重力ピエロ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (485ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101250236

感想・レビュー・書評

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  • 軽い。内容が、タイトルが、なのに軽い。でも、それが主題なんだろう。僕らは「常識」という重力によって精神的にも自由に宙を漂うことを許されない。


     小説で重要視される一行目は100点だろう。「春が二階から落ちてきた。」ひゃくてん。

     悪いとはなんなのか。少年なら悪いことも情状酌量されるのはなぜ。人を殺すのは大罪で犬を殺すのは軽罪なのはなぜ。レイプで生まれた子供は…生まれるべきでないのか…

     よくある社会の常識に挑戦した作品だろう。シンプルで面白かった。


    ____
    p29 すべて要約と法則
     泉水と春の親戚である高校教師は、「世の中のことはすべて本に書いて入り、要約や法則で世界が説明できると考えているようだった」と言われていた。
     確かに、学者気質の人はそう考えがちだ。そうなりすぎないように気をつけよう。

    p68 癌の寿命
     人体の細胞には細胞分裂の寿命が存在する。TTAGGGというアミノ塩基配列テロメアという部分が細胞分裂のたびに減っていき、これが少なくなると分裂出来なくなる。しかし、がん細胞にはこれがない。だから際限なく分裂を繰り返して増殖して体を蝕んでいく。

    p91 ゴッホの絵を見る時間
     ゴッホはレンブラントの『ユダヤの花嫁』を見た時「もう二週間この絵の前に座っていられるなら、寿命が10年短くなってもいい。」と言ったという。ゴッホはそれだけ絵を理解するのにそれだけの時間が必要だと知っていた。だから、人を知るのにもそれだけの時間がかかるってこと。そういうことを知っておくのは大事だね。

    p96 泰然
     お父さんが泉水に「お父さんは春のことをどう思っているの。」と聞かれて、堂々とこう言ったという「春は俺たちの子だよ。」その泰然とした態度に、泉水は安心したという。

     人はやっぱ、泰然としていることが大事だよね。そのためにも、日頃から答えを決めておくことが大事だね。それが哲学なんだろう。

    p106 空中ブランコ
     「本当に深刻なことは、陽気に考えるべきなんだよ」
     「ピエロが空中ブランコから飛ぶとき、みんな重力のことを忘れているんだ」

     こういうの大体仏教で言われてるわ。だから合ってる。

    p167 レイプ
     哺乳類の中で日常的にレイプが行われるのは、ヒトとオラウータンとゾウアザラシだけらしいよ。
     あれ?イルカは??

    p246 虐殺
     人間と言うのは虐殺自体を目的にできる珍しい霊長類らしい。
     クロマニヨン人を祖先に持つ人類は、その前に存在していたネアンデルタール人を虐殺したのかもしれないな。結局、世の中残るのは悪い奴なんじゃないか。マキャベリズムってやつかな。

    p292 親殺し
     桃太郎は親殺しの物語という隠れた解釈がある。
     昔話には必ずと言っていいほどおじいさんとおばあさんが育ての親として登場する。物語の○○太郎は鬼と比喩される極悪な親を倒しに行くという物語であるという解釈。桃太郎の手下の雉(Pheasant)猿(Monkey)犬(Dog)の頭文字PMDはParent Must Dieだという、これはさすがに…

    p297 生きるために食べるのは良いが、、、
     ガンジー曰く「人は生きるために食べるべきで、味覚を楽しむために食べるべてはならない」
     まさに生類憐みの令だな。
     現代社会では食べられることが当然になってきているので、もう味覚を楽しむためが中心になってきちゃっているよ。美味しい物を安く売るために大量に殺すようなことはやめるべきだな。美味しいものは高く、だから殺す数も減らすべきだよな。

    p330 フェルマーの最終定理
     フェルマーは17世紀に遺言として最終定理を残して、世界中の数学者を苦しめてきた。それを解決したのは20世紀になったワイルズだった。
     ワイルズは20世紀のテクニックを用いて定理を解いた。だから、17世紀当時のフェルマーのやり方で解答を出したわけではない、ともいえるのである。そう考えると、フェルマー独自の方法がまだ残っている。または、フェルマーは本当にその定理を解けていたのか、疑わしい。

     フェルマーは軽い気持ちで嘘の遺言を残したのかもしれない。それでも、後世の人間はその言葉に意味を見出そうとした。悩んで自殺者が出るほど、必死に。
     人とはそういう物だ。必死に意味づけをしたがる。古代の遺跡は何のために作られたのかとか。事件が起これば体の良い理由を付けずにはいられない。生き方も、成功とか正しさとかを決めつけたがる。
     深刻なことほど、軽く考えればいいのに。

    p336 芸術は進化しない
     科学や技術は後世の社会に残るものだから、次々に進化、発見、創造、が繰り返される。
     しかし、芸術はアーティスト個人の中の者である。社会的に引き継がれることはほとんどない。だから、結局人の描くものは昔から大して変わらない。表現の技術は増えるかもしれないが、結局は人間の限界を超えられらない。それに人間を超える物は受け入れられないから、芸術として評価されない。

    p349 神様のレシピ
     伊坂幸太郎の常用句「神様のレシピ」。運命は、神様が書いたレシピ通りにしか完成しない。未来は神様のレシピなのだ。
     なんか別のとこで見た気がするのだけけれど、つまり、みんな伊坂幸太郎が好きなんだってことか?

    _______




     軽いから物足りない感じがした。でも、細かい章分けのおかげですっきり読みやすい。
     ミステリの謎としては、オーソドックスな感じで気持ちいい。
     最後の感じは、許せない人いるんだろうかなー。許されないことを流してるからなー。私は許せる。男だからだろうなー。女の人は許せない人もいるんだろうなー。

     倫理とか道徳は犬に食わせちまえってとこ、夫婦喧嘩は食べないけれど、そういうんは食うのかって思った。はは。

  • 伊坂幸太郎さんの小説の中でいちばんすき。
    内容は暗いはずなのに読んでいるとにこにこしてしまいます。時々春の中にある闇の部分、犯罪者の血だったり遺伝のことを思うとやりきれない気持ちになるけれど、何百何千と考えてきた中できっと春は自分なりの正義を見つけられたんだと思います。それは第三者が口を出せるほど単純なものではないはず、と思ったからラストはすごくすきです。
    春と泉とお父さん、黒澤さんのひとことひとことに相手の出方を探ったり情報を選んだりする優しさと賢さが滲んでいてかっこいい。わたしもそれができるひとになりたいです。

  • 最初と最後の一文が印象的。
    前作を読んでいたら、「あの人か」なんて思うことがあったり。おもしろい。
    だけど、おもしろいという言葉は、似合わない本だと思う。

  • 遺伝子の話を絡めて進める物語展開がおもしろい。
    TTAGGGで縁かつぎとは非常に洒落ている。
    「さようならを言えるのは別れのつらさを知らないやつだけだ」ってのに同感。
    深刻なことほど陽気に伝えるってのはMr.Childrenの櫻井さんも言ってた。
    家族小説でもあり兄弟小説でもある。「宇宙兄弟」や「赤い指」が思い浮かんだ。

  • 連続する放火事件。
    頻発するグラフティアートと放火事件の関連性を発見する兄弟。

    DNAを取り扱う会社で働く兄、
    グラフティアートを消す仕事をする弟、
    癌の治療のため入院している父親。

    家族愛? 暴力には暴力を?

    ------------------------------

    強姦された母親から生まれた子が、大人になって強姦犯を殺しに行く。
    家族愛と言えると思う。だけど、大きな矛盾を孕んでるようにも感じる。法の下に罪を償ってるのに強姦犯を襲ったことに対してというよりも、仕返しの肯定に恐ろしさがあると思う。法律なんて詳しくないし、家族が襲われた経験もないからお前にはわからないだろうと言われればその通りだ。でも矛盾を感じる。これは愛ではない。
    かつてビートルズは世界中を巻き込んで”愛こそすべて”と歌った。
    やり返しは愛じゃない。ピースでもない。やり返しはやり返しのやり返しを生む(今回は殺したから連鎖しないけど)。
    だけど、泣き寝入りや法律任せにしておけというのもおかしな話だ。
    法律の前で愛は矛盾するのかもしれない。
    兄弟愛、親子愛、家族愛。

  • 「春が二階から落ちてきた」

    強烈な印象の一文で読者を惹きつけるこの小説の始まりは、この魅惑的な小説にぴったりだ。

    「未来は神様のレシピで決まるんですよ」

    珠玉の宝石のような言葉たちが並ぶ。

    放火・落書き・遺伝子。
    ネアンデルタール人とクロマニョン人、桃太郎、マラリア療法、ガンジー語録。

    教訓めいたきらいは全くない。
    でも本書は教訓に満ちている。

    洗練されたユーモア感覚、的確で洒落た引用・比喩。

    楽しくて仕方ない。

    こんな重い話を軽快に軽快に書けるのは、伊坂幸太郎だからだろうなあ。

    あ、そっか。

    「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」

  • グラスホッパーで、期待外れだったので、伊坂幸太郎の良さを再確認したく、今更ながら読んでみた。

    こんなに素敵な作品を書ける人なんだなぁと。家族の愛に包まれるあったかい内容だった。この頃の文体もすごく好き。
    映画はエンターテイメント性が強かったけど、小説はこんなにも人間味あふれる内容だっんですね。
    途中の重苦しい内容に反して、爽やかな読後感でした。

  • 初めて読んだ伊坂作品。

    ミステリーはあまり好きではないが、
    これは今まで読んだ中で上位に入る本だ。

    ある放火事件を紐解く兄弟の話だが、無関係な主人公の思い出話が度々現れ、頭のなかが混乱する。
    だが、嫌な混乱ではなくむしろ想像力が掻き立てられ、次へ次へと読み進めたくなるから不思議だ。

    しかもその回想は一見個々に分断されているようで、実は登場人物のキャラクターや思想を上手く表現し、後に生きてくるのだ。そして最後にはすべてが繋がる。その快感がたまらなかった。

    これ以外にこの小説にはミステリーとして以外の魅力が三つある。

    一つ目は伊坂幸太郎の独特な言葉表現だ。
    競馬のシーンがあるのだが、馬の走る躍動感が地球を自転させる原動力だと表現していた。これには度肝を抜かれた。

    二つ目は豊富な知識の集結だ。
    遺伝子、ガンジー、壁にかかれたグラフィティーアート、クロマニョン人ネアンデルタール人など、この本にはいくつかの分野の知識が散りばめられている。特に遺伝子とガンジーに関しては相当参考文献を読んだのだろう、あっと驚く情報満載だった。

    三つ目は家族の絆が含まれている要素だ。
    ただ単に謎解きをする小説ではない。
    半分血の繋がっていない兄弟。
    まったく血の繋がっていない父親。
    だが、遺伝子などなんの関係もない
    情熱的な家族愛は現れないが、
    冷静沈着、だがしっかりした愛と絆が
    そこにはあるのだ。
    そんな読み終わったあと心の深いところで温かくなるような小説だ。

  • お父さんがかっこよすぎた

  • すごく重たい内容で、読みながらグッと心が痛かった。

    悲しくて切なくて、でもほっこりする。
    心が揺さぶられる。

    兄弟の絆、家族の絆、素敵だった。
    良かった。

    フィクションだけど、
    春と泉水、これからの人生を全うしてほしいと強く願う。

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著者プロフィール

伊坂 幸太郎(いさか こうたろう)
1971年千葉県生まれの作家。東北大学法学部卒業後、SEとして働きながら文学賞応募し、2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞受賞、デビュー作となる。その後作家専業となり、宮城県仙台市に在住しながら執筆を続けている。2004年『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞、同年『死神の精度』で第57回日本推理作家協会賞短編部門、2006年平成17年度宮城県芸術選奨文芸部門、2008年『ゴールデンスランバー』で第5回本屋大賞、第21回山本周五郎賞をそれぞれ受賞。同作で直木賞の選考対象となることを辞退したことも話題になった。上記受賞作のほか、『重力ピエロ』、『バイバイ、ブラックバード』、『アイネクライネナハトムジーク』など話題となる作品は多い。代表作も殆どが映画化されている。最新作に『フーガはユーガ』。

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