ラッシュライフ (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101250229

感想・レビュー・書評

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  • 2023.11.6 再読了(1回目2022.4.6)☆8.7/10.0


    伊坂幸太郎さんの真骨頂の偶像劇
    大きく分けて5つの場面で展開される物語。時系列がバラバラなことが後々分かってくるので、読んでいる最中は同時並行のように錯覚してしまう。
    それぞれに出てくる主人公が、さまざまな場面で交わり、関わり、関係し合っていたことがだんだんと分かってきて、「あ!これはこの時のアレだったのか!」「ここでこの人とこうして繋がるのか」という驚きの連続。

    全く個別の人生なのに、それぞれが意外なところで結びつき、予想もしないところで出会い、巻き込み、巻き込まれていく。

    それはまるで、冒頭のエッシャーの騙し絵の挿絵のように、五つの物語がまるで"一枚の壮大な騙し絵"。

    それまでバラバラだった人物たちの物語が、読んでいる側が頭の中で組み立てていた物語が、終盤になって綺麗に解体され、鮮やかに再構築される。それがとても心地よくて痛快。

    そして、伊坂さんの真骨頂の一つでもある、散りばめられるこの世の真理やきらめく機知も今回も満載です。


    自分のこの人生も、きっとどこかで誰かと交わることで影響を与え、知らないところで繋がっていて、作用し合っているのかもしれないと想像すると、実は誰もが誰かの救世主だったりもするんだろうなと、そう感じました。





    〜〜〜〜〜〜〜〜心に残った言葉〜〜〜〜〜〜〜〜





    "この地面にアスファルトを流してるのは、俺たちの勝手だ。ガソリンで突っ走るこの乗り物だって俺たちの勝手。そうだろう?それでもってその勝手とさ無関係のはずのタヌキだとか猫が轢かれちまう。とばっちりだよな。俺たちの横暴だよ。せめてこんな硬いアスファルトで晒し者になっているのだけは救ってやりたいんだ"





    "優しいって字はさ、人偏『憂い』って書くだろう。あれは『人の憂いが分かる』って意味なんだよ、きっと。それが優しいってことなんだ。ようするに、想像力なんだよ"





    "神について考えててね、俺は俺なりに分かったんだ。内臓の定義を知っているかい?一つに、『自分でコントロールできない』ってことが挙げられる。例えば、右腕を 上げるのはやろうと意識すればできる。頭が痒ければその場で掻ける。ただ、内臓は無理だ。胃や腸は蠕動運動を繰り返して、こうしている今も食べたパンを下へ下へと送り続けている。でも、それを意識してやっているかというと、そりゃ無理だ。心臓の筋肉を何秒かおきに動かして、その間に腸のことを気にしつつ、目の前のデスクワークもこなす。そんな状態になったらわ、脳では把握できなくなってパンクだろうな。

    そして俺と胃の関係は、人間と神の関係に似ているんだ。俺は自分の意思で勝手に生きている。死ぬなんて考えたこともないし、誰かに生かされているとも思ったことがない。ただ、そんなことは胃がまともに動かなくなったら途端にアウトだ。そうだろ?俺が必死に口に入れた食事が何一つ消化されず、止まってしまったら、俺の生活も止まってしまうだろうな。ただ、胃をコントロールすることはできない。俺は暴飲暴食を避けて、よく噛み、胃の状態にたえず気を配っていなくてはならない。痛みはないか、ガスは溜まっていないか。要するに、胃は俺の人生を担っているわけだ。で、俺が胃に対してできることとは何かというと、声に耳を傾けて、最善を尽くし、祈ること。
    俺は胃を直接見られない。あとは祈るだけだ。内臓ってのは俺が死ぬまで一緒のはずだ。いつも見えないところで、そばにいて、一緒に死んでいく。神様と近いだろ?俺が悪さをすれば神は怒り、俺に災害を与えてくる。
    それに、人はそれぞれ胃を持っている。そこも神と似ている。誰もが自分の神こそが本物だと信じてる。ただ、誰の胃も結局は同じものであるように、みんなの信じている神様は煎じ詰めれば、同じものを指しているのかもしれない"





    "人生に抵抗するのはやめた。世の中には大きな流れがあって、それに逆らっても結局のところ押し流されてしまうものなんだ。巨大な力で生かされていることを理解すれば怖いものなどない。逃げることも必要ない。俺たちは自分の意志と選択で生きていると思っていても。実際は『生かされている』んだ"





    "人生については、誰もがアマチュアなんだよ。誰だって初参加なんだ。人生にはプロフェッショナルがいるわけではない。全員がアマチュアで、新人だ。

    初めて試合に出た新人が、失敗して落ち込むなよ"




    "行き詰まっているとお前が思い込んでいただけだよ。人ってのはみんなそうだな。例えば、砂漠に白線を引いて、その上を一歩も踏み外さないように怯えて歩いているだけなんだ。周りは砂漠だぜ。縦横無尽に歩けるのに、ラインを踏み外したら死んでしまうと勝手に思い込んでる"

  • めちゃくちゃ面白かった〜!

    初期の伊坂作品をほぼ読めてなかったので、刊行順に読んでいってます。
    この作品は2作目!

    2作目にしてこのクォリティなのか〜!
    凄い、、天才的すぎる、、

    5つの視点で語られる群像劇。
    伊坂さんのこのパターンめっちゃ好き♪

    ▫︎ お金で買えない物はないという拝金主義者の戸田と、そんな彼の元で働く志奈子。
    ▫︎ 泥棒を生業としてる黒澤。
    ▫︎ 1人の男を神と崇める河原崎。
    ▫︎ 精神科医の京子と、その不倫相手の青山。
    ▫︎ リストラされ再就職先が決まらない豊田。

    5つそれぞれの物語なのだけど、どこかしら繋がりのあるそれぞれの話。
    文中に出てきた"つなぐ"という言葉がキーポイントなのかな。

    この話の中には残忍な部分もあるけど、エンタメ要素強いので、エグ、グロ苦手な私もサラッと物語として受け入れられた。

    伊坂さんと言えば伏線回収ってよく言われてるけど、ほんと後半からはあちこちに散りばめられた伏線がどんどん回収されて、ハッ!とする事だらけだった!
    読み終わってからも、また初めから読んで確認してみたくなる様な仕掛けや構成は、スゴいとしか言い様がない。
    とっても面白かったです\♡︎/



    ⁡✎︎____________
    登場人物では黒澤が1番好き!

    豊田さんが幸せでありますように。

    オーデュボンの優午の話が出てきた!
    話をした額屋の男は伊藤なのかな?
    ⁡✎︎____________

    • mihiroさん
      一休さ〜ん(^_^)v
      そうなんですね!(°_°)
      私、初期の伊坂さんあんまり読んでなくて〜(×。×)アチャー よし!これから楽しみます(...
      一休さ〜ん(^_^)v
      そうなんですね!(°_°)
      私、初期の伊坂さんあんまり読んでなくて〜(×。×)アチャー よし!これから楽しみます( ー̀֊ー́)و♡
      2024/03/08
    • 1Q84O1さん
      mihiroさーん
      ぜひぜひ楽しんでくださーい\(^o^)/
      mihiroさーん
      ぜひぜひ楽しんでくださーい\(^o^)/
      2024/03/08
    • mihiroさん
      ラジャ!( ̄- ̄)ゞ
      ラジャ!( ̄- ̄)ゞ
      2024/03/08
  • 泥棒を生業とする黒澤。
    父に自殺され、新興宗教の信者になる、画家志望の河原崎。
    不倫相手と協力して、お互いの配偶者を殺害しようとしている、精神カウンセラーの京子。
    リストラされ、家族を失い、四十社連続不採用中の豊田。
    何の関係もないと思われる4つの物語が並行して進んでいく。

    仙台駅前には、新しくできたコーヒーのチェーン店や展望台があって、首輪のない柴犬やプラカードを持った白人女性がいて、それらが人々の繋がりを暗示しているようだ。

    この先どうなるんだろうと思われるような、悲観的な状況が続いていくけれど、パズルのピースの欠けた部分がみごとに埋められて、面白さがどんどん加速して、ものすごく手の込んだ仕掛けに圧倒されてしまった。
    所々にはさまれている音楽もシャレているし、「人生については誰もがアマチュアなんだよ」なんていう黒澤のセリフも、豊田の書いた『イッツオールライト』も、何もかもが愉快で、最高な結末。

    他の作品と少しずつリンクしているところなど、まだまだ知らないことが多いので、伊坂作品もっと読んでみたいです。

  • 歌野晶午「ずっとあなたが好きでした」
    蘇部健一「運命しか信じない」

    これらの作品に通づるものがありました。

    上記2作品も私は好きで、ラッシュライフも、
    私はかなり好きなジャンルでした。

    また、伏線もしっかり張られていて、
    再読したくなる作品でした。

    面白かった。

  • これはお薦めですよ。頭がクラクラするようなだましの世界です。
    この話は5つの視点で進んでいきます。

    ① 拝金主義の画商と女性の画家
    ② 被害者の心のありように気を配りながら、空き巣に入る泥棒
    ③ 新興宗教の教祖に惹かれている男ふたり
    ④ 互いの配偶者を殺そうと練る女精神科医とサッカー選手
    ⑤ 40社連続不採用になっている、失業中の男

    この5つにそれぞれ絡んでくる話があり、また5つは全く別の人生でありながら、意外なところで結びつき、予想もしない展開になっていくのです。
    テンポも良く、小粋で洒落た表現の連続で、先へ先へと読み進むのが楽しくて仕方がなかったですね。

    こうした群像劇を、映画の世界では観ることはありますが、書物の中で、しかもここまで巧みに出来た物は非常に珍しいのではないでしょうか。
    ごめんなさい、東野圭吾様、藤沢周平様、ジョン・アーヴィング様。
    伊坂幸太郎さんに浮気しそうです

  • この小説は素晴らしいと思いました。最初は五つの物語に分かれている。そして次第に初めは無関係に見えた登場人物がお互いに交錯していく。パズルのピースが合わさってくる。お見事である。

  •  読み進めると、それぞれの物語が微妙にリンクしていく。そのさじ加減が絶妙で圧巻だった。

     駅近くに存在する展望台、「何か特別な日に」の垂れ幕、エッシャー展のポスター、スケッチブックを持った白人女性。登場人物達がそれらの存在から何かを汲み取り、思いを巡らせる。気持ちと向き合う対象の存在が素敵すぎた。

     伊坂幸太郎。才能溢れる作家さんだと思った。

     「高橋」という男を神だと尊敬し、信者となる河原。彼の物語は、涙なしでは読めないほど感動に包まれた。

     彼の父親は事業に失敗。自殺していた。闇の世界を体験し、苦しみ抜き、紆余曲折する中、本当に求めていた存在は父親であることを自覚する。「おまえは画家になれよ」と嬉しそうに言っていた父の顔。「考えない方がいい。考えるほど裏目に出てしまう」よくそう語っていた彼の姿。頭の引き出しにずっと存在し続けていたのだろう。

     人は自覚がなくても、身近な人の言葉は頭の中に必ず居座り続けている。きっと人生の苦しい場面で、思い出すのだろう。そんな気がする

  • 5つの物語からなる群像劇。
    仙台を舞台に、それぞれ事情を抱えた人々が織りなす人間模様を技巧的な構成で描いている。
    一見関係の無さそうな事が、思わぬ形で繋がっている面白さに頁を繰る手が止まらなかった。

  • 自分の作品の中では、作家はある意味「神」なのかもしれない。

    神様的俯瞰目線で見渡せば、
    確かに世の中のほとんどは繋がっていて
    ニヤニヤして見てしまうほど
    小さな場所の中で大勢で右往左往しているのであろう。

    「胃」と「自分」の関係。
    ラッシュライフのスペルと意味。
    人生がリレーだったら…。

    そのまま見ているものが、
    ちょいちょいっと伊坂さんが言葉を足すと
    大きく場面が反転してしまう。

    伊坂さん的、「神目線」を堪能した一冊です。

    あーーー。ここの軸がそうなっていたのか!
    またまたまたまた、してやられる。

    この本はフォローさせていただいている方から紹介してもらい、手に取りました。

    初期の作品と私が読了した最近の作品は
    登場人物も違う全く別物の物語のはずなのに、
    何か裏の巨大なものが繋がっている気がしてなりません。

    泥棒の黒澤のクセになる「美学」いいですね。
    こんなに言葉を大事にしている人だとは…。
    そしてこの落ち着き。どこからきているのだろう??死神でもないのに。
    ちょっと気になりますね。

    魅力ある初期作品を教えていただき有難うございました。
    これからも少しずつ伊坂哲学を読んで行きたいと思います。

  • 伊坂さんシリーズ読み直そうキャンペーン3冊目。
    おそらく学生当時も感動していたのだろうけれど今読んでも衝撃的に爽快で、短編集のようなのにどんどんリンクしていくテンポ感とワクワク感も変わらず最高でした。

    ラッシュライフは終わり方がとても気持ちいい!!
    豊田の柴犬ちゃんが、ほんものの神様だったなー。
    タカラクジを手にした後の豊田の人生を想像するけれど、きっと良い意味で戸田のようにはならないだろう。

    河原崎の行く末が1番気になる終わり方だった。少しもやっと。


    とにかく黒澤がこの時からちょいちょい良いこと言う。

    「正義だとか悪だとかそういうのは見方によって反転しちまうんだ」

    「誰だって初参加なんだ。人生にプロフェッショナルがいるんけがない。まぁ、時には自分が人生のプロであるかのような知った顔をした奴もいるがね、とにかく実際には全員がアマチュアで、新人だ」

    「はじめて試合に出た新人が、失敗して落ち込むなよ」

著者プロフィール

1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、「新潮ミステリー倶楽部賞」を受賞し、デビューする。04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で、「吉川英治文学新人賞」、短編『死神の精度』で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞。08年『ゴールデンスランバー』で、「本屋大賞」「山本周五郎賞」のW受賞を果たす。その他著書に、『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』『重力ピエロ』『フーガはユーガ』『クジラアタマの王様』『逆ソクラテス』『ペッパーズ・ゴースト』『777 トリプルセブン』等がある。

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