クジラアタマの王様 (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101250335

作品紹介・あらすじ

記憶の片隅に残る、しかし、覚えていない「夢」。自分は何かと戦っている? ――製菓会社の広報部署で働く岸は、商品への異物混入問い合わせを先輩から引き継いだことを皮切りに様々なトラブルに見舞われる。悪意、非難、罵倒。感情をぶつけられ、疲れ果てる岸だったが、とある議員の登場で状況が変わる。そして、そこには思いもよらぬ「繫がり」があり……。伊坂マジック、鮮やかなる新境地。

感想・レビュー・書評

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  • …いかん。アタマを抱えてしまった。実は、bmakiさんの「フーガはユーガ」コメント欄において、みんな伊坂幸太郎はエンタメ作家なのに「その割には読みにくい文体だ」と何人かが不満を言っていたので、つい「伊坂幸太郎をエンタメ作家だと思う方が間違いだ」と大見得切った。その直後、正にその「フーガはユーガ」過去のマイレビューにおいて「伊坂幸太郎はエンタメ作家である」と私が大見得を切っていたのである。うーむ‥‥困った私は「この二律背反的な評価をせざるを得ないところに、伊坂幸太郎の「魅力」があるということを、今度読む本のレビューで、展開します」と大見得を切った。のであるが‥‥

    とっても難しい。アタマを抱えて三日三晩考えて、座礁に乗り上げてしまった。クジラアタマの座礁‥‥。あ、いや、そんなギャグで逃げようとしたわけじゃなくて‥‥。

    本書にその特徴が一切ないわけじゃ無くて、正にその「典型の小説」なのだ。だからこそ、「エンタメでかつ非エンタメ」って何なのか、書くためには、この小説のキーアイテムである「クジラアタマの王様=ハシロビコウの学名」とは何なのか?書かなくてはならない(ラストで明かされる題名の正体をここで明かしたからと言って決して重大なネタバレではない。多分)。これが随分厄介でよくわからなかった。

    ハシロビコウが登場する世界は、ゲームの世界だ。ゲームの世界は、いわば超常現象の世界でもある。それと、超身近な現実世界(例えば嫌な上司がいるとか)と紐ついたらどうなるか、「実験」したのが、この小説だと思う。

    思えば、ハシロビコウのような「運命を操る存在」は、伊坂幸太郎に毎回のように出現する。デビュー作のカカシ然り、音楽大好き死神さん然り、いや殺し屋さんだって、人の生死に影響を及ぼすのだから然りだ。特徴的なのは、彼らは道徳を語らない。そして彼らは「運命を変えるけど、運命を知らない」のだ。

    この辺りから、彼らの正体って、何なの?とわからなくなる。結局三日三晩どころか、五日五晩、アタマを抱えることになった。彼らって、作家にとっての神なのか?いや、断じて違う。社会そのものなのか?いや、違う気がする。

    つまりかなり婉曲な形で何かのテーマを提示しているのである。「伊坂幸太郎苦手なんだよね」という人が出てくるのもムベなるかな。こんなにも哲学的な小説を書く人がエンタメ作家なわけがない。ところが、後半部分からは、もう怒涛の展開で、ちゃんと「思いもかけないラスト」も作っていて、序に言うと伏線回収もしていて「とっても面白い」のである。これはエンタメ作家の役割だろう。

    というわけで、上手い事まとめました♪(←えっ?)

    • kuma0504さん
      土瓶さん、
      ありがとうございます♪

      日常生活が目が痛くて痛くて、もう片方の翼状片、やりたくない(泣)。

      で、決してリンクしてオーディブル...
      土瓶さん、
      ありがとうございます♪

      日常生活が目が痛くて痛くて、もう片方の翼状片、やりたくない(泣)。

      で、決してリンクしてオーディブル選んでいるわけではないんですが、前から読みたかった谷崎潤一郎「春琴抄」聴いたわけですよ。そしたら、自ら目を針で突き刺す場面があって、「ひえ〜」と思いました。
      みなさんのレビュー読むと直ぐに目が痛くなるので、復活までまだまだです。

      ひまわりめろんさん、ありがとうございます♪

      既に2ヶ月分ぐらいの会費値段の本を聴かせてもらいました。今のところは、これがないと退屈で死ぬところでした。音声入力は一応できるんですが、そのあと校正に同じ以上の時間と「注目」が必要なので、やりません(^^;)。
      2024/02/29
    • bmakiさん
      目が痛いのは気の毒過ぎますが、呪術ではなく、手術
      (私のiPhoneは、手術と入力しても、呪術と変換される。。。)

      手術が成功されて、本当...
      目が痛いのは気の毒過ぎますが、呪術ではなく、手術
      (私のiPhoneは、手術と入力しても、呪術と変換される。。。)

      手術が成功されて、本当になによりでしたo(^▽^)o
      2024/02/29
    • kuma0504さん
      bmakiさん、ありがとうございます♪
      bmakiさん、ありがとうございます♪
      2024/03/01
  • 作品の一部としてコミックパートを挿入する構造で、作者念願の作品であるとのこと。
    製菓会社で働く普通のサラリーマン。担当した製品への異物混入クレーム対応から、一人の議員と関わりを持つ。彼は、「夢の中の戦いの結果が現実に影響を及ぼす」と、過去のトラブルを踏まえて、夢の中での戦いの様子を語る。この夢の中の部分がコミックパート化されたイメージ。
    企業の謝罪会見、アイドルコンサート、パンデミックと、軽妙な語りで、ちょっとした社会批判が目的なのかしら?と、このストーリーの落とし所が気になって、まあ、読まされてしまう。
    先見はさすが、2019.12月に武漢にコロナが1例目が出て、この書き下ろし発行が2019.7というのだから。全く、きっと作者もびっくりしたと思うラストではあります。
    平行世界ほどでもないし、夢の存在感があるようなないような。

  • 頼りなく見える人ほど頼りになります。胡蝶の夢。

  •  『〝クジラ〟強調月間始めました!』6

     第6回は、伊坂幸太郎さんの『クジラアタマの王様』です。
     本書のタイトルは、ペリカンの仲間・ハシビロコウの学名です。彫像のように微動だにしない特徴があり、嘴と頭部の形状に起因しています。ということで、今回の〝クジラ〟は、鳥の姿・形だけです。
     いや〜、伊坂幸太郎さん、貴方は予言者ですか? 新型コロナが広がり、心理的・社会的な恐怖と誹謗・中傷の感染拡大を知っていたかのような、先見の明がありますね。
     現実と夢、リアルとゲームの繋がりや境界線の設定が工夫され、構成も見事と感じました。ハシビロコウの「夢の世界の案内人」としての象徴的な扱いも巧みだと思います。
     川口澄子さんの挿画が不思議な効果を醸し出しています。読み手にとって、文字からの想像を制限することになるでしょうが、抽象的な夢の世界や戦闘シーンの方向付けすることに役立っている気がしました。
     ファンタジー要素もありながら、ゲーム内だけでなく現実世界でも、必至に戦わなければならないことが多々あります。何度でもやり直す勇気や大切さを示してくれる伊坂ワールドでした。

  • 伊坂幸太郎×ファンタジー。

    主人公の岸は、製薬会社の広報部署で働く会社員。
    製品への異物混入の対応のためカスタマーセンターへ期間限定で異動したところ、トラブルがどんどん大きくなっていく。
    そのトラブルは結局クレーム元の自作自演だったわけですが、そこから2人の男と出会い、15年ほどの歳月の間に思いもよらぬトラブルに巻き込まれていきます。

    昼間の現実と夜のファンタジー感の行き来が面白かったです。
    ふわふわほのぼのした話かと思いきや、時折現実の方が残酷になるのでドキッとしてしまいました。
    動物に襲われてひどい怪我を負ったり、岸も肩を撃たれたり…。

    はじめは夢の中のできごとに対して懐疑的な3人でしたが、次第に夢の中でも同じようにこちらを夢だと思っているかも、いやむしろ本当は夢の方が現実で、現実こそが夢なのかも…と考えを巡らせます。

    どちらが現実なのか考えすぎると今の自分にとっての現実がおろそかになってしまうので、
    夢に囚われすぎず、起きたらぼーっと感覚があるくらいがちょうど良いのかもしれません。

  •  夢を共有している三人の男性。

     一人は菓子メーカーの社員、一人は議員、もう一人は芸能人。

     夢の中で戦うことで現実の苦難を乗り越えていくのだが……。

     面白かった♪ 奇抜な発想はぴか一ですね。
     やはり伊坂さんが好きだ!

  • 製菓会社の広報担当・岸が主人公。第一章はそんな岸の仕事上でのトラブルから始まる。
    クレーム電話への対応かぁ。これ、本当に大変なんだから。43頁に書いてある“クレーム処理の心構え”というべきものは、とても良く出来ているね。
    にもかかわらず、無能な上司は問題をこじらせ、お蔭で自分までマスコミの前で冷静さを保てなくなるなんて…。
    岸がこれからどんな誹謗中傷の嵐に曝されるのか、いつもの見えない悪意との戦いが始まるぞと身構えていたら、意外な形で収束しホッとした。

    けど、ここからどういう話になるのかと思っていたら、なかなか意表を突いてきた。
    第二章の後半、これもまた意外な形で部長の鼻をあかせたところからつながる仙台のイベント会場での一難去ってまた一難もこの作者らしい驚きや正義感の発露があって楽しい。

    話の合間にセリフのない短いマンガが置いてあり、「現実でトラブルが起きた時、夢の中で闘って負けると現実のトラブルが拡大してしまう」という設定に沿っているのだけれど、この趣向も面白かった。挿画の雰囲気も物語と合っていたし、ストーリーを分かりやすくしていたと思う。
    ただ、今回はこの「小説の中にコミックを入れたらどうだろう」という趣向がメインになってしまい、小説パートの岸の戦いと夢パートの兵士の闘いが重なっていく展開が、岸が夢の中のことを覚えていないこともあって、物語としては中盤からはぼんやりした話をくどくど読まされている感じがして、あまりドキドキやハラハラが少なく、前半ほどの面白さを感じなかったのはちょっと残念。

    ここで触れられる新型インフルエンザにまつわる流言飛語や感染者叩きについては、今のコロナ禍の前に書かれていながらそれを感じさせないくらいに言い得ていて、作者がこれまで重ねてきたこうした人の心についての考察に今更ながらに舌を巻いた。

    ★★★★にしたけど、3.5くらいの心持ち。

  • RPG、ファンタジー系伊坂さんも、とてもおもしろかったです。
    フィクションなのに、今までの世界の困難や解決は夢の勇者たちが奮闘した結果なのかもしれないと錯覚してしまいます。楽しかった。
    挿絵も可愛くて斬新。

    • ゆっきーさん
      ☆Manideさん☆
      こんばんは。コメント嬉しいです。ありがとうございます!

      まだまだではありますが、そう思っていただけて、感想も読んでい...
      ☆Manideさん☆
      こんばんは。コメント嬉しいです。ありがとうございます!

      まだまだではありますが、そう思っていただけて、感想も読んでいただけて
      さらにはブログまで読んでいただいているのには感激です!感謝です!!

      読んでみたいと思わせられるような感想と、なるべくネタバレをしないよう気をつけております!笑
      なので、Manideさんにそう言っていただけて嬉しいです♪
      不思議なお話でした。夢のあるお話でした!
      2022/08/04
    • Manideさん
      ゆっきーさん
      返信ありがとうございます。

      たしかに…ネタバレしない、いろいろ想像させてくれる、すごい読んでみたくなる、そんな感想がいいです...
      ゆっきーさん
      返信ありがとうございます。

      たしかに…ネタバレしない、いろいろ想像させてくれる、すごい読んでみたくなる、そんな感想がいいですよね。難しいですね…

      夢のあるお話、というだけでも、とても興味がわきますよ (❛ ◡ ❛)
      2022/08/04
    • ゆっきーさん
      ☆Manideさん☆
      たしかに、そういった感想を書くのって難しいんですよね汗
      言葉選びが難しいです……
      ありがとうございます(^○^)
      ☆Manideさん☆
      たしかに、そういった感想を書くのって難しいんですよね汗
      言葉選びが難しいです……
      ありがとうございます(^○^)
      2022/08/04
  • 鳥インフルエンザによるパンデミック!
    現在も渦中であるコロナから着想を得たのかと思ったら、2009年に世界規模で騒動となった新型インフルエンザ大流行のときの下書きであり、コロナが騒がれ始めたのは文庫本発売後だというから驚き。
    凄くタイムリーであり、政治絡みのアレコレは、分かっちゃいるけどよ…がしかし一般市民にはあずかり知らぬ内容であると知らしめられたようでやはり驚愕を覚える。

    とは言え、ストーリーは社会派ということでもなく、どちらかと言えば冒険物。
    製菓会社勤務、岸。
    公民的アイドル、小沢ヒジリ。
    都議会議員、池野内。

    まったく接点のない3人があることをきっかけに繋がることから物語は始まる。
    彼らは一緒に戦い窮地を超えてゆく。

    それは我が子が小学生だった頃にインターネットで繋がった友人らと協力しながら敵を倒すようなゲームみたいなものに近い。
    宿題に頭を抱えいつもお腹を空かしてる僕ら。
    どんな敵にも立ち向かう勇敢な戦士である僕ら。

    そんな彼らの活躍をこのコロナ禍現在進行形の今、目の当たりにする。
    頑張ってよ!と素直に思うし、もしかしたら誰か戦ってくれてるの?とも思わずにはいられない。

    今年の34冊目


  • ありえないことやけど、なぜか伊坂作品なのに3冊も積読状態にしているうちの1冊である本書を、実に購入後1年半を経て一気に読了!
    年の瀬かつ、ちょっと体調が二番手の時に元気をもらう。
    「さすがは伊坂本」と、これまでの放置を棚に上げて思う。

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著者プロフィール

1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、「新潮ミステリー倶楽部賞」を受賞し、デビューする。04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で、「吉川英治文学新人賞」、短編『死神の精度』で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞。08年『ゴールデンスランバー』で、「本屋大賞」「山本周五郎賞」のW受賞を果たす。その他著書に、『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』『重力ピエロ』『フーガはユーガ』『クジラアタマの王様』『逆ソクラテス』『ペッパーズ・ゴースト』『777 トリプルセブン』等がある。

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