- 新潮社 (2014年4月30日発売)
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感想 : 10件
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Amazon.co.jp ・本 (400ページ) / ISBN・EAN: 9784101248134
感想・レビュー・書評
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数学者藤原正彦さんの自伝的小説。ご本人があとがきで書かれていたが、フィクションの要素はほぼないとのこと。藤原さんの幼少期から小学6年生まで(=昭和20年代)が描かれている。3人兄弟の中でも最も活発な藤沢さんはこの頃「ヒコベエ」と呼ばれている。
まずご両親がすごい。お二人とも、本作中で作家になる様子が描かれていたが、夫婦揃ってベストセラーを出したり、直木賞を取る作家になれる確率はどれほどだろうか。満州から命からがら幼い3人と自力で日本に帰ってきたお母さん(藤原てい)の賢さ、逞しさに感銘を受けたが、気象台に勤務しつつ直木賞作家となったお父さん(新田次郎)もまたとんでもなく聡明。藤原さん自身も賢い子供だった様子がわかるが、ここまで子供時代のことを鮮明にかつ、分析できる筆力も相当だと思った。
このようなご両親たちに囲まれヒコベエの過ごした濃い子供時代が存分に味わえる一冊。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
冒頭「「持ってきたよ」玄関先で大声が響いた。」
末尾「とあることにヒコベエが気づいたのは、それから十年もしてからだった。」
『国家の品格』や『若き数学者のアメリカ』の著者である藤原正彦の幼少期が綴られた自伝的小説。つまり満州から引き揚げてきてからの母・藤原ていや、シベリア抑留から帰ってきてからの父・新田次郎(ペンネームの由来は出身地の角間新田と次男だったことから)の暮らしも描かれている。
これまでの作品の中で、「武士の家計に生まれて卑怯を憎む心を叩き込まれた」ということはしばしば書かれてきたけど、その具体的なことが描かれている。また「弱いものを助けるためには力を用いても良い」という父の教えの具体的なエピソードも描かれている。「小学校の間くらいは色んな職業の家の子どもが集まる学校へ」という両親の考えも良かったと思うし、早くから数学的センスを見せていたヒコベエがその能力を存分に伸ばしていったのは、父親が早くからそれとなく学問の神髄を教え、何よりよく褒めたことが大きかったと思う。
諏訪の方言が三河弁に似てると思って喜んでいたら、方言が汚く母親はコンプレックスに思っていたとか。なんかちょっと残念。
『国家の品格』を読んだのが十年以上前だろうか。なんで数学者がこんな本を書いてるんだろうという疑問から藤原正彦に興味を持つようになって、少しずつ作品を読んできた。とりあえず新潮文庫はこの作品で一区切り。藤原正彦がどんな風に育てられ、どうのようにしてあの『国家の品格』の主張に至るようになったのか、だいぶわかるようになった。
この『ヒコベエ』を読む前には、母・藤原ていの『流れる星は生きている』を読んでおいた方がよい。 -
藤原正彦先生の少年時代の自伝的小説。おもしろい。戦後当時の様子が生き生きと描かれている。ひこべえは体も大きく運動も得意で頭も良い、こんな恵まれた少年だと充実した少年時代を送れるんだろうなと思った。数学者の藤原先生なので算数・数学ネタを期待するが、いくつか算数ネタが入っていて良かった。幼少の頃から計算は得意だったそうです。
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「流れる星は生きている」で満州から引き揚げてきた藤原一家の戦後間もなくの生活の記録。昭和20年代、貧しいながらも明るく逞しく生きたヒコベエ一家の姿が目に浮かぶよう。
母による「流れる星は生きている」の執筆経緯や、気象台職員から小説家新田次郎へと転身していく父の姿が綴られていて、この点でもとても興味深い。
時代が違うとはいえ、自らの少年時代を思わず思い出してしまう、ノスタルジックな一冊でもある。 -
この一家に興味がある人ならすごく面白い。私は好きだと思った。
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社会福祉学科1年 まっちさん
戦中の引き揚げをノンフィクションで綴った自叙伝。決して明るい内容でも、ユーモアある文言ではないが、その時の情景がふっと浮かぶ巧みな言葉選びが読んでいて惹きつけられる小説。
戦中・戦後の歴史に興味がある人は没頭すること間違いなし。
実母である藤原てい著の「流れる星は生きている」も併せてお勧めする。
資料ID:C0035845
配架場所:本館2F文庫書架
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『国家の品格』で有名な数学者、藤原正彦の自伝的小説『ヒコベエ』
藤原正彦さんらしく随所に自虐的な笑いをちりばめ、時に国家観や歴史を語る。
少年時代の甘酸っぱい恋の話なんてのもあって、、少し意外(笑)
少しずつ読んだのだけれど、毎度「ヒコベエに会いたいな」という気持ちで本を広げた。
まっすぐなヒコベエ、ヒコベエとともに、笑い、楽しみ、悔しさをかみしめ、考え、驚き・・・と様々な体験ができた。
爽快な小説!
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【内容(「BOOK」データベースより】
満州で戦禍に巻きこまれ、命からがら日本へ引き揚げてきたヒコベエ一家は、信州諏訪に身を寄せる。なだらかな稜線を描く山や緑深い自然に囲まれヒコベエは腕白坊主に成長する。やがて一家に訪れた転機。母の小説がベストセラーになり、父も作家の道を歩み始め……。貧しくとも家族は支え合い励まし合って生きていた。日本そして日本人が懸命に生きた昭和20年代を描く自伝的長編。
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【著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)】
藤原/正彦
1943(昭和18)年、旧満州新京生れ。東京大学理学部数学科大学院修士課程修了。お茶の水女子大学名誉教授。’78年、数学者の視点から眺めた清新な留学記『若き数学者のアメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞、ユーモアと知性に根ざした独自の随筆スタイルを確立する。新田次郎と藤原ていの次男
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【目次】
第1章 五歳のガキ大将
第2章 信州の夏
第3章 学校の孤独
第4章 武蔵野のわが家
第5章 クラスのために
第6章 思いがけない告白
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自伝ではあるが,幼少期より自己を客観的に冷徹にメタ認知する姿勢は研究者だな,と感じる.如何に,現在の人間性が形成されていくか,幼少期の家庭教育が手に取るように判る.“流れる星は生きている”をはじめ,御両親の作品群の横糸的役割でもある.
著者プロフィール
藤原正彦の作品
