白銀の墟 玄の月 第四巻 十二国記 (新潮文庫)

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  • 新潮社
4.60
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本棚登録 : 1300
レビュー : 118
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101240657

感想・レビュー・書評

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  • とうとう読み終わってしまった。辛い涙、悔しい涙そして愛おしい涙、安堵の涙。私はたくさんの涙を流した。これからも戴国の戦いは続いていくのだから、王と麒麟が戻りよかったねで終わるのは違うのだろう。でも、それでも、言わせてほしい。ここまでわたしを連れてきてくれて本当にありがとう、と。

    深い深い地の底で、驍宗は幼い頃の泰麒に思いを馳せた。ずいぶんと大きくなったことだろう、どんな大人になっているだろうと。王と麒麟という枠組みでなく、まるで父が息子を想うようなそんな深い愛情を感じた。
    はい、大きくなりましたよ。立派になってますよ。そして泰麒は、あなたを救うため、そして戴国の再生のために苦しく孤独な戦いをしてますよ。そう、あなたが初めて「蒿里」と呼んだときのこと覚えてますか。「死気はやがて生気に転じる。お前が戴にとってもそのように、再生を約束するものであるように」と。
    ついに、泰麒が決死の覚悟で驍宗の目前にたどり着いたとき「……大きくなったな」との驍宗のひと言に、ふたりが出会ってから今までのことが走馬灯のように甦った。あの蓬山で驍宗を庇いながら、饕餮(傲濫)を折伏し使令に下した時のこと。漣から戻った泰麒と驍宗のつかの間の幸せな時間……どうか、これからふたり決して離れず戴国を再生してください。

    はじめは孤独だった。季斎が慶国に助けを求めてから、同じ志を持つ仲間がひとり、ふたりと増えていった。どれほど民が虐殺や寒さ貧しさで死んでいこうと、天は何もしてくれない。でも、ひとりひとりが行動を起こし、出会った人々の厚意に感謝し、諦めず進んでいけばそこに何かしらの導きが待っていた。天の理は必ずあって、きっと人がそこに向かおうとすれば、天は導いてくれるものなのかもしれない。以前、陽子が言った「人は自らを救うしかない」その言葉が頭によぎる。
    時には悲しみに打ちひしがれ、立ち上がれなくなるような出来事もあった。やっとの思いで勢いに乗ったかと思えば、簡単に絶望で引き裂かれることもあった。それでも、季斎をはじめ人々は立ち上がった。義を重んじる、国を守りたい、王を救いたい、数えきれないほどの人の命を奪った偽王を倒したい。きっかけはバラバラだったけれども、目指す方向が一緒だった人々は前に進んだ。

    そうか。これは泰麒と王の物語ではなく、戴国の民が真実を取り戻すための戦いの物語だったのかもしれないと思った。
    真実を求めようとすれば、人を傷つけ自分も傷つくことがある。真実を知ることは、今まで信じてきたものがことごとく覆えることもあるし、裏切られることもある。真実が必ず全ての者に良い結果を与えるものでもないこともわかった。真実を見極めるために、そして真実が明らかになったとき、自分がどのような行動に出るべきか考えなければならないことも心に刻まれた。そして、真実が取り戻せたとしても失くなったものは決して戻らないことが影を落とす。
    だからこそ、ひとりひとりの思いや行動が、この結果をもたらしてくれたことを忘れてはいけない。過去が現在を、現在が未来を作るのなら、私たちはどう生きていかなければならないのか。決して傀儡などになってはいけない。

    もう、どれだけ私が感動したのか、熱いものが込み上げてきたか書きたくても書けない、語彙力も技術もない自分がもどかしい。
    だけど、これだけは言える。
    「十二国記」と出会えてよかった、と。

    • ayuko.さん
      地球っこさん
      コメントありがとうございます。
      地球っこさんのレビューはどれも胸を打たれるものばかりで感動しました。
      本当に十二国記に出...
      地球っこさん
      コメントありがとうございます。
      地球っこさんのレビューはどれも胸を打たれるものばかりで感動しました。
      本当に十二国記に出会えてよかったと私も思います。出会えてなかったら違う自分だった気がします。
      2019/11/15
    • とし長さん
      地球っこさん、コメント失礼致します。

      無事(?)四巻読み終えました。

      こちらにコメント差し上げる前に、三巻で地球っこさんから頂い...
      地球っこさん、コメント失礼致します。

      無事(?)四巻読み終えました。

      こちらにコメント差し上げる前に、三巻で地球っこさんから頂いたコメントに対しての自分の返事を読んだのですが、
      「あの頃は青かったなあ…」と、少し複雑な気分になりました(苦笑)

      地球っこさんのコメントが押さえ気味だったように感じたのも、
      ネタバレを避けるだけじゃなく、今後の展開を知ってるからこそなのかな、とも推測してしまいます(ただ自分の返事の長さに、引かれただけかもしれませんが……)

      感謝で始まり、登場人物へ想いを馳せ、物語へ入り込み、そして愛で締める……

      地球っこさんの『白銀の墟 玄の月』のレビューは上質なミルフィーユのように、一つのレビューにも関わらず、多層的に様々な想いから構成されているように思います。

      なので読み終えたばかりの物語も、このレビューを読むことで、また新たな視点や想いを見つけることができました。
      素敵なレビューをありがとうございます。

      以上、長々と失礼致しました。
      2019/11/18
    • 地球っこさん
      とし長さん、おはようございます。
      コメントありがとうございます!
      とし長さんのレビューもコメントも、いつも楽しみにしてます。
      返事の長...
      とし長さん、おはようございます。
      コメントありがとうございます!
      とし長さんのレビューもコメントも、いつも楽しみにしてます。
      返事の長さに引かれた……なんてことは決してありませんから、大丈夫ですよ(*^^*)
      だって、とし長さんのコメントももちろんレビューも、その本についてとても深い洞察力と愛情を感じ、そしてそれを描くことの出来る筆力に、もっと浸っていたいなと思うくらいですから♪
      私の方こそ、コメント長い方なのでお忙しいところをお邪魔してますね。

      それにしても、この作品はたくさんのことを考えました。
      とし長さんのおっしゃる通り、
      「強大なものに挑む、個人たちの物語」
      でしたね。
      国が相手となれば、個人が太刀打ちすることは難しく、逃げること(死ぬこと)が選択肢のひとつであったとしても、国外にいる私には何も責めることは出来なかったのではないかと思います。
      でも、彼らは生き延びそして立ち上がりました。失われたたくさんの人間の命の上に。
      とし長さんの
      「その失われたものに思いを馳せ、時に囚われつつも、それでも残ったものを、そして得たものを数えて、抱えて、なんとか前に進もうとするのが、国であり、人なのかもしれない」
      ぐっときましたよ。そうだと思います。

      また長々と書いてしまいました。
      「十二国記」いくら語っても語り尽くせませんね(*^-^*)
      2019/11/18
  • 1・2巻で危惧されたことは割と早期に種明かしがあって安心し、蒔かれた種がどんどん刈り取られ文州で墨幟が友尚軍に勝利して驍宗とついに対面する辺りまで、大団円か、このまま全てがまとまっていくのかな、という期待がどうしても膨らんだ。李斎たちが「驍宗様ならどうする」って基準で行動するのもよかった、信義とはこういうものだなあとしみじみ思ったし、今までの名もない人含めいろんな人の祈りが折り重なって繋がっていくんだと思って十二国記らしくて感無量だった。阿選と驍宗の対比も鮮やかで。阿選が野に下った驍宗を見て感じた自己嫌悪と恥辱に堕ちていくの、納得できる心情だった。
    3巻で梳道が「天が私を生かしている」と語るところも好き。完全に趣味なんだけども。なぜ自分がここに生きているのか、それは言ってみれば天の采配でしかない。自分の存在も何もかも、信仰すら自分のちっぽけな手を離れたところにある流れの一つと天啓のように悟って深く安堵する瞬間。でもそれを探り求めるのこそ、その人のこころでもあると思うけど。自らの問いから自分の手を離すことを答えとできる、その瞬間のお話なんだよね。

    そんな感じで読んでいて4巻で墨幟が敗走してほとんどが死んでしまったとき本当に辛くて、心が折れてしまった。あんなに意気高く、これからの戴を見るために集まった皆みんな無駄に死んじゃったと思って。驍宗が刑場に引き出されるときは本当に殺されるんじゃという絶望でもうこの先を読みたくないとまで考えて、行かせてくださいっていう静之の声に心から同意して震えていた。
    その後あっという間に全てが動いて、驍宗が泰麒に「よくやった、もう良い」と言ってくれた時の気持ち。胸がいっぱいで、安心して、嬉しいのにいろんなことを言いたくて言えなくてせつない。それなのに、いろんな助けが現れ始めて、徐々に湧いてきたのは怒りと悔しさがないまぜになったみたいな感情だった。こんな残りページ少ない段になって急に(月の影もそうだったけど)、こんな簡単に(そうじゃないことは分かってる)、じゃあここまで散々死んできた皆はなんだったの?朽桟は、鄷都は、葆葉は、飛燕は、たくさんの民たち、蓬莱でもそうだった、彼らは一体なんだったの?死ななくて良かったじゃないか!なんでこんなストーリーなの?文州で、皆が集まったところで勝利して事態が好転しては、なぜいけなかったの!
    そうまで憤って、ああ小野先生はこれを書きたかったんだ、まさにこういう感情を、だから丕緒の鳥から民のことをあんなに書いていたんだと感じて、恐ろしい人だなあと頭が冷えた。こんなにナイーブに読むつもりはなかったのにまんまと深く引きずり込まれた、十二国記の魔力。

    驍宗と泰麒が帰るべきところへ帰ることができたことはすごい喜びで、この上なく嬉しい。天のシステムを云々せずに(ファンタジーで舞台装置の破壊はあまり好みじゃない)長い年月の果てにこのように決着してくれたのには感謝しかない。でも傷つけられたもの、失ったものが余りに多いからただ呆然としてしまう。でも、全てがそうでなくては、ここに辿り着かなかった。長すぎたよね。辛すぎた。なんてことだろう。それでもこの人たちは国と民を背負って、まだ死闘を続けなくてはならないなんて。
    私はまだ阿選が憎いし琅燦も敵じゃないなんて思えないよ。だって、あの妖魔のせいでどれだけのまっとうだった人たちが死んだり廃人になったのか…彼女はいまいち理解しきれない。戴を救いたいって言ったのは耶利に対する演技だったってことでいいのだろうか。黄朱は王と麒麟にそこまで忠誠心ないのはいい、自分のやりたいことだけで人と国の生き死にに興味がなくてもいい、でもその行いと結果は紛れもなく罪であって後に裁かれるだろうからそれもいいけど、はっきり言って黒幕なのに、行動が矛盾したように見えてその心情があまり書かれないのはちょっとすっきりしないな。

    はあ~、生き残った者の数を数えるんだ、か。辛い。
    何度も読み返すには、あんまりにも辛いな。戴の主従と、戴の全てのこれからに平安がありますように。きっとそうだよね、最後の挿絵。

  • ついに最終巻。
    読み終わったのは睡眠を挟んで10日の昼で、濃厚な物語の満足感と、
    余韻が消えず、それからたくさんの人たちの感想を読みまくっていたが、
    否定的な意見や、「十二国記はこういう話じゃない。〇〇と〇〇が出てくる話を読みたい」っていう意見が多かったようだ。
    こういう話が読みたい人は、ファン同士でサイドストーリーでも考えて読んでいればいいんじゃないかな。
    私はキャラクタがどうしたという読み方ではなく、物語として読むので、入り込んで手に汗握り、一喜一憂したり泣いたり絶望したり、読み終わったあとにどっと疲れた(戦闘に参加したかのように)この長い長い物語には、満足しかない。
    時に泰麒になって怒り、悲しみ、李斎になって絶望し、嘆いた。
    次々に喪われていく仲間と、それでも捨てない一縷の希望。

    十二国記の世界は、そもそも最初から優しくはなく、過酷だった。
    絶望に次ぐ絶望のなか、人間のもつ汚さと強さをこれでもかこれでもかと確認させられる。
    主要メンバーの誰が欠けてもおかしくないなか、
    基本的には欠けてないのはむしろファンサービスだったのではないかしら。
    小野不由美ならバッドエンドもあり得なくないと覚悟していたのだけれど。
    そんでいつも多くを語らず、歴史書で終わるのはいつもの語り口だよね。
    あれっ、ここ書かないの!?ってのは今に始まったことじゃない。

    過去が今をつくって、今が未来をつくる、というような
    ことが書かれていたが、
    それはつまり、これからもこの世界の話を読めるのだと
    期待していいのではないかな。
    まだ残る謎は、次の物語に続く伏線だと思ってよいのではないかな。

    いやー、情と安易に流されない、よくできた物語でした!!

  • 2019/11/09読了。
    ◆◇◆最悪ではないが、最低の中で掴み取った最善の道。◆◇◆

     待ちに待った戴国の物語、ひとまずの区切り。読んでいる間ずっと感じていたのは、ずっと昔に『月の影、影の海』の上巻を読んでいた時のような逼迫感、悲愴感。しかし、どうしようもない絶望で目の前がどんどん暗くなっていくそちらとは違い、『白金の墟、玄の月』はその真逆。消えていたはずの希望の灯が一つ、また一つと燈されていく感覚だった。やっと戴が救われる!!ずっとこの瞬間を待っていたんだ!!

     そんな風に考えていた時期が、私にもありました。えぇ、えぇ。わかっていたんです。小野不由美はそんなに甘くない。十二国記は単なるファンタジーじゃない。わかってたんです。だけど望まずにはいられなかったんですよね、全てが救われて、みんなが笑顔で終わるハッピーエンドというものを。

     もちろん、満面の笑顔が浮かべられることを望んでいたわけではありません。戴から麒麟と王が消えた六年の間に失われた命は数えきれない。妖魔に魂魄を奪われた者も、もう救うことができないということも明言されています。驍宗麾下の者たち、阿選に反意を示した州候たち、戴の民。多くのものが失われたまま、救えなかったまま。この終わりは、最高ではないが最善ではあったのだと思います。

     それでも救われてほしかった……。平仲、徳裕、恵棟、朽桟、鄷都、帰泉。好きになって、一人ずつ仲間が増えていく高揚感を味わって、もしかしたらという希望の一端を見せておいてのあの仕打ち。鬼!悪魔!小野不由美!と、読了後しばらく感情のジェットコースターに襲われ続けました。最後の最後で淵澄が王の帰還を知ることなく没したという描写を入れるのもなかなかに鬼の所業。ただでさえ行方知れずになった面々の名前を見て鬱々としていたのに、ここでも落としてくるかと今思い出しても意識が遠のく心地です。

     それにしても、やっぱり随所に『月の影、影の海』のデジャヴュを感じます。荒廃した地を這うように進む旅路、人との出会いと疑心暗鬼、そして仇敵との決着が明確に描かれないラストシーン。中盤から一気に晴れやかになるあちらと違ってこちらは希望からの絶望コンボという点だけが相違点。意識してやったのかそうでないのかはわかりませんが、その相似もまた楽しめました。

     心は未だ辛いですが、それでも戴国には王と麒麟が戻った。最悪の状況は脱したのだから、あとは登っていくだけ。多くの犠牲に報いるためにも、悲観してはいられません。本当なら阿選VS驍宗のタイマンが見たいところでしたが、そこはいずれ機会があったら程度の期待を星空に託します。

     来年の新作短編集が今からすっごく楽しみです!!!!例の読者プレゼントが2月ごろということは発行は春?遅くても夏が終わるまでには来てくれるでしょう!!それまではこれからの戴や、知らせを聞いた慶や、危うげな柳、進退不明の巧に思いを巡らせてみようと思います!!

  • 読みながら、何回嗚咽を漏らしただろう。
    誰かが死に連れ去られるたびに、ここまでの道のりがこんなにも困難だったのに、死に様までがこんなに悲しいものなのかと。それぞれの人物が背負った日々が絶望のなかに吸い込まれていく。
    泰麒のそばに築かれていた人の集まりも、阿選の手によって瓦解させられていく。
    驍宗が李斎たちと出会った冒頭こそ希望が見えるところに降りてきたと思ったけれど、この四巻でこの決着がつくのに、読み進めるほど絶望が押し寄せる。
    目を逸らしたくなるような場面が続く。
    本当にこれ終わるの?と思っていると、やっと、その時がやってくる。もう本当に李斎たちと長い旅を経たような気持ちだった。そして二人が出会った瞬間、押し寄せた気持ちが圧倒的だった。
    阿選の言い分やろう燦の本心、泰麒のシレイがどうなったのか、気になることがまだたくさんあるのだけれど、とりあえず、小野先生にはお疲れ様でしたと、ありがうございます、を。ちょっと戴の物語を読むのを諦めていました。本当に、また李斎や泰麒に出会えてうれしかったです。そして驍宗と泰麒の物語が続いていくことも。
    過去の総てが、今に、今のなにもかもが未来へ確かに続いている。希望をつなぐことの途方もなさと、その一つの結実が描き出された物語でした。
    誰かと語り合いたい!!!!

  • 一行で討たれたのか阿選……。
    まさか一行で終わるなんて誰が思っただろうか、ああ、阿選……。

    驍宗さまが生きていることがわかり、泰麒に権が集中し始めて、どうにか希望の持てる展開になってきて終わった3巻。
    お話も転がり出したし、さあここから驍宗さまと合流して、阿選を討つのね!とわくわくしながら読み進めたのだが、そんな簡単にはいかなかった……。
    簡単じゃなかったんだよ……。
    驍宗さまとは何とか合流したものの、烏衡によって所在がわからなくなっていたはずの驍宗が復活したことが阿選に漏れ、せっかく合流できたのも束の間、驍宗さまは王師に囚われて首都へ連行。
    どうにか希望を取り戻して~~~!というこちらの思いとは裏腹に、驍宗さま奪還のための戦いの最中、とにかく人が死ぬ。本当に死ぬ。容赦なく死ぬ。
    初期から旅を共にしてきた仲間が死ぬ。最初はいけ好かないと思っていたけど見どころあるじゃん見直したぜ、と思っていたキャラも死ぬ。今の生活は苦しいけど、戦いが終わって驍宗さまが玉座に戻ればきっと官吏に重用されて良い暮らしがまってるはずだよ!と思っていたキャラも死ぬ。
    H×Hか。容赦がなさすぎて涙が止まらん。

    2巻読んだ時も書いたけど、私は驍宗さまが戻ってくればそれで万事解決!阿選を討って、部下も戻ってきてみんな幸せになるんだわ!とか呑気なことを思っていた。けど、そんな簡単じゃないんだ。
    これは、王様と麒麟の話じゃなくて、王様を、驍宗さまを望む泰麒も含む民の話だから。
    麒麟が王を選ぶ、そんな奇跡の起こる国に生まれたのに、王のいない国で生活する民の上には、無情なほど奇跡は降らない。
    白幟を携えて山に入る轍囲の人々、死人が出るほどギリギリの暮らしなのに供物をささげつづける民、王が戻ることを願って戦って、どこでどうやって死んだかもわからない仲間たち。
    そういう願いの先、夥しい犠牲の上に玉座があるんだと思うと、何て重くて大きいんだろうと苦しくなった。
    戴の民は本当に本当に頑張った。自分たちが望んだ王を自分たちの手で屠るような展開にならなくて本当に良かった。驍宗さまも民の願いに応えてくれた。年号、泣いたぜ……。そこだけは救い……。

    勧善懲悪の願っていたような展開にはならなかったけど、何か、良かったな、重くて……。
    心に重くのしかかる名作。十八年待ってて良かった。

  • 3、4巻は怒涛の勢いでストーリーが展開していくので、あっという間に読み終えてしまった。
    高里が麒麟としての常識を超えて行動出来るのが、一重に蓬莱に一度帰り、外側からこの世界を眺めることの出来る素地が出来ていたからだと思った。阿撰は泰麒の策略を見抜いていたけれど、麒麟としての本性を凌駕する泰麒の精神性は、想像の範疇外だったんだろうな。蓬莱での経験が、怨嗟の念を自身に纏わりつかせることを承知の上で、兵卒に刃を向けることを泰麒に選択させたことは、切ないながらに説得力があった。
    驍宗の苛烈さが7年経っておさまったのに対して、その分泰麒にその苛烈さが生まれて、この波乱の年月の中で、バランスの取れた主従になったことが、とても感慨深い。

    そして李斎が延麒に会って、有難うございますというのが言葉が詰まって上手く出てこなかったシーンは、感無量だった。驍宗のためであれ、戴のためであれ、7年の間よく耐えて耐え抜いて頑張った。尊敬の念しかない。

    魔性の子から始まって、風の海〜、黄昏の岸〜と、戴国の行方をひたすらに案じていたけれど、一応の終わりを迎えられてほっとした。琅燦のこととか、まだ謎があるけど、今後の展開にも期待したい。

  • いい大人が、ほぼ徹夜で読みきってしまいました……

    前巻で見え始めていた希望が、これでもかこれでもか、と潰されていきます。
    阿選の手にした玉座というものの圧倒的な力の前に、見知った顔が次々に斃れていき、もう、戴の民のためには、蓬山に新しい戴果が実るしか道は残されていないのでは、と暗澹たる気持ちになりました。
    己の力で地の底から甦った驍宗が捕らえられてしまったときには、もうダメだ。と、李斎たちがした玉砕の覚悟を、わたしもしていました。
    こんな気持ちで寝られませんよ!!

    己が手で剣を振るい、自らの手すら地に汚した泰麒の無茶。背水の陣とよぶにはあまりにも惨い行動も、目の前の驍宗がいてこそできたのかもしれないけれど。
    角が生え始めたこと、それを気づいていたからこそ、泰麒本人はギリギリの孤独な戦いを続けていられたのかしら。

    ともかく、戴の民が救われてよかった。
    文句なしの星5つです!

  • 読み終わった満足感と、
    読み終わってしまった喪失感とでけっこうぐらついております。
    以下4冊通してのざっくり感想。ネタバレもあり。




    まず2巻と3巻冒頭でええええーーーーーってなりました。
    驍宗死んだの!?まじで!?
    んで、
    いやいやそんな泰麒がそこまで可哀想な目に遭って良いものか??生きてるでしょもしくは生き返るでしょさすがに…
    という思いと、
    でも小野主上はそれくらいやってのけちゃう可能性なくは無いなあと2冊残ってるのはそのリカバリーのためだと考えれば納得の分量…
    と揺れる思いで読み進めたら、
    良かった生きてた……
    しかも思ってた以上に逞しかった…
    さすが驍宗…


    今回はいつも以上に市井の、しかも荒廃した戴国の人々の様子が克明に描かれてるのも印象的でした。
    そして後半、思った以上にサクサクサクサク死んでいくのがもう…しんどかった…
    いや戦というのは確かにそういうものなんでしょうけど、
    がっつりキーパーソンな人も死んでいくので、
    もうこれ泰麒と驍宗も下手したらラストでほんとにどっちか死ぬかもしれないと、最後まで肝を冷やしました…
    3巻で見えた光が4巻で絶望的な叩き落され方するんですもの。

    最終決戦および結果はサラッと史書の記載のみ、という締め方も見事でしたねー。
    物語の肝はあくまで泰麒と驍宗の再会なのだなーと。
    そこでの阿選と驍宗とのやりとりとかも読みたかったけれど、もしかしたら直接対決しないで勝敗が決した可能性もありますもんね。
    李斎や項梁あたりも最終決戦では生き残れたかどうか実はわからない…
    うわあん小野主上おそろしい!!!


    そして個人的に最も胸が熱くなったのは、3巻で泰騏が他者を害する決心をするにあたって、広瀬先生が鍵となってた場面です。
    『魔性の子』読んだときにものすごく感情移入してしまったのが広瀬先生なので…

    その後の誓約の場面など、そもそもなんで泰騏がここまで腹を括れたのかの描写もいくつかありましたが、
    泰騏は単なる戴の麒麟というだけではなく、本当に高里要としての自分もきちんと背負っているんだと思うと、
    広瀬先生は高里要と違って、「ここではないどこか」を知覚できるだけでそこに所属することはできない、その絶望を背負わないといけないのが読んでいて本当に切なかったのですが、
    その絶望ごと、泰騏の中に生きてるんだなあ…と思って。

    確かに物語上では泰騏が戻ってからそこまで時間は経ってないんですが、
    いち読者としては『魔性の子』からの現実の時間経過がなんとなく染み込んでいて、
    高里要としての過去は、行って帰ってきた記憶程度で処理されてるのかな、とも思ってたので…
    どっこい泰騏が泰騏として覚醒するための最大の鍵としてしっかり描かれていたという。
    嬉しい…いや内容はこの上なくしんどいけど…嬉しい。



    とりあえず差しあたっての覚え書き。
    しかし色々記憶が朧げなので、
    既刊も読み直さないといけないなー!!!!

    来年の短編集もあるし、
    虚脱感に囚われてばかりではいけませんね。

    読めて良かった。

  • 再び夜間に住まいを抜け出した泰麒たちは見張りを倒しながら、じいやのような令尹だった正頼と邂逅を果たす。
    何年にも渡る酷い拷問に耐え、隠してきたものを泰麒に託し自分は置いていくように諭す。
    その夜、項梁は巌趙の助けを得て、正頼が告げた英章の元へと向かう事に。

    阿選は相変わらずやる気がない感じだが、朝議に出てくるようになり、冢宰は気に入らない。
    泰麒の元には大僕として巌趙がやってくるが、他にも人が慕い集まりだす。

    泰麒に反感を持つ冢宰・張運はこれまでも邪魔ばかりしてきたが、ついには子飼いの部下が泰麒を襲う計画を企て、あっさり耶利たちに捕まり、見捨てられた道連れに張運を告発したことで、失脚した。
    別の部下の案作が利を狙い出す。

    霜元たちの話を聞き、今までの民たちの話と総合しても驍宗は函養山から出ていないのではないか、大きな落盤の先にいるのではないかと李斎達は結論づける。早速土匪に話をつけに戻るが、時同じくして阿選が驍宗を禅譲させるため、かつて賓満をつけて驍宗を襲わせた汚い仕事用の男を使って王師の友尚に驍宗を函養山から掘り出し連行して来いとの命を下す。
    阿選の麾下であった友尚はその行いや徴用した男、驍宗を幽閉していた阿選に強い疑念を抱く。
    それは他の傀儡になっていない麾下や兵卒にも共通する複雑な思いだった。

    函養山を巡って土匪と王師が衝突する。
    そこに幾つもの幸運から洞穴の奥底で騶虞を捕らえ、抜け出した驍宗が現れ、
    土匪に恩を感じ救援に駆けつけた李斎や霜元らとのようやくの邂逅となる。

    英章たちの生存も分かり、数の上でも勝てる見込みが出たと目算した霜元達だったが、
    延に向かう驍宗・李斎の一行が妖魔や空行師に襲われ、驍宗を奪われた上、王師や文州師との
    装備や訓練の差、民の戦への反感からどんどん数を減らしていく。

    そして、案作の提案で阿選は簒奪者は驍宗だったのだと民を煽り、驍宗を民衆に石礫で撃ち殺させることにする。
    当日まで奪還が出来ない、自分たちも全てが終わると知っても李斎らは鴻基に行くことを決める。
    泰麒もまた覚悟を決めていたが、誰もが奪還は不可能なことで、阿選も何も出来はしまい、と侮っていた。

    運命の日、泰麒は剣を奪い兵士を刺して驍宗の前に頭を垂れる。そこに李斎たちも加わり、
    混乱が生じるが、泰麒が転変したことで民衆は阿選こそが簒奪者だと思い直すと共に誅伐を恐れ、門を閉ざそうとする兵を押し除け逃げ出す。その混乱に乗じて、合流した英章たちの手引きもあり李斎たちは絶望的に思えた奪還に成功する。
    文州の乱で手薄になった江州城を落とした英章達は、そこに驍宗達を迎え入れるが、そこには延王・延麒が到着していた。
    ついに泰は救われる。

    具体的に阿選を討つ戦は描かれないものの、ずっと待ち望んでいたラストを迎えて幸せだった。
    再び穢翠にかかった泰麒は蓬山で直してもらい、角も戻ったことから使令も戻る。
    汕子や傲濫は西王母の冷たさだと穢を払うだけ、で戻してもらえないのかなと思っていたし、角が戻ることもないと思ってたから本当に良かった。再会した主従の様子も見たいな。
    正頼もあの短い間にどうやって?という気もしないでもないが、巌趙に救い出されて本当に良かった。
    おじいちゃんと孫のような泰麒との関係が最高に可愛いし、また見たい。
    もう少しみんなが幸せになるところを読みたいなという気もするけど、短編が出るそうだからそれを楽しみにしてる。
    潭翠がどうなったか気になる。

    あの幼く澄んだ少年だった泰麒が戴国の血に相応しく、苛烈な大人になったのは頼もしく、でも惜しい。
    でも転変場面は最高のカタルシスだった。
    あと英章が正頼に叩く相変わらずの憎まれ口とか、花影が無事だったこととか、でもたくさん人が亡くなって行ったこととか、
    日本での日々とか、景での事とか、色々と思い出されて本当に魔性の子を最初に読んでから20年、長い長い間待ち続けて良かったと思える物語だった。

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著者プロフィール

小野 不由美(おの ふゆみ)
1960年生まれ、大分県中津市出身の小説家。大谷大学在学中に京都大学推理小説研究会に所属。夫は推理作家の綾辻行人。
1988年、『バースデイ・イブは眠れない』でデビュー。2013年5月、『残穢』で第26回山本周五郎賞を受賞。代表作にテレビアニメ化された『悪霊シリーズ』、『十二国記シリーズ』、『屍鬼』など。

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