に登場する、黒子&娘人形の浄瑠璃風の艶っぽい掛け合いで、この二人は何者なの?と思わせながら、これがまたいい味出しておりました。
そして、前述の火炎魔人や闇御前の他にも、人魂売りやら生首遣等々・・闇の中で蠢く者達の存在もゾクっとさせるものがあって、この辺がさすが小野さんですね。
と、一見ホラーっぽさを漂わせつつ、連続殺人の謎を追ううちに、鷹司公爵家の跡継ぎ争いが絡んできたりと、謎解き要素もちゃんとあります。
真相解明部分で、鷹司家の兄弟の悲劇の背後にあった壮絶な“呪い(と言ってよいかと)”が明らかになった時は、その思惑通りに哀しい末路を辿ってしまった常と直が切なかったです。
ただ、どんな事情があろうと“ダミー殺人”は許されませんよ。とは思いますけどね。
あ、あと“黒子”の正体も驚きでした。“あんただったんかい!”という感じです。
まぁ、いくら瓦斯灯などで無理やり夜を明るくしても、“闇の中”に潜む者達のテリトリーってものがある訳で、そこは文明・科学をゴリ推しする人間の傲慢さを省みるところなのかな・・なんて思いました。
因みに、鷹司家の“京都の兄弟”として登場した輔くんは、登場少なめとはいえなかなかの存在感で美味しいところを持っていったので、その弟の煕くんと共に、彼らメインで続編なり番外編なりあったら良いのに・・と思った次第です(もしかして、既に出ていたりして?)。 -
明治29年、急速に近代化が推し進められた帝都東亰(トウケイ)で、闇夜に現れ人を切り裂く『闇御前』、近ごろ流行りの露台で火だるまになって人を突き落とす『火炎魔人』、子供の失踪と人魂売り、辻斬りなど物騒な事件が話題となっていた。
その謎を追う新聞記者の平河新太郎と、大道芸人を取り仕切る万造は、これらの事件が華族鷹司家のお家騒動と関連しているのではないかと思うようになる。
平河は旧会津藩士の家に生まれた。父は藩から冷遇されたにもかかわらず、政府との戦いに喜んで出かけて命を落とし、貧困の中で弟妹は亡くなった。残った母の再婚により居場所をなくした彼は、娯楽新聞の記者として気ままに暮らし、都市計画により整備され瓦斯灯が煌々と輝く近代化された東亰を歓迎している。
幕府は滅び、新しい時代が始まった。それなのにどうしてこのような不可思議で恐ろしい事件が起きているのか。平河は現実的な解決を求めようとするが、その真相は恐ろしい闇をはらんだものであった。
以前読んだ畠中恵さんの『明治妖モダン』でも描かれていたテーマであるが、江戸の価値観を引きずりながら強引に近代化した明治期の日本には相当なひずみが生じていたのだろう。
美しく整備された街の中でどれほど近代的な生活を送っていたとしても、人の心はそれほど簡単に割り切れるものではないし、圧倒的な負の感情に対するといとも簡単に飲み込まれてしまう。
本書は、事件の謎を解くミステリの体裁をとりながらも、価値観の混在した時代に理屈では測り切れない人の心の複雑さを描き出す。さらに、本書には全編を通して事件を俯瞰する語り部役の人形と人形遣いが登場する。彼らの正体が明かされたとき、人間のおろかさ、小ささを思い知らされることになる。
真相が明らかになった後の東亰は、現代にも通じる首都の脆弱さを象徴しているようで、皮肉が効いている。 -
物語は当初黒子が語る東亰に巣食う魑魅魍魎たちの起こす怪奇な事件をあまねく語り上げ、やがてそれらの怪事件を新聞記者の平河新太郎が香具師の万造と共に解き明かす構成を取っている。
従って最初に見られた歌舞伎調の語りは次第になりを潜め、普通の文体へと変りゆく。この歌舞伎調の語りが読み始めは小気味よく、江戸怪談の趣きに溢れており、かなりの力作だなぁと感嘆していたが、読み進むうちに通常の文体に移行するにつれてどうもしっくり来なく感じた。
というのもこの作者があえて明治時代の「東京」を語るのではなく、現在の歴史とは違ったパラレルワールドである「東亰」を設定したのには、これら魑魅魍魎の跋扈する異世界を描きたかったのが狙いだったと思ったからだが、にもかかわらず、出てくる人物名に板垣退助だの井伊直弼だの中江兆民だの歴史上の人物が、此の世界において成した同じ事件の数々の当事者として出てくるからだ。
おまけにそれら怪異の事象は全て人間のなせる業であるという、云わば怪奇小説に見せかけた推理小説だという物語の流れに半ば裏切りにも似た感情を抱いてしまった。
しかし、そこはこの作者。やっぱり解っていた。最後の終章に至り、物語はガラリと反転する。天皇崩御に際して百鬼夜行の群れが復活し、東亰は伏魔殿と化すのだ。
ここに来てようやく作者の狙いが判明する。
物語の主題は、伯爵家鷹司家のお家騒動の根源は当時まだ側室が認められていた時代の正室初子の、側室の子供らを本家から排除するという呪詛の如き仕打ちに起因しており、その因果が歪められた結果の家督権取得の争いであったというのが表向きの理由だったのだが、この妖怪変化が復活した世界になると、実はこの初子の役割と功績が見事逆転するのである。
明治維新後、文明開化の名の下、西洋化が蔓延り、街には瓦斯灯が点りだす日本にかろうじて残っている闇。しかし文明化の足音はこれら闇を排除し、神仏やまじないなどといった実体のない物までも排除する風潮が流れる。こういう伝承こそこと大事なのだと、そしてまだ魑魅魍魎がいても可笑しくない闇の残る明治時代の「東亰」をあえて舞台にした作者の世界観はやがて同年に発表された『姑獲鳥の夏』の京極夏彦に引き継がれることで一つのジャンルとして結実する。
作品自体はやはりまだ完成されていない原石のような肌触りが残るものの、その後、京極夏彦氏が起こした妖怪小説の大きな流れを思うと、後世に残した功績は大きい。エポックメイキングな作品として残るべき作品だろう。 -
物語の舞台は東京ならぬ、帝都「とうけい」。闇が濃く残るこの街に跋扈する異形のものたち。おぞましく、また悲しい陰謀。赤く焼けた空、黒い板塀…どこか郷愁をさそわれる風景には汚猥の臭い。連続殺人の謎が明らかにされたと思いきや、予想もしなかった悪意が正体を現す。悪夢と酩酊のエンディング。
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小野不由美『東亰異聞』読了。
架空の都市「東亰」。瓦斯灯が夜を照らしても、夜には魑魅魍魎が跋扈する。文明開化の時代に起きる連続殺人と、その犯人と目される怪人、その謎を追う記者と香具師。
公爵家のお家騒動が見え隠れし次第に現実性を帯びていく「ミステリ」としての謎解きの面白さと、時代を感じさせる帝都東亰の妖怪変化の雰囲気が、絶妙なバランスで描かれ結末に向けて収束していくのが見事。
終盤の物語としての構成の美しさと、カタルシスはこの一冊にどこまで没入したかによってその色を変える。
「本格」を書ける作者の、ジャンルを横断した傑作伝記ミステリだった。 -
わざわざ東京ならぬ東亰を作る意味?って思いながら読んでいたら、終盤にすごい展開が!そういう事だったのか〜
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帝都・東亰では火炎魔人や闇御前といった、人とは思えない者たちの起こす事件で不安に包まれていた。一連の事件に興味を持った新聞記者の平川は、大道芸師の万蔵とともに調査を開始するが…
面白い要素はいろいろあったものの、不満点も多かったのが正直な印象。
ミステリとして面白かったのは、犯行の動機。お家騒動が裏にあるのは、平川の調査の過程で分かってくるのですが、なるほど、そっちか! と虚を突かれました。
ただ、動機については伏線はあったものの、ややとってつけた感があったのも事実。本の中ではさらりと触れられたくらいにしか書かれていなかったので、「え? そんなに追い込まれていたの」と、ちょっとぽかんとなってしまったのがもったいなかったです。もうちょっとその部分の書き込みがほしかったかなあ。
平川と万蔵のキャラも今一つ伝わってこない。読んでいて、どっちがどっちか分からなくなることもあって、少し感情移入しにくかったです。
そして、この本の評価を分けるのはラストだと思います。これをどうとらえるかによって作品の印象は、大きく変わると思います。
個人的には、風呂敷広げるだけ広げて、終わらせたという印象。読んでいて「残りページ少ないのに、こんな展開にして大丈夫?」と思ったのですが、その不安が当たってしまった、という感じでしょうか。
読み終えた後のもやもや感が、どこか同じ小野不由美さんの作品『魔性の子』に通じるものがあります。
十二国記シリーズの序章的作品ということで読んだ『魔性の子』だったのですが、描写力はすごいものの、作中よくわからないワードや回収されない伏線、唐突な展開などが多く、読み終えて非常にモヤモヤしたのを覚えています。(こうしたもやもやはのちに本編を読んで解消されたのですが)
そのもやもやと、この『東亰異聞』を重ね合わせると、もしかして東亰の物語はもっと続きがあって、これはプロローグだったのではないか、とも思えてしまいます。
東亰の話がこれ一冊で終わっているのが、もったいなく思えてしまいました。 -
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お互いを思いやった結果、一番悲しい結末になってしまった。他にやりようはなかったのだろうか?
ホラー感な出だしではあるものの、お家騒動に絡んだミステリー要素が強い。しかし最後は驚く展開となり、続きも読んでみたかったなと思う。 -
そうそう!こういう本が読みたかったのよ!
小野不由美さんの真骨頂。背筋が凍るような怪談話。
舞台は文明開化の花の開いた帝都東亰。
人を火だるまにして殺す火炎魔人に、黒い犬を使い爪で人を引き裂いて殺す艶やかな赤姫姿の闇御前。人魂を担いだ蛍売りに、怪しい読み物を取扱う奇譚読売。
ああ、なんという世界なんでしょうか!
そして話の筋となるのは鷹司家の家督争い。
人々の思惑と妖しい事件が絡み合い、思わぬ方向へ運ばれていく…。
とにかく一気に読んでしまうほうが良いんでしょうが、いつまでもこの世界観に浸っていたくて惜しむように読みました。
最後の最後まで目が離せませんので途中で読むのを辞めることは決してなきように。 -
舞台は、明治時代の帝都・東亰。夜は街を魑魅魍魎が徘徊し、高所に火達磨で現れ火で人を殺し、最後には消えてしまう火炎魔人。夜道で長い爪で人を引き裂く赤姫姿の闇御前。
それらの正体を調べる新聞記者・平河は、闇御前に襲われ幸いにも軽傷で済んだ青年を探し当てる。その青年は鷹司家の当主・常だった。しかし妾腹の常には同日生まれの、やはり妾腹の異母兄がいた。
現実世界とは少しズレが生じた帝都・東亰というパラレルワールドを舞台に、鬱蒼とした空気が漂う。禍々しい世界観はさすが小野不由美さん。闇の者たちの描写がかっこいい…
ホラー色が強い冒頭を抜けると、先の読めないミステリ調となり、ラストまで気が抜けません。怪作です。 -
江戸幕府を倒して開国、文明開化が進む街・東亰。
東京ではありません。
微妙にズレた歴史を刻むその都市で、魑魅魍魎が跋扈する。
読み始めてすぐに「これは夜に読んではいけない本だ」と思いましたが、怖いよりも続きが気になり、夜を徹して読みふけってしまいました。
気がつけばこれ、ミステリでもありましたね。
惨殺事件が多発し、一族のどろどろとした確執もあったにもかかわらず、なかなかに読後感は良かったのでした。
いや、ラスボスの正体にはびっくりしたよ。
だけど、ガス灯の灯りは闇を消失させたのではなく、ただ見えなくさせただけで、闇自体はずっとそこにあるのかもしれない。
なんて思ってみると、もう少し人間は、世界に対して謙虚であるべきなのではないかな。
というような難しいことはまったく考えなくても、つるつる読めて、ハラハラしたりどきどきできる本。
ああ、楽しかった。 -
ちょうど義兄弟クソ重感情もの読みてーって思っていた時に出会ってしまったのでこれは運命。
思わせ振りな台詞も美しく、物語に深く入り込んでしまいます。長子相続のいざこざや芸人の暗躍など明治時代ならではの舞台背景を存分に活かしたミステリ。魅力的な登場人物達による怪しい証言に惑わされるも良し。現代にもある封建制の名残に想いを巡らせるも良し。
第四幕の最後はぞわっとしました。人の憎しみが最もおぞましいという。
しかも推理して終わりではなく、全てが水に呑み込まれてしまうという盛りだくさんな内容でした。
黒衣さんの喋り方好き。終幕の唐突な展開等見るに、当時は黒衣が人形を集めていくシリーズ化も視野に入れて執筆していたんじゃないかなあ。 -
東京と東亰が別物だと、結末を読んでやっと分かった。鷹司家のお家騒動が切ない。なぜ火炎魔人も闇御前も人を殺めてしまったのか....闇御前は血に魅入られた...?
結末にも驚き。本物の妖怪が出てきてしまった...人形遣いと娘の人形のやり取りが官能的で好き...。どんどん読み進めてしまった
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