ボタニカル・ライフ-植物生活 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (399ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101250144

作品紹介・あらすじ

庭のない都会暮らしを選び、ベランダで花を育てる「ベランダー」。そのとりあえずの掟は…隣のベランダに土を掃き出すなかれ、隙間家具より隙間鉢、水さえやっときゃなんとかなる、狭さは知恵の泉なり…。ある日ふと植物の暮らしにハマッた著者の、いい加減なような熱心なような、「ガーデナー」とはひと味違う、愛と屈折に満ちた「植物生活」の全記録。第15回講談社エッセイ賞。

感想・レビュー・書評

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  • NHKのBSでやっていた『植物男子 ベランダー』が好きだった。本書がドラマ化された物だが、原作は読んでいなかった。

    いい年した大人が植物に真面目に向き合い振り回される様は、同志ベランダーは勿論、植物を枯らすのが得意な人でも楽しめるだろう。

  • 鉄っちゃんでもフライフィッシングでもAKBでもなんでもそうだけど、趣味の世界は興味ない人はぜんぜん興味ない。「何が楽しいか」を説明するのは至難の業で、しかもそういう話を面白がって聞いてくれる暇人はめったにいない。誰かをつかまえて無理やり延々と講釈をたれたら大変迷惑だ。
    その点、どこかに書けば、読みたい人だけ読むので誰も困らない。同好の士なら読むのは楽しい(あーやるやる)。しかも書くのも楽しい。これぞwin-winの関係だ。
    ...という本。

    前から思っていたのだけど、「○○が好きな人(ただしプロではない)」に適当な呼び名があればいいのに。〇〇マニア、○○ファンというのも当人からするとちょっと違う。

    その点、鉄道が好きな人の「鉄ちゃん」ってのは、語感はともかく呼び名がある、という点ではちょっとうらやましい。あとは熱帯魚を飼っているアクアリスト、くらいしか思い浮かばない。植物を育てるのが好きな人はなんと呼べばいいのだろう? 園芸ファン、植物マニアってなんか違う。ガーデナー=庭師も違うし。
    いとうせいこうは自分のことを「ベランダー」と呼んでいるが、温室に住んでいる状態のぼくはどう名乗れば?

  • 植物熱が数年ぶりに高まっているこの頃。たまたまいとうせいこうさんのこのタイトルが目に止まって購入。
    ベランダーで植物を育てる一喜一憂に、言葉のリズムに、オチに、人生の比喩に、読んでいる方も笑ったりしみじみしたり。エッセイとはかくあるべし、という一冊。
    兎に角、いとうさんの文才といい、言葉セレクトといい素晴らしいので、植物に興味がない方でも楽しめる本だと思う。
    ヤゴロク……。

  • 一人暮らしの中年男性(著者)が、マンションのベランダで様々な植物を育てるエッセイ。たまたまもらった鉢植えがきっかけとなり、あらゆる種類の植物を買ってきては丁寧に世話をし、花が咲くのを心待ちにしながら観察をし、時には枯らしてしまって落ち込み、という日々を描いたもの。著者の植物に対する愛情が心を打つ。
    マンションはもともと世田谷にあったが、途中で浅草に引っ越すことになる。新しい住居はもちろん植物の都合優先で決まった。何より季節ごとの風向きやら水やりやら肥料やら、日当たりを最大限利用できるよう狭いスペースに鉢を配置し、日々変化を観察するのだ。その様子で一喜一憂する様子はほほえましい。後半はもらって飼育を始めたメダカのことも書かれている。植物の世話によって、自然の営みを理解し、哲学的な思考まで浮かんでくるようだ。
    この本を読んだら、アマリリスの球根を買いたくなった。が、調べたら思いのほか高かった。私も家にある鉢植え(今のところ代わり映えないが)を大切にして、様子を観察してみようと思う。とてもいい本だった。

  • 再読。
    ドラマ「植物男子ベランダー」の原作でもある、いとうせいこうさんの植物エッセイ。一編が短めなのでゆっくり読めて楽しい。植物と金魚やメダカ等の生き物と暮らす生活をユーモアたっぷりに記している。
    自分も園芸を趣味の一部としているので植木鉢パズルや長い時間をかけて花が咲いた時の感動など共感する所もあり、酔芙蓉の蕾を龍の持つ珠に喩えるセンスに感動したり。メダカ水槽に住み着いたヤゴのヤゴロウから生物の多様性を気付かされるエピソードでは涙が出てしまった

  • 元々、依頼もなくただただ植物のことを書きたくてネットに書き始めたという今作、面白くないわけがない。
    その上、私もまさに「ベランダー」。
    わかるわかるの連続で、あちこち思い切り吹き出しながら読んだのだけど、時折涙も出そうになった。

    『きっと太古の昔、花こそが神を要請したのだと俺はベランダの前にへたり込みながら思いついたのだった。』
    『花こそが先にあり、その奇跡を余すところなく受け取ってくれる存在が後から必要になったのである。』

    そうだ、種から芽が出たり、葉が大きくなったり、蕾がついたり、花が咲いたり、その一つ一つに揺さぶられる時、私は間違いなく植物を畏怖し、畏敬の念を抱いているのだ、とハッとした。
    書かれたのが少し前であり、露悪的な書き方をしていることもあって、気になるところもある。
    が、植物に対する心情の描き方は本当に見事。
    私はきっと再読する。

  • カレル・チャペックの『園芸家12カ月』を読んだ時と同じ気持ちで、大きく何度も頷いたり、あるあるに声を出して笑ったりしながら読みました。
    ただの「あるある」だけではなくて、そのキレのよい文章と、的確でいて他の人は思いつかないような比喩が本当に面白い。
    土が肥えるかもと思いながら、でも一方では土を買うのが面倒で、枯らした植物たちが植っていた土を大鉢に貯めて「死者の土」と呼ぶ。
    アパートのゴミ捨て場で見つけたオンシジウムを、容れ物の鉢欲しさに拾ってきて「捨て子」と呼び、でも結局育てて数年後、世話を疎かにしていたにもかかわらず咲いたその「捨て子」の花を更に蝶に喩えて、「蝶の恩返し」として語る。
    かと思えば、メダカのために買ってきた水草にくっついていたと思われるヤゴを「ヤゴロク」と名付けて育て、羽化した弱々しいヤゴロクが飛ぶことなく死んでしまった話では、
    「飛んでいるトンボを見ながら、飛ぶことのなかったトンボを思うこと。それはしっかりした観察さえあれば、それこそ“自然”に導き得る感覚なのだった。ヤゴロクの美しい死骸は俺にそのことを教えてくれたのである」-382ページ
    と、こちらがハッとするような洞察を語る。その振れ幅もいいのです。

    草花を育てる人は間違いなく面白く読めるでしょう。そうでない人にも、このテンポのいい文章は楽しいと思います。

  • 以前単行本で読んだことあって、その時は「すごくおもしろい!」と絶賛でしたが、今回はやや「長いな……」と思ってしまった箇所もあり。
    いや、おもしろかったですけども。

    知らない植物なんかは、どんななのかと画像検索したりしながら読みました。
    「シクラメン」の回が好き。
    あと金魚とかメダカが出てくるのも。

    ドラマ化されてたなんて知らなかった。
    孤独のグルメ的な感じだったのかなぁ?

  • カレル・チャペックの「園芸家12カ月」の情報をAmazonサイトで見ていたら、この本も一緒に推している人が多かったので、読んでみました。
    著者自身も序文で、チャペックの本に触発されて何か書きたくなったと書かれておられましたが、読んで納得。実際に「園芸家12カ月」と対になっていると言っていい本だと思います。

    でも、単なる二番煎じで終わってないところが素晴らしいです。
    「園芸家12カ月」のハートの部分、魂の部分をしっかり受け継いでいて、言っていることは基本的には同じことなんだけど、これはこれでしっかりオリジナル。
    チャペックがもし読んでいたら、きっとすごく気に入っておもしろがったんじゃないかなぁと思う。
    2つでセットにしていいんじゃないかな?

    最初の方、「4月の終わりくらいから、植物どもの間になんとも形容しがたい気配が充満する」という部分を読んで、深いため息が出ました。分かる。もっと言えば、2月末くらいからなんとなく感じ始める、あの不思議な気配。
    とにかく私は、この気配に、この神秘にやられちゃったんだよなぁ、と思う。
    土いじりそのものが大好きなわけじゃないのよ、と言いたいんだけど、ずっとうまく説明できなかったこの気持ち。それが見事に説明されている。

    言い得て妙、な箇所は数えあげればキリがありませんが、ビックリしたのが湿気を好むショウジョウバエみたいな虫についての話。妙に硬くて、手に当たると意外な痛みを感じる、いやそれほどの衝撃はないだろうから印象なんだけど・・・ってあたり。すごく分かる。あの虫の微妙に嫌な感じをなんとまあ正確に表現していることか。

    この本って園芸を全然しない人もおもしろいのかな?
    私にとっては、すべてのページが、笑えて、おもしろくて、ホロリときて、深く深くうなずけるという驚嘆すべき本だったけれど、なんだかもう共感の深さが半端ないところまで行き過ぎて、その自分の感覚は普通なのか、それとも園芸好きだけが理解できるものなのかがよく分からなくなっています。

  • せいこうさんの植物愛がビンビン伝わってくる。
    ハードボイルドでいて繊細、豪快なようでいて純粋な自称ベランダー(ベランダで植物を育てている者)が、圧倒的に植物たちに振り回されている様が面白くてヤメラレナイ。
    早くも今年のベスト3に入りそうな本。
    植物が好きな人も好きでない人も楽しめます。

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著者プロフィール

1961年生まれ。編集者を経て、作家、クリエイターとして、活字・映像・音楽・テレビ・舞台など、様々な分野で活躍。1988年、小説『ノーライフキング』(河出文庫)で作家デビュー。『ボタニカル・ライフ―植物生活―』(新潮文庫)で第15回講談社エッセイ賞受賞。『想像ラジオ』(河出文庫)で第35回野間文芸新人賞を受賞。近著に『「国境なき医師団」になろう!』(講談社現代新書)など。

「2020年 『ど忘れ書道』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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