- Amazon.co.jp ・本 (562ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101244075
感想・レビュー・書評
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古代史について刺激的な仮説を多く提出してきた著者が、推古天皇から称徳天皇までの女帝の謎に挑んだ著書です。
「日本とは何か」という問題に取り組むことをめざして『朝日ジャーナル』での連載がスタートしました。そこで著者は、みずからの血を引く者に皇統を継がせたいと願う持統天皇と、その願いを巧みに利用しつつみずからの権力の伸張を図る藤原不比等の実像に迫っていきます。
しかしやがて著者は、藤原不比等の娘で文武天皇に嫁ぎ聖武天皇を生んだ藤原宮子に関する、一つの伝承に突き当たります。それは、宮子が海人の子で、不比等の養子となったという、道成寺に伝わる伝承でした。著者は、不比等や文武天皇と紀伊の国とのつながりを示していることから、この伝承が隠された史実を伝えているのではないかと考え、そのことが、彼女の息子である聖武天皇の、どこか遠慮がちな即位の宣命や、その後の光明子に対する態度に現われているのではないかと推測します。
アカデミズムの実証主義史学ではまともに扱われることのない伝承に注目し、そこから極めて大胆な仮説を作り上げるというのは、著者の得意のスタイルですが、そのスリリングな議論にはやはり魅力を感じずにはいられません。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
藤原不比等の娘で聖武天皇の聖母、宮子が実は海人の娘であったという伝承を検証する話。
持統、元明、元正と続く3人の女帝の時代につくられた律令(大宝律令、養老律令)が、天皇ではなく太政官に権限が集中するような仕組みを採用した理由が、息子や孫に皇位を譲りたくてそのために中継ぎとして即位した女帝と、それを支えつつ権力を掌握したい不比等の思惑から生まれた、という説明は大変興味深い。