白銀の墟 玄の月 第三巻 十二国記 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101240640

作品紹介・あらすじ

新王践祚──角なき麒麟の決断は。李斎は、荒民らが怪我人を匿った里に辿り着く。だが、髪は白く眼は紅い男の命は、既に絶えていた。驍宗の臣であることを誇りとして、自らを支えた矜持は潰えたのか。そして、李斎の許を離れた泰麒は、妖魔によって病んだ傀儡が徘徊する王宮で、王を追い遣った真意を阿選に迫る。もはや慈悲深き生き物とは言い難い「麒麟」の深謀遠慮とは、如何に。

感想・レビュー・書評

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  • 泰麒は、李斎と半強引に別れ、驍宗を討った阿選の元へ。王宮は、妖魔が徘徊し病んでいた。
    李斎らは、ようやく手掛かりを掴んだ驍宗と思われる怪我人の元へ。その怪我人は既に亡くなっており、落胆は隠せない。亡くなってしまったのは、驍宗か。
    後半、王が見つからなかった理由、生存できた状況、阿選の心情が、少しずつ明らかになってくる。
    戴の困窮、王宮の腐敗、3巻でも見つからない驍宗。それぞれの、立場、所在からの綿密な群像劇は、ラストへの高揚感と期待値。
    さて、4巻へ。

  • こんな夢を見た。いや、覚めた今が、もしかしたら夢の中の世界なのかもしれない。「十二国世界」の始まりを知りたいと思っていた「わたし」は、もしかしたら、アレを体験していた「私」が「この世界」で「創世記」を書かせようとして虚海を越えて「通路」を通ってきたのかもしれない。

    私、中書令犀子は丞相李斯様に随行し泰山を登っていました。始皇帝35年。2か月前には、李斯様は昨年の焚書に続けて、批判止まない儒家と方士を坑(あなうめ)にしてしまわれました。報告が来たのはその直後でした。この勅令のきっかけとなった方士盧生が泰山山頂で見つかり、抵抗しているというのです。
    「どれだけ兵を遣っても構わん。早く殺して首を持って来い!」
    李斯様は言われましたが、報告者の云うには、
    「もはや1万の兵を遣わしましたが、尽(ことごと)く帰ってきませんでした。そして盧生の言うには、李斯様が来山したならば大人しく首を差し出そう、と」
    「何と!」
    罠であるとも考えられましたが、帝はひどく興味を示されて李斯様に命じられました。
    「もとはヤツの言を信奉し裏切られて始めた焚書坑儒だ。李斯が決着をつけるのが筋であろうよ」
    「そんな‥‥」
    李斯様は五万の兵を泰山周りの国々からかき集め、険しい山道を、輿に乗って登っております。7年前には、帝に付き従い泰山山頂で封禅儀式を執り行った事もあるので、言わばかって知ったる道でもあります。泰山では盧生の言を聞き、仙籍に名をとどめさえすれば不老不死になれると吹き込まれ、かなりの額を特別の儀式に注ぎ込んだりもしたのでした。もちろん、帝に不老不死の兆候が起きる事はなかったのです。
    ‥‥ふと気がつくと、泰山特有の、隣人顔面さえも不明になる濃い霧が立ち込め始めました。私は李斯様の興から離れぬよう扉の要の紐を握って附いておりました。
    「霧が出た。隊はいっとき止まるよう伝令を出せ」
    私は後ろに付いているはずの副将に云うと、何故か返事はありません。霧が晴れました。周りには李斯様の輿と私しか居りません。担ぎ手さえも霧散霧消しておりました。扉を開けて李斯様が外に飛び出します。
    「犀子!これは何事か」
    と、その時
    「李斯。待ち兼ねたぞ」
    目の前に、罪人盧生が立っているではありませんか。
    「おのれ!盧生、謀ったか!」
    李斯様は叫びます。盧生は、何故か目下の者に云うように李斯様に笑顔でもって応えます。
    「騙しはせぬぞ。ちゃんと大人しく、この場で身罷(みまか)ろうと思っておる。しかもお前の所望していた、五帝以来の宝書も其処に揃えておる。四書五経の最古の書はもちろん、老子、荘子、楽経、周記、殷記、夏記、そしてもちろん十二国記も。最古の完璧な書じゃ。全てこの場で燃やしてやるぞ」
    見ると山と見えた背後の高まりは、竹簡の塊ではありました。
    「何!もはや紛失しておったと言われていた三記ばかりか、十二国記までもが!」
    四書五経は「論語」「中庸」「大学」「孟子」「書経」「礼記」「詩経」「易経」「春秋」を指し、三記は歴代古代王朝の史記です。「十二国記」は、それらの書物の基となった書物中の書物。文字も象形字でしか記されてはいません。世界そのものを記した言わば「世界」です。中山の周りに五山を数える黄海大陸に棲む仙人や妖魔を記した山海篇と、黒海・青海・赤海・白海の四海を挟んで周りを囲む十二国の三千年にも渡る歴史を記した十二国篇とになります。我が国はそのうちの一国とも言われていますが定かではありません。その巻数、1万巻とも言われて、そんな書物は聞いたこともないから、もはやこの世には存在しないものと思われていました。書記官たる私も、噂だけは聞いたことがあるが、実在は信じていなかったのです。
    「盧生が持っていたのか」
    「いや、もとは老翁が持っておった。百年前にワシに託して奴は独りで五山に行ってしまった。愚かな奴だ。仙人になろうとも、その世界が消えて仕舞えば何にもならぬものを」
    「十二国は消えたのか?」
    「仙人が棲み、妖魔が跋扈し、麒麟が王を選び、王が聖道政治をする世界か?ふむ。明滅はしておったな。かって黄帝は、理想政治を目指してやるべきことをした。周の文公もそうだ。それら理想の過程は三記や四書五経に記され、文字はやりきれなかったことを魂魄として少しずつ力を蓄えて来たが、時が来れば弱くなる。お前ならば、知っているだろう。文字には魂魄が宿る。さすれば、昨年の焚書令においてその魂魄は燃えたのではなく、この泰山に来山し漂っておる。怨み死んだ儒家・方士の魂魄も来たぞ。私の願いが、それによってやっと叶う時が来た。焚書坑儒令ご苦労であった」
    「私は其方(そなた)を葬る為にアレを始めたのだ」
    「ワシはそのように仕向けたのだ」
    「そんな馬鹿な」
    「お前の師は荀子だったな。ヤツは太古の理想政治など要らぬ、世の中は刻々と変化しておるのだから、変化に合わせた政治をするべきじゃと言っておった。教えに忠実なお前は、理想政治に引きずられて現実政治が滞るのを恐れた。よってあらゆる古典を焼いて、言論封殺を目指した。そうなるのは、目に見えておったぞ。韓非子ならば柔軟だから、そうはならなかったかもしれぬな。荀子不肖の弟子のお前は、優等生の韓非子が始皇帝に容れられるのを恐れて謀って殺してしまった。その深謀遠慮と比べたら、ワシがお前を操ることなど拙いものよ」
    「燃えれば後世に残らぬ。それでも良いのか」
    「お前のような現実主義者には理解できぬであろうな。始皇帝を見よ。なるほどヤツは傑出している。ヤツの指導力ならば、理想政治国家は可能かもしれぬ。今は強権的で税も重く、民の不幸は多いかもしれぬが、あと30年ヤツの御代が続けば国は富み、世界に冠たる秦ができるかもしれぬ。しかし、その時ヤツは何歳か?明日にも亡くなる命に理想を託して何とする。ヤツが死ねば秦の帝国などあっという間に戦乱の世に後戻りじゃ」
    「其方の力で、不老不死にすると言ったではないか」
    「何かを得れば何かを失う。それが世の理(ことわり)というもの。この世で不老不死になろうとすれば、老子のように半分この世とサラバするしかないな。不老不死を約束したのは方便じゃ。全ては古代の方々の理想を実現するための」
    「何をしようとするのか」
    「魂魄の世界を作る。現世は形而下の世界じゃ。それをこれだけの魂魄の力を借りて反転させる。すると、形而上の世界が何処かに生まれる。そこからどうなるかは、その世界の住人が決めることよな。やはり人間を不幸にする世界になるかは、分からぬがな」
    「其方は、天帝になるのか」
    「まさか。お前は何を学んで来たのか。天は既に十二国記に書かれている。いま集まった文字による魂魄は、世界を作る身体じゃ、ワシの血はそれを関係つける契機にしかならぬ。天の仕組みは既に詳細に出来上がっておる。あゝ因みに、何故か五山の仙人は女性しかならぬらしいぞ。おそらく老子は、あの麓の大妖魔ぐらいになっていることだろうな。方士や儒家の魂魄は、黄海の妖魔をきっと豊富にしてくれることだろうよ」
    「其方は誰か」
    「まだ分からぬか。荀子もホントに不肖の弟子を持ったものじゃな」
    「まさか、荘子さま?馬鹿な。確か70年前に亡くなられたはず」
    「ワシは仙人にはならなかったが、ある日、胡蝶の夢を見た。二つの世界は、僅かだか、通路があるのだ。夢の中で、形而上の世界がどんなものかは分かったわ。その時少しだけ仙籍に細工した。」
    後ろの竹簡の山から煙が立ち込めはじました。紅い炎がつくと、まるで意思を持つかのように炎の触手を動かし始めた。
    「燃えよ。燃えよ。竹片に魂込めて一文字一文字書かれた文字たちよ。お前たちの形而下の身体は形を無くすぞ。このまま霧散するか。それとも、泰山山頂の、あの穴に入って世界を広げるか。どうだ。そうか。道案内が欲しいか。我が血を道案内とせよ」
    そう言って、荘子さまは自ら首を切り離しました。まるで間欠泉のように赤い血が吹き出し、霧のように炎を囲んでいきます。背景の泰山山頂上空には、炎が乱舞し、やがて一つに纏まり始めました。それは卵のようでもあり、玉(ぎょく)のようでもありました。いや、それは蕾でした。やがて、薄紫の煙の中で、赤い蕾は開いていきます。高山のような胚珠、まるで海のような青い四つのガク、8枚の白い花弁と更に4枚の花びらがが見えました。宇宙(そら)で、花は開こうとしているのか。と、泰山が鳴動し始めました。立つこと叶わず。私は輿を離れて仕舞いました。まだまだ燃えている竹簡の山の底が抜け始めています。ここだけ大きな亀裂が入ってしまったのか。竹簡と炎は、急速に地下に吸い込まれていく。
    「犀子、お願いだ。ワシをおいて行かないでおくれ」
    李斯様の声が聞こえた気がしました。

    それから後のことはよく知りません。
    私は気がつけば、わたしになり、つい最近小野不由美女史の書いた「十二国シリーズ」を読み始めました。彼女が何処から情報を得たのかは知りませぬが、どうやらその始めの物語は、彼女は知らぬようです。はたまた、描く意思がないのか。わたしは夢で虚海を渡ったのかどうかはわかりません。ただ、わたしはこうとしか思えないのです。もうすぐシリーズが終わりそうなので、ここに記してみました。

    次回最終巻では、十二国記総括感想を書きます。
    あ、ひとつだけ本書の感想を。「魔性の子の時の犠牲者は、無駄ではなかったようです。良かった」



    • 地球っこさん
      kuma0504さん、おはようございます。
      はあ、すごいです。
      とても読みごたえありました!
      全くもって、ここまで深く追究されるとは。...
      kuma0504さん、おはようございます。
      はあ、すごいです。
      とても読みごたえありました!
      全くもって、ここまで深く追究されるとは。
      素晴らしいものを読ませていただきました。
      気後れしてしまって、何をどうコメントさせていただいていいのか……
      「誠に驚嘆しております」
      恥ずかしながら、こんなありきたりなコメントしか出来ないことを、お許しください。
      それでもひと言、お伝えしたかったのです(*^^*)
      2020/05/06
    • kuma0504さん
      とりあえずホッとしています。
      1番気になったのは、「貴方の見立ては全然見当違いですよ」という事でした。そうなると、わたしは何を読んできたのか...
      とりあえずホッとしています。
      1番気になったのは、「貴方の見立ては全然見当違いですよ」という事でした。そうなると、わたしは何を読んできたのかということになってしまう。

      ホントは、もっと簡単な見立てだったのですが、おりからの「ステイホーム」週間で、3日ぐらい籠もってしまいました。ホントは、これと別の「公的な締め切り」は、もう過ぎていて、50%ぐらいしか手がかかっていない(笑)。どうしよう(泣)。
      2020/05/06
  • 十二国記【白銀の墟 玄の月】3巻

    やっ、山が動いたぁぁぁー!
    読み終わった直後の感想。

    李斎や協力者の懸命な捜索によっても戴王はみつからない…、が捜索途中、李斎は強力な協力者を得て、潜伏している仲間達に再会し、偽王•阿選に対抗する力をつけていく。

    一方、黒麒麟の泰麒は、
    阿選と3度の対峙をする事で、施政にも民にも何の感情も持たなかった阿選をゆさぶる。
    そして泰麒は麒麟としての王宮内での権威を取り戻していく。

    なぜ、阿選は戴王を討ったのか?
    王宮内に突然起こる『病む』とは?
    戴王はなぜ突然行方不明になったのか?
    耶利(ヤリ)と琅燦(ロウサン)の正体は?
    沢山の『?』が明らかになり、
    戴王と阿選の関係性や心の動きが浮き彫りになり、物語は大きく動いていく。

    すごっ!の一言。

    国の秘密を守り7年間虐待を受けてきた正頼と泰麒の再会場面に号泣(T ^ T)ドパー

    バラバラになった仲間達と李斎の再会に歓喜!
    (≧∀≦)

    戴王に対する、轍井の民の恩義を忘れない心に襟を正す思い( ̄^ ̄)ゞ

    そして、偽王と真の王、一国に2人の王が対立する中で、登場人物1人1人の心の動きが興味深く、
    誰からも目が離せない!

    終わって欲しくないけどっ(イヤダー!)
    ラストエピソードの最終巻へGO!

  • 驍宗と泰麒の行方が分からなくなってからの六年間は、戴国の民にとって辛く厳しい歳月でした。希望など全く見えなくて、一日一日を生き延びることに精一杯でした。それでも、自分たちの食いぶちを削りながら亡くなったとされる王のために供物を捧げる民がいます。王は必ず生きていると探し歩く人々がいます。窮民を救う豪商、危うい立場になろうとも王の兵たちを匿ってくれる村や寺院がありました。季斎をはじめ驍宗の臣たちも身を隠しながら王を探し、王宮のなかで囚われ黙しながら堪え忍んでいます。
    ここにきてやっと、皆の思いが繋がった細い糸が絶望に切れそうになりながらも、少しずつ希望へと太くなっていく展開でした。そして、それは同時に阿選の心の内が明かされることにもなりました。私はショックでした。泰麒や臣下に慕われ、常勝の戦績を収めていた彼のなかで、次第に渦巻いてきたものがこんなにも暗闇だったとは。阿選は「囚われて」しまいました。驍宗が目の前から消えても、結局彼に囚われたままの六年間。彼には絶望しかなかったことがわかります。過去が今の自分を作っているのならば、彼の過去が「驍宗に囚われた」それだけじゃなかったことに気づいて欲しかったと思うのです。人は変わっていく。変わっていくこと全てが悪いとは思いません。でも変わってはいけないものもあったはずなのに。

    多くの犠牲の上に蓬莱から戻ってくることが出来た泰麒。もう幼い麒麟の純真無垢のままではいられませんでした。蓬莱では彼に対しての残酷な仕打ちを何も言わず受け止めてきました。かつてこれ程人々の憎しみや呪い恐れなどに触れてきた麒麟はいないと思います。それらの事実が彼を慈悲深い生き物と言い難い「麒麟」にしたのならば、それも天の采配というものなのでしょうか。冷静で冷徹な「麒麟」でなければ、戴を救うことは出来ない、それが黒麒だからこその過酷な運命なのでしょうか。
    「天が私を生かしている」修行者の梳道が言います。「自分は生かされている」と驍宗は感じます。そのことに気づいたからこそ、彼は自分が生き延びることが王としての成すべきことだと動きます。泰麒と驍宗がここにあること、それが天に生かされていると思えば、ふたりには自ずから何をするべきかが見えているのでしょう。そして、その先に戴国が望む未来が続いているはずです。

    でも決してこの六年間は戻ってきません。失われた命は戻ってこないのですから。それでも、この苦しい六年間は泰麒と驍宗が築く戴国へ繋がっていくはずです。だけど、わかっているけれど、やっぱり争いの虚しさや憤りで胸が苦しくなる、この感覚は生涯忘れることは出来ません。

    「私という存在は、始まりではなく結果なのだと理解する」という梳道の言葉に、驍宗と泰麒が王と麒麟であるということは始まりではなく、過去のあまりにも大きい犠牲の上に存在するという結果なのだと私なりに理解しました。国を治めるということは、こんなにも非情な理の上に立つことなのでしょうか。業を背負い立ち上がれるものだけが王となれるのでしょうか。驍宗を待っている人々がたくさんいます。どうか今が未来へと繋がっていくのならば民が幸せに暮らせる世の中を必ず作ってほしいと願わずにはいられません。

    • やまさん
      地球っこさん
      こんにちは
      いいね!有難う御座います。
      朝方は、すごい雨でしたが、いまは☼/☁です。
      やま
      地球っこさん
      こんにちは
      いいね!有難う御座います。
      朝方は、すごい雨でしたが、いまは☼/☁です。
      やま
      2019/11/11
    • 地球っこさん
      やまさん、こんにちは。
      こちらは昼前に雨とそして雷が凄かったです。久々の雷なのでびっくりしました〰️
      やまさん、こんにちは。
      こちらは昼前に雨とそして雷が凄かったです。久々の雷なのでびっくりしました〰️
      2019/11/11
  • 新王践祚──角なき麒麟の決断は。
    李斎は、荒民らが怪我人を匿った里に辿り着く。
    だが、髪は白く眼は紅い男の命は、既に絶えていた。
    驍宗の臣であることを誇りとして、自らを支えた矜持は潰えたのか。
    そして、李斎の許を離れた泰麒は、妖魔によって病んだ傀儡が徘徊する王宮で、王を追い遣った真意を阿選に迫る。
    もはや慈悲深き生き物とは言い難い「麒麟」の深謀遠慮とは、如何に。



    幼かった泰麒のイメージから、大きく成長した彼を見てとれる。
    ここまで能動的に動けるのかと(T_T)

    李斎も新たな味方をどんどん増やし、驍宗の元へ向かう。
    三巻でもまだ驍宗は見つからないのか!!!
    早く引き合わせて欲しい。。。。

    李斎、泰麒、驍宗それぞれ離れ離れになった彼らに、奇跡が起こることを祈らずにはいられない・・・。
    四巻どうなる!?

  • 李斎(りさい)は、荒民(こうみん)らが怪我人を匿った里(まち)に辿り着く。だが、髪は白く眼は紅い男の命は、既に絶えていた。驍宗(ぎょうそう)の臣であることを誇りとして、自らを支えた矜持は潰えたのか。そして、李斎の許を離れた泰麒(たいき)は、妖魔によって病んだ傀儡(くぐつ)が徘徊する王宮で、王を追い遣った真意を阿選(あせん)に迫る。もはや慈悲深き生き物とは言い難い「麒麟」の深謀遠慮とは、如何に。
    「新潮社」内容紹介より

    ドキドキする展開.早く続きが読みたくなり寝不足になるw
    本当の慈悲深さは、ただ単に優しいだけじゃない.目的のために違った形をとることもあるよな、と思う.
    反逆の理由がここで明らかになって、人間の業ともいうべきものの深さを思った.
    あっちで、こっちでいろいろ展開のある3巻.4巻を手元に置いて読み始めることをおススメする.

  • 胸の内がじっくり味わえた一冊。

    阿選、驍宗、泰麒、麾下と…どんどん誰もの胸の内が明かされていく。

    時に憤り、やるせなく、時にせつなく…じっくり味わえて良かった。

    特に泰麒のいくつもの言葉がたまらない。「失敗できないのですから」いきなり泰麒のこの言葉、心情に胸打たれる。
    こんな想いを幼い頃から常に心に潜ませていたのかと思うとせつない。

    民に冬を越させるために…泰麒のあの血のにじむ姿には胸が割かれるほど。
    いや、でも逆に 彼なら彼だからこそ…という安心感も感じる。

    どんな結末が待っているのか…いよいよ最終巻へ。

  • 官吏や州候が魂が抜けた傀儡のように「病む」現象の正体が明らかになりました。
    読みながら、この「病む」という症状が現代社会とつながっているようで背筋が寒くなりました。
    自身の意思はなく、うつろな目をした生ける屍のような人間が社内にだんだんと増えていく…リアルに想像できてしまうところが怖いです。

    また、琅燦の目的が語られる箇所は、彼女ならやりかねない…と妙に納得してしまいました。
    しかし、それによって多くの命が犠牲になっていることも事実。
    そのことを心中ではどのように考えているのか、飄々とした彼女のふるまいからはうかがえなくて、もどかしい気持ちになりました。

    阿選の虜囚となっていた正頼と泰麒の再会の場面は涙が滲みました。
    『華胥の幽夢』の「冬栄」で描かれた、泰麒と正頼の微笑ましいやりとりを読んでいたときには、こんな未来がくるとは想像だにしていなかった…。
    過酷な追及を受けても自身の守りたいものを守り通し、ボロボロになっても昔と同じ茶目っ気を含んだ口調で泰麒に声をかける正頼。
    このような人物が戴にいてよかったと思わずにはいられませんでした。

  • 4.5
    急に面白くなってきました。
    やっと話が大きく動き出しましたね。
    4巻が楽しみです。

  • 9時に開く本屋さんに駆け込み、本屋さんを見て回ったけれどなかったので店員さんに「あの、十二国記の、今日発売の、、、」と告げると「すみません!まだなにも開けていないんです!」と急いで取りに行ってくれた。そして伝えていないのにその手には3,4巻が重ねられていた。ありがとう!店員さん!!忙しいのは分かっていたんです。でも、休みは今日だけ。どうしても少しでも早く読みたかったんです。ありがとう。
    今日は一日、本を読む。そう宣言したので、本当にほぼ一日本を読んでいられた。ありがとう。

    冒頭驍宗が生きていることが示され、それだけで涙があふれた。よかった、泰麒。驍宗さまが生きていたよ。
    そして粗末なものでも毎月食事を流す家族。その心根が確かに驍宗を生かし、希望をつなげた。
    李斎は新たな出会いのなかで驍宗の生存を確信し、また新たな可能性を歩み始める。
    泰麒は自らの機転で敵ばかりだった朝内で自身の確固たる信を築いていく。
    そして最終巻へ。

    ここでやっと阿選自身の内面が描かれるが、それはあまりに悲しい。ろう燦の目的は?唆されたと阿選は言ったけれど。本心は?

    読み終わった時間は三時ころで、あれ?もしかしてこれは読み切れる?と思いながらすぐに四巻を開いた。

  • 時間が経つのも忘れて読み耽っていたが、中盤あたりで次巻で本当に終わるのか?と不安になってきた。
    そんな気持ちを見透かすように、終盤で大きな謎が明かされた!
    十二国記だから油断はできないが、怒涛の展開を期待しつつ最終巻へ!

  • 続きが気になりすぎる終わり方・・
    すぐ読みたいような楽しみはとっておきたいような・・
    阿選と驍宗の関係も知れたのはよかった。
    でもじゃあなぜ・・・

  • やっと。
    歯車が回り出した。数々の謎というか疑問が説明されていき、そういうことだったのかーの連続。ちょいちょい都合がよすぎる気もするけれど、この世界観はやっぱりすごい。
    面白くなってきたところで四巻へ。
    それぞれの思惑がぶつかり合い、着地点はどこなのか、読むのが楽しみです。

  • 永かった……
    作中の戴の民にとっては6年、古参の十二国記ファンは18年、ちなみに自分は5年半、そして二巻のあの引きからの1ヶ月……
    それだけの時間が流れ、戴を巡る物語の終着点が、ようやく見えてきました。

    ここまでの二巻は、李斎たちよろしく、目の前がまったく見えない吹雪のなかをずっと歩いているような感覚を、読みながら感じていました。

     そして迎えたこの三巻。これまでのじりじりとした我慢の展開から一転し、ここから一気に物語は唸りをあげ加速していきます。

     ここ1ヶ月、ブクログのタイムラインを見ると、十二国記のレビューがしょっちゅう流れてきました。その中でときどき、かつての幼い泰麒を懐かしむレビューが、見受けられたように思います。

     自分はこれまで十二国記の長編作品で、泰麒を中心にした話だけ、他のエピソードとは毛色が違うものを感じていました。
    それは他の話が王を巡る話だったのに対し、泰麒だけ麒麟の物語だったから――そうした役割の違いだけでは説明できないように思います。

     その違いの本質は、自由と無力さだと個人的には思います。陽子、延王、珠晶、彼らはそれぞれ立場は違えど、自分で考え行動する自由があったように思います。

     一方で泰麒は幼さゆえ、自らの責任を果たしたい、と思いつつも自由に行動させてもらえず、結果自分の無力さにずっと悩んでいたように思います。
    そして、今回の一件があり蓬莱に流されて6年、帰ってきた泰麒にはかつての幼さはありませんでした。

    泰麒も心身ともに成長したし、様々な裏切りにもあったから思考が大人になったんだなあ、と軽く思っていました。
    しかしこの三巻を読み進めるにつれ、泰麒の行動や思考の根底にあるのは、そんな生半可なものではないと、認識が変わりました。

     この三巻は泰麒に様々な決断や、困難を強いる巻でもあった気がします。その都度彼の心中が描かれるのですが、そこにあったのはこれまでにあった麒麟としての責任だけでなく、
    『魔性の子』の惨劇もすべて受け止め、その上で自らの役割の重さを痛感し、圧倒的なまでの困難に挑む姿でした。

    彼の心中を知り、自分はようやく泰麒の様々な行動の意味に思い至ったような気がします。たとえ捨て身の手段を取ろうとも、同士たちから不審を抱かれようとも、
    そして、身の回りの人や物事を何もかも疑っても、それでも自分だからこそ、果たさねばならないことがある。そうした決心があるのだと思います。

     そしてその決心は泰麒にとって、戴の民たちへの、そして蓬莱の惨劇に対しての贖罪でもあり、彼の存在する意味だったのです。

     彼のこの決意に思い至り、そりゃあ泰麒も「もう幼いまま、誰かに守られるままではいられない」と考えるよなあ、と深く納得しました。
     ようやく泰麒も他の主人公たちと同じように、自分の幼さや無力さに打ちひしがれるのではなく、自ら考え行動し責任を果たすことができるようになったのです。

     この三巻の一場面で久しぶりに泰麒と再会を果たした人物が、泰麒に対し「ずいぶんと強くなられた」と話します。それに対し泰麒は「もう子どもではないんですよ」「良くも悪くも強かになりました」と返します。するとその人物は「惜しくもあるが、心強い」と応じます。

     幼く可愛く、無垢だった泰麒の姿は確かにもうありません。それを残念に思う人がいるのも分かります。でも、それは決して残念がることではないのです。それは喪失ではなく、成長であり進化なのだと、自分は思います。

     それにしても作者の小野不由美さんは、一体どの段階から、この泰麒をめぐる物語を既に完成させていたのか、と末恐ろしくも感じてしまいます。
    確か1991年発売の『魔性の子』執筆段階で、すでに十二国記の世界観はできていたということらしいのですが……

    作中の登場人物の中には、かつての姿とも、そしてこれまでの麒麟らしくない泰麒の立ち居振舞いに、脅威や驚異を覚える人物もいるのですが、自分にとっては小野不由美さんこそが、その脅威や驚異の対象です……。
    どんな物語設計をしていたら、『魔性の子』からこんなに時間を置いても、話がきれいにつながるんだ……

     そしてこの巻で、ようやく阿選の過去も描かれます。彼が反旗を翻した訳、そしてようやく手にした立場を無下にしている訳。

     それは言葉にしてしまえば単純なものなのですが、それを重層的に描き、影に囚われた男の大罪の話として、読みごたえ十分に仕上げているのも、さすが小野不由美さんです。そんな阿選も泰麒の行動がきっかけで、新たな動きを見せ始めます。

     阿選の臣下たちの葛藤も読み応えがあります。謀反を起こし国に対して大罪を犯した尊敬すべき主上。そんな主上に抱く複雑な思い。この葛藤も十二国記だからこそだよなあ。

     個人的に胸が熱くなったのは、これまでところどころで描かれた戴の民のある行動が、物語に繋がっていくところ。話がある程度見えてきたところで、
    「もしかしてあの描写の意味って……」と勘ぐったところはあったのですが、それでもやられてしまいました(笑)

    『丕緒の鳥』の中でも、こうした市井の人たちの思いが繋がる短編はあった気がするのですが、王や麒麟、国といった大きな物語だけでなく、
    李斎に協力してくれる市井の人たち、徐々に泰麒たちに協力的になる王朝の役人、そして寒さや飢えに震えつつも、矜持を曲げない民、

    本来脇役である人たちの思いも汲み取って物語が展開されるのも、また十二国記の大きな魅力のひとつだと思います。

     というわけで、物語もいよいよクライマックス。仕事を休んで四巻を読み終えたいところですが、とりあえずは我慢です……。

    以下余談

     一巻、二巻がまず発売され、それから一月置いて、この三巻四巻が発売されたわけですが、一、二巻を読んで一月待つか、三、四巻発売後一気に読むか、悩んだ人は多いと思います。

     自分はフォロワーの方とのコメントのやり取りを経て、一月待つ方を選択したのですが、この読み方はこの読み方で、ある意味正解だった気がします。

    二巻のあの引きから、一月待つ。それによって作中の李斎たちと同じような、何を信じていいか分からないというジレンマを疑似体験できたと思います。
    そして、その待ちの期間があったからこそ、この三巻の一気に加速していく展開を、より楽しめたような気がします。

     でも一方で、四巻一気に読んでいる人たちの読み方も羨ましく感じている自分もいます。以前、宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』が文庫化されたときも、第一部、第二部、第三部と一ヶ月ごとに販売されました。

     その際自分は、第三部の発売を待って、第二部、第三部を続けて読みました。あのときの物語にずっと入りこんでいる感覚も、忘れがたいのです。

    今後、十二国記やソロモンの偽証のように、物語にとんでもない吸引力があり、なおかつ一月ごとに発売される物語に出会えるか、正直分かりません。

     だからこそ、記憶を消して過去に戻り、この『白銀の墟 玄の月』を一気読みしたり『ソロモンの偽証』をあえて一月待ち、涼子たちと裁判の開廷を待つような感覚を味わう読み方も、してみたいような気もします。

    • 地球っこさん
      とし長さん、こんばんは。
      とうとう4巻まで読んでしまいました。
      とし長さんは、4巻ガマン中でしょうか?
      私はしばらくこの世界から抜け出...
      とし長さん、こんばんは。
      とうとう4巻まで読んでしまいました。
      とし長さんは、4巻ガマン中でしょうか?
      私はしばらくこの世界から抜け出せませんでした。実は今も、数々の場面を思い出す度にじわりと涙がでてきます。
      本当に、最後まで読んでよかったと思いました。
      とし長さんのレビューに、うんうんそうだなと同じ思いを感じたり、あ、そうかそういう考え方もあるのかと、はっとさせられたりしました。
      実は、語彙力も文章力もなくて思うように書けないもどかしさでいっぱいでしたが、とし長さんのレビューを読ませていただいて、心のなかがまとまったようにすっきりしました。
      素敵なレビュー、ありがとうございました(*^^*)
      2019/11/14
    • 沙都さん
      地球っこさん、こんばんは。コメントありがとうございます。

      四巻は今日から読み始めました!
      三分の一ほど読んだと思うのですが、李斎が十...
      地球っこさん、こんばんは。コメントありがとうございます。

      四巻は今日から読み始めました!
      三分の一ほど読んだと思うのですが、李斎が十二国記の世界にいてくれて良かった、と心底思っているところです。

      読み始めはしたものの、一気読みは平日では難しいので、ある意味ガマンの真っ最中ではありますが(苦笑)

      遅まきながら、地球っこさんの三巻のレビューを拝読しました。
      泰麒や驍宗、阿選、そして戴の国に対しての、情緒あふれるレビューに、心打たれました…

      これだけ感情豊かに物語を語れる地球っこさんも素晴らしいですし、
      それだけ人の感情を引き出せる『十二国記』もやっぱり素晴らしいなあ、としみじみ思います。

      自分の拙い上、長いレビューが地球っこさんの、何らかの助けになったのならば、幸いです。

      レビューの余談で、前回の地球っこさんとのやり取りについて、少し書かせて頂きました。

      地球っこさんも、自分と同じく一月待つ読み方を選択されたのですよね。

      変に煽ってしまったのではないかと、後々ちょっと不安になったりもしたのですが……

      こうしてコメントいただけるということは、結果的には良かったのかな、と勝手に解釈しております(そう解釈して大丈夫ですよね?)

      四巻を読み終えたら、また地球っこさんのレビューを拝読致しますので、よろしくお願いいたします。
      2019/11/15
    • 地球っこさん
      とし長さん、おはようございます。
      お返事ありがとうございます(*^^*)

      そうです。一月待ちました。
      とし長さんのおっしゃる疑似体...
      とし長さん、おはようございます。
      お返事ありがとうございます(*^^*)

      そうです。一月待ちました。
      とし長さんのおっしゃる疑似体験ですね、いろんなことを考えながら待ちました。
      だからなのか、余計に3巻で加速しはじめた展開がとても熱く感じることができたのかもしれません。

      とし長さんの4巻のレビュー、楽しみにしてます♪
      2019/11/15
  • 直前におさらいで「冬栄」を読んでいてよかった。
    正頼が出てくると涙が溢れてくる。
    それだけに読み進めても思う気持ちは変わらない。
    私は戴の民なのかしらと、戴の民目線で祈るように読了。

  • いやああ、どうにもこうにもレジスタンスの何たるかが肌感覚で伝わってきます。1巻目でもう希望の持ちようのないような悲惨な状況を余すところなく伝え、2巻目でそれを何とかしようとする僅かな人たちの奮闘とそこにほんとに一滴ずつ、ほんの時たま加わってくるずっとずっと”できる事をする”形で踏ん張ってきた人たちの姿。それが3巻でこう、一つの流れとして、まだ小さなものだけれども、だんだん大きな流れに繋がるかも、位の景色を見せての最終巻。どうかどうかあまりにも厳しい現実を実感させられるラストでだけはありませんように…

  • いよいよ物語が動き始めました!泰麒は、他の国の麒麟とは一味違う。正しいことを愛することは勿論だけれども、同時にしたたかさをも併せ持っている。(全く余談だけれども、「先生」という何気ない言葉にハッとさせられた。「魔性の子」の広瀬は、こんな高里の姿を見てなんと言うのだろうかと想像してしまう…)希望が形になり始めた3巻。最終巻を読み終えてしまうのが惜しい。

  • 〉麒麟は人を殺傷できる。できないとそう周囲も本人も信じているだけだ。麒麟の殺意は特殊な生まれ方をするので、一見そう見えるだけだ。
    〉できない──できない、だが、やらねばならない。


    泰麒が、人をその手で殺すかどうかで5ページ葛藤した第三巻。
    2冊と300ページを費やして、残りの50ページでついに、ついに物語が動き出した、長かった…。
    四巻は怒涛の解決編だ(きっと)!

    二巻の感想で、麒麟は所詮ヒトではないから――と書いたけど、三巻読んでいて六太のお話があったことを今さら思い出しました。延麒は内心いっぱい語ってくれてたっけな…。

    泰麒も今回いっぱい頑張りました。

    李斉や項梁がいたとしても、彼らとは背負っている物のレベルがやはり違う。泰麒の心情としては孤独だったのではないか。そして焦りが切々と感じられる。
    麒麟らしからぬ無茶を立て続けにして状況を切り開こうとする姿には思わず目頭が熱くなるし、遠い岸で起きた様々な出来事が泰麒を後押しした日にはもう…。泰麒にとってはついこないだのことだしな〜。


    さて続き続き。
    李斉と泰麒が幸せになれる結末だといいな…。あと陽子と楽俊出てこないかな。

  • 停滞していた二巻に対して今巻は少しずつ話が動き出す。
    ようやく阿選の思考の一端が見えた。驍宗と並び称されるうちにいつのまにか息苦しさを覚え、自らの作り出した幻影に溺れた。愚かだと思うけれど、その重圧は想像すらできないものだったのだと思う。皮肉なことに今までで一番阿選に人間味を感じる。もちろんやったことは絶対に許せないけれど。そして琅燦か。千載一遇の探究の機会があって、何よりも優ったということなんだろうか…。
    傀儡は妖魔のせいだったのか。鳩を通して何か呪術を使っているのかと思っていた。
    正頼のことはとても言葉にならない。なんという精神力だろうか。あの口調が懐かしく、かつての泰麒との様子を思い出すと泣けてくる。
    そして語られる泰麒の心情、その覚悟が痛くて辛くて胸が詰まった。
    ここに来てひとやもの、かつての仲間たちが集まり始める。長い苦難の道、皆がいつかの日のことを考え備えていたんだと思うと瞼が熱くなる。
    終盤で驍宗の描写が出てきたときには思わず声を上げた。父親と少女の籠が、その深い思いが正しく助けになっていた。ただただその場面には胸打たれた。驍宗のたくさんの幸運を受け止め、戻ることを諦めないその心根には本当に頭が下がる。
    阿選が朝に姿を見せ始めることで、阿選の麾下たちにも止まっていた時間が動き始める。阿選の麾下たちの動揺、そして恵棟の叫びが痛々しい。
    ついに最終巻。

  •  十二国記シリーズ最新刊『白銀の墟 玄の月』の第三巻。起承転結の「転」に当たるか。波乱含みで終わった第二巻までの前半だったが…。

     序盤から思い切った行動に出る泰麒。半ば幽閉状態とはいえ、力になってくれる者もいる。聡明なだけでなない大胆さにも驚かされる。もちろん、ただ無謀に動くのではない。項梁の不満や懸念もわかっている。

     あまり感情を見せない、というよりほとんど表に出てこなかった阿選が、本音を語るのが興味深い。作中では最大の敵役とはいえ、共感できる点もないことはない。玉座に興味を失ったというより、阿選が自身を理解できず、持て余しているように感じられる。それ以上に、側にいるある男の考えはわからない。

     前巻終盤にもたらされたある噂に対し、李斎らは冷静だった。さすが上に立つ者ではないか。前巻でいい印象を残さなかった人物の、違う顔が見えてくる。過酷な戴国の環境だけに、全土に目を光らせるにも限界があるのだ。味方は確実にいる。そのことが李斎らを奮い立たせ、読者の読むペースも加速する。

     クライマックスに向けて、大きく動き出す第三巻という印象を受ける。泰麒に焚きつけられたのか、苛立ちを隠さない阿選。どうしても、あの人物を意識せざるを得ない。侮蔑を隠さないこの男は、ますますわからなくなってきた。この男が、クライマックスの鍵を握っているのかもしれない。

     そして、李斎らの困難を極めた捜索の末に、ある説が浮かんできた。ここまで読んできたファンにとって、最大の謎。まだまだ予断を許さないが、第二巻まで読み終えてやきもきしていた読者の多くは、多少はほっとするだろう。立場上、わかっていても行かざるを得なかった。それも阿選の計算のうちだったのだろうが。

     李斎らと、阿選が、それぞれに動き出す。泰麒はどうするのか。そして、あの人物は。クライマックスの準備に第三巻までかかったわけだが、不思議と長すぎた感覚はない。さあ第四巻を見届けよう。

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著者プロフィール

大分県出身。講談社X文庫ティーンズハートでデビュー。代表作に『悪霊シリーズ』 『十二国記シリーズ』『東亰異問』『屍鬼』など。重厚な世界観、繊細な人物描写、 怒濤の展開のホラー・ミステリー作品で、幅広いファンを持つ。

「2013年 『悪夢の棲む家 ゴーストハント(1)特装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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